M&A

パナソニックとソフトバンクグループが異色のM&A【2021年1~6月の注目事例】

2021年上半期(1~6月)に発生または発表された注目のM&A事例として、パナソニックとソフトバンクグループのケースを紹介します。

パナソニックはアメリカのソフト会社を7,700億円で買収し、ソフトバンクグループはスパックという異色のM&Aに挑戦しています。
両社にどのような狙いがあるのでしょうか。そして今後、相乗効果を生み出してさらなる成長につなげていくことができるのでしょうか。

1. ブルーヨンダー買収でパナソニックのプロセス事業は拡大するか

パナソニックは2021年4月、7,700億円規模の買収をすると発表しました。相当大きなM&Aなので話題になりましたが、パナソニックの狙いをすぐに理解できた人は多くはないかもしれません。
買収したのはアメリカのブルーヨンダーという会社で、製造・流通向けのソフトウエアを開発しています。

そもそも製造・流通向けソフトとは何なのでしょうか。そして、家電のパナソニックがなぜそのようなソフトを必要としたのでしょうか。
パナソニックの幹部は「サプライチェーンの革新につながる」と意気軒昂です(*1、2、3)。

*1:https://biz.panasonic.com/jp-ja/gemba-process-innovation_blueyonder
*2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF234IJ0T20C21A4000000/
*3:https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2104/26/news049.html

(1) 買収の概要

ブルーヨンダーの価値をみる前に、今回の買収の概要を紹介します。
パナソニックは2020年にすでに、860億円でブルーヨンダー株を20%取得していました。この時点でパナソニックはブルーヨンダーに取締役を派遣して、完全子会社化したときの相乗効果がどの程度のものになるのか探りました。パナソニック側の本気度がうかがえます。

そして、メリットが大きいと判断したパナソニックは、残りの株を取得すべく、ブルーヨンダーの大株主であるファンドと交渉を始めました。

ブルーヨンダーの2019年の売上高1,085億円で、買収額の7,700億円の7分の1です。7,700億円は先に購入した20%分860億円を含む金額です。
パナソニックの売上高は約7兆円で、パナソニックの時価総額約3兆円の2.3倍にもなります。この単純計算からすると、ブルーヨンダーの7,700億円は素人目には相当割高に感じます。

ただブルーヨンダーの顧客には、消費財メーカーのユニリーバやスーパーマーケットのウォルマートといった世界的な企業が並びます。パナソニックにはその潜在能力が魅力的に映ったのでしょう。

ブルーヨンダーはグローバル企業なので、各国の規制当局の審査を受ける必要があるため、買収が完了するのは2021年10~12月なる見通しです。
パナソニックの完全子会社になっても、ブルーヨンダーのCEOであるギリッシュ・リッシ氏は残留します(*1)。

(2) ブルーヨンダーは企業の裏方をソフトで支える会社

ブルーヨンダーの前身は、1985年創業のJDAソフトウエアで、2018年にAI(人工知能)に強みを持つブルーヨンダーを買収し、その後社名をブルーヨンダーにしました。
本社はアメリカ・アリゾナ州スコッツデールにあり、従業員数は約6千人です。

ブルーヨンダーがつくっている製造・流通向けソフトは、サプライチェーンマネジメント(SCM)におけるソリューションになります。
ブルーヨンダーは自社を、デジタル・サプラチェーンとオムニチャネル・コマース・フルフィルメントの世界的リーダーであると自負しています。
企業がブルーヨンダーのソフトを使うと、現場の生産性が最適化され、プロセスを自動化させることができます。

一般になじみのない用語が並ぶのは、ブルーヨンダーが企業の裏方を支える企業だからです。
SCMとは、企業が原材料を調達して商品をつくり、その商品を消費者の元に届けるまでのすべてのプロセスのことです。したがってプロセスには、原材料の調達、生産、物流、流通、在庫、営業、販売などが含まれます。

これらのプロセスは消費者にはみえませんが、企業にとっては一大事です。というより、大部分の企業のほとんどの仕事は、プロセスに費やされているといっても過言ではないでしょう。
したがって、ブルーヨンダーがSCMを最適化するソフトをつくれば、世界中の多くの企業の仕事が自動化され生産性が向上するというわけです。

(3) パナソニックのプロセス支援事業とマッチする

一般消費者にとってパナソニックは家電メーカーですが、ビジネス領域では同社は、現場のプロセスを支援する会社とみなされています。パナソニックも、ブルーヨンダーと同じようにBtoB企業です。

パナソニックはデバイス・センシング・ロボティクスという手法を用いて、さまざまな企業の現場のプロセスを支援しています。
デバイスとは、装置や機械のことです。センシングとは、センサーなどの感知機器を使ってデータや情報を集める技術です。ロボティクスとは、ロボットを使って作業を自動化することです。

パナソニックのデバイス・センシング・ロボティクスは、顧客企業の工場、製造ライン、在庫管理、仕分、配送などのプロセスで使われています。
したがって、SCMで使われるブルーヨンダーのソフトとパナソニックのデバイス・センシング・ロボティクスが合体すれば、顧客企業は今よりもプロセスを効率化できます。 これこそパナソニックがブルーヨンダー買収に見出した相乗効果です。

パナソニックCEOの楠見雄規氏は、ブルーヨンダーを取り込んだことでパナソニックは、現場プロセスを軸にサプライチェーン全体にわたる革命的なソリューションを生み出せるようになるだろう、としています。

2. ソフトバンクグループのキーワードは「スパック」「ウィーワーク」

M&A業界で今、スパック(Special Purpose Acquisition Company、特別買収目的会社)が注目されています。
スパックは会社の種類の名称で、事業を行わない、いわゆるペーパーカンパニーのことです。スパックの経営者は、スパックを上場させて資金を集め、その資金で非上場企業(未公開会社)を買収し、スパックと合併させます。スパックはすでに上場しているので、買収合併した非上場企業は自動的に上場できるわけです。

スパックはまだ日本で認められていないM&A手法で、東京証券取引所が2008年に検討を始めましたが、その後立ち消えになりました。
ところが2021年になって、日本政府がスパック解禁の検討に着手しました(*4)。

さらに孫正義氏率いるソフトバンクグループが筆頭株主になっているアメリカのシェアオフィス大手のウィーワークが、スパックの仕組みを使って上場を模索しています。
日本にもウィーワークのシェアオフィスが拡大しているだけに、日本のビジネスシーンでもスパックが一躍ホットな話題になりました。

*4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF1737F0X10C21A3000000/

(1) 日本政府がスパックに注目する理由「何がよいのか」

ウィーワークの状況を確認する前に、スパックのメリットを考えてみます。
スパックの検討を始めた日本政府の部署は、官房長官を議長にする成長戦略会議です。ここはその名のとおり日本経済を発展させる戦略を描く場です。

スパックの仕組みを使うと、優良かつ新興の非上場企業を、通常の上場ルートである新規株式公開(IPO)を使うより早く上場させることができます。
スパックは、優良新興企業を素早く日本経済の表舞台に押し上げることができるので、大きな経済効果が期待できます。

ただIPOを経ないということは市場関係者のチェックを受けないことでもあるので、スパックは「裏口上場」と批判されることがあります。東京証券取引所がスパックの検討をやめたのも課題が多すぎたためとみられています。

ではなぜ2021年になって日本政府がスパックを見直し始めたのかというと、アメリカでスパック上場が活性化して、同国の好景気を支える要因の1つになっているからです。
それでソフトバンクグループが絡んでいることもあり、ウィーワークのスパック上場議論が日本で注目されるようになりました。

(2) ソフトバンクグループとウィーワーク

ソフトバンクグループは今、世界中の優良新興企業に投資をしています。ウィーワークもそのなかの1社です。ソフトバンクグループはウィーワークの筆頭株主になっていますが、両社は一時仲たがいをしています。

ソフトバンクグループが投資をしたあと、ウィーワークは2019年に経営難に陥り、創業者でCEOだった人物が退任しました。このトラブルを嫌気したソフトバンクグループは2020年4月に、ウィーワークに対するTOB(株式公開買い付け)を中止することにしました。
TOBが中止されると元CEOを含む大株主は株を高値で売却するチャンスを失うことになるので、ソフトバンクグループのTOB中止に猛反発して訴訟を起こしました。
その後両者は和解して、2021年3月にソフトバンクグループが、元CEOらが持つウィーワーク株を購入することにしました(*5)。

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ0110H0R00C21A3000000/

(3) ウィーワークのスパック上場について

ソフトバンクグループが元CEOたちと和解した背景には、ウィーワークのスパック上場があります。
アメリカのベンチャーキャピタル「ボウ・キャピタル・マネジメント」が、自社のスパックとウィーワークを合併させて、ウィーワークを上場させる検討を始めたことが、2021年1月に分かりました(*6)。2021年1月は、ソフトバンクグループと元CEOの和解の2カ月前です。

日本経済新聞によると、ウィーワークが上場した場合、その企業価値は100億ドル(1兆400億円)に達します。
ソフトバンクグループはこれまで、ウィーワークに100億ドルを投じ、さらに経営危機に陥ったときに95億ドルを支援しています。
したがって、ウィーワークが上場できても、ソフトバンクグループが投資額をすべて回収できるわけではありませんが、それでも投資の出口戦略にはなるでしょう。

*6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28FD70Y1A120C2000000/

(4) むしろ関係は深まるか、復調の兆しに期待

ウィーワークは世界の118都市に739のシェアオフィスを持っています(*7)。日本法人であるウィーワークジャパン合同会社は、東京、横浜、仙台、名古屋、大阪、神戸、福岡にシェアオフィスを展開しています(*8)。

また、新型コロナウイルスのパンデミックは在宅ワークを加速させ、シェアオフィス事業は逆風にさらされましたが、欧米ではワクチン接種が進み落ち着きを取り戻しつつあります。こうした状況を受け、ウィーワークの執行会長のマルセロ・クラウレ氏は2021年5月、マスコミに対し「顧客の需要はコロナ禍前の水準を超えた」と自信をみせています(*9)。

このクラウレ氏は、ソフトバンクグループの副社長執行役員COO海外事業統括という役職も持っています(*10)。ソフトバンクグループの執行役員の序列では、孫氏に次ぐ2位です。

ソフトバンクグループにとってウィーワークは、投資案件であり、同時に重要な事業案件でもあることが分かります。
スパック上場によってウィーワークの経営が軌道に乗れば、さらに大きな利益をソフトバンクグループにもたらすはずです。

*7:https://www.wework.com/ja-JP/locations *8:https://weworkjpn.com/location/ *9:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-18/QTBHVKT1UM0X01 *10:https://group.softbank/about/officer

3. まとめ~異色ながら時間を買う点では王道といえる

パナソニックとソフトバンクグループの、少し異色のM&A事例を紹介しました。 どちらも複雑なスキームを描きながらも、本業をパワーアップさせるためにM&Aを有効活用しています。

M&Aはよく「時間を買うビジネス戦略」といわれますが、両社はこのメリットを活かそうとしています。したがってこの2つの事例は異色ながら王道ともいえ、M&Aの本質がよくみえてきます。

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