会社買収の大半は譲渡企業の同意のもとに実施されます。
しかし、なかには同意なしに買収が実施されることがあります。
近年、証券市場のグローバル化が進んで以降、敵対的買収は珍しいものではなくなりました。
買収を持ち掛けられた企業は、会社の経営権を他社に握られることを回避するために、敵対的買収に対抗策を導入する事例が増加しています。
この記事では、同意のない敵対的買収に対する買収防衛策の種類や問題点について解説します。
目次
- 1 買収防衛策とは?
- 2 買収防衛策の種類一覧
- 3 買収発表前の予防策
- 4 ポイズンピル
- 5 ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
- 6 マネジメント・バイアウト
- 7 プットオプション
- 8 黄金株
- 9 チェンジオブコントロール
- 10 絶対的多数条項
- 11 全部取得条項付株式
- 12 買収発表後の防衛策
- 13 ジューイッシュ・デンティスト
- 14 焦土作戦
- 15 資産ロックアップ
- 16 敵対的買収の発表後に第三者に頼る方法
- 17 ホワイトナイト
- 18 第三者割当増資
- 19 第三者との株式交換
- 20 その他の買収防衛策
- 21 パックマン・ディフェンス
- 22 スタッガードボード
- 23 労働組合に協力してもらう
- 24 買収防衛策の問題点とは?
- 25 株主に不利益となることがある
- 26 株式の流動性が下がる
- 27 買収防衛策が廃止される理由
- 28 自社に合った買収防衛策を専門家に相談しよう
買収防衛策とは?
経済産業省は買収防衛策について、以下のように規定しています。
株式会社が資金調達などの事業目的を主要な目的せずに新株又は新株予約権の発行を行うこと等により自己に対する買収の実現を困難にする方策のうち、 経営者にとって好ましくない者による買収が開始される前に導入されるものをいう。
敵対的買収について理解するためには、友好的買収と敵対的買収という2つの買収方法について理解する必要があります。
友好的買収は譲受企業と譲渡企業の協議に基づく合意によって実施されます。
一方で敵対的買収は、譲渡企業の同意なしに市場での株式の大規模な買付行為をすることによって、譲渡企業を買収する方法です。
最近では、SBIが新生銀行に対して行ったTOBが話題になりました。
つまり買収防衛策とは、敵対的買収に対して行われるもので、株式会社A社に対して、株式の大規模な買付行為による敵対的買収がA社の同意なしに開始された場合に、A社が敵対的買収をされないように導入する対策です。
買収防衛策の種類一覧
買収防衛策は、対抗措置を導入する時期や自社単独、もしくは他社に援助を求めるかによって、以下の4つの種類に分類されます。
- 買収発表前の予防策
- 買収発表後の防衛策
- 敵対的買収の発表後に第三者に頼る方法
- その他の買収防衛策
また、それぞれに対策方法がいくつかあります。
買収発表前の予防策
敵対的買収を仕掛けられる前に実施できる予防的な対策方法です。
これらの対策方法は、敵対的買収を仕掛ける企業の買収意欲を減退させることを目的としています。
敵対的買収の予防策には全部で8種類があるので、下記でご紹介いたします。
ポイズンピル
ポイズンピルは「毒薬条項」とも呼ばれ、事前に時価よりも低い価格で新株や新株予約券を購入する権利を株主に与える方法です。
買収企業が株式保有比率を引き上げるなど、敵対的買収の兆候が見えたら、規定された条項を発動し、新株や新株予約券を発行します。
結果として、買収企業の株式保有比率が低下し、会社の支配権を握られることを防ぐことができます。
ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
ゴールデンパラシュート・ティンパラシュートは退職金を高く設定する方法です。
ゴールデンパラシュートは取締役などの役員の退職金を高額に設定します。
一般的に敵対的買収後は、買収企業にとって都合の良い人物を役員に据えて、既存の役員は退職となります。
役員の退職金を高額に設定すれば、結果的に買収コストが高額になります。
一方でティンパラシュートは、買収後に人員整理を理由として解雇されるであろう従業員の退職金を高額に設定する方法です。
関連記事:ゴールデンパラシュートとは?意味やメリット、活用の是非について解説
マネジメント・バイアウト
マネジメント・バイアウトとは、経営陣が自社の株式を買い取って非上場化する方法です。
一般的に敵対的買収は、買収企業が証券市場で株式の大規模な買付を実施し、議決権の支配権を確保することによって行われます。
したがって、株式会社を非上場化することで、株式の自由な取引ができず、買収企業は敵対的買収の手段を失います。
プットオプション
プットオプションとは、将来のある期日までに、その時の市場価格に関係なく事前に決定した特定の価格(=権利行使価格)で株式を売る権利です。
買収企業が敵対的買収の兆候を示したら、権利を行使することで、既存の株主が保有する株式価額が増加し、買収費用が膨らみます。
また、買収企業は買収後に大量の株式の買取を請求され、さらに買収費用が増えるので、買収の抑止効果があります。
黄金株
黄金株は通常の株式と異なり、会社の合併などの重要議案について拒否できる特別な株式です。
敵対的買収では、買収企業が株式を大量取得し議決権割合を確保してから、株主総会で合併の決議を行います。
しかし、買収に反対する創業者や株主、友好的企業が黄金株を保有していれば、合併の決議に対して、拒否権を行使できます。
チェンジオブコントロール
チェンジオブコントロールとは、契約の当事者の一方で経営権が変わったときに、契約内容の制限や契約解除が発動される条項のことです。
例えば、取引先との間で「自社の株式が50%以上変動した場合には、契約の解除ができる」と規定することができます。
買収企業としては、敵対的買収が成功しても、重要な取引先との契約が解除され、当初見込んでいた売上を失う可能性があります。
絶対的多数条項
スーパーマジョリティ条項とも呼ばれる予防方法です。
定款の規定によって、株主総会における特定の決議の議決要件を厳しくすることで、買収企業の支配権確立を困難にします。
敵対的買収では、買収後に既存の役員を解任します。
しかし、「役員の解任について議決権割合の90%以上の賛成が必要である」と規定すると仮定します。
その場合、100%近くの株式の買付をしないと、支配権を確立できず、買収コストが増大します。
全部取得条項付株式
全部取得条項付株式とは種類株式の一種であり、すべての株式を会社が強制的に取得できる株式です。発行には株主総会の特別決議を必要とします。
会社が自社株式を取得し、市場に流通する株式を減らすことで、買収企業の大量買付を阻止します。
また、株主から無議決権優先株式を買い上げ、その対価として、普通株式を交付することで、株式数を増加させ、買収にかかる費用を釣り上げます。
買収発表後の防衛策
買収企業から敵対的買収を仕掛けられてから、自ら企業価値を減退させ、買収するメリットを喪失させる方法です。
敵対的買収が発表されてからの対抗策には、全部で3種類があります。
ジューイッシュ・デンティスト
ジューイッシュ・デンティストを直訳すると、「ユダヤ人の歯医者」です。
ユダヤ系の歯科器具メーカーが実行したのが由来です。
敵対的買収が発表された時に、自社の社会的な弱点やネガティブニュースを自らマスコミにリークします。
この結果、自社のイメージダウンや社会的信用の低下につながり、企業価値に損害が生じます。
敵対的買収を防げた場合でも毀損した社会的信用は残りますので、リスクの高い対抗策です。
焦土作戦
買収企業の目的が特定の資産や事業、技術、子会社である場合に、それらを第三者に売却し、自社の企業価値を意図的に下げる作戦を焦土作戦といいます。
名前の由来は、戦争で実行される「攻撃側に奪われる地域の戦略的価値のある建物・施設や食料を焼き払う」ことで知られる焦土作戦にあります。
問題点は焦土作戦によって、作戦発動後の企業価値は実際に減退することです。
メリットは、資産等を適正価格で売却すると、対価としてキャッシュを獲得するため、企業価値の低下が起こりにくい点です。
一方で廉価で売却すると、株主からの訴訟に発展する可能性があるというジレンマを抱えています。
資産ロックアップ
資産ロックアップとは、買収後一定期間は資産の売却ができないように制限を設けることです。
敵対的買収の目的が資産の売却による対価の獲得にある場合、買収の主目的を妨害し、買収企業の買収意欲を減退させます。
敵対的買収の発表後に第三者に頼る方法
敵対的買収に対して、自社単独で対抗する力がない場合に、友好的な第三者に頼って守ってもらう方法です。
ただし、第三者が支援を拒否した場合には、敵対的買収の成功が現実になります。
第三者に頼る方法は以下の3種類があります。
ホワイトナイト
ホワイトナイト、つまり白馬の騎士とは友好的な第三者を指します。
敵対的買収を仕掛けられたときに、友好的な第三者に自社の株式を買付してもらい、敵対的買収が成功する前に買収される方法です。
ただし、ホワイトナイトが成功するには友好的な第三者が敵対的買収者に買い負けしないことが前提となります。
第三者割当増資
第三者割当増資は企業の資金調達方法のひとつであり、既存株主ではない特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与する増資のことです。
敵対的買収への防衛の場合は、取引先や友好的な第三者が株式を引き受けます。
株式発行により、敵対的買収者が取得した株式の希薄化を招きます。
ただし、新株発行によって1株当たりの株価が低下し、株主に不利益が生じるため、差止請求をされる可能性があります。
第三者との株式交換
通常、株式交換とは組織再編行為の一つであり、売り手企業と買い手企業の株式を交換することです。
敵対的買収の際に友好的な第三者と株式を交換することで、友好的な第三者の影響力を強め、反対に買収企業の影響力を弱めます。
その他の買収防衛策
ここまでご紹介した3つの買収防衛策に当てはまらない方法をご紹介します。
パックマン・ディフェンス
パックマン・ディフェンスとは敵対的買収を仕掛けてきた買収企業に対して、逆に買収を仕掛ける方法です。
名称は、有名なゲームキャラクターであるパックマンが敵に反撃する様子に由来しています。
日本の会社法の規定では、被買収企業が買収企業の株式の25%以上を獲得すると、買収企業は議決権の行使ができなくなります。
パックマン・ディフェンスはこの会社法の規定を利用した方法です。
ただし、実行に際しては買収を仕掛ける多額の資金が必要となるので、多くの中小企業には非現実的な手段です。
スタッガードボード
スタッガードボードは、「捻じれた役員会」や「期差任期制度」などと呼称される方法です。
敵対的買収では、買収企業は取締役などの役員を解任し、自社の意向に沿う新しい役員を選任します。
スタッガードボードとは、すべての役員が一度に解任されないように、一部の役員の改選時期をずらすことです。
これによって、買収企業の買収への意欲を減退させることができます。
労働組合に協力してもらう
憲法では労働者に団体行動権、すなわちストライキが認められています。
労働組合に協力してもらい、労働者にストライキの権利を行使してもらう方法です。
具体的には労働組合が敵対的買収に反対し、「敵対的買収が実施されたら、ストライキを決行する」と表明します。
ただし、労働組合が多くの労働者を指導し、力がある場合にのみ効果があります。
また、敵対的買収の実施後には人員整理によって報復される可能性があります。
買収防衛策の問題点とは?
買収防衛策には様々な種類がありますが、日本経済新聞によれば、買収防衛策を講じる企業は減少しています。
背景には買収防衛策が抱える問題があります。
買収防衛策の問題点とはなんでしょうか?
株主に不利益となることがある
買収防衛策は経営者の判断で行うものです。
しかし、ジューイッシュ・デンティストや焦土作戦などの買収防衛策を実施すると、企業価値が減退してしまいます。
それによって、被買収企業に投資している株主が不利益を被る可能性があります。
株式の流動性が下がる
買収防衛策の多くは敵対的買収者の株式大量買付を阻止するために、株式の自由な取引を停止、もしくは阻害する効果があります。
株式の流動性が下がることで、株価が下落し、株主の利益を損なう可能性があります。
株式の自由な取引は会社の資金調達を可能にしますが、買収防衛策の発動によって、防衛成功後の資金調達手段が制限される可能性があります。
買収防衛策が廃止される理由
敵対的買収者から会社を守る買収防衛策ですが、近年では廃止する企業が増えています。特に上場企業では株主の意見を尊重して買収防衛策を設けないことが多いです。
買収防衛策の中には企業価値を意図的に毀損するものがあり、会社の所有者である株主の利益と相反する可能性があります。
また、買収防衛策によって優れた買収提案が阻害されるかもしれません。会社価値を損なう買収は受け入れるべきではありませんが、企業価値向上につながる提案であれば、株主は興味を示すでしょう。
変化の激しい時代に強固な買収防衛策で、頑なに買収を拒絶する会社は競争力を維持できない可能性があります。
上記のように考える投資家は特に外国人投資家に多く、海外の機関投資家の持株割合が多いほど、買収防衛策は株主総会で承認されません。
このように株主の意見を尊重した結果、また買収防衛策の有効性自体に疑義が呈された結果、買収防衛策が廃止されています。
自社に合った買収防衛策を専門家に相談しよう
敵対的買収に対する買収防衛策は複数存在しますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。
また、買収防衛策を準備する企業が減少していることからわかるように、意義そのものに疑義が生じています。
したがって、買収防衛策の導入に際しては、導入の是非や採用する手段について専門家に相談しましょう。
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