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負の暖簾(のれん)はなぜ発生する?損益計算書での扱いについて解説

M&Aにおいて「のれん」という言葉は聞く機会が多いかと思いますが、「負ののれん」はあまり耳にしないかもしれません。

「負ののれん」が発生する理由は、 企業を清算することが実務上困難を極める場合などの複数の要因が考えられます。また損益計算書には計上されないなど、「のれん」とは異なる点も存在

M&Aにおいて「負ののれん」が発生すると潜在的なリスクを抱え、最悪の場合M&Aを行った会社が経営上のデメリットを被ることもあります。しかし状況によっては、会社に利益をもたらすため「負ののれん」が発生してもM&Aが実施されることもあるのです。

今回は負ののれんの概要や発生する理由、会計処理について解説。負ののれんが発生しても買収を進める理由についてもお伝えします。

負ののれんとは

のれんとは、買収価格と対象会社の純資産額の差額です。買収価格は対象会社の純資産額より高いことが通常であり、のれんは超過収益力と言い換えることもできます。

のれんがマイナスとなった場合に、のれんのマイナスと表現せず、負ののれん発生益という名称で損益計算書に計上されます。

負ののれんの計算方法

負ののれんは下記の計算式で計算することができます。

負ののれん金額=(買収する企業の持分比率 × 買収した企業の時価純資産)ー買収価格

のれんと負ののれんの違い

のれんと負ののれんがあります。2点の違いについてみていきましょう。

損益計算書に計上されない点

M&Aをする際にはのれんの減損という言葉について知る必要があります。

のれんの減損とは、買収前に策定した事業計画の未達など、買収額の回収が困難となった場合に資産価値が認められないとして、貸借対照表に計上しているのれんを減額する処理のことです。

しかし、負ののれんが貸借対照表に計上されることはないため、負ののれんの減損が起こることはありません。

発生のタイミング

負ののれんは、「発生時」に負ののれん発生益として損益計算書の特別損失に計上します。

一方、のれんの減損は、「買収額の回収が困難となった時点」に減損損失を計上するため、両者は発生のタイミングが異なります。

のれんと負ののれんの会計処理

のれんと負ののれんの会計処理は異なっています。ここでは日本の会計基準を前提として説明します。

のれんの会計処理

計算されたのれんは、貸借対照表上、無形固定資産ののれんとして計上されます。資産計上されたのれんは、20年以内に定額償却し償却額はのれん償却費として販売費及び一般管理費に計上され営業利益を押し下げる要因となります。

のれんの償却期間は20年以内と定められていますが、超過収益力の効果が及ぶ期間を判定することが困難である場合が多いため、例えば動きの早いIT企業であれば5年など比較的短い期間に設定する場合が多いです。

負ののれんの会計処理

計算された負ののれんは、貸借対照表を通さずにそのまま特別利益として発生した会計期間の利益とします。正ののれんの場合は、20年以内の償却でしたが、負ののれんは一括で処理する点、貸借対照表に計上されない点で大きく異なっています。

負ののれんは発生可能性が低く経常的な利益でないことから、このような処理をすることとなっています。

負ののれんが珍しい理由

現実のM&Aの世界では、負ののれんは珍しい存在です。理由は負ののれんが発生するM&Aは売り手側の経済合理性が説明できないためです。

純資産価格より買収価格が低いということは、現在ある全ての資産を売却して清算するよりもさらに低い価格での買収に応じるということになります。

M&Aの売り手は清算かM&Aに応じるかを自由に選択できますので、負ののれんが発生するオファーであれば清算した方がマシである、と考えるのが通常です。

負ののれんが発生する理由

それではなぜ、経済合理性が説明できない負ののれんが発生することがあるのでしょうか。

 清算することが実務上困難を極める場合

帳簿価格上は清算することで買収価格より大きい清算配当を受け取れる場合でも、実際に清算することが難しい場合があります。

例えば、多額の顧客資産を預かっており返却義務が生じているがコストが多額にかかってしまう場合や、多数の利害関係者がいる関係で清算に時間がかかりその間に会社価値が著しく棄損してしまう場合です。

このような場合には、清算することができず、負ののれんが発生するオファーにも経営者は応じる可能性があります。

簿外負債や訴訟の存在

発生可能性が高く金額を見積もることができる負債は、通常貸借対照表に計上されることが会計ルール上定められています。

一方で、多額の損害賠償金を支払う必要が生じる可能性が少なからずある、といったケースは貸借対照表には計上されず、簿外負債がある状態となります。

この簿外負債の存在が大きければ大きいほど、M&Aの買い手は買収金額を下げざるを得ません。帳簿価格には反映しない簿外負債や訴訟可能性が高い場合に、負ののれんが計上される場合があります。

経済合理性では説明のできない取引

基本的に会社の意思決定は経済合理性があるかどうかを軸にして経営意思決定をすることが通常です。しかし、世の中には経済合理性だけでは説明のつかない取引も多数行われていることが通常です。

例えば、買い手と売り手の間の人間関係性、対象会社をM&Aすることによる広告宣伝効果、売り手があまりM&Aに精通していなかった場合、買い手の交渉力が強い場合、など様々なケースが考えられます。

M&Aは相手がいることにより取引が成立する相対取引です。様々な要因が複数重なった際に、特殊な状況が生まれ負ののれんが発生する取引が散見されます。

負ののれんがある企業でも買収する理由

割安だから

負ののれんが発生する企業は、企業を割安で買収できるというメリットがあります。

なぜなら、負ののれんが発生している企業の経営者は、資金などに限界を感じていることが多く、多少安価でも早く手放したいと考えている人が多くいるからです。

そのような企業であれば、実際の企業の価値よりも安い値段で買収することができます。

経営状況などを適切に判断して、割安で買収できる企業を探してみるのもいいかもしれません。

負ののれんを解消できる可能性があるから

負ののれんを解消できる自信があれば、その企業を買収するのも一つの手です。

負ののれんを買収した際は、帳簿上では特別利益として計上されるため、企業を割安で手にしたとも捉えることができます。

そのため、たとえ負ののれんが発生しても、自分が保有する資源や経営手腕で解決できる自信があるのであれば、買収することのメリットは大きいです。

買収によるシナジーで利益が期待できるから

負ののれんを抱えている企業を買収する理由として、シナジーで利益を期待できるからというものが挙げられます。

たとえ、その企業単体で負ののれんを抱えていたとしても、強いシナジー効果を生み出すことができれば、それ以上の利益を期待することができます。

特に、買い手企業の強みや弱み、売り手企業の強みや弱みが相乗効果を生み出すような関係にある場合は、より大きな利益を獲得できるでしょう。

経営状況が良く見せられるから

負ののれんがある企業を買収することで経営状態を良く見せることができます。

経営状況が悪くなると株価は下がりますが、経営状況をよく見せるテクニックがあります。それは、負ののれんを抱えている企業を買収した際に発生する特別利益を計上するというものです。

特別利益は、買収金額と売り手企業の純資産額の差で表されます。

これらを上手く利用することで、利益を底上げし、経営状況を良く見せることができます。

負ののれんの会計処理に関する日本基準とIFRSの違い

負ののれんの会計処理においては、日本基準とIFRSでは異なります。

IFRSとは

IFRS(International Financial Reporting Standards)とは、IASB(国際会計基準審議会)によって設定された国際財務報告基準と訳されます。

自由度が高く詳細な規定や基準となる数値がほとんど示されておらず、解釈の根拠を丁寧に示す必要があるのが特徴です。

世界では既に120ヵ国以上の上場企業に強制的に適用されていますが、日本では国内企業からの反対もあり実現しませんでした。

しかし、現在は適用済みの企業も少しずつ増えてきており、今後もこの流れは続くと考えられます。

日本基準とは

日本基準は、日本の多くの企業が採用している基準です。

日本基準は、文字通り日本独自の基準ですが、世界的な動向の影響もあり、少しずつIFRSが適用されつつあります。

IFRSとの会計処理における具体的な違いについても後述しているので、そちらもご確認ください。

日本基準とIFRSにおける負ののれんの会計処理の違い

日本基準とIFRSにおける負ののれんには会計処理に違いがあります。早速、詳しく解説見ていきましょう。

のれんにおける違い

日本基準:20年以内に定額法などの合理的な方法で償却
IFRS  :のれんの償却は行わず、毎期のれんの減損テストを行い見直し

これらはのれんについての考え方によって決定されています。

負ののれんにおける違い

日本基準:特別利益として計上
IFRS  :営業利益と特別利益の区分がないため、すべて営業利益として計上

企業の分析をする際には両者の定義の違いを頭に入れつつ、利益の内容をしっかりと確認するようにしておきましょう。

 負ののれんの注意点

負ののれんが計上される会社は、財務内容が悪く将来の成長性も限定的なものが多いです。また、赤字企業またはキャッシュフローが回っていない会社も多く、救済的なM&Aという側面もあります。

そのような企業を買収した場合には、買収後の経営改善がなければ将来にわたって赤字を垂れ流してしまうかもしれません。負ののれんにより一括で利益計上できる点は良いのですが、将来の財務諸表に対するインパクトは事前にきちんと把握しておくことが必須です。

 成功するM&Aとは

みなさんは成功しているM&Aと聞かれて何を思い浮かべるでしょうか。負ののれんが計上されるM&Aは出てくるでしょうか。おそらく出てこないと思います。

GoogleによるYouTube、FacebookによるWhatsApp、インスタグラムが成功しているM&Aとしては有名ですが、どのM&Aも多額ののれんが計上される取引でした。YouTubeは約2,000億円、インスタグラムは約1,000億円の買収でしたが、ほぼ全額がのれんです。

成功する可能性が高い企業を高値で買って、成長をドライブさせるというのが今までのM&Aの成功事例だったと言えるでしょう。

一方で、高値で買って失敗するM&A事例もたくさんあります。DeNAは2010年にアメリカのゲーム会社であるngmocoを342億円で買収しましたが、直近の決算では500億円の減損損失を発表しました。M&Aは1割しか成功しないと言われる世界ではありますが、将来の成功可能性をじっくりと検討し成功に導きたいところです。

 負ののれんを理解して買収を進めよう

今回は、M&Aの世界でも特殊なケースである負ののれんについて説明してきました。

負ののれんは会計上、一括で利益計上できるメリットはあります。しかし、負ののれんが計上されるような対象会社は財務上や将来の成長に対してネガティブなものを持っていることは事実です。

目先の利益だけではなく、しっかりの将来の財務インパクトはどの程度のものなのかを考えたうえで、負ののれんが生じるディールを行う必要があります。

特に負ののれんによる利益の一括計上だけを目的としたM&Aについては注意が必要でしょう。正しいM&Aを意思決定されることを願っております。