M&Aにおける判断材料として、「デュー デリジェンス」は避けて通れない重要なプロセスです。
特に、M&Aや事業提携を考える企業経営者や財務・法務担当者が、デューデリジェンスの種類や実施方法などを理解しておかないと、M&A成功から遠ざかる一方です。
この記事は、日本におけるデュー デリジェンスの種類から実践方法、注意点などをわかりやすく解説します。
デューデリジェンスが足りないと、法的リスクや財務的損失、コンプライアンス違反による信用低下など、企業にとって大きなダメージを与えかねません。
最後まで読むことで、自社にとって効果的なM&Aができます。
M&Aで安定した事業成長を実現させるためには、最低限デューデリジェンスの重要性を知っておきましょう。
目次
- 1 デューデリジェンスとは?日本語訳も紹介
- 2 デューデリジェンスの種類
- 3 ビジネスデューデリジェンス
- 4 セルサイドデューデリジェンス
- 5 財務デューデリジェンス
- 6 人事デューデリジェンス
- 7 法務デューデリジェンス
- 8 人権デューデリジェンス
- 9 ITデューデリジェンス
- 10 デューデリジェンスの手順
- 11 資料開示・事前調査
- 12 開示資料の分析
- 13 インタビュー等の実施
- 14 結果確認・検討
- 15 デューデリジェンスは誰がやるべきなのか
- 16 自社で内製化する
- 17 外部の専門家に任せる
- 18 自社と専門家で分担する
- 19 デューデリジェンスの注意点
- 20 情報の管理を徹底する
- 21 M&A規模に合った範囲で行う
- 22 売り手側は積極的に買い手側に情報提供をする
- 23 まとめ:M&A成功の鍵「デューデリジェンス」は専門家に任せよう!
デューデリジェンスとは?日本語訳も紹介
デューデリジェンスとは、企業買収や投資を行う際に、対象となる企業の経営状況や財務状況などを調査することです。日本語訳すると「当然に実施すべき注意義務および努力」という意味になります。
M&Aにおいてデューデリジェンスは、対象企業の潜在的なリスクや問題点を把握するのに重要です。
デューデリジェンスの調査項目は、ビジネスや財務、法務、人事、ITなど多岐にわたり、調査は対象企業から資料を取り寄せたり、経営陣や担当者へのインタビューを行ったりします。
デューデリジェンスの費用は、調査対象となる企業の規模や複雑性、調査項目の範囲などによって異なりますが、数百万〜数千万円程度が一般的です。
デューデリジェンスは、企業買収や投資において、買収側・投資側がリスクを回避するために必要不可欠な手続きです。
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスは、調査対象や目的によってさまざまな種類に分類されます。
各デューデリジェンスは、それぞれ異なる視点から対象企業を調査するため、異なるリスクや問題点が明らかになるのです。
下記では、代表的な7種類のデューデリジェンスについて解説します。
ビジネスデューデリジェンス
企業買収や投資において、対象企業の事業に関する安定性・成長性・継続性などを確認するために行うデューデリジェンスを「ビジネスデューデリジェンス」といいます。
ビジネスデューデリジェンスを通じて、対象企業の事業が将来的に成功する可能性を評価できるからです。
ビジネスデューデリジェンスで調査する具体的な項目は以下のとおりです。
- 市場規模・成長率
- 競合状況
- 顧客層
- 製品・サービス
- 収益モデル
- 経営戦略
上記の項目は、M&Aや投資の意思決定において重要な役割を果たします。
調査結果に基づいて、買収価格や投資金額を決定したり、買収・投資を見送ったりする判断材料としましょう。
セルサイドデューデリジェンス
セルサイドデューデリジェンスとは、企業売却を検討している企業側が行うデューデリジェンスです。
セルサイドデューデリジェンスをすると、自社の強みや弱みを把握できるため、買収候補者に対してより有利な条件で売却するための情報が整理できます。
セルサイドデューデリジェンスの具体的な項目は次のとおりです。
- 企業価値
- 財務状況
- 法務リスク
- 人事課題
- ITインフラ
セルサイドデューデリジェンスで買収候補者からの質問に迅速かつ正確に回答できるよう準備しておくことで、売却プロセスをスムーズに進められます。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスとは、企業買収や投資において対象企業の財務状況を分析することです。
財務デューデリジェンスは対象企業の財務健全性を評価できるため、将来の収益性を予測しやすいです。
具体的な調査項目は以下のとおりです。
- 過去数年間の財務諸表
- 収益性
- 資産・負債
- キャッシュフロー
- 将来の財務予測
財務デューデリジェンスは、M&Aや投資の意思決定において買収価格や投資金額を決定する重要な根拠となります。
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスとは、企業買収や投資において対象企業の人材状況を調査することです。
人事デューデリジェンスをすることで、対象企業の人材の質や潜在能力を評価できるため、買収後の経営統合や事業運営に影響を与えるリスクが分析できます。
具体的には以下の項目を調査します。
- 人材構成
- 従業員満足度
- 報酬制度
- 人材育成制度
- 労務リスク
人事デューデリジェンスは、M&Aや投資の成功確率を高めるために、近年重要性が高まっているデューデリジェンスの一つです。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスとは、企業買収や投資において対象企業の法務状況を調査することです。
対象企業が抱える法務リスクを評価できるため、買収後の経営統合や事業運営に影響を与える可能性のある問題点を特定できます。
具体的にデューデリジェンスする項目は次のとおりです。
- 訴訟リスク
- 契約書
- 許認可
- 知的財産権
- 労働問題
法務デューデリジェンスは、M&Aや投資の失敗を回避するためにとても重要な役割を果たします。
人権デューデリジェンス
近年、企業は人権侵害問題への対応が求められているため、企業買収や投資においても人権デューデリジェンスが重要視されています。
人権デューデリジェンスを通じて、対象企業が人権侵害に関与していないかどうかを評価することで潜在的なリスクを特定します。
人権デューデリジェンスの調査項目は以下のとおりです。
- 児童労働
- 強制労働
- 差別
- 安全衛生
- 労働組合活動
人権デューデリジェンスは、企業の社会的責任を果たすために不可欠なため、企業イメージやブランド価値の向上にもつながります。
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスとは、企業買収や投資において対象企業のIT資産やシステム状況を調査することです。
ITデューデリジェンスは対象企業のIT資産の価値を評価できるため、買収後のシステム統合や事業運営に必要なIT投資額などが算出できます。
具体的な調査項目は以下のとおりです。
- ITシステムの構成
- セキュリティ対策
- データ管理
- システム開発体制
- IT投資計画
ITデューデリジェンスはM&Aや投資の成功確率を高められるため、買収後のITコストを削減するために役立ちます。
デューデリジェンスの手順
企業買収や投資においてデューデリジェンスは、リスクを評価して意思決定を行うための重要なプロセスです。
下記では、デューデリジェンスの手順を4つのステップに分けて解説します。
デューデリジェンスは専門知識や経験が必要なため、専門家のサポートを受けることを検討しましょう。
資料開示・事前調査
資料開示・事前調査はデューデリジェンスの最初のステップで、対象企業の経営状況や法務状況を把握するための重要な調査です。
まず必要な資料のリストを作成します。一般的にデューデリジェンスに必要な資料は以下のとおりです。
- 財務諸表
- 契約書
- 訴訟記録
- 許認可
- 知的財産権
- 労働関係資料
- 環境関係資料
上記に挙げた資料を対象企業に開示要求します。資料は紙ベースだけでなく、電子データでも提供してもらいましょう。
収集した資料を漏れなく確認して、資料に不備や矛盾があれば対象企業に説明を求めます。
資料だけでは分からない情報がある場合は、インターネットや業界関係者から情報収集することが大切です。
事前調査のポイントは次のとおりです。
- 資料はできるだけ早く、できるだけ多く収集する
- 資料は正確性と最新性を確認する
- 不明点は必ず対象企業に確認する
事前調査は広く深く行うようにしましょう。
開示資料の分析
開示資料の分析は、収集した資料に基づいて対象企業の強みや弱み、リスクなどを分析する重要なステップです。
分析には財務諸表分析や比率分析、比較分析、SWOT分析など、さまざまな手法を用います。
開示資料の分析では、主に以下の内容を分析します。
分析名 | 分析内容 |
財務分析 | 収益性、資産状況、キャッシュフローなど |
法務分析 | 訴訟リスク、契約上のリスク、法令遵守状況など |
市場分析 | 対象企業が置かれている市場環境、競争状況など |
人事分析 | 従業員の年齢構成、スキルレベル、離職率など |
経営分析 | 経営陣の経歴、経営戦略、リスク管理体制など |
分析は過去のデータだけでなく、客観的かつ定量的なデータに基づいた将来の見通しついてもわかりやすくまとめましょう。
インタビュー等の実施
デューデリジェンスでのインタビュー等の実施は、資料分析だけではわからない情報を得るために、対象企業の経営者や従業員へのインタビューを行うことが重要です。
インタビューでは、事前に準備した質問リストに基づいて質問を行います。質問内容は、分析項目やインタビュー対象者によって異なります。
インタビューの対象者は以下のとおりです。
対象者の役職 | 質問内容 |
経営者 | 経営戦略、事業計画、リスク管理体制など |
財務担当者 | 財務状況、資金調達計画、税務状況など |
営業担当者 | 市場環境、競合状況、顧客ニーズなど |
技術担当者 | 技術力、製品開発計画、知的財産権など |
人事担当者 | 従業員のスキルレベル、離職率、労務管理など |
デューデリジェンスの対象企業にインタビューをする際は、事前にアポイントを取ったり質問を具体的かつ明確にしたりしましょう。
質問への回答は、あとで確認するために録音しておくことが大切です。
結果確認・検討
結果確認・検討は、収集した情報に基づいたデューデリジェンスの結果から、買収や投資を行うべきかどうかを検討するステップです。
デューデリジェンスの報告書には以下の項目が記載されます。
- 調査結果:財務状況、法務状況、市場環境、経営状況など
- 分析結果:強みや弱み、リスクなど
- 結論:買収・投資の推奨可否
報告書を受けて買収・投資を検討する際は、以下を考慮する必要があります。
- 買収・投資の目的
- 期待されるシナジー効果
- 買収・投資後の経営統合
- 買収・投資費用
- リスク
デューデリジェンスの報告書は、結論を明確に示して客観的かつわかりやすくまとめましょう。
デューデリジェンスは誰がやるべきなのか
デューデリジェンスは、専門知識や経験が必要な作業のため、誰がやるべきか悩むところです。
デューデリジェンスの対象となる企業の規模やリソース、専門性、複雑性などを考慮して決定する必要があります。
下記では、デューデリジェンスは誰がやるべきなのかについて4つの選択肢を紹介します。
自社で内製化する
デューデリジェンスは誰がやるべきなのか検討する際の選択肢に、自社で内製化する方法があります。
内製化することで、専門家への費用を節約できるというメリットがある一方で、専門知識や経験を持った人材が必要となるため人材育成や時間コストがかかります。
例えば、10億円規模の企業買収を行う場合、外部の専門家に依頼すると数百万円〜数千万円の費用がかかるのです。一方、自社で内製化できれば、人材育成や時間コストはかかりますが専門家への費用を節約できます。
自社でデューデリジェンスを内製化するかどうかは、企業の規模やリソース、専門性、複雑性などを考慮して決定する必要があります。
外部の専門家に任せる
デューデリジェンスは、外部の専門家に任せるとよいでしょう。
外部の専門家は、専門知識や経験を活かした効率的な調査ができる一方で、費用がかかるというデメリットがあります。
例えば、数百億円規模のM&Aを行う場合、複雑な法務調査や財務分析が必要となるため、専門知識や経験を持つ専門家に任せることで、より効率的で正確な調査ができます。
外部の専門家にデューデリジェンスを任せることで、専門性の高い分析結果を得られるため、組織のリソースをより効果的に使用できます。
自社と専門家で分担する
デューデリジェンスは、自社のリソースと外部の専門家の知識を組み合わせて分担できます。
自社ではビジネスの運営に関する深い理解を持っている一方で、外部の専門家は、特定の技術的な専門知識や自社が持ち合わせていない分野での経験があります。
互いの長所を組み合わせることで、見落とす可能性のあるリスクを軽減できるのです。
分担してデューデリジェンスを行うことで、内部の洞察と外部の専門知識を活かした、総合的かつ多角的な評価ができるため、最もバランスの取れた調査が行えるでしょう。
デューデリジェンスの注意点
デューデリジェンスはM&Aの成功確率を高めるために不可欠な調査ですが、調査方法や情報管理に不備があると、思わぬリスクを招く可能性があります。
ここでは、デューデリジェンスを成功させるために注意すべき点を3つ紹介します。
リスクを最小限に抑えて、M&Aを成功に導くことができるでしょう。
情報の管理を徹底する
デューデリジェンスでは、財務情報、顧客情報、技術情報など、対象となる企業に関するさまざまな情報を取り扱うため、管理を徹底する必要があります。
もし情報漏洩をしてしまうと、企業にとって大きな損害を与えるからです。
情報管理を徹底するための具体的な対策は以下のとおりです。
- アクセス権限の管理:情報を閲覧できる者を最小限に抑えてアクセス権限を厳格に管理する
- 情報の持ち出し制限:USBメモリやクラウドストレージなどの外部記憶媒体への情報の持ち出しを制限する
- 情報の暗号化:情報を暗号化することで万が一情報が漏洩しても悪用を防ぐ
- 情報管理体制の構築:情報管理に関する社内ルールを整備して従業員教育を行う
情報管理を徹底することで、M&Aのスムーズな推進と企業の信頼性向上につながります。
M&A規模に合った範囲で行う
デューデリジェンスは、M&A規模に合った範囲で行うようにしましょう。
調査範囲が広ければ広いほどより詳細な情報を得られますが、調査範囲が広がれば時間とコストがかかってしまいます。
M&A規模に合った範囲を決める際のポイントは以下のとおりです。
- M&Aの目的を明確にする
- リスクの程度を評価する
- 調査対象となる項目を絞り込む
- 適切な調査方法を選択する
M&A規模に合った範囲で行うためには、専門家チームを編成して徹底的な調査を行うことが重要です。
売り手側は積極的に買い手側に情報提供をする
M&Aにおいて、売り手側は積極的に買い手側に情報提供を行うことが重要です。
情報提供が不足していると、買い手側はデューデリジェンスを十分に行うことができず、リスクを見逃してしまう可能性があるからです。
情報を提供する際のポイントは次のとおりです。
- 情報を正確に伝える
- 隠れたリスクや問題点を隠さない
- 買い手側の質問に迅速かつ丁寧に回答する
- 買い手側が求める情報をすべて提供する
売り手側は買い手側が求める情報をすべて提供する義務はありませんが、積極的に情報提供を行うことで、M&Aを円滑に進められます。
買い手側とのコミュニケーションを密に取るようにしましょう。
まとめ:M&A成功の鍵「デューデリジェンス」は専門家に任せよう!
M&Aを行う企業にとってデューデリジェンスは、M&Aの成功確率を高めるための重要な調査です。
しかし、デューデリジェンスには、専門知識や経験が必要で時間も労力もかかるため、多くの企業は専門家に任せることが多いです。
専門家は、豊富な知識と経験に基づいて、効率的かつ正確な調査を実施できます。また、客観的な視点からリスクを評価することで、適切なアドバイスを提供できます。
M&Aを成功させるためには、自社の内製化や分担を検討するのではなく、信頼できる専門家に任せることが成功の確率を高められるのです。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
- 「納得感」と「満足感」の高いサービス
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