「外資規制」とは、外国人や海外の企業による国内投資を制限する、政府の取り組みです。海外の投資を呼び込みたい日本企業は、日本政府の外資規制政策を熟知しておく必要があります。また、海外に投資しようとしている日本企業は、相手国の政府の外資規制政策を知らなければなりません。
外資規制は、その国の安全保障や経済政策に関わることなので、グローバル展開を検討しているビジネスパーソンは、しっかり押さえておく必要があります。
この記事では、まず中国外資に買収された日本企業の一覧を紹介します。さらに、日本の外資規制の概要を解説したうえで、アメリカと中国の制度についてもみていきます。
また、新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)と外資規制の関係についても解説しますので、参考にしてください。
目次
中国外資に買収された日本企業一覧
中国外資は多くの日本企業を買収しています。まずは実際にどのような日本企業が買収されているのかをみていきましょう。買収されている企業にはあなたが知っているような有名企業も含まれています。
どのくらいの規模の買収が行われているのかを把握して、市場を正しく理解しておきましょう。下記が実際に中国外資に買収された日本企業の一覧になります。
中国企業の名称 | 中国企業の業種 | 買収時期 | 買収された日本企業の名称 | 買収された日本企業の業種 |
Lenovo(聯想集団) | PC製造 | NECパーソナルプロダクツ(PC部門) | 2011年 | PC製造 |
Lenovo(聯想集団) | PC製造 | 富士通クライアントコンピューティング | 2018年 | PC製造 |
Haier(海爾集団) | 家電製造 | 三洋アクア | 2011年 | 家電製造 |
Midea(美的集団) | 家電製造 | 東芝ライフスタイル | 2016年 | 家電製造 |
善美集団 | 投資ファンド | 山水電気 | 1991年 | オーディオ機器製造 |
善美集団 | 投資ファンド | 赤井電機 | 1994年 | オーディオ機器製造 |
善美集団 | 投資ファンド | ナカミチ | 1997年 | オーディオ機器製造 |
Baring Private Equity Asia | 投資ファンド | パイオニア | 2019年 | オーディオ機器製造 |
山東如意集団 | 繊維製造 | レナウン | 2010年 | 衣料品製造 |
蘇寧電器 | 家電量販店 | ラオックス | 2009年 | 家電量販店 |
上海電気集団 | 産業機械製造 | 池貝 | 2004年 | 産業機械製造 |
BYD(比亜迪汽車) | 自動車製造 | オギハラ(金型工場) | 2010年 | 自動車製造 |
上海奔騰企業 | 家電製造 | 本間ゴルフ | 2010年 | ゴルフ用具製造 |
Key Safety Systems | 自動車用安全部品製造 | タカタ | 2018年 | 自動車用安全部品製造 |
出典:https://honichi.com/news/2020/06/25/chinastock/
なぜ各国政府は外資規制を行うのか
各国の外資規制を解説する前に、基本的な内容を確認しておきます。
ある国の政府が外資規制を行うのは、自国の重要な資源や資産や財産を、他国に奪われないようにするためです。
資本主義の論理では、株式会社の所有者は株主になります。経営者は、株主に経営という仕事を任されているにすぎません。そして株式会社は、ヒト・モノ・カネを大量に保有しています。さらに、上場企業の株は、大金を持っている者が簡単に買うことができます。
そのため、ある国の政府に悪意があれば、カネに任せて、他国のヒト・モノ・カネを手に入れることができるわけです。
ところが、海外からの投資(外資)を完全にシャットアウトしてしまうと、その国は国際競争に勝つことができません。また、外資をシャットアウトすると、外国政府が報復するかもしれません。そうなれば、自国だけ、自由貿易の果実を得ることができなくなってしまいます。
外資規制は、最小限でなければならず、おなかつ、安全保障と自国経済の保護を確実できる内容でなければなりません。
外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)でも、対外取引が自由に行なわれることを基本として、対外取引に必要最小限の管理または調整を行う、と規定されています(第1条、*1)。
*1:
https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/hensen.html
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=324AC0000000228
日本の外資規制の概要
日本の外資規制政策は、
1)外為法関連 と、
2)個別業法関連
の2本柱になっています(*2、3)。
個別業法とは、各業界を規制する法律のことです。
1つずつみていきましょう。
*2:https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000590_po_0600.pdf?contentNo=1
*3:https://www.ycg-advisory.jp/knowledge/glossary/restriction_on_foreign_investment/
外為法による外資規制
外為法は、外国の投資家が日本企業の株式を取得する場合、事前の届出や、事後報告を義務づけています(*2)。
北朝鮮やイラクなどからの投資は、事前届出が必要です。アメリカやイギリスなどの同盟国や準同盟国、友好国からの投資は、原則、事後報告で済みますが、次の業種については事前届出が必要になります。
<同盟国や友好国からの投資でも事前届出が必要な業種>
・農林水産業・鉱業・石油業・皮革及び皮革製品製造業・航空運輸業・安全保障に関連する業種など
業種が意外に少ないと感じるかもしれませんが、ポイントは「安全保障に関連する業種」です。最先端技術は、どの業種の技術であっても安全保障につながる可能性があります。
経済協力開発機構(OECD)は、次の業種を安全保障関連業種に認定し、自国での投資規制を認めています。
・武器・航空機・原子力・宇宙開発・電気・ガス・熱供給・通信・放送・鉄道など
武器や航空機や原子力は、一般の人でも直感的に安全保障関連であると理解できますが、電気やガス、通信、鉄道といった国民生活に不可欠なインフラ関連も安全保障につながると考えられています。
日本政府は2007年に、炭素繊維、チタン合金、光学レンズについて、外資規制の対象に追加しました。
2019年の外為法改正の内容
外為法が2019年11月に改正され、海外資本による、日本の「重点企業」の株式取得がさらに厳格化されました(*4)。
従来は、海外の投資家などが重点企業の株式を取得するとき、持ち株比率で10%以上の株式を購入する場合に限り、事前届出が必要でした。
改正外為法では、この基準が1%以上になりました。
重点企業は518社に及び、これは上場企業の14%にあたります。
その一部は次のとおりです(*5)。
国際石油開発帝石、鹿島建設、双日、東レ、Sansan、フリー、大日本住友製薬、富士フイルムホールディングス、AGC、日本製紙、電通グループ、三菱マテリアル、弁護士ドットコム、エイベックス、三菱重工業、本田技研工業、トヨタ自動車、東急、小田急電鉄、東日本旅客鉄道、学研ホールディングス、NTTドコモ、エイチ・アイ・エスなど
*4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58881950Y0A500C2EA4000/
*5:https://partsa.nikkei.com/parts/ds/pdf/20200508_1.pdf
個別業法による外資規制
個別業法による外資規制とは、個別の業界について規定した法律のなかで、外資を制限する手法です(*2)。
対象となる法律は次のとおりです。
・鉱業法・日本電信電話株式会社法・電波法・放送法・船舶法・航空法・貨物利用運送事業法
例えば鉱業法は、鉱業権は日本国民か日本国法人しか取得できない、と定めています(第17条)。電波法と放送法は、外国人の議決権割合が5分の1以上になっている企業は、無線局を開設できない、と定めています。
このように、一部の業種については、外国人や海外資本がメーンとなってビジネスを遂行することはできません。
アメリカと中国の外資規制の特徴と注意点
日本の外資規制の概要の解説をしたところで、次にアメリカと中国の外資規制の特徴と注意点について解説していきます。
アメリカの外資規制の特徴
アメリカで2020年2月に、外国投資リスク審査現代化法が施行されました(*6)。外国企業は、インフラ、個人情報、空港・港湾・軍事に関わる不動産への投資が難しくなります。カナダ、イギリス、オーストラリアは2年間の特別措置が適用されますが、日本はそこに含まれません。
これは中国を念頭に置いている措置と考えられています。
2020年3月には早速、トランプ米大統領が、中国のIT企業に、同社が買収したアメリカのIT企業を売却するよう命じました(*7)。
この中国IT企業が当該アメリカIT企業を買収したのは2018年のことです。合法的に行なわれたM&Aであっても、買収から数年が経過していても、アメリカ政府は「危機」を感じたら大統領令を使ってでも解消させるわけです。
中国IT企業が買収したアメリカIT企業は、ホテル向けに宿泊者管理や資産管理のサービスを提供しています。軍事分野はもちろんのこと、インフラ分野とも遠い印象があります。それでもトランプ氏は「安全保障上の脅威がある」と認定しました。
アメリカ政府が懸念する理由の1つが、この中国IT企業が公的企業であることです。中国政府の「息」がかかっているので脅威がある、という理屈です。
この中国IT企業は、米IT企業の株式をすべて売却し、入手した顧客情報をすべて処分しなければなりません。
ただ、外資規制の強さでは、中国のほうが上回ります。次の章でそれを確認していきます。
*6:https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/01/b57544a6abe4d151.html
*7:https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/6cb725dbd58d1edb.html
中国の外資規制の注意点
中国の外資規制の名称は「外商投資参入特別管理措置」といいます(*8)。
中国の「外商投資の方向を指導する規定」には、外資を制限する分野と、外資を禁止する分野を、次のように定めています(*9)。
<外資を制限する分野>
– 技術レベルが立ち遅れている分野
– 資源節約および生態環境改善のためにならない分野
– 国が保護的採掘の実施を規定する特定の種類の鉱物の探査、採掘を行う分野
– 国が段階的に自由化する産業に該当する分野
– 法律、行政法規に規定するその他の状況
技術レベルが立ち遅れている分野であっても、規制を強めていることがわかります。これらの制限分野では、「外資100%」ではビジネスができません。
ただし、「合弁」「中国側の持分支配」などの方法であれば、海外の投資家が投資できます。
合弁とは、中国企業と海外企業による合弁会社を設立することです。
中国側の持分支配とは、中国側の投資家の出資比率が51%以上になる経営形態です。
<外資を禁止する分野>
– 国の安全を脅かし、または、社会の公共利益を害する分野
– 環境を汚染・破壊し、自然資源を破壊し、または、人体の健康を害する分野
– 大量の耕地を占用し、土地資源の保護、開発のためにならない分野
– 軍事設備の安全および使用功能を害する分野
– わが国(中国)特有の工芸または技術を利用して製品を生産する分野
– 法律、行政法規に規定するその他の状況
これらの分野には、外資はまったく関与できません。合弁や中国側の持分支配でも、海外投資家は参加できません。
中国も、安全保障に関わる分野への外国からの投資に敏感になっていることがわかります。
中国は一方で、海外資本に国内市場を開放する動きも見せています(*10)。
中国政府は、外資規制をかけている分野を「ネガティブリスト」に記載していますが、2020年4月に、このリストの内容を減らすと発表しました。外資規制がかかる分野が減ります。
さらに、積極的に外資を呼び込む分野を「奨励カタログ」に記載し、この分野に投資する外国企業の税を優遇します。
中国が外資を呼び込みたい分野は、サービス、製造、農業などです。
中国が外資規制を強めている分野は、自動車生産、レアアースの採掘などです。
外資規制を上手に使って国内産業を育成しようとしていることがわかります。
*8:https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/invest_02.html
*9:https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/country/cn/invest_02/pdfs/cn7A010_kisei_gyousyu.pdf
*10:https://jp.reuters.com/article/china-economy-ndrc-idJPKBN2220F0
外資規制とコロナ禍の関係
日本における、外資規制とコロナ禍の関係についてみていきましょう。
日本政府は2020年5月1日、感染症に関わるワクチンと医薬品、さらに人工呼吸器などの高度医療機器を、外為法上の「安全保障上、特に重要な業種(分野)」に追加しました(*11)。
これにより、海外の投資家がこの分野の企業の株式を取得しようとする場合、事前に政府の審査を受けなければなりません。政府は「厳しく」審査します。
感染症関連のワクチンと医薬品、そして人工呼吸器は、コロナ禍に見舞われている国内で、安定供給しなければなりません。
これらを製造している企業が海外資本に買収されたら、供給が不安定になるでしょう。
それで、医薬品企業や高度医療機器企業が外資に買収されないように、外為法で防いでいるのです。
*11:https://jp.reuters.com/article/china-economy-ndrc-idJPKBN2220F0
外資に買収された日本企業一覧から今後の国家戦略を読み解く
グローバル企業に勤めるビジネスパーソンは、日本の外資規制にも、海外の外資規制にも敏感になる必要があるでしょう。
世界各国は、連携しているようで対立していて、対立しているようで連携していることがあります。複雑な国際情勢のなかでビジネスをするには、外資規制をうまく回避していかなければなりません。
外資規制の背景には、その国の国家戦略があります。グローバル・ビジネスを展開する場合、相手国の経済情勢だけでなく、政局や地政学リスクについても読み解いていかなければならないでしょう。
パラダイムシフトは2011年の設立以来、豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
- 「納得感」と「満足感」の高いサービス
- プロフェッショナルチームによる適切な案件組成
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
またM&Aを成功させるためのコツについて全14ページに渡って説明した資料を無料でご提供しますので、下記よりダウンロードしてください。