信託型ストックオプションとは、役員や従業員が自社株を購入する権利を得ることができる業績連動型のインセンティブ制度です。従業員のモチベーションをあげるために導入している企業もあると思いますが、近年、この信託型ストックオプションついて企業と国税庁の間で課税の考え方における違いが話題となっています。
今回の記事では、信託型ストックオプション制度やメリット・デメリット、導入の流れなどを解説する他、課税に対する一般企業と国税庁の考え方の違いや影響について詳しく紹介します。
目次
- 1 信託型ストックオプションは業績連動型のインセンティブ制度
- 2 信託型ストックオプションは経営者の悩みを解決する仕組み
- 3 信託型ストックオプションにおける税務関連の注意点
- 4 ストックオプションの課税に関する企業と国税庁の見解の違い
- 5 導入企業から見た課税への見解
- 6 国税庁が示した課税への見解
- 7 信託型ストックオプションを導入した企業への影響
- 8 信託型ストックオプションのメリット4選
- 9 ①優秀な人材を採用しやすい
- 10 ②従業員の仕事へのモチベーションが上がる
- 11 ③社外の方とも友好な関係を築ける
- 12 ④事務作業などのコスト・リソースが抑えられる
- 13 信託型ストックオプションのデメリット3選
- 14 ①人材の流出を招く可能性がある
- 15 ②預ける信託を選定する必要がある
- 16 ③既存株の価値が希薄化する
- 17 信託型ストックオプション導入の流れ
- 18 信託型ストックオプション導入時の注意点
- 19 経営者の金銭的負担が大きい可能性がある
- 20 信託型ストックオプションの設計が難しい
- 21 よくある質問
- 22 Q.国税庁が発表している信託型ストックオプションに関する取りまとめはありますか?
- 23 Q.信託型ストックオプションを導入していると上場できないのですか?
- 24 Q.信託型ストックオプションは弁護士によって導入されますか?
- 25 信託型ストックオプションは向き不向きあり!専門家に助言をもらおう!
信託型ストックオプションは業績連動型のインセンティブ制度
信託型ストックオプションは、企業が従業員に対して提供する業績連動型のインセンティブ制度です。
企業が従業員のために信託を設立し、その信託が株式を保有します。
設立した信託で保有している株式を、従業員に特定の条件や期間内に株式を購入する権利を与えます。
従業員は一定の勤続期間や目標達成などの条件を満たした後、持っているストックオプションを行使することができるのです。
従業員は株式を割安な価格で購入し、差額を利益として得ることができます。
信託型ストックオプションは経営者の悩みを解決する仕組み
信託型ストックオプションは経営者の悩みを解決する仕組みを持っています。
信託型ストックオプションを導入することで従業員の貢献度が良くなる可能性が高いからです。
信託型ストックオプションの仕組みを段階的に解説します。
企業が信託を設立 | 企業は従業員のために信託を設立し、その信託が株式を保有する。 |
従業員にストックオプション付与 | 信託は従業員に対して特定の条件や期間内に株式を購入する権利を与える。 |
オプション行使の条件 | 一般的には、一定の勤続期間や目標達成などの条件を満たした後、従業員はストックオプションを行使できる。 |
株式の購入 | 従業員は事前に決められた価格で株式を購入する。 |
利益の可能性 | オプション行使時に株価が上昇していれば、従業員は株式を割安な価格で購入し、その差額を利益として得ることができる。 |
モチベーションと忠誠心の向上 | 信託型ストックオプションは従業員のモチベーションや忠誠心の向上を図るために利用する。 |
従業員の貢献促進 | 株式の所有権を与えることで、従業員は企業の成長や利益に積極的に貢献する。 |
以上が信託型ストックオプションの基本的な仕組みです。
企業の成功に従業員が直接的に関与することで、双方に利益をもたらす仕組みとなっています。
信託型ストックオプションにおける税務関連の注意点
信託型ストックオプションには税金が加算されますが、その課税されるタイミングについてよく理解しておくことが必要です。現在、どのような状況なのかを理解した上で信託型ストックオプションの導入を検討する必要があります。
ストックオプションの課税に関する企業と国税庁の見解の違い
近年、信託型ストックオプションにおける税金の考え方について、一般企業で理解されている課税方式と、国税庁が発表した課税への見解が相違しており、導入企業を中心に波紋を呼んでいます。
導入企業から見た課税への見解
元々、信託型ストックオプションは権利行使時には課税がなく、株式の売却時に譲渡所得としての20%が課税されます。しかし、この利益は労働対価には含まれないため、給与所得課税(最大55%)は加算されないという見解でした。
国税庁が示した課税への見解
しかし、2023年5月に国税庁は、従来から信託型ストックオプションの権利行使時には給与所得税(最大55%)が加算されるとの見解を発表しました。しかも、この発表は従来からこの考えであり、今後変更することはないという旨の発表でした。
信託型ストックオプションを導入した企業への影響
会社は給与支払いの際、給与額に応じた所得税と復興特別所得税を源泉徴収する義務があります。
そのため、国税庁が発表した見解の通り、「従来から信託型ストックオプションの権利行使時には給与所得税(最大55%)が加算される」という考え方を正しいものだとすると、すでに信託型ストックオプションを行使した企業には多額の源泉徴収漏れが発生しているということになります。
さらに、源泉所得税等の法定納期限が過ぎてしまっていることが考えられ、その場合には不納付加算税及び延滞税が課税されることになります。
しかし、信託型ストックオプションを導入しているだけで権利行使をしていない場合には源泉徴収漏れは発生していません。
そのため、信託型ストックオプションを導入している企業のなかには、源泉徴収税の納付が必要な場合と不要な場合があります。
信託型ストックオプションのメリット4選
下記では、信託型ストックオプションのメリットを4つ解説します。
①優秀な人材を採用しやすい
信託型ストックオプションは、優秀な人材を採用しやすくするメリットがあります。
従業員に株式を保有する権利を与えることで、従業員が企業の成長や成功に積極的に関与する動機が生まれます。
また、株式の所有は従業員にとって魅力的な報酬となり、競争力のある環境で優秀な人材を引き付けることもできます。
例えば、A社は信託型ストックオプションを導入して従業員に株式の購入権を与えた結果、A社は市場で競合する他の企業と比べて優れた人材を引き付けることができます。
優秀な候補者は将来的な株式の成長や利益を見込んでA社を選び、自身のキャリアの成長と企業の成功を両立させることができるのです。
このように、信託型ストックオプションは優秀な人材を採用しやすくし、企業の競争力や成長に貢献する効果があります。
②従業員の仕事へのモチベーションが上がる
信託型ストックオプションは、従業員の仕事へのモチベーションを高めるメリットがあります。
株式の保有権は従業員にとって将来の成果への直接的な関与感を生み出し、仕事に対する自己成就感を高めます。
従業員は株価の上昇によって利益を得ることができるため、彼らは自身の仕事の成果により一層取り組み目標達成に向けた努力を積極的に行った結果、従業員のモチベーションが高まり生産性やクリエイティビティの向上に繋がるのです。
このように、信託型ストックオプションは従業員の仕事へのモチベーションを上げ、彼らの意欲とパフォーマンス向上に寄与します。
③社外の方とも友好な関係を築ける
信託型ストックオプションは、社外の人々との友好な関係構築に貢献するメリットがあります。
従業員が株主として企業に参加することで、株主や投資家、取引先、地域社会など社外の利害関係者との共通の利益を共有する機会が増えます。
例えば、C社の従業員は信託型ストックオプションを通じて株式を保有しています。
株式を保有した意識の高い従業員がいることで、C社は社外の利害関係者と友好な関係を築くことができ、取引先や地域社会の信頼を獲得できます。
このように、信託型ストックオプションは従業員に株主としての地位を確立させ、企業と社外の関係者との友好な関係構築に寄与します。
共通の利益を共有することで、企業はより良いパートナーシップを形成し、長期的な成功に繋げられます。
④事務作業などのコスト・リソースが抑えられる
信託型ストックオプションは、事務作業などのコスト・リソースを抑えるメリットがあります。
信託型ストックオプションは、株式保有の管理や手続きを信託に委託するため、従業員が個別に対応する必要がありません。
例えば、D社では信託型ストックオプションを導入し、従業員に株式の購入権を与えます。
従業員は個別に株式の管理や手続きを実施する必要がなく、信託が作業を代行します。
信託が作業を代行することで、D社は人的リソースを事務作業から解放し、他の重要な業務に集中できるようになるのです。
このように、信託型ストックオプションは事務作業や管理にかかるコスト・リソースを抑える効果があります。
信託が株式の管理を効率化し、企業は労力と費用を削減しながら従業員への報酬を提供できるでしょう。
信託型ストックオプションのデメリット3選
信託型ストックオプションのデメリットを3つ解説します。
①人材の流出を招く可能性がある
信託型ストックオプションは、人材の流出を招く可能性があります。
従業員に与えられる株式オプションは将来の利益に関連しており、価値が上昇することで従業員に経済的なメリットをもたらします。
しかし、株式価値が上昇した場合、従業員は保有しているストックオプションを行使して株式の売却によって利益を得た後、他の企業や競合他社に人材が流出してしまうリスクが高まります。
例えば、F社では信託型ストックオプションを導入し、従業員に経済的なインセンティブを提供しているとします。F社の株価が急上昇した結果、競合他社はF社の優秀な従業員を引き抜くことを試みるかもしれません。
このように、従業員が経済的なメリットを求めて他の企業に引き抜かれることで、企業は重要な人材を失うリスクが生じる可能性があります。
②預ける信託を選定する必要がある
信託型ストックオプションは、預ける信託を選定する必要があります。
信託型ストックオプションは従業員の株式を信託に預ける必要があるからです。
預ける信託の選択は重要であり、信託会社の評判、信頼性、費用、サービス品質などを検討しないといけません。
例えば、信託会社の選択が適切でない場合、サービスの品質や手数料の問題が発生する可能性があります。また、従業員の株式保有に対する信頼も揺らぐかもしれません。
このように、信託会社の評判や信頼性、費用、サービス品質などを検討することで、従業員と企業の利益を最大化する信頼性の高い信託を選びましょう。
③既存株の価値が希薄化する
信託型ストックオプションは、既存株の価値が希薄化するデメリットがあります。
信託型ストックオプションは、新たに発行される株式として従業員に提供されるため、既存の株主の持ち分に影響を与える可能性があります。
従業員がオプションを行使して新たな株式が市場に出回ることで、株の供給量が増えて既存株の希薄化が起こるのです。
従業員がオプションを行使して新たな株式が市場に供給されることで、株主の持ち分が相対的に減少することがあるので、企業は株式の供給と需要のバランスを調整する必要があります。
信託型ストックオプション導入の流れ
信託型ストックオプション導入は以下のような流れです。
導入の流れ | 概要 |
①プランの設計 | 信託型ストックオプションプランを設計するために、目的や対象従業員、配布方法、オプションの条件などを明確に定める |
②信託設立 | 信託を設立するために信託会社や専門家と契約する。 信託会社は、従業員のオプション行使時に株式を保有・配布する役割を担う。 |
③ストックオプションの割り当て | 従業員にストックオプションを割り当てるための基準や方法を決定する。 一般的に役職や勤続年数、成果などの従業員のパフォーマンスに基づいて割り当てる。 |
④従業員への通知と説明 | 従業員に対して、信託型ストックオプションプランの内容や利点、オプションの行使方法、税務上の影響などを通知する。 |
⑤ストックオプション行使 | ストックオプション行使のタイミングや条件を満たすときに、信託会社に対してストックオプションの行使を申し出る。 申し出後、信託会社は株式を従業員に配布する。 |
⑥税務処理 | ストックオプション行使に伴う税務処理について、企業と従業員は適切な手続きを実施。 |
⑦株式の売却または保有 | 配布された株式を保有または売却できる。売却すると株式市場の状況や税務上の影響などを考慮する必要がある。 |
⑧プランの評価と改善 | 信託型ストックオプションプランの効果や従業員の反応を評価し、必要に応じて改善策を検討する。 |
上記の流れは企業の状況によって異なる場合があります。
信託型ストックオプションの導入には、法的なコンプライアンスや税務上の考慮事項について専門家の助言を受けることをおすすめします。
信託型ストックオプション導入時の注意点
信託型ストックオプション導入時の注意点を解説します。
経営者の金銭的負担が大きい可能性がある
信託型ストックオプション導入時には、経営者の金銭的負担が大きくなる可能性があります。
信託型ストックオプションを利用して従業員に株式を提供する際に、株式の購入や配布に伴う費用、税金、信託会社への手数料などの費用が発生します。
さらに、ストックオプション行使時に経営者は株式の価格差額を従業員に支払う必要があります。
株式価格の上昇や多くの従業員のオプション行使がある場合、経営者の支出は増加する可能性も出てきます。
株式の提供費用や株価の変動による支払い、信託会社の手数料などの要素を考慮し、資金計画と予算配分を慎重に行いましょう。
信託型ストックオプションの設計が難しい
信託型ストックオプションのプラン設計は複雑です。
信託型ストックオプションの設計には、以下の要素が複雑に絡まっています。
- 従業員への公平性やモチベーション向上
- 株主の利益保護など社内要
- プランの詳細な仕組みや条件
- オプションの割り当て方法
- 行使の制約など
プラン設計の段階から慎重に検討し、従業員とのコミュニケーションを図りながら信託型ストックオプションプランを適切に導入していきましょう。
よくある質問
信託型ストックオプションについて、よくある質問をまとめました。
Q.国税庁が発表している信託型ストックオプションに関する取りまとめはありますか?
国税庁が発表した、令和5年4月1日現在の法令・通達等に基づいてまとめた資料「ストックオプションに対する課税(Q&A)」があります。
Q.信託型ストックオプションを導入していると上場できないのですか?
信託型ストックオプションの導入が上場を妨げるとは限りません。
ただし、上場をする際には証券取引所の上場基準を満たす必要があります。
Q.信託型ストックオプションは弁護士によって導入されますか?
信託型ストックオプションは弁護士によって導入されることが一般的です。
弁護士は企業や組織に対して法的なアドバイスやコンサルティングをして、法的な規制や要件に準拠しながら信託型ストックオプションプランを設計する役割を果たします。
信託型ストックオプションは向き不向きあり!専門家に助言をもらおう!
信託型ストックオプションは企業によって向き不向きがあります。
優秀な人材の獲得やモチベーション向上などのメリットは魅力的ですが、人材の流出や設計の難しさなどのデメリットも考える必要があります。
信託型ストックオプションの導入を検討する際には、弁護士や専門家の助言を受けることが重要です。
弁護士や専門家は法的な要件や最善のプラン設計に精通しているので、企業の目的やニーズに合わせた適切なアドバイスをしてくれます。
信託型ストックオプションを導入する際は、専門家の助言を活用してより成功する可能性を高めましょう。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
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