M&Aによって会社を買収、もしくは売却するときには株式譲渡というスキームが活用されます。
これは売り手企業が自社株式を買い手企業に譲渡することでM&Aを実施する方法ですが、経営権を譲渡することになるので、法的拘束力を持った書類が必要になります。
例えば、株式が譲渡されたとしても株主名簿に新しい株主を記載しないと法的には誰が株主かを証明できません。
株式やそれに伴う経営権に係る権利義務関係を確定させ、証明することが必要です。
また売り手企業の承認を得るために、株式譲渡承認請求書の提出が必要な場合もあります。
そのために手続きを踏む度に、形式を整えた必要書類を揃えることが重要です。
この記事では、株式譲渡に必要な書類や必要になるタイミングについて解説します。
目次
株式譲渡の手続きに必要な書類
株式譲渡は、売り手側の経営権を買い手に譲渡するために実施されますので、法的拘束力を持たせるために様々な書類が必要になります。
必要な書類が準備されないと株式譲渡後にトラブルに発展する可能性があります。
株式譲渡実施前に必要書類を把握し、手続きと並行して準備しましょう。
株式譲渡の手続きには以下の書類が必要になります。
株式譲渡契約書
株式譲渡契約書とは、売り手企業の株式を譲渡する時に売り手と買い手の間で締結する契約内容を記載する書類です。
M&Aにおける最終契約書とも呼ばれています。
基本的な内容は以下のとおりです。
- M&A実行の前提条件
- 表明保証
- 譲渡承認手続きの方法
- 名義の書き換え
- 譲渡代金の支払い方法
- 遵守事項
- 譲渡株式数
- 譲渡日
- 誓約事項
- 債務不履行と損害賠償
- 一般条項
M&Aの案件ごとに記載事項は異なりますが、売り手企業のデューデリジェンスの結果を基に決定されるのが一般的です。
株式譲渡契約書を締結することによって、買い手は株式を取得する権利を獲得すると同時に対価を支払う義務を負います。
一方で売り手は対価を受け取る権利を獲得すると同時に自社株を譲渡する義務を負います。
株式名簿
M&Aが成立すると株主名簿を書き換える必要があります。
株主名簿は「誰が株主であるか」を法的に証明する重要な書類ですので、確実に更新します。
株主名簿の記載事項は以下のとおりです。
- 株主の氏名
- 株主の住所
- 株主の保有する株式数
- 株式の取得日
さらに質権の設定があるときには以下の事項について記載が必要です。
- 質権者の氏名
- 質権者の住所
- 質権の目的である株式の数
株主名簿の書き換えは会社法で規定されているので、更新しないと罰金が課されることがあります。
株式名義書換請求書
上述のとおり、M&A実施後に株主名簿を書き換える必要がありますが、売り手企業に株主名簿の記載事項を書き換えることを請求する書類が株式名義書換請求書です。
株券を発行している企業ではない限り、売り手の株主と買い手が共同して、名義書換を請求します。
基本的な記載事項は以下のとおりです。
- 名義を書き換える株式数
- 株主の氏名
- 株主の住所
- 株式の種類
- 届出年月日
ただし、法令等で決まった様式はなく、随時作成する必要があります。
また、書類には実印で捺印し、印鑑証明書を添付します。
株主名簿記載事項証明書
株主名簿記載事項証明書とは、株券を発行していない場合に株券に代わって株式の所有者を証明する書類です。
実際に株式名簿の書き換えが実施されたかを確認するためのものです。
株主名簿記載事項証明書交付請求書の提出を受けた場合に株主に関する記載事項を抜粋して作成・交付します。
さらに代表取締役の署名または記名押印がされます。
株主名簿記載事項証明書には、以下の事項が記載されています。
- 株主の氏名
- 株主の住所
- 株式の取得日
- 株式の保有数
さらに法人設立届出書に添付する株式名簿には「金額」及び「役職名」の記載も必要になります。
株主名簿記載事項証明書交付請求書
株主名簿記載事項証明書の交付を受けるために売り手企業へ提出する書類です。
提出によって、株主名簿記載事項証明書の交付を受け、買い手企業が株主となっていることを確認します。
書面には「会社法第122条第1項の規定に基づき、株主名簿記載事項全部証明書の交付を請求致します。」と記載し、次の事項を記載します。
- 請求先(株式会社〇〇代表取締役〇〇様)
- 請求者の氏名
- 証明日
様式について特に規定はなく、書面はシンプルなもので十分です。
譲渡制限株式の株式譲渡手続きに追加で必要な書類
譲渡制限株式とは、株式の譲渡に制限を設けた株式です。
通常、株式は自由に売買ができますが、会社の経営権を安定させるために譲渡制限を設けることで、第三者が株式を取得し、経営権を取得できないようにします。
譲渡制限株式の譲渡には株主総会の承認が必要です。
そのため、通常の株式譲渡に加えて、特定の書類が追加で必要になります。
ここからは譲渡制限株式の株式譲渡手続きに追加で必要な書類について解説します。
株主総会議事録
譲渡制限株式の譲渡には株主総会の承認が必要です。
会社法では「株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。」を規定されており、株主総会を開催すると議事録を作成する義務が生じます。
株主総会の議事録には以下の事項を記載します。
- 開催日時
- 開催場所
- 出席した取締役の氏名
- 株主総会の議長の氏名
- 議案と審議の内容
- 決議事項
決議事項には「当会社の株式の譲渡につき、当会社に次のとおり譲渡の承認請求が提出され ており、満場一致をもって承認可決した。」と記載すれば十分です。
株主総会招集通知
上述の通り、譲渡制限株式の譲渡には株主総会を開催する必要があります。
株主総会招集通知とは、株主総会の開催を周知する書類であり、会社法で通知書を発送することが義務付けられています。
具体的な記載事項は以下のとおりです。
- 開催日時
- 開催場所
- 議案
- 提出議案
- 書面投票ができる旨を定めるときは所定の事項
株主総会の参加者である株主に開催を周知し、準備のための十分な時間を与え、株主としての権利行使の機会を与えることを目的としています。
株式譲渡承認通知書
売り手企業の株主(たいていの場合には経営者)が売り手企業から買い手企業への株式の譲渡を承認された場合に株主と買い手企業に株式譲渡について承認する旨が記載された通知書が交付されます。
これが株式譲渡承認通知書です。
株式譲渡承認通知書には、主に以下の事項を記載します。
- 譲渡する側の氏名・住所(株主の氏名・住所)
- 譲渡する株式の種類と数
法律で決まった形式はなく、最低限の記載事項を具備していれば、問題ありません。
株式譲渡の手続き
M&Aによって会社を買収、もしくは売却する時に株式譲渡が実施されます。
株式譲渡には、相手企業の選定から基本合意の締結、デューデリジェンスの実施、最終合意の締結など様々な手続きがあります。
ここでは、上述した手続きに必要な書類と密接に関連する手続きに注目して解説します。
書類が必要になる理由やどのタイミングで書類が必要になるのかをしっかり理解しておきましょう。
株式譲渡承認請求書を提出する
株式譲渡承認請求書は、売り手企業が譲渡制限株式を発行している場合に提出する必要があります。
上述のように譲渡制限株式には第三者が株式を取得することについて制限が設けられているので、買い手企業が取得するにあたって売り手企業の承認が必要です。
株式譲渡承認請求を行うときには、株式譲渡承認請求書を提出します。
具体的な記載事項は以下のとおりです。
- 株式の種類(譲渡制限株式)
- 譲渡する株式の数
- 株式を取得する人の氏名及び住所
請求書に必要事項を記載した上で押印して、印鑑証明を添付して売り手企業に提出します。
押印する印鑑は実印にして、印鑑証明書を添付することで本人であることを証明できます。
株主総会での承認を得る
株式譲渡承認請求書が提出されたら、売り手企業は承認の可否を決定します。
取締役会設置会社では取締役会で決定し、取締役会非設置会社では株主総会で決定します。
ただし、取締役設置会社においても定款に規定がある場合には株主総会の普通決議で承認決議が行えます。
株式譲渡の承認は普通決議事項ですので、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主の出席のもと、議決権の過半数の賛成が必要です。
また、株主総会を開催するときには議事録を作成する必要があります。
株主総会の議事録には以下の事項を記載します。
- 開催日時
- 開催場所
- 出席した取締役の氏名
- 株主総会の議長の氏名
- 議案と審議の内容
- 決議事項
ちなみに取締役会で決定した場合でも取締役会の議事録を作成する必要があります。
株式譲渡契約の締結をする
株主総会で株式譲渡承認請求が承認されたら、売り手と買い手の間で株式譲渡契約を締結します。
株式譲渡契約はM&Aにおける最終契約に該当します。
株式譲渡契約を締結するために株式譲渡契約書を作成し、締結します。
この段階では、既に売り手企業の法務や税務、財務、人事制度などを精査するデューデリジェンスが実施されています。
デューデリジェンスの結果を考慮して、株式の最終的な譲渡対価などが決定されていますので、これまでの合意内容をすべて記載します。
また、株式譲渡契約書に記載された内容には法的拘束力があります。
なかでも債務不履行の時に双方が損害賠償を負うことが記載されており、株式譲渡契約を締結した後では事実上契約の取り消しができないことを理解しておきましょう。
株主の名義変更をする
株式譲渡契約を締結し、クロージングに向けて双方が動くことが明確になったら、株主の名義変更をします。
売り手企業の株主と買い手が共同で株式名義書換請求書を売り手企業に提出し、株主名簿の名義変更を請求します。
株式譲渡自体は株主と買い手の合意によって成立します。
しかし、第三者に対する対抗要件として株主名簿の書き換えが必要であり、書き換えが完了しないと外部の第三者に対して、株主であることを主張できません。
株式譲渡をスムーズに進めるために株式譲渡契約書には売り手企業が株式名簿の書き換えに協力することを明記しておきましょう。
株主総会の開催
株主名簿の書き換えが実施されることで、名実共に買い手企業が新しい株主となります。
新しく株主となった買い手企業は正式に株主として臨時株主総会を開催します。
原則として取締役でないと株主総会を開催できませんが、例外として議決権の3%以上を保有していれば、取締役に株主総会の招集を請求できます。
100%株式を保有する買い手企業が株主総会を開催し、新しい役員を選任します。
また、代表取締役を新たに任命するために取締役会を開催します。
株式譲渡の手続きに必要な書類をしっかり確認しておこう
この記事では、株式譲渡の手続きに必要な書類やそれぞれの記載事項、そして必要な手続きについて解説しました。
M&Aにおける一般的なスキームである株式譲渡は株式の保有者と経営権を譲渡する重要なプロセスです。
書類によっては、法的拘束力や法的権利、義務が生じるので、形式要件を具備した適切な書類を準備し、必要に応じて署名や押印する必要があります。
M&A仲介会社などの専門家に相談しながら、必要な書類を準備しましょう。
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