簡易株式交換とは、M&A取引において、買い手企業A社が売り手企業B社の買収時に支払う対価がA社の純資産額の5分の1以下である場合を指します。
株主総会の開催を省略できるなど買い手企業にとっては時間と労力の削減になります。
簡易株式交換は略式株式交換や株式移転など他のM&Aの手法と混同されることがあります。
この記事では、簡易株式交換の特徴や略式株式交換や株式移転との違い、簡易株式交換のメリットやデメリットについて解説します。
目次
簡易株式交換とは?
株式交換を実施する時に、完全親会社となるA社が買収時に支払う対価が、A社の純資産額の5分の1以下である場合には簡易株式交換に該当します。
簡易株式交換では、A社は株主総会決議を省略することができます。
株主総会決議を省略できることは大企業において、大きな意味を持ちます。
大企業は株主の数が多く、株主を集めるプロセスに莫大な時間と労力、お金がかかります。
簡易株式交換を選択することで、消費される時間や手間を省略して、迅速なM&Aが可能になります。
ただし、A社の株主の6分の1以上が反対した場合には、株主総会の開催を省略できません。
また、A社が譲渡制限会社かつ譲渡制限株式を割り当てる場合も同様に省略不可です。
簡易株式交換の条件
簡易株式交換は株主総会の開催の手間と時間を省けるので、大企業や上場企業にとっては便利な手法です。
しかし、通常の株式交換と異なり、簡易株式交換には実施の条件があります。
それは完全親子会社となるA社が子会社の株式取得の対価として、交付する自社株の合計額がA社の純資産額の5分の1以下であることです。
ただし、以下の場合には簡易株式交換を選択することができません。
- 反対株主が完全親会社の総株式数の6分の1を超えた
- 完全親会社が譲渡制限会社で譲渡制限株式を割り当てる
- 株式交換後の組織再編時に差損が生じる
上記に該当し、簡易株式交換を選択できない場合には、株主総会を開催し、株式交換の承認を得る必要があります。
また、組織再編時に差損が生じないか、株式交換前に予測を立てておくことが重要です。
株式交換との違い
株式交換とは、M&Aの手法の一つであり、完全子会社となる売り手企業A社の全株式を完全親会社となる買い手企業B社が取得する手続きです。
株式交換の結果として、A社は完全子会社、B社は完全親会社として、両社の間に完全親子会社関係が成立します。
B社はA社の株式取得の対価として、B社の株式の一部をA社に交付します。
株式が対価として最も一般的ですが、株式ではなく、現金や社債、新株予約権、もしくはB社の親会社の株式を交付することも可能です。
このように簡易株式交換はB社が買収時に支払う対価が、B社の純資産額の5分の1以下である場合を指しますので、簡易株式交換は株式交換の一部と言うことができます。
株式移転との違い
株式移転とは、完全親会社となるC社を新たに設立して、既存の会社であるA社とB社の発行済株式の全てをC社に取得させる手法です。
ただし、完全子会社となるのがA社のみである場合には単独株式移転、A社とB社など2社以上の場合には共同株式移転といいます。
株式移転が成立すると、A社とB社の株主はC社となり、株式移転前にA社とB社の株主だった人はC社の株主となります。
簡易株式交換は完全親会社となる新しい会社を設立するのではなく、既存の会社が完全親会社となり、完全子会社の株式を取得します。
また、その時に完全親会社となる会社が支払う対価は、その親会社の純資産額の5分の1以下である場合に簡易株式交換となります。
簡易株式交換と略式株式交換の違い
簡易株式交換は完全子会社となる売り手企業A社の全株式を、完全親会社となる買い手企業B社が取得する手続きである株式交換の一種であることを解説しました。
簡易株式交換以外にも株式交換には種類があります。
それは略式株式交換と三角株式交換です。
特に略式株式交換は簡易株式交換と言葉が似ているので、混同されがちです。
略式株式交換と三角株式交換について見ていきましょう。
略式株式交換とは
略式株式交換も簡易株式交換と同様に親会社と子会社の支配関係の確立度合いによって、区別されています。
株式交換を実施する時に完全親会社となるA社が完全子会社となるB社の議決権のうち90%以上を保有している時にB社の株主総会の特別決議を省略することができます。
ただし、以下の2点のいずれかに該当する場合には特別決議の省略はできません。
- 完全子会社となるB社が公開会社であり、その株主に対価として譲渡制限株式が交付される場合
- 完全親会社となるA社が非公開会社であり、譲渡制限株式が交付される場合
- 子会社が完全親会社となる、かつその子会社が全株式について譲渡制限会社であり、株式の交付を行う場合
特に1については、B社の株主が保有する株式の流動性が著しく損なわれるので、少数株主の利益擁護のために特別決議の省略を認めていません。
三角株式交換とは
三角株式交換は、実施の時の株主総会における特別決議とは関係なく、M&A実施の時の親会社と子会社の資本関係によって定義されます。
簡単にいえば、売り手企業A社が株主交換によって、完全親会社となるB社の完全子会社となる時にA社の親会社となるB社ではなく、B社の親会社であるC社の株式を交付する手法です。
これに対して、B社はA社の発行済株式全てを取得し、A社の完全親会社となります。
株式交換実施後にはC社はB社の株式を100%保有し、B社はA社の株式を100%保有している状態になります。
もともとA社の株式を保有していた株主はC社の株式を対価として受け取り、C社の株主となります。
簡易株式交換のメリット
簡易株式交換は株式交換の1種であり、完全親会社が取得する株式数によって、簡易株式交換となります。
したがって、株式交換とメリットはほとんど同じですが、取得する対価が自社の規模と比較して小さいことによる特有のメリットもあります。
ここからは、簡易株式交換によってM&Aを成約するメリットについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
買収資金が不要
簡易株式交換では、子会社の株式取得の対価として、交付する自社株の合計額は純資産額の5分の1以下です。
ここで交付する自社株は親会社の規模と比較して、少なくて済みます。
そのうえで、親会社は子会社の買収のために現金を用意する必要がありません。
「手元に買収資金がないが、自社株を大量に交付して、株主構成が大幅に変わる事態は避けたい」という場合に簡易株式交換はとても便利な手法です。
買収資金が乏しい場合には簡易株式交換を検討してみましょう。
別法人として存続させられる
簡易株式交換が実施できたということは完全子会社の規模は完全親会社よりも規模が相当小さいということです。
規模が大きく異なる2つの会社がM&Aの後に経営統合を進めるのは非常に大変なことです。
待遇面だけではなく、人事制度や役職の統一などで子会社の側から不満が生じやすいです。
しかし、M&A実施後の完全子会社は別法人として存続するので、時間をかけて経営統合を進めることができます。
売り手企業の従業員が戸惑うような早急な経営統合を回避し、円滑なグループ化のためにも簡易株式交換は有効な手法です。
少数株主を排除できる
簡易株式交換が成立しているので、完全子会社の規模は親会社よりかなり小さいと予想されます。
この場合に、完全子会社の株主が親会社の株主となって、経営の妨げとなることがあります。
また、新しく株主となった子会社の元株主が外部のハゲタカファンドに売却することで経営権が安定しない、または奪われるという危険があります。
完全子会社となる企業の株主の3分の2以上の賛成があれば、事前に少数株主を排除することができます。
少数株主を排除して、グループ全体の円滑な運営を実現できます。
簡易株式交換のデメリット
簡易株式交換を活用することで、通常の株式交換よりもよりメリットが実感しやすいことを解説しました。
メリットが大きい簡易株式交換ですが、当然デメリットもあります。
メリットとデメリットを正しく理解した上で活用を検討しましょう。
また、通常の株式交換と比較して、デメリットがどのように変わるのかについても注目しましょう。
株価下落のリスク
完全親会社が上場している場合には、通常の株式交換と同様に株式の希薄化による株価下落リスクがあります。
親会社が新しく株式を発行して、売り手企業に交付することで、1株あたりの株式の希薄化を招きます。
株主一人ひとりの時価総額に占める割合が減少するとともに1株あたりの利益も減少します。
結果として、株式の魅力が低下し、市場で株価が下落するリスクがあります。
簡易株式交換は買い手が大企業や上場企業の場合にメリットが大きいですが、株価下落のリスクがつきまとうことに注意が必要です。
株主比率が変動する
簡易株式交換が実施されると、売り手企業の株主は買い手企業の株主となります。
簡易株式交換が大企業や上場企業によって活用されたと仮定すると、株主はいきなり大企業の株式を手に入れたことになります。
買い手企業について知識が不十分な株主が多数誕生するだけではなく、買い手企業の株主構成が変化します。
ただし、売り手企業の規模が小さい場合には株主が増えることによる弊害は最小限に抑えることもできます。
複雑な手続きが発生する
通常の株式交換と同様に簡易株式交換においても多数の手続きが発生します。
簡易株式交換によって、省略できる手続きは株主総会での特別決議のみですので、その他の手続きは通常通り実施することになります。
最低限実施する手続きには以下のようなものがあります。
- 株式交換の合意
- 事前開示書類の備置
- 反対株主の買取請求
- 株券の提出公告
- 株式交換登記
- 事後開示書類の備置
これだけの手続きがあるので、株主総会の特別決議を省略できることの意味は大きいです。
簡易株式交換は交付する財産の金額が基準となっている
この記事では、簡易株式交換の特徴や略式株式交換や株式移転との違い、簡易株式交換のメリットやデメリットについて解説しました。
簡易株式交換とは、株式交換を実施する時に、完全親会社が買収時に支払う対価が、自社の純資産額の5分の1以下である場合を指します。
簡易株式交換や略式株式交換、株式移転などはいずれもM&Aを行う手段の一つです。
その時の状況や自社の買収資金などを考慮して、慎重に選択します。
選択するときにはM&Aの専門家の意見を聞くことも大事です。
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