デューデリジェンス(Due Diligence)とは、買収や出資を行う際に、対象企業の財務・法務・ビジネスなどあらゆる面から実態を調査・評価するプロセスのことです。将来のリスクを回避し、企業価値を正しく見極めるために欠かせない「当然払うべき注意義務」です。
この記事では、デューデリジェンスの意味や語源から、ビジネス現場での使われ方、M&Aの流れに沿った実施手順、調査ポイントまで徹底解説します。
この記事を最後まで読むことで、デューデリジェンスの実務に役立つ知識がしっかり身に付きます。
目次
- 1 デューデリジェンスの意味・定義・語源
- 2 デューデリジェンスの語源と直訳
- 3 日本語訳「適正評価手続」との違い
- 4 スペル・発音・略語「DD」の使われ方
- 5 ビジネスシーンでの具体的な使用例
- 6 ビジネスにおけるデューデリジェンスの役割と目的
- 7 M&Aでのリスク把握と企業価値評価
- 8 投資・資金調達での意思決定精度向上
- 9 トラブル予防とガバナンス強化
- 10 デューデリジェンスの種類と調査ポイント
- 11 財務デューデリジェンス
- 12 法務デューデリジェンス
- 13 ビジネスデューデリジェンス
- 14 その他デューデリジェンス(人事・IT・環境など)の概要
- 15 【M&A例】デューデリジェンスの進め方
- 16 ステップ1:事前準備と専門家チームの組成
- 17 ステップ2:資料請求と初期分析
- 18 ステップ3:マネジメントインタビューと現地調査
- 19 ステップ4:詳細分析・評価とレポート作成
- 20 【テンプレート】便利に使える基本チェックリスト
- 21 まとめ:デューデリジェンスはM&Aの成功を左右する重要なプロセス
デューデリジェンスの意味・定義・語源

デューデリジェンスとは、M&Aや投資の場面で対象企業の実態やリスクを見極めるために行う重要な調査です。ここでは、デューデリジェンスの語源や定義、日本語訳との違い、略語「DD」の使われ方などを具体例を交えてわかりやすく解説します。
デューデリジェンスの語源と直訳
デューデリジェンスは、英語の「Due(正当な・当然の)」と「Diligence(注意・努力)」から成る言葉です。直訳すると「当然払うべき注意義務」や「当然行うべき努力」という意味になります。M&Aや投資などの重大な意思決定を行う前に、対象企業や事業について十分な調査を行うべきという考え方を表しています。
デューデリジェンスは、1929年の世界恐慌を契機に制定されたアメリカの証券法において、情報開示の正確性を担保するために証券会社に求められた調査義務として使われ始めました。
日本語訳「適正評価手続」との違い
デューデリジェンスは「適正評価手続」や「企業調査」と訳されることがあります。しかし、日本語訳では本来のニュアンスを十分に伝えきれない場合があります。特に「適正評価手続」は“評価”の側面に重点が置かれています。一方、実際のデューデリジェンスは、リスクの洗い出しや法務・財務・事業面の多角的な調査まで含む包括的なプロセスです。
ビジネス現場では、日本語訳よりも「デューデリジェンス」や略語の「DD」という表現が一般的に使われています。
スペル・発音・略語「DD」の使われ方
デューデリジェンスの英語表記は「Due Diligence」、発音は「デュー・ディリジェンス」です。ビジネスシーンでは、略して「DD(ディーディー)」と呼ぶのが一般的で、M&Aや投資関連の会話・資料の中で頻繁に登場します。
デューデリジェンスの略語を理解しておくことで、専門家や関係者とのコミュニケーションが円滑になり、実務でもスムーズに対応できるでしょう。
ビジネスシーンでの具体的な使用例
デューデリジェンスは、M&Aや投資判断の場面で日常的に使われる重要な用語です。ビジネスシーンでは以下のように使われます。
- A社を買収するにあたり、徹底的なデューデリジェンスを実施する必要があります。
- 財務DDの結果、簿外債務が発見されました。
- 来週から始まるDDに向けて資料を準備してください。
- この投資案件はDDの結果次第で判断します。
上記の使用例からも、デューデリジェンスが企業調査やリスク評価において欠かせないプロセスであることがわかります。
ビジネスにおけるデューデリジェンスの役割と目的

デューデリジェンスは、企業の成長戦略やリスク管理において重要な意思決定を支える不可欠なプロセスです。ここからは、M&Aや投資・資金調達、ガバナンスの3つの観点から、目的と意義を具体的に解説します。
M&Aでのリスク把握と企業価値評価
M&Aにおいてデューデリジェンスは、買収の成否を左右する極めて重要なプロセスです。M&Aでデューデリジェンスを行う目的は以下のとおりです。
- 隠れた負債や訴訟リスク、市場競争力の課題などを明確にできる
- M&A対象企業の将来性や収益力を分析する
- 買収価格の妥当性が判断できる
- 買収後の統合計画(PMI)の策定に役立つ
- シナジー効果の最大化につながる
デューデリジェンスで得た情報により、買い手企業はリスクを最小限に抑え、戦略的かつ合理的なM&Aを実現できます。
投資・資金調達での意思決定精度向上
デューデリジェンスはM&Aだけでなく、ベンチャー投資や不動産投資、金融機関の融資判断においても重要なプロセスです。投資家や金融機関は、事業計画の実現可能性、市場の成長性、競合優位性などを検証することで、リスクを最小限に抑えつつリターンの最大化を図ります。
出資比率や融資条件などを決定する際の交渉材料ともなり、企業側にとっては信頼性の向上と資金調達の円滑化につながります。客観的な情報に基づく評価は、投資や融資における意思決定の精度を高めるうえで不可欠です。
トラブル予防とガバナンス強化
デューデリジェンスは、取引後に起こり得るトラブルを未然に防ぐためのリスク管理手段としても重要です。対象企業のコンプライアンス体制や、内部統制の実態を調査することで、法令違反や不正行為のリスクを事前に察知できます。調査過程で明らかになった課題を改善することで、企業のガバナンス強化にも直結します。
トラブルを未然に防ぐ取り組みにより、企業価値の維持・向上を図ると同時に、株主や取引先、従業員などステークホルダーからの信頼を確保することが可能です。
デューデリジェンスの種類と調査ポイント

デューデリジェンスは、調査する領域によって複数の種類に分かれ、M&Aの目的や対象企業の特性に応じて実施内容が異なります。ここでは、財務・法務・ビジネスなど主要なデューデリジェンスの種類と、それぞれの調査ポイントを具体的に解説します。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、公認会計士や税理士が実施し、対象企業の財務状況やリスクを多面的に検証するプロセスです。調査ポイントの一例は以下のとおりです。
調査項目 | 主な確認内容 |
財務諸表の分析 | 損益計算書、貸借対照表、キャッシュフローの精査 |
収益性・資産効率性 | 業績推移、収益構造、資産内容の妥当性 |
運転資本の評価 | 売掛金、棚卸資産、買掛金の適正性 |
財務デューデリジェンスの調査により、買収価格の妥当性判断や財務リスクの管理に必要な情報が得られます。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、弁護士などの法律専門家が実施し、対象企業が抱える法的リスクを洗い出すためのプロセスです。買収後に発生する可能性のあるトラブルを未然に防ぐことを目的としています。調査項目の一例は以下のとおりです。
調査項目 | 主な確認内容 |
会社組織・株式の状況 | 定款、株主構成、登記情報の整合性 |
重要契約の内容確認 | 取引基本契約、ライセンス契約、リース契約のリスク・義務内容 |
許認可・法令遵守 | 必要な許認可の取得状況、コンプライアンス体制の整備状況 |
法務デューデリジェンスの調査により、買収後の法的リスクを最小限に抑え、安心して取引を進めるための判断材料が得られます。
ビジネスデューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンスは、対象企業の事業内容や市場環境、競争力を多角的に分析し、将来性や収益性を評価するプロセスです。主にM&Aや経営の専門コンサルタントが担当します。ビジネスデューデリジェンスの調査項目は以下のとおりです。
- 事業モデルの評価
- 市場・業界の分析
- 競争優位性の確認
- 製品・サービスの評価
- 顧客・販売チャネル
- 組織・キーマン依存
ビジネスデューデリジェンスの調査は、買収後の戦略立案やシナジー創出の実現可能性を見極める上で不可欠な情報源となります。
その他デューデリジェンス(人事・IT・環境など)の概要
財務・法務・ビジネス以外にも、M&Aの目的や対象企業の特性に応じて、さまざまな専門的デューデリジェンスが行われます。主な種類と調査内容は以下のとおりです。
種類 | 主な調査内容 |
人事デューデリジェンス | 組織構造、人員構成、人事制度、労務管理、企業文化などの評価 |
ITデューデリジェンス | 情報システムの整備状況、セキュリティ、IT投資計画、システム統合の可能性などの検証 |
環境デューデリジェンス | 土壌汚染やアスベスト等の環境リスク、環境法令への遵守状況 |
税務デューデリジェンス | 税務申告の妥当性、未払税金、税務リスクやタックスプランニングの確認 |
知的財産デューデリジェンス | 特許・商標・著作権などの権利関係、侵害リスク、知財価値の評価 |
さまざまなデューデリジェンスを組み合わせることで、多角的かつ精度の高い企業評価が可能です。
【M&A例】デューデリジェンスの進め方

M&Aにおけるデューデリジェンスは、複数のステップを経て体系的に進められます。ここからは、デューデリジェンスの一般的な進め方と各ステップの重要なポイントを解説します。
ステップ1:事前準備と専門家チームの組成
デューデリジェンスを効果的に進めるためには、初期段階での事前準備が欠かせません。以下のポイントを押さえることで、後の調査がスムーズに進行します。
- 目的と範囲の明確化
- 専門家チームの組成
- 秘密保持契約(NDA)の締結
- 初期資料の依頼
最初の段階で全体スケジュールを明確にし、調査の方向性を定めることがデューデリジェンス成功につながります。
ステップ2:資料請求と初期分析
事前準備が整ったら、売り手企業から提供された資料をもとに初期分析を行います。膨大な情報を効率よく整理・確認するために、以下の流れで進めるのが一般的です。
ステップ | 内容 |
詳細資料の請求 | DDリクエストリストに基づき、財務諸表、契約書、組織図、事業計画書などを要求する |
初期分析(デスクトップレビュー) | 提供資料を精査し、潜在リスクや論点、追加確認事項を洗い出す |
Q&Aセッションの準備 | 初期分析で得られた疑問点を整理し、売り手企業への質問事項をまとめる |
資料量が多くなるため、優先順位をつけながら効率的に進めることが重要です。
ステップ3:マネジメントインタビューと現地調査
資料分析だけでは見えない実態を把握するために、マネジメントインタビューと現地調査(サイトビジット)が重要です。書面情報との整合性を確認し、企業の実像に迫ることが目的です。
調査内容 | 主な目的・ポイント |
マネジメントインタビュー | 経営陣やキーパーソンへのヒアリングにより、事業戦略や組織体制、経営の意向を深く理解する |
現地調査(サイトビジット) | 工場・店舗・オフィスなどを訪問し、設備・業務の実態、従業員の雰囲気などを実地で確認する |
マネジメントインタビューと現地調査を通して、資料では見えにくいリスクや強みを把握し、より正確かつ実践的な企業評価につなげることが可能になります。
ステップ4:詳細分析・評価とレポート作成
デューデリジェンスの最終段階では、収集した全ての情報に基づき、詳細な分析と評価を行い、結果をデューデリジェンス報告書にまとめます。ステップは以下のとおりです。
- 財務・法務・ビジネス等のデューデリジェンスで得られた情報を分析・評価する
- 買収価格や取引条件の妥当性を再検討する
- デューデリジェンスの報告書を作成する
- 買い手企業の経営陣への報告・説明をする
上記のステップを踏むことで、M&A実行の可否や条件に関する最終的な意思決定の重要な判断材料が得られます。必要であれば、デューデリジェンス報告書をもとに売り手企業と最終的な条件交渉を行いましょう。
【テンプレート】便利に使える基本チェックリスト
デューデリジェンスを効率よく進めるには、事前に網羅的なチェックリストを用意しておくことが有効です。以下は一般的なM&Aにおける基本的なチェックリストの項目例です。
全般 |
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財務 |
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法務 |
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事業 |
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人事 |
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IT |
|
上記のチェックリストはあくまで参考例であり、案件の特性に応じて、専門家と相談の上で最適な内容にカスタマイズしましょう。
まとめ:デューデリジェンスはM&Aの成功を左右する重要なプロセス

デューデリジェンスは、M&Aや投資における成功を左右する重要なプロセスです。「当然払うべき注意義務・努力」という意味の通り、リスクの特定や企業価値の正確な評価、PMI(統合計画)策定の基盤として欠かせません。財務・法務・ビジネスなど多岐にわたる調査を、事前準備から報告まで体系的に進める必要があります。
目的の明確化や適切な調査範囲の設定、専門家との連携が成功の鍵を握ります。時間とコストはかかりますが、丁寧に実施することで、買い手は不利な条件を避け、売り手は正当な評価が受けられます。正しくデューデリジェンスを実施することで、M&Aの成功と事業成長に大きく貢献しましょう。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
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