事業承継対策としてM&Aが普及したことで、以前に比べると中堅中小企業にとってもM&Aは馴染みのあるものとなりました。
M&Aを実施する際には、M&A仲介会社に依頼することが多いと思います。
仲介会社に依頼すると報酬を支払う必要があります。
多くの仲介会社で採用している報酬の算出方法はレーマン方式です。
複数の仲介会社に依頼する際の報酬を比較するためにも、レーマン方式に関する理解を深めることが重要です。
この記事ではレーマン方式やその計算方法、採用するメリットやデメリットについて解説します。
目次
レーマン方式とは?
レーマン方式とは、M&Aにおいて仲介会社や支援機関で使用される成功報酬の体系です。
ドイツ人の経営学者レーマン博士の学説を応用した成果配分方式であることから、レーマン方式と言われています。
レーマン方式では、M&Aの取引金額に応じて報酬料率が逓減します。
取引金額 | 報酬料率 |
取引金額が5億円までの部分 | 5% |
取引金額が5億円を超え10億円までの部分 | 4% |
取引金額が10億円を超え50億円までの部分 | 3% |
取引金額が50億円を超え100億円までの部分 | 2% |
取引金額が100億円を超える部分 | 1% |
ここで問題となるのが報酬料率をかける取引金額の計算方法です。
M&A仲介会社によって以下のような計算方法があります。
- 企業価値(株式価格+有利子負債)
- 企業価値(株式価格+負債総額)
- 株式譲渡対価
このように業者によって異なるので、契約時に取引金額計算方法について確認しましょう。
また、成功報酬に加えて、着手金やその都度支払う中間金が必要になるケースもあり、当初見込んでいた金額を上回ることがあるので、その点についても契約時に確認しましょう。
レーマン方式の種類
レーマン方式では、取引金額×報酬料率で成功報酬が決まりますが、取引金額の計算方法には4種類あります。
株価方式
M&Aは買い手が売り手の自社株を買収することで成立します。買収時の自社株の譲渡価格を取引金額とみなすのが株価方式です。
他の種類と比べて、取引金額が小さくなるので、成功報酬を抑えられます。
オーナー受取額方式
自社株の譲渡価格に会社の役員や経営者が会社に融資していた役員借入金を加えた金額を取引金額とみなすのがオーナー受取額方式です。
役員借入金は自社株の譲渡金額とは別に借り手である経営者に返済されます。
企業価値方式
企業価値方式では、自社株の譲渡価格に有利子負債を加えて取引金額を計算します。
有利子負債とは、銀行等の金融機関からの借入金です。
M&Aで会社を譲渡すると、会社は借入金から解放されるので、その分企業価値が上昇するという考えに基づいています。
不動産や小売など借入金が多い業種では、取引金額が膨らみ、成功報酬が高くなる可能性があります。
移動総資産方式
自社株の譲渡価格にすべての負債を加算して取引金額を計算する方法が移動総資産方式です。加算される負債には、役員借入金や有利子負債、買掛金、未払金などが含まれます。
他の種類と比べて、成功報酬が最も高くなります。
レーマン方式の計算方法
上記の計算式に当てはめて、成功報酬を計算してみましょう。
例えば、取引金額を14億円と仮定してみましょう。
この場合は以下のようになります。
- 5%適用部分=5億円×5%=2,500万円
- 4%適用部分=5億円×4%=2,000万円
- 3%適当部分=4億円×3%=1,200万円
したがって、取引金額が14億円の場合の報酬額は2,500万円+2,000万円+1,200万円=5,700万円となります。
しかし、上場企業や大企業の場合には取引金額がさらに大きくなる場合があります。
例えば、Zホールディングスがファッション EC サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOを買収した際には、取引金額が約4,000億円となりました。
仮に取引金額を4,000億円と仮定すると以下の式になります。
- 5%適用部分=5億円×5%=2,500万円
- 4%適用部分=5億円×4%=2,000万円
- 3%適当部分=40億円×3%=1億2,000万円
- 2%適用部分=50億円×2%=1億円
- 1%適用部分=3,900億円×1%=39億円
したがって、この場合の報酬額は2,500万円+2,000万円+1億2,000万円+1億円+39億円=41億4,500万円となります。
ただし、上場企業や大企業の場合は異なる方式が使われている可能性があるので、必ずしもこの金額になるとは限りません。
レーマン方式を採用するメリット
多くのM&A仲介会社がM&A仲介の成功報酬としてレーマン方式を採用していますが、これは明確なメリットが存在するからです。
それでは仲介を依頼する中堅中小企業から見たレーマン方式のメリットとはなんでしょうか?
主なメリットをまとめてみました。
- M&Aにかかる費用を事前予測できる
- 取引額と報酬料率が反比例する
- 成果報酬型である
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
M&Aにかかる費用を事前予測できる
レーマン方式は取引金額に応じて、報酬料率が逓減するというわかりやすい報酬体系です。
報酬料率は固定ですので、取引金額の計算方法が分かれば、専門的な知識がなくても成功報酬の金額の計算が可能です。
M&Aでは、企業規模によって成功報酬が数千万円から数億円になり、非常に大きな買い物となります。
企業によっては簡単に用意できる金額ではありません。
銀行融資などを利用して支払うこともありますが、その場合でもある程度のキャッシュを用意しておく必要があります。
したがって、事前にM&Aにかかる費用を概算できることは大きなメリットとなります。
ただし、算出した金額には着手金や中間金は含まれていないことに留意する必要があります。
取引額と報酬料率が反比例する
レーマン方式では取引金額が大きくなるほど、成功報酬の料率は低くなります。
例えば、成功報酬が一律的な金額に設定されている場合には、大型のM&Aが成約するほど、割安となり、小型のM&Aでは割高となります。
一方で報酬料率を一律にすると、小型のM&Aが成約するとM&A仲介会社の利益が少なくなります。
これは一見すると企業にとって有利に思えますが、M&A仲介会社が小型のM&Aを仲介する動機がなくなります。
この点、レーマン方式を採用すると、大型のM&A成約の場合でも企業は仲介会社に支払う費用を抑制でき、小型案件でも仲介会社の利益が見込めるので、依頼もしやすくなります。
このように依頼者と仲介会社の双方にメリットのある報酬体系ですので、取引が円滑に進みやすいのです。
成果報酬型である
レーマン方式は、取引金額に応じて料率を変動させることで、成果型の報酬にしています。
したがって、成約しなければ取引金額が発生しないので、報酬は発生しません。
もちろん着手金や中間金が求められることはありますが、他の報酬体系と比較して、依頼者にとってリスクの少ない方式といえます。
依頼者としては完全に納得できる内容でなかった場合には、成約を拒否することで、費用を抑えつつ、新しい案件を検討することができます。
レーマン方式を採用するデメリット
レーマン方式は皆にメリットが有る平等な報酬体系であり、最も一般的ですが、デメリットがないわけではありません。
デメリットを知ることで、事後のトラブルを避けましょう。
主なデメリットは以下のとおりです。
- 小規模なM&Aでは負担が大きくなる
- 強引に成約を進められる可能性がある
- 別途料金が発生する可能性がある
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
小規模なM&Aでは負担が大きくなる
レーマン方式は、小型M&Aが成約しても仲介会社が利益を得られる仕組みになっていますが、その分小型M&Aの場合は依頼者の負担が大きくなります。
例えば、取引金額が5億円以下の部分の報酬料率は5%です。
したがって、5億円よりも取引金額が小さいほど負担感が増します。
企業のすべての事業を買収するM&Aではなく、一部の事業を買収する小型のM&Aの場合には、買い手も決して大企業や上場企業とは限りませんが、その場合に負担が大きくなる点はデメリットです。
これはM&A仲介会社が最低限の利益を確保するための制度ですが、小型のM&Aの場合には仲介会社を経由しない、もしくは別の報酬体系の仲介会社に依頼してもいいかもしれません。
強引に成約を進められる可能性がある
レーマン方式は成果報酬型の報酬体系ですので、M&A仲介会社としては成約してもらわないと利益が出ません。
したがって、希望する条件から多少ずれていても成約を推し進められる可能性があります。
また、強引とまではいかなくても、現在の案件があたかも理想的な案件かのような営業トークは覚悟する必要があります。
成約の前にM&A取引をする目的を再度確認し、その目的に合致しない場合には契約書にサインしない強い意志が必要です。
別途料金が発生する可能性がある
レーマン方式はあくまでもM&A成約に際して支払う成功報酬です。
したがって、着手金やその都度支払う中間金があるかどうかは別の話です。
なかには、M&Aが成約して成功報酬を支払う場合には、着手金や中間金の全部または一部が成功報酬に充当される場合があるようです。
着手金は仲介会社によっては「アレンジメントフィー」と呼称しています。
契約書に「着手金」あるいは「アレンジメントフィー」が成功報酬に充当される旨の記載がないか確認しましょう。
レーマン方式を踏まえた仲介会社の選定ポイント
ここまでレーマン方式について説明しました。
レーマン方式は成果報酬型ですので、M&A仲介会社に満足のいく結果を出してもらう必要があります。
そのことを踏まえた仲介会社の選定ポイントについて解説します。
ポイントは以下の3点です。
- 報酬体系
- 過去の実績や得意分野
- 専門家のネットワーク
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
報酬体系
M&A仲介会社によって報酬体系は異なります。
レーマン方式なのか、そうでないのかは重要な確認ポイントです。
さらに着手金や中間金の有無、それらが成功報酬に充当されるのかも確認しておきたいところです。
仲介会社によってこれらの費用の名称も異なりますので、判別が難しい場合もあります。
可能であれば、契約前に弁護士や税理士に契約書の内容を確認してもらいましょう。
過去の実績や得意分野
M&A仲介の実績や経験が豊富な仲介会社が望ましいでしょう。
ここでいう実績とは単なる件数ではなく、自社の属性に合致した成約件数があるかどうかです。
つまりは、M&A仲介会社の得意分野における成約件数です。
企業規模(大型か、小型か)、地域(都市部、地方含む)、業種(製造業、卸売業など)などの企業属性と同じ実績があるのか確認しましょう。
専門家のネットワーク
M&Aでは買収対象企業の選定や途中のデューデリジェンスに際して、財務分析のスキルや法務、税務の知識が必要になります。
これらの業務は実務的に、仲介会社に所属している弁護士や税理士が行います。
したがって、依頼する仲介会社にどれだけ専門家が在籍しているか、また外部の弁護士事務所等と提携しているのか、提携の場合にはその弁護士事務所は信頼できるのかを確認してください。
事前に契約書を確認して料金体系を把握しよう
レーマン方式は多くのM&A仲介会社で採用されています。
依頼者・仲介会社双方にとってメリットがあるように設計されているのが特徴です。
レーマン方式は最もスタンダードな報酬体系ですが、すべての仲介会社がこの方式を採用しているとは限りません。
契約時に契約書を確認して、料金体系を理解しましょう。
しかし、仲介会社によって費用の名称が異なったり、成功報酬以外にも様々な料金が上乗せされて複雑な料金体系となっていたりする場合があります。
また、そもそも料金体系について専門家のアドバイスがほしいという方もいるでしょう。
そのようなときは、株式会社パラダイムシフトに相談してみましょう。
株式会社パラダイムシフトはIT分野のM&Aサポートを長年手掛けており、情報量が豊富です。