M&A

1円買収とは?事例とともに解説

通常、M&A(合併・買収)で企業を買収するには、小規模な企業であっても500万円程度の買収価格になるのが一般的です。 しかし、M&Aの世界では年に数件ではあるものの、「1円買収」の案件が散見されます。 取引先や従業員もいる企業や事業を、本当にわずか1円で売買できるのでしょうか? 今回は1円買収について、そのカラクリや注意点、過去の事例などを解説します。

1.1円買収は極度の赤字企業を買収すること

1円買収とは、会社の資産から負債を差し引いた結果、1円というタダ同然の価格で買収できてしまうことです。

実はここ10年ほどの間に1,000円以下のM&A案件が年間10数件程度で発生しています。リーマンショックが世界経済を襲った翌年、2009年の1円買収は11件報告されています。

1円買収の対象となる会社は、いわゆる「赤字会社」です。

M&Aにおける買収価格は、時価純資産や簿価純資産をもとにして、あるいは買収対象の会社や事業に将来期待される利益を加味して算出されます。

買収対象が多額の負債を抱えていたり、極度の業績不振であったりする場合は、資産から負債が差し引かれ、最終的な「企業の値段」が決まります。

ただし、すべての赤字会社が負債まみれというわけではありません。

手元に現金が無いために赤字に陥っているケースもあれば、借入金や減価償却費等の合計が売上額よりも多いために赤字となっているケースもあります。

たとえ資金力に乏しくても、キャッシュフローが不足していても、優秀な人材や技術、広い販路を持っている魅力的な赤字会社であれば、1円買収によって経営を立て直し、売り上げを増加させることもできます。

(1)1円買収で企業を買収する側のメリット

1円買収のメリットは、株価1円という投資額で優秀な人材や技術、参入予定の業界の取引先(顧客)を獲得できます。

もちろん、1円買収によって自社の事業と大きなシナジー効果が期待できる場合は、相手が赤字企業であっても「買い」であると言えるでしょう。

なお、買い手側にとっての利益は、引き継いだ借入金や負債が何年で完済できるかが判断のポイントとなります。

(2)1円買収で企業を売却する側のメリット

赤字続きで純資産額がマイナスになっている会社は、「1円売却」によって従業員の雇用を維持したり、将来性のある事業を残したりしたほうが、廃業するよりもはるかにメリットがあります。

会社が保有している技術や人材などの無形資産が、買い手側にとって利益をもたらすものと考えられるのであれば、債務超過や業績不振であっても売却を検討すべきでしょう。

経営者も借入金や連帯保証、厳しい資金繰りから解放され、事業再生に向けて舵を取ることができます。

ただし、当然ながら黒字会社に比べると売れる可能性は低くなります。

2.1円買収の事例

ここ10年ほどの日本国内における1円買収の事例をご紹介します。

(1)アデランスホールディングスが美容サロン運営のサムソンを1円で売却

アデランスホールディングスは2010年2月23日に、美容サロンを運営するサムソンを、同社の経営陣・従業員が設立したサムソンホールディングスに譲渡することを決議しました。

サムソンは売却時点で売上高17億3000万円、営業利益▲3400万円、純資産▲16億3000万円と、売上高に匹敵する負債を抱えていました。

2006年にアデランスホールディングスとサムソンが資本業務提携を締結していましたが、ノンコア事業の整理という方針に基づき、譲渡価格1円での株式譲渡となります。

サムソンはその後、東京、名古屋、大阪など9都道府県でヘアサロン「AZURA」や「BLANCO」など70数店舗を展開、韓国への進出も果たしています。

(2)ヒガシマルが水産用飼料の製造販売の日清マリンテックを1円で買収

2010年12月25日、うどんスープなどで知られる食品事業・水産事業のヒガシマルは、水産用飼料の製造販売の日清マリンテックを1円で買収しました。

日清マリンテックは日清製油(現日清オイリオ)の子会社です。水産種苗(稚魚)の製造販売を主力事業としており、バブル期には国内最大手となりましたが、ヒガシマルに買収される直前には1億円以上の債務超過になっていました。

ヒガシマルは買収交渉の過程で日清オイリオに日清マリンテックへの増資を認めさせ、同社の財務状況をある程度改善させてから買収に至りました。

さらに、買収した直後に運転資金2億円弱を貸し付け、拠点の閉鎖や人件費削減、管理部門効率化などを進めた結果、13年3月期にはマリンテックの黒字化に成功しています。

(3)RIZAPグループがヒマラヤからスポーツ専門店B&Dを1円で買収

2017年12月20日、RIZAPグループは子会社のRIZAPを通じて、スポーツ専門店を運営するB&D(ビーアンドディー)を、親会社であるスポーツ専門店大手ヒマラヤから全株式1円で買収、子会社化すると発表しました。

B&DはRIZAPグループに買収される直前、売上高は前年比3.6%減の72億円、営業損益は2億9,200万円と赤字経営が続いていましたが、RIZAP側は自社が運営するスポーツアパレルのプライベートブランドとのシナジー効果を期待していました。

当時のRIZAPは攻めのM&Aを繰り返しており、多種多様な事業を次々と買収していました。買収企業の悪化した経営を立て直し、黒字化することで、その利益を享受する狙いがあったからです。

しかし、M&Aにおける見通しが立っていないまま、急激な買収を繰り返した結果、2018年度決算は193億円の最終赤字となりました。

コア事業とはかけ離れた会社の買収も繰り返した結果、短期間で買収企業を立て直し、シナジー効果を得ることができなかったことが失敗の要因と考えられます。

3.1円買収の注意点

「ただより高いものはない」という言葉があるように、1円買収は通常のM&A以上に注意すべきポイントが多くあります。

(1)1円買収でも手続きの費用がかかる

1円買収あくまでも買収価格が1円なのであって、買い手側の資金面の負担はそれだけではありません。専門家への相談料、デューデリジェンスの費用、M&A仲介会社に支払う手数料などがかかります。

買収後にどの程度の追加資金や業務支援が必要か、帳簿で確認できる以外の債務(簿外債務など)や経営上のリスクはないかなど、赤字会社を買収する前に必ず確認しておきましょう。

(2)多額の資金投入が必要な場合がある

1円買収によって買い取った赤字会社の事業を立て直すには、当然ながら多額の資金投入が必要となります。

資金投入をしても買収対象の会社を立て直すことができなければ、赤字が積み重なり、出費が数千万円から数億円に膨らむおそれもあります。

倒産寸前の会社を買うということは、通常のM&Aに比べて経営再建やシナジー獲得へのハードルが高くなるのです。

(3)節税効果はほとんど期待できない

M&Aを検討されている方のなかには、「赤字企業を買収すれば節税になる」と思っている方がかなり多く見られます。

中小企業のM&Aにおいて、買収対象の会社に繰越欠損金があるケースが少なくありません。

繰越欠損金とは、税務上の赤字である欠損金の累計額であり、将来的に会社が黒字になった年の利益と繰越欠損金とを相殺して、納税額を減少させることができます。

M&Aで買収対象の会社に繰越欠損金がある場合は、買い手側の繰越欠損金として引き継ぐことが可能となります。

しかし、繰越欠損金を引き継げるM&Aスキームは合併のみであり、さらに一定の要件を満たした「適格合併」に限られます。

赤字会社の買収はあくまでも投資コストを抑え、事業再生やシナジー効果で利益を上げることが目的であり、節税効果はほとんど期待できないことに留意しましょう。

繰越欠損金については、こちらの記事もご参照ください。

M&Aで留意すべき税務上の繰越欠損金、連結納税、合併・分割、事業譲渡での取り扱い

4.買い手側が1円買収で失敗しないためのポイント

投資コストを抑えられる1円買収は、買収後のコスト増大や赤字から抜け出せないといったリスクがあります。

1円買収を検討する際は、下記のポイントについて必ず把握しておきましょう。

  • 買収対象の会社の何が問題で赤字なのか
  • 買収後に資金投入することで黒字化の可能性はあるか
  • 買収後はどの程度の追加資金が必要か
  • 引き継いだ負債を返済することは可能か(何年で完済できるか)
  • 簿外債務や経営リスクはあるか

資金投入や業務支援を実施することで、買収企業が赤字体質から脱却して黒字化できるのか、事前に判断する必要があります。

1円買収だからこそ、通常のM&Aよりも徹底したデューデリジェンスを実施して、簿外債務や法律上の問題点を洗い出し、赤字企業の経営課題を明確にしなければなりません。

5.まとめ

1円買収のメリットや注意点、過去の事例について解説しました。

今般の新型コロナウイルス感染症の影響により、倒産や廃業の危機にさらされている中小企業は少なくありません。

そのような企業が倒産ではなく、企業売却によって生きる道を模索する「1円買収」は、今後広がる可能性があります。

すでに解説したように、リスクも多い1円買収だからこそ、事前の企業調査を徹底して行いましょう。

弊社パラダイムシフトは、IT分野のM&Aに特化したM&Aアドバイザリーです。会社や事業のM&Aを検討されている経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

PLEASE SHARE

PAGE TOP

MENU

SCROLL

PAGE TOP

LOADING    0%

Please turn your device.
M&A Service CONTACT