インターネットの発達やIT系の巨大グローバル企業による革新的なサービスの誕生により、DX推進の必要性が高まっています。
最近では、新型コロナ感染予防を目的とした非対面・非接触ニーズの高まりを受けて、あらゆる業界でDX推進が叫ばれています。
DXを推進の起爆剤として注目されているのがM&Aです。
IT系、テクノロジー系の企業のM&Aによって、社内システムや商品、サービスのDXを一気に推進することができます。
この記事では、ITテクノロジー企業のM&AによるDX推進の動向やそのメリット、課題などについて解説します。
目次
- 1 日本企業のDX推進の遅れが指摘されている
- 2 海外で増えるテクノロジー関連のM&A
- 3 DX推進のためにM&Aを実施するケースが増えている
- 4 IT企業のM&AによるDX推進のメリット
- 5 DX人材不足の解決
- 6 IT関連のスキルや技術の獲得
- 7 IT領域への新規参入
- 8 M&AによってDXを推進することの課題
- 9 新興のDX企業との企業文化融合が難しい
- 10 M&A実施前にDXを進めないと効果が薄くなる
- 11 相手企業が持つIT技術の適正な評価ができず交渉で不利になる
- 12 DX推進を目的としたM&Aの論点
- 13 買収企業がベンチャー企業である場合に企業価値評価が難しい
- 14 情報セキュリティ規制への対応
- 15 買収企業のIT人材の流出リスク
- 16 ITベンチャー企業のM&AはDX推進に大きな効果がある
日本企業のDX推進の遅れが指摘されている
2018年9月に経済産業省が公表した「DXレポート」によれば、日本企業はIT人材や投資資金不足のためにDX推進が遅れています。
また、DX化のための投資は行われているものの実際のビジネスの変革には繋がっておらず、アメリカや中国のようにIT系のグローバル企業がなかなか誕生していません。
さらに2018年12月に同省が公表した「DXレポート2」によれば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査対象であった500社のうち9割以上の企業で未着手もしくは散発的な実施にとどまっている状況です。
先進諸国と比べると日本と海外のDX推進は約5年の開きがあるようです。
このように日本企業はDXの推進が危惧されており、世界水準から取り残されていることが指摘されています。
海外で増えるテクノロジー関連のM&A
英系のグローバルメディアであるMergermarket社とDatasite社が2021年11月に公表した「Deal Drivers: EMEA Q3 2021」によれば、コロナ禍においても世界のM&A件数は増加しており、特にテクノロジー・IT業界におけるM&Aの増加が目立っています。
また、英系のM&Aアドバイザリーであるpwcによれば、2021年の世界のM&Aは6万2千件と前年比24%増で過去最高を記録しました。
なかでもテクノロジー分野では過去最高を記録しており、海外でテクノロジー関連のM&Aが増加していることがわかります。
DX推進のためにM&Aを実施するケースが増えている
長らくDX推進の遅れが指摘されてきた日本企業ですが、近年ではDX推進のためにテクノロジー関連企業のM&Aを活用する企業が増えています。
日本経済新聞社によれば、2021年に日本企業が買い手もしくは売り手となったM&Aは4,280件と過去最高を記録しています。
そして、その多くがDXや脱炭素化など経営課題の解決を目的としています。
大手IT企業や転職サービスなど海外事業展開を視野に入れて、テクノロジー関連のM&Aに注力する企業も現れています。
日本M&Aセンターによれば、IT業界においても経営者の高齢化が深刻な企業はたくさんあり、売り手側の事業承継という目的と買い手側のDX推進という目的が上手に合致しているようです。
IT企業のM&AによるDX推進のメリット
日本のみならず世界中でIT業界が関連するM&Aが増加しており、背景にはDX推進の必要性やテクノロジー技術を活用した競合他社との差別化があると推測されます。
DX推進を目的としてITやテクノロジー関連企業をM&Aによって取得することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここからはIT企業のM&AによるDX推進のメリットについて解説します。
DX人材不足の解決
2018年9月に経済産業省が公表した「DXレポート」によれば、DX推進の障害となる課題について61%の企業が人材不足を挙げています。
加速する少子高齢化、またITエンジニアの7割以上がベンダー企業に偏在しているため、IT人材の不足は深刻化しています。
IT人材の採用難が深刻になる中で一挙に人材不足を解決する方法がM&Aです。
ITやテクノロジー関連の企業をM&Aすることで、IT関連のスキルや技術を持った優秀な人材をまとまった数確保できます。
新卒・中途採用市場におけるIT人材の不足は顕著であり、今後もしばらく解消の見込みがないので、M&Aは採用コストや教育コストを省略して、IT人材を獲得し、DXを推進する絶好のチャンスです。
IT関連のスキルや技術の獲得
先程の経済産業省の「DXレポート」によれば、「技術的な制約」をデジタル化やDX化の課題として挙げている企業は全体の27%です。
IT関連企業のM&Aによってスキルや技術の獲得が期待できます。
IT業界は次々と新しい技術が誕生しており、他の業界と変化が激しいことが特徴です。
しかし、AIやビッグデータ、IoTといったDX推進の要となる最先端技術や開発に時間がかかり、投資によってゼロから基礎を築くことが大変です。
しかし、M&AによってITやテクノロジー関連企業を獲得すれば、このような最先端技術やスキルを持った企業を吸収し、DX推進を図ることができます。
IT領域への新規参入
コロナ禍で非対面が推奨されていることもあり、あらゆるサービスがオンラインに移行しています。
一方でITの技術やノウハウがない企業はIT化ベンダー企業に頼らざるを得ず、経費の増加につながっています。
IT関連企業をM&Aで獲得することで、新規にIT領域へ参入し、自社のサービスとITをかけ合わせた新しいサービスを自社で賄うことができます。
通常、新規事業への参入は莫大なコストと時間がかかりますが、既にノウハウや技術のあるIT企業のM&Aによって、それらを短縮し、リスクを軽減できます。
M&AによってDXを推進することの課題
比較的容易にDX推進を加速させることのできるM&Aは国内外問わず広く活用されています。
その反面で、DX推進を目的とするIT・テクノロジー系の企業のM&Aにはデメリットもつきものであり、M&A実施後に様々な問題が発生することがあります。
ここからは、M&AによってDXを推進することの課題について解説します。
新興のDX企業との企業文化融合が難しい
M&Aでは通常売り手企業は中規模の中小企業であり、なかにはベンチャー企業もあります。
IT系の企業には比較的若い企業も多いのですが、買い手企業が大企業や規模の大きな中小企業である場合に企業文化などの統合プロセスで支障が生じることがあるようです。
例えば、それまでベンチャー企業で大きな裁量を持って働いていた社員がM&Aを契機として、自由な意思決定ができなくなり、ストレスを感じて退職することもあります。
大企業と小規模のベンチャー企業では企業文化の乖離が激しく、M&A前後の劇的な変化についていけない社員も一定数います。
M&A実施前にDXを進めないと効果が薄くなる
大手の総合コンサルティング会社であるアクセンチュアによれば、デジタルやテクノロジー関連のM&Aを実施した企業のCEOの多くがM&A実施前のDX推進の必要性を感じていると回答しています。
M&Aについて知識や理解がなければ、たとえM&AによってIT系の企業を獲得しても、IT系の人材を受け入れる素地がなく、買収の効果が薄まってしまうようです。
買い手企業の多くでは、M&Aを担当する部署では、AIを活用した弁護士の選定や書類の作成などDX化が進んでいるものの社内の他の部署では新しい業務やシステムに対応できる基盤が整備されていません。
そして、これがM&A実施後のDX化の進展を妨げる要素になっているようです。
相手企業が持つIT技術の適正な評価ができず交渉で不利になる
M&Aの交渉段階において売却価額の決定は最も重要な交渉事項の一つです。
売却価額は売り手企業の売上や自己資本などといった会社の規模だけではなく、「のれん」も考慮されます。
「のれん」には売り手企業のブランドや技術力などの目に見えない資産が含まれます。
IT人材が不足している、またはITに詳しい人材がいない買い手企業では、売り手企業が持つIT技術やテクノロジーといった「のれん」の評価を正しく行えないことがあります。
この場合に売り手企業の言い分を一方的に聞くことになり、交渉の主導権を握られて、必要以上の買収金額で合意してしまうことがあります。
DX推進を目的としたM&Aの論点
DX推進を目的としてIT系やテクノロジー系の企業をM&Aによって獲得する際にさまざまな論点があります。
これは売り手企業やIT系、ベンチャー企業であることが多く、これらの企業の買収時には通常のM&Aとは異なり問題が発生する可能性があることに起因します。
ここからは、DX推進を目的としたM&Aの論点をご紹介します。
買収企業がベンチャー企業である場合に企業価値評価が難しい
M&Aを実施する時には売り手企業の企業価値を適正に評価しないと売却価額を決定できません。
IT系やテクノロジー系の企業は比較的若い企業が多く、それらの企業はベンチャー企業に分類されます。
企業価値の算定時には売り手企業の利益が評価対象になりますが、業歴の浅い企業だと実績がなく、利益が見込まれないことがあるので、利益ベースで企業価値が評価できません。
また、将来のキャッシュフローも企業価値の算定で考慮されますが、革新性のある商品や技術は過去の利益や業績と連続性がないので、将来の企業価値を予測することが困難です。
情報セキュリティ規制への対応
サイバー犯罪の増加によって、企業が保有する個人情報が大規模に漏洩する事件が多数発生しています。
IT系企業はあらゆる業界のベンダー企業として多くの個人情報を保有していることがあります。
これらの個人情報や個人の氏名や住所、資産などプライバシー性の高いものです。
IT系企業の買収によって、これらの個人情報の管理責任を負うことになった場合には情報の漏洩の回避や管理を徹底する必要があります。
また、グローバルに展開する企業の場合ヨーロッパの個人情報保護規制GDPRやアメリカCCPAなど様々な規制に対応する必要があります。
これらの規制に違反して、何百億円という罰金を課される企業も多数あります。
規制対応には莫大なコストと労力が必要であり、買い手企業の経営を圧迫する可能性があります。
買収企業のIT人材の流出リスク
IT関連のM&Aに限らず、M&A実施後には売り手企業の従業員が退職することがあります。
これはM&A前後で業務内容や労働条件、働き方が変化し、社員のモチベーションに影響するためです。
IT業界は人材不足のため転職が容易なことや業界自体が新しく、人材の流動性が高いので、他の業界よりも定着率が低いです。
このようなIT業界でM&Aを実施すると、通常のM&Aよりも従業員が退職してしまうリスクは高くなります。
IT関連企業のM&AによってIT人材の獲得を目指している場合には大きな痛手となります。
ITベンチャー企業のM&AはDX推進に大きな効果がある
この記事では、日本や海外におけるIT系やテクノロジー系企業のM&AによるDX推進の動向、そのメリットや課題、重要な論点について解説しました。
ビジネスモデルのDX化を進めるには莫大なコストと労力が必要になります。
IT系やテクノロジー系企業のM&Aによって、それらを省略して、迅速かつスムーズにM&Aを進めることができます。
一方でM&AによるDX推進には、企業価値の評価や情報セキュリティ上の懸念など検討事項があります。
これらの検討事項について専門家に相談しながら、M&Aを検討しましょう。
株式会社パラダイムシフトはIT領域のM&Aのスペシャリストです。
M&AによるDX推進を検討している場合には株式会社パラダイムシフトに相談しましょう。