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M&Aのカーブアウトとは?スピンアウトとの違いやメリットを解説

グローバル化やインターネットの発達によって中小企業を取り巻くビジネス環境が激変する中で柔軟な企業の再編は重要な経営戦略の一つです。

カーブアウトは企業が子会社や事業の一部を切り離して、分離独立させる経営戦略の一つです。

不採算事業からの撤退や子会社の技術力向上、成長戦略の一環として実行されます。

カーブアウトはホールディングス制を採用する大企業が中心となって活用していますが、中小企業であっても事業の切り離し手段として利用されています。

カーブアウトを上手に活用するためにカーブアウトの基本的な知識を習得しておきましょう。

この記事では、カーブアウトの特徴や活用スキーム、メリットや注意点について解説します。

2つの意味があるM&Aのカーブアウト

M&Aにおいてカーブアウトは2つの意味で使用されます。

1つは事業の一部の分離独立であり、もう1つは交渉段階での特定事項の除外です。

カーブアウトという言葉はたいていの場合は前者の意味で使用されます。

事業の一部の分離独立

1つ目の意味は親会社が事業の一部や子会社を切り離して、分離するという経営戦略です。

分離した事業や子会社は社外の全く別の組織として独立して存続します。

分離独立させた後には投資ファンドから資金調達して、事業を行うことが多いです。

事業が成功すると再び親会社に取り込んだり、M&Aによる売却益を得ることもできます。

カーブアウトは子会社や事業の一部が市場から過小評価されており、分離独立することで価値が向上すると想定した場合に実施されます。

M&Aの交渉段階における特定事項の除外

2つ目の意味はM&A契約の交渉段階において、特定の事項について除外することを指します。

例えば、表明保証(一定の事実について、当該事実が真実である旨を表明し、保証する)条項の交渉で「新型コロナウイルスによるもの」を除外します。

この場合「〇〇について表明し保証するが、新型コロナウイルスの影響によるものを除く」と記載することで、新型コロナウイルスの影響で発生する事柄については表明保証の対象から除外できます。

このほか、金融市場や証券市場の変化、材料費の高騰などの業界に影響を及ぼす事項についてカーブアウトの対象となりえます。

スピンアウトやスピンオフとの違い

カーブアウトは「スピンアウト」や「スピンオフ」という用語と混同されやすいです。

どちらも企業の経営戦略に関する用語であり、親会社から子会社や事業の一部を独立させる時に使用する用語です。

これらの用語はカーブアウトとどのような違いがあるのでしょうか。

また、「スピンアウト」と「スピンオフ」の違いはなんでしょうか。

カーブアウトとスピンアウトの違い

スピンアウトとは、新会社が元会社と資本関係を継続せずに完全に独立した企業として分離することです。

資本関係がないので、親会社と子会社という関係にはなりません

例えば、社内で独自の技術や専門性、ビジネスアイデアを持つ社員が会社を退職し、会社を設立して独立するケースがスピンアウトに該当します。

また、元会社から不採算事業を分離するためにスピンアウトによって独立させてから第三者に売却することもあります。

スピンアウトの場合には元会社から資金供給を受けないので、自由な経営ができる一方で元会社の知的財産やブランドの活用はできず完全に別会社として運営されます。

このようにスピンアウトはカーブアウトの一種であるといえます。

カーブアウトとスピンオフの違い

スピンオフとは、親会社が事業の一部や子会社を切り離す時に資本関係を維持したまま分離独立させる経営方法です。

カーブアウトのなかでも資本関係が維持されるのがスピンオフであり、維持されないのがスピンアウトと言えます。

近年では、社内カンパニー制を導入するホールディングスグループでスピンオフが活用されています。

独立した子会社はグループ会社として親会社と資本関係が継続するので、親会社のブランドや知的財産の活用が可能です。

一方で別会社といっても資本関係があり、親会社の支配を受けるので、自由な経営はできません

あくまでもグループ企業、子会社として存続することになります。

このようにスピンオフもカーブアウトの一種であるといえます。

M&Aにおけるカーブアウトのスキーム

カーブアウトを実行するときには以下の2つのスキームから法的手法を選ぶことになります。

  • 事業譲渡
  • 会社分割

子会社や事業の規模、会計情報、対象事業の希望に応じて、最適な方法を選択しましょう。

ここからはカーブアウトのスキームである「事業譲渡」と「会社分割」について解説します。

実際に選択するときには弁護士や税理士に相談して決めましょう。

事業譲渡

事業譲渡とは、親会社が新たに子会社を設立し、事業の一部を子会社に譲渡する方法です。

事業に関連する諸契約は包括的に譲渡されるわけではなく、個別承認となります。

法律上は契約関係にある取引先や販売先から個別に同意を取得する必要があります。

外部だけではなく、資産や負債、雇用関係に関しても個別に手続きが必要です。

例えば、許認可を新たに取得したり、社員と雇用契約を締結することになります。

対象となる資産や負債が多い場合や取引先の数が多い事業を譲渡する場合には手続きが煩雑になるので、事業譲渡に向いていません。

一方で事業の規模が小さく、個別の承認が面倒にならない企業の場合には事業譲渡によってカーブアウトが実行される傾向にあります。

会社分割

会社分割とは、分離独立させる事業の一部を新たに設立する子会社に承継させる方法です。

会社分割が事業譲渡と異なる点は諸契約の承継のプロセスです。

取引先や販売先などの外部との契約関係や事業について取得していた許認可、資産や負債の権利関係、社員との雇用契約などはすべて包括承認となります。

つまり、諸契約の再取得のプロセスが不要であり、まとめて子会社に移転されます。

ただし、契約によっては事前に相手の承諾が必要なことがあるので、個々の契約書の確認は必要です。

事業譲渡であれば、個別取得のプロセスが大変ですので、企業規模の大きい一定の中小企業や大企業では会社分割の方法が採用されます

一方で企業規模が小さい中小企業であれば、会社分割の方法を採る必要はないでしょう。

M&Aにおけるカーブアウトのメリット

カーブアウトの特徴や具体的なスキームについて解説しました。

中小企業の場合には事業譲渡のスキームを用いるのが一般的ですので、カーブアウトを実行するハードルが高いように思えるかもしれません。

しかし、多少手続きが煩雑であっても実行するメリットがあります。

ここからはM&Aにおいてカーブアウトを実行するメリットについて解説します。

事業の選択と集中が可能になる

カーブアウトは不採算事業を切り離すという目的で実施されることもあります。

その場合にはカーブアウトの実行によって事業の選択と集中が可能になります。

これは複数の事業分野に投資をしている状態を止めて、成長性が高く、自社の得意領域に経営資源を集中することです。

カーブアウトの実行によって、不採算事業を分離し、親会社が重要性の高い事業に集中することで、経営の効率化やイノベーションの創出、コスト削減につながります。

また、あらゆる業界への異業種の参入が相次ぐ中で得意分野における競争力を維持・向上させることに寄与します。

意思決定のスピードが早くなる

会社の規模が大きいとグループ体制を採用していても意思決定のスピードが遅れてしまうことがあります。

グローバル化やインターネットの発達によって、様々な商品やサービスが相次いで誕生し、ビジネス環境が激しく変動する現代では意思決定のスピードが事業の成否を決定することがあります。

子会社単体では同規模の企業であってもグループの一員であると、親会社の承認を得るプロセスが成長の阻害要因になります。

カーブアウトの実行によって、事業の一部や子会社を分離独立させると、別会社となるので、意思決定のスピードは格段に早くなります

外部からの資金調達や人材の活用が可能になる

カーブアウトを実行して設立された子会社は親会社と資本関係を維持しながら、外部から融資を受けたり、出資を受けることができます

資金調達の手段が豊富にあるので、安定的な事業運営が可能になります。

また、親会社だけではなく、協業する外部の企業や新たに資本関係を築いた企業から人材を招くこともできます

事業運営に必要な「カネ」と「ヒト」が揃うので、カーブアウトを実行した後も企業の成長を促すことができます。

親会社が資本関係を維持しながら子会社を成長させることで、グループ全体として企業価値が向上します。

M&Aにおけるカーブアウトの注意点

カーブアウトは事業の選択と集中、意思決定の迅速化、外部の資源の活用といったメリットがあるので、大企業・中小企業問わず幅広く活用されている手段です。

しかし、実行にあたっては注意点もあり、後に法的問題が生じる可能性もあります。

カーブアウトを検討するときには注意点についてしっかり理解しておきましょう。

許認可の承継

カーブアウトのスキームで事業譲渡を選択した場合には元会社の許認可は新会社に承継されません

カーブアウト実行前の事業を継続するためには必要な許認可の再取得が必要です。

事業の内容によっては所管官庁への届出や登録をしたり、認可や許可、免許を受ける必要があります。

これらの事業を行う場合にはカーブアウトの実行前に許認可の取得手続きを開始しましょう。

また、会社分割の場合でも許認可の種類によっては包括的に承継されないものがあります

自動的に承継されるものと手続きが必要になるものを確認しておきましょう。

契約の承継

事業譲渡スキームを利用する場合には許認可と同様に契約の承継についても承継の手続きが必要です。

民法第539条第2項では「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。」と規定されています。

これは契約の相手方が不利益を被ることを回避する目的があり、取引先との契約は相手の同意なしには承継されません。

ただし、事業譲渡であっても売掛金や買掛金、不動産契約については包括的に承継されます。

自動的に承継される契約とそうでない契約の区別をしておきましょう。

社員の離職

カーブアウトを実行して、会社の一部門や子会社を分離独立させた時に社員が新しい会社に移ってくれないと人材不足になります

基本的に雇用契約を再度締結して、新会社で働いてもらうことになります。

しかし、社員の中には親会社でのキャリア形成を前提に入社している人もいるかもしれません。

そのような社員は期待していたキャリア形成ができないと仕事のモチベーションが低下し、離職を選択するかもしれません。

社員の離職を防ぐために事前の説明会などを実施することがありますが、究極的には待遇の改善や給与の引き上げが効果的です。

カーブアウトは企業の戦略の一つ

この記事では、カーブアウトの用語の意味やスキーム別の特徴、カーブアウトを実行するメリットや注意点について解説しました。

カーブアウトは不採算事業からの撤退や経営の効率化といったメリットの多い経営手法ですが、諸契約の承継や社員の離職と言った課題もあります。

なかには法的なリスクもあるので、リスクを抑制するために専門家の支援が望ましいです。

カーブアウトについてはぜひ株式会社パラダイムシフトに相談してみましょう。

株式会社パラダイムシフトは実績のあるM&A仲介会社であり、中小企業の経営戦略に精通しています。