M&A

「負ののれん」について、具体的な事例を用いながら実践的に解説します

M&Aにおいて「のれん」という言葉は聞く機会が多いかと思いますが、「負ののれん」はあまり耳にしないかもしれません。「負ののれん」は負という漢字はついていますが、財務上は必ずしもネガティブなものとは限りません。今回は負ののれんについて解説していきたいと思います。

1. 負ののれんとは

負ののれんの定義の前に、まず、のれんとは買収価格と対象会社の純資産額の差額を言います。買収価格は対象会社の純資産額より高いことが通常であり、のれんは超過収益力と言い換えることもできます。のれんがマイナスとなった場合に、のれんのマイナスと表現せず、負ののれん発生益という名称で損益計算書に計上されます。

2. 負ののれんの計算方法

のれんは、下記の計算式で計算することができます。 のれん=買収価格―(取得持分比率×対象会社の修正純資産額) 計算されたのれんの金額がマイナスとなった場合に負ののれんと呼ばれることになります。

修正純資産額とは、遊休不動産の減損や、資産の時価評価などの修正を加えた純資産額のことを言います。上記の計算式に実際の計算例を当てはめてみましょう。

(例) 買収価格100億円で対象会社A社の株式を80%取得。A社の修正後純資産額は150億円。 のれん=100億円―(80%×150億円)    =-20億円 よって、今回の事例では買収によって負ののれんが20億円計上されることになります。計上された負ののれんは利益として損益計算書に負ののれん発生益のような名称で記載されます。

3. のれんと負ののれんの会計処理

のれんと負ののれんの会計処理は異なっています。ここでは日本の会計基準を前提として説明します。

(1) のれんの会計処理

計算されたのれんは、貸借対照表上、無形固定資産ののれんとして計上されます。資産計上されたのれんは、20年以内に定額償却し償却額はのれん償却費として販売費及び一般管理費に計上され営業利益を押し下げる要因となります。のれんの償却期間は20年以内と定められていますが、超過収益力の効果が及ぶ期間を判定することが困難である場合が多いため、例えば動きの早いIT企業であれば5年など比較的短い期間に設定する場合が多いです。

(2) 負ののれんの会計処理

計算された負ののれんは、貸借対照表を通さずにそのまま特別利益として発生した会計期間の利益とします。正ののれんの場合は、20年以内の償却でしたが、負ののれんは一括で処理する点、貸借対照表に計上されない点で大きく異なっています。負ののれんは発生可能性が低く経常的な利益でないことから、このような処理をすることとなっています。

4. 負ののれんが珍しい理由

現実のM&Aの世界では、負ののれんは珍しい存在です。理由は負ののれんが発生するM&Aは売り手側の経済合理性が説明できないためです。純資産価格より買収価格が低いということは、現在ある全ての資産を売却して清算するよりもさらに低い価格での買収に応じるということになります。M&Aの売り手は清算かM&Aに応じるかを自由に選択できますので、負ののれんが発生するオファーであれば清算した方がマシである、と考えるのが通常です。

5. 負ののれんが発生する理由

それではなぜ、経済合理性が説明できない負ののれんが発生することがあるのでしょうか。

(1) 清算することが実務上困難を極める場合

帳簿価格上は清算することで買収価格より大きい清算配当を受け取れる場合でも、実際に清算することが難しい場合があります。例えば、多額の顧客資産を預かっており返却義務が生じているがコストが多額にかかってしまう場合や、多数の利害関係者がいる関係で清算に時間がかかりその間に会社価値が著しく棄損してしまう場合です。このような場合には、清算することができず、負ののれんが発生するオファーにも経営者は応じる可能性があります。

(2) 簿外負債や訴訟の存在

発生可能性が高く金額を見積もることができる負債は通常貸借対照表に計上されることが会計ルール上定められています。一方で、多額の損害賠償金を支払う必要が生じる可能性が少なからずある、といったケースは貸借対照表には計上されず、簿外負債がある状態となります。この簿外負債の存在が大きければ大きいほど、M&Aの買い手は買収金額を下げざるを得ません。帳簿価格には反映しない簿外負債や訴訟可能性が高い場合に、負ののれんが計上される場合があります。

(3) 経済合理性では説明のできない取引

基本的に会社の意思決定は経済合理性があるかどうかを軸にして経営意思決定をすることが通常です。しかし、世の中には経済合理性だけでは説明のつかない取引も多数行われていることが通常です。例えば、買い手と売り手の間の人間関係性、対象会社をM&Aすることによる広告宣伝効果、売り手があまりM&Aに精通していなかった場合、買い手の交渉力が強い場合、など様々なケースが考えられます。M&Aは相手がいることにより取引が成立する相対取引です。様々な要因が複数重なった際に、特殊な状況が生まれ負ののれんが発生する取引が散見されます。

6. 負ののれんが発生したM&A事例

負ののれんの理論的な側面を説明してきましたが、ここからは実際に負ののれんが計上されたM&Aを紹介していきます。

(1) 日本取引所グループの東京商品取引所の買収

日本取引所グループとは、東京証券取引所、いわゆる東証をグループ傘下に持つ企業です。2019年10月1日に、東京商品取引所の株式100%を57億円で取得しました。この際の東京商品取引所の64億円であり、差額の約7億円は負ののれんとして、利益計上しています。この取引が負ののれんの一番新しい事例となっています。 情報ソース:日本取引所グループ、2020年3月期、第3四半期報告書

(2) 関西みらいフィナンシャルグループの経営統合

関西みらいフィナンシャルグループは、2018年4月1日付けで関西アーバン銀行、近畿大阪銀行、みなと銀行が経営統合することによりできた地銀グループです。この経営統合による取引により、負ののれんが566億円発生し全額特別利益として計上しています。銀行はPBR1倍を割っている企業が多く、経営統合がなされる場合には負ののれんが計上されることが多いです。銀行、特に地方銀行は今後の人口減少、低金利時代から収益を稼ぐことが難しく、株式市場からも高く評価されていないことが主な原因です。 情報ソース:関西みらいFG、2019年3月期、有価証券報告書

(3) シャープによる東芝のパソコン事業の買収

2018年10月1日を効力発生日として、シャープは東芝のパソコン事業を買収しました。取得比率は80%、金額は46億円です。この取引により負ののれんが39億円発生しており、特別利益として一括で2019年3月期の決算にて利益計上しています。2019年3月決算では負ののれんで利益をかさ上げした効果もあり、2020年3月決算ではシャープは減収となる見込みです。 情報ソース:シャープ、2019年3月期、有価証券報告書

(4) ライザップによる複数企業の買収

ライザップは2016年3月期以前の決算では負ののれんは計上されていませんでした。しかし、2017年から複数企業の買収を繰り返し、多額の負ののれんを出し利益計上させてきました。ライザップの負ののれんによる利益計上の推移は下記のとおりです。 2017年3月末:58億円 2018年3月末:88億円 2019年3月末:12億円

ライザップの本業は健康関連のビジネスではありますが、本業と関係のない新聞社やアパレル会社の買収を繰り返すことにより、負ののれんを計上してきたのです。直近の決算は大きな赤字に転落しており、負ののれんのツケが一気に回ってきたと言えるでしょう。 情報ソース:ライザップ、2017年3月~2019年3月、有価証券報告書

7. 負ののれんの注意点

負ののれんが計上される会社は、財務内容が悪く将来の成長性も限定的なものが多いです。また、赤字企業またはキャッシュフローが回っていない会社も多く、救済的なM&Aという側面もあります。そのような企業を買収した場合には、買収後の経営改善がなければ将来にわたって赤字を垂れ流してしまうかもしれません。負ののれんにより一括で利益計上できる点は良いのですが、将来の財務諸表に対するインパクトは事前にきちんと把握しておくことが必須です。

8. 成功するM&Aとは

みなさんは成功しているM&Aと聞かれて何を思い浮かべるでしょうか。負ののれんが計上されるM&Aは出てくるでしょうか。おそらく出てこないと思います。GoogleによるYouTube、FacebookによるWhatsApp、インスタグラムが成功しているM&Aとしては有名ですが、どのM&Aも多額ののれんが計上される取引でした。YouTubeは約2,000億円、インスタグラムは約1,000億円の買収でしたが、ほぼ全額がのれんです。成功する可能性が高い企業を高値で買って、成長をドライブさせるというのが今までのM&Aの成功事例だったと言えるでしょう。一方で、高値で買って失敗するM&A事例もたくさんあります。DeNAは2010年にアメリカのゲーム会社であるngmocoを342億円で買収しましたが、直近の決算では500億円の減損損失を発表しました。M&Aは1割しか成功しないと言われる世界ではありますが、将来の成功可能性をじっくりと検討し成功に導きたいところです。

9. まとめ

今回は、M&Aの世界でも特殊なケースである負ののれんについて説明してきました。負ののれんは会計上、一括で利益計上できるメリットはあります。しかし、負ののれんが計上されるような対象会社は財務上や将来の成長に対してネガティブなものを持っていることは事実です。目先の利益だけではなく、しっかりの将来の財務インパクトはどの程度のものなのかを考えたうえで、負ののれんが生じるディールを行う必要があります。特に負ののれんによる利益の一括計上だけを目的としたM&Aについては注意が必要でしょう。負ののれんで問題となったライザップの事例もよく研究し、正しいM&Aを意思決定されることを願っております。

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