コロナ禍において、一時的にM&Aの件数は減少したものの2020年後半にかけて回復基調にあります。今回、2019年から2020年にかけて上場した会社で、M&Aを実施した企業を紹介していきます。M&Aによってどのようなシナジーが生まれているかを見ていきましょう。
1.識学×TIGALAの月額制M&Aコンサルティング事業
識学は2015年創業、2019年1月に東証マザーズに上場した中小企業向け組織運営コンサルティングを提供している会社です。2020年2月決算では、売上高17億円、営業利益2.8億円となっています。
上場してから3カ月後の2019年4月1日に、識学はTIGALA社の運営する「月額制M&Aコンサルティング事業」の事業譲受を発表しました。金額は3億円、M&Aの狙いは識学の「提供する教育コンテンツを体系化し拡販していくノウハウ」とM&Aを掛け合わせて、シナジーを創出することです。
M&A後の事業展開として、適時開示上以下のような記載があります。
「組織の内面に視点をおいた組織コンサルティングサービスに加え、外部資源の獲得手段(M&A)に関するコンサルティングサービスを手掛けることとなり、顧客企業の組織運営を内外両方の観点で支援する進化した組織コンサルティングサービスを提供していくことが可能となります。」
http://fs.magicalir.net/tdnet/2019/7049/20190515427812.pdf
その後、識学はM&A領域サービスとして、「M&Aトレーニング」や「組織デューデリジェンス」といったサービスを提供しています。
https://corp.shikigaku.jp/service/ma
2.識学×福島ファイヤーボンズ(プロバスケットボールチーム)
識学は、2020年3月12日、福島ファイヤーボンズ※を運営する福島スポーツエンタテイメント株式会社の第三者割当増資を引き受ける旨の発表をしました。金額は8,960万円で持株比率は56.4%と連結子会社化します。
福島スポーツエンタテイメントは6,000万円を超える債務超過の状況でしたが、今回の第三者割当増資を受けて債務超過が解消されることとなります。
識学は、組織コンサルティングサービスを提供している会社ですが、提供先は会社に限定されていません。立教大学ラグビー部や早稲田大学ラグビー部に識学講師を派遣したところ、立教大学はAグループ昇格、早稲田大学は全国大会優勝という結果を出しています。
今回のM&Aによるシナジーは、識学の組織コンサルティングノウハウによって、福島スポーツと福島ファイヤーボンズのチーム成績向上を目指しています。組織コンサルティング×スポーツビジネスという新しいシナジー創出の方法に注目が集まるM&Aです。
※福島ファイヤーボンズのプレスリリース
https://firebonds.jp/news/detail/id=12415
3.Sansan×ウィングアーク1st
Sansanは2007年6月に創業、2019年6月に東証マザーズに上場した名刺管理ツールを提供する会社です。未上場の段階で時価総額1,000億円以上を超えるユニコーン企業の一つでしたが、2020年11月6日時点で2,000億円以上の時価総額となっています。
上場してから5か月後の2019年11月、Sansanはウィングアーク1stとの業務資本提携を発表しました。出資額は約50億円でウィングアーク1stの株式11.44%を取得※しました。
ウィングアーク1stは、データ可視化・分析サービスである「MotionBoard」を提供している会社です。今回の業務資本提携の狙いは、Sansanの法人向け名刺管理サービスとデータ可視化・分析サービスを連携し、名刺データの分析機能などを強化することです。また、両社の相互送客によってクロスセルを実現し、新規顧客の獲得や既存顧客の単価アップも狙いに含まれます。
ウィングアーク1stとの業務資本提携により、Sansanは名刺検索機能、スマートフォンアプリ、チェックイン機能、変更のあった役職情報を通知するなど、様々な機能のアップデートが続いています。
※ウィングアーク1stのプレスリリース
https://www.wingarc.com/public/201911/news1188.html
4.ブシロード×ソーシャルインフォ
ブシロードは、2007年5月に創業、2019年7月に東証マザーズに上場したエンターテイメント企業です。良質なIP(Intellectual Property=知的財産)を開発・取得するIPディベロッパーとして、IPを軸に事業展開しています。主なIPは、「ラブライブ!スクールアイドルコレクション」、「バンドリ!ガールズバンドパーティ!」などが挙げられます。
2020年9月1日、ブシロードは、コロプラが株式を保有するソーシャルインフォの株式100%を約6,000万円で取得し連結子会社化しました。ソーシャルゲームインフォは、ソーシャルゲームに関する情報を毎日更新するニュースサイトであるソーシャルゲームインフォ(https://gamebiz.jp/ )や、アニメに関する情報サイトであるアニメレコーダー(https://www.anime-recorder.com/ )を運営している会社です。
このM&Aによりブシロードは、オンラインの広告宣伝機能を強化するシナジー創出を狙っています。また、他社IPプロモーション事業の取り扱い媒体強化も見込んでおり、事業領域が近く、両社の経営方針が一致していることからこのM&Aが成立することになりました。
5.BASE × ピュレカ
BASEは2012年12月に創業、2019年10月に東証マザーズに上場した誰でもネットショップを開設できるサービスを提供している企業です。コロナの状況で飛躍的に業績を伸ばした企業でもあり、上場時の時価総額は200億円を超える程度でしたが、2020年11月6日時点では時価総額2,700億円を超えています。上場からわずか1年程度で株価10倍、いわゆるテンバガー銘柄になったことでも有名です。
BASEは東証マザーズ上場前の2015年2月にオンライン決済サービスを提供するピュレカを買収しています。このM&Aにより、BASEはPAY.JPという新たな決済サービスを提供しており、主力事業の一つにまで成長しています。
6.ツクルバ×subsclife
ツクルバは2011年8月に創業、2019年7月に東証マザーズに上場した中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム事業を行っている会社です。2020年7月決算では、売上高17億円、営業利益▲1.5億円となっています。
上場後1か月後、家具サブスクリプションサービスを提供するsbsclife社へ出資※を行っています。sbsclife社は、家具は所有するものという概念を覆し、2018年3月よりベータ版のサービスをリリースしています。
ツクルバ、sbbsclifeともに社会やユーザーに対してより良い場の提供を提供したいという想いが一致したことから今回の出資に至ったとのことです。今後は、カウカモユーザーに対して家具のサブスクリプションサービスを提供するといったシナジーを考えているようです。
※ツクルバのプレスリリース
https://tsukuruba.com/news/post-2236
7.カクヤス×サンノー
カクヤスは1982年6月に創業、2019年12月に上場した酒類小売チェーン店事業がメインの会社です。2020年3月期の売上高は1,085億円、営業利益は12億円となっています。
上場から5か月後の2020年4月、カクヤスは福岡の業務用酒類販売会社であるサンノーを買収することを発表※しました。サンノーの株式100%を取得することにより完全子会社化します。なお、買収金額は非公表です。
サンノーの2019年2月期の売上高は21億円、営業利益は0.5億円です。サンノー買収の狙いは、九州地方における業務用酒類販売事業を加速させることにあります。
※カクヤスのプレスリリース
https://corp.kakuyasu.co.jp/file/20200406_release.pdf
8.JTOWER×ナビック
JTOWERは2012年6月に創業、2019年12月に上場した携帯電話用通信設備のシェアサービスを提供している会社です。2020年3月期の売上高は26億円、営業利益は0.7億円です。
上場前の2018年10月、JTOWERはWiFi関連システムのナビック社を買収※しています。JTWOERはナビックの買収によって、携帯電話のシェアだけでなく、WiFiも合わせて提供することを可能にしています。
また、JTOERRの顧客に対して、ナビックのサービスを提供するというクロスセルも今回のM&Aの狙いの一つになっています。
※JTOWERのプレスリリース
https://www.jtower.co.jp/2018/865/
9.まとめ
今回は、2019年~2020年に上場した会社のM&Aについて紹介してきました。どのM&Aもシナジーを追求し、成長シナリオを描くための買収だったと言えます。コロナという状況にも関わらず、新規に上場した勢いのある会社もM&Aを利用しながら成長を続けているのです。
まだまだコロナ問題が収束する兆しは見えませんが、M&A市況にとっては大きな影響なく、案件数も増加する可能性が高いように思われます。今後、救済型のM&Aや業界統合のM&Aが数多く出てくるかもしれません。
積極的にM&Aを行った2019年~2020年に上場した会社の今後の成長に注目です。