「m3.com」を中心とするプラットフォームの運営をしている企業エムスリー株式会社 (M3, Inc.)。この6年で株価が10倍になるなどの近年急成長を遂げています。しかし、今期の決算では、利益が減少してしまいました。そこにはどのような背景があるのでしょうか。
今回の記事では、エムスリーの今期決算情報や今期決算で利益率が減少した理由、これまでのM&Aの歴史や考え方について解説します。
目次
エムスリーの今期決算から見る経営状況
まずは、エムスリーの今期決算から見てみましょう。エムスリーの第3四半期決算短信は以下の通りです。
- 連結経営成績(累計)
2023年3月期第3四半期 | 2022年3月期第3四半期 | 前年比 | |
売上高(百万円) | 175,155 | 154,169 | 13.6 % |
営業利益(百万円) | 58,734 | 84,627 | △30.6% |
税引前利益(百万円) | 60,249 | 85,177 | △29.3% |
四半期利益(百万円) | 41,844 | 58,535 | △28.5% |
親会社の所有者に帰属する 四半期利益(百万円) | 39,279 | 56,169 | △30.1% |
四半期包括利益合計額(百万円) | 50,272 | 59,737 | △15.8% |
基本的1株当たり四半期利益(円銭) | 57.86 | 82.75 | ー |
希薄化後1株当たり四半期利益(円銭) | 57.82 | 82.68 | ー |
- 連結財政状態
2023年5月期第3四半期 | 2022年3月期 | |
資産合計(百万円) | 380,726 | 345,981 |
資本合計(百万円) | 263,954 | 125,355 |
親会社の所有者に帰属する持分(百万円) | 290,744 | 257,840 |
親会社所有者帰属持分比率(円銭) | 76.4 | 74.5 |
1株当たり親会社所有者帰属持分(円銭) | 426.79 | 378.75 |
- セグメント別売上
セグメント | 利益 | 2022年3月期第3四半期連結累計期間(百万円) | 2023年3期第3半期連結累計期間(百万円) | 比較増減 | |
メディカルプラットフォーム | 売上収益 | 64,672 | 69,763 | +5,091 | +7.9% |
利益 | 30,795 | 32,087 | +1,293 | +4.2% | |
エビデンスソリューション | 売上収益 | 16,188 | 20,601 | +4,413 | +27.3% |
利益 | 3,844 | 6,048 | +2,204 | +57.3% | |
キャリアソリューション | 売上収益 | 11,024 | 11,459 | +435 | +3.9% |
利益 | 4,027 | 4,199 | +172 | +4.3% | |
サイトソリューション | 売上収益 | 25,657 | 27,530 | +1,873 | +7.3% |
利益 | 4,554 | 3,229 | △1,324 | △29.1% | |
海外 | 売上収益 | 37,860 | 47,261 | +9,402 | +24.8% |
利益 | 41,473 | 13,924 | △27,549 | △66.4% | |
その他エマージング事業群 | 売上収益 | 2,463 | 2,435 | △28 | △1.1% |
利益 | 1,258 | 366 | △892 | △70.9% | |
調整額 | 売上収益 | △3,696 | △3,895 | ー | ー |
利益 | △1,323 | △1,119 | ー | ー | |
合計 | 売上収益 | 154,169 | 175,155 | +20,986 | +13.6% |
営業利益 | 84,627 | 58,734 | △25,893 | △30.6% |
出典:2023年3月期 第3四半期決算短信 [IFRS]|エムスリー株式会社
この決算書からも営業利益が昨年よりも低く、その割合は特に海外事業で低いことがわかります。
成長を続けるエムスリーが利益減?
エムスリーは、近年急成長を遂げている企業の1つです。過去7年間毎年20%〜40%の利益を上げています。これは、とても早いスピートで成長しているといって良いでしょう。
創業者は元マッキンゼーの谷村格氏です。社員の平均年齢も若く、30代の社員が活躍していると言われており、日本屈指の優良企業でした。
しかし、今期の営業利益は昨年比で−30.6%、税引前利益は−29.3%、四半期利益は−28.5%となっています。セグメント別に見てみると海外事業での利益減の割合が大きく−66.4%となっています。果たして、そこにはどのような背景があるのでしょうか。
エムスリー今期決算が利益減になった理由とは?
エムスリーの今期決算書の中に、以下のような記載があります。
セグメント利益は、売上収益の増加はあったものの、中国にて事業を運営する子会社を傘下に持つMedlive(現:持分法適用関連会社)が香港証券取引所に上場したことに伴う利益を前年同期に計上したことにより、13,924百万円(前年同期比66.4%減)となりました。
出典:2023年3月期 第3四半期決算短信 [IFRS]|エムスリー株式会社
今期の利益が66.4%減と大きくなってしまった理由はこのMedliveが関係しているのです。この章ではこれについて詳しく解説します。
中国IPO関連が関係
エムスリーの持分法適用関連会社にMedlive Technology Co., Ltd.という中国の会社があります。持分法適用関連会社とは、連結財務諸表で持分法の適用対象となる関連会社です。
その企業の議決権の所有比率が20%以上〜50%未満の会社を指し、非連結子会社という位置づけになります。
エムスリーは2021年にこのMedliveを香港証券取引市場へ新規株式(IPO)として上場させました。これらの利益は2022年に計上されてたため、2022年は通常よりも大きな利益を上げていたのです。
会社の経営自体は順調
上記の理由から、2023年度の利益率は2022年度よりも下がり、利益が低下したかに見える計上となりました。しかし、実際のところ、利益率は減少しておらず、Medliveに関する利益を除いた場合、ここ何年かの成長率と同じように30%前後で成長しています。
出典:当社連結子会社の支配喪失に伴う利益の計上に関するお知らせ|エムスリー株式会社
エムスリー「Medlive」の関係とは?
Medliveは、医脈通科技(2192.HK)と呼ばれるプラットフォームを運営している会社です。2013年にエムスリーが50%の出資をしたことから両者の関係は始まり、それ以降は戦略的提携関係を続けています。残りの50%はTiantian Co., Limitedという会社が出資していることからMedliveはエムスリーとTiantianの合弁会社でした。
そして、このMedliveの新規上場を受け、合弁契約を失効させ、エムスリーの連結子会社であったMedliveは、持分法適用関連会社に変わることとなったのです。
しかし、その後もライセンス契約を通じ、協力関係を続けていくとされています。
エムスリーの会社概要
次にエムスリーの会社概要について見てみましょう。
エムスリーは2000年に谷村格氏が創業した企業で医療関連の多様なプラットフォームを運営しているベンチャー企業で、ソニーグループの持分法適用関連会社です。
日経225銘柄にも選ばれており、2017年には世界で最も革新的な成長企業ランキングで世界5位に選出されており、多くの場所で注目されています。
エムスリーの事業内容
エムスリーの主な事業内容は、インターネットを利用して医療関連のサービスを提供することです。
- メディカルプラットフォーム
- エビデンスソリューション
- キャリアソリューション
- サイトソリューション
- エマージング事業
- 海外事業
エムスリーの事業は以上6つのセグメントに分かれており、中でもメディカルプラットフォームと海外事業が主軸となり利益を上げています。
それぞれの事業内容の詳細を見てみましょう。
メディカルプラットフォーム
メディカルプラットフォームはm3.comと呼ばれる医師向けポータルサイトの運営が中心です。「m3.com」は国内の医療従事者9割のシェアを誇っています。
プラットフォーム上で会員の医師は主体的に情報を受取ることができ、医療向けニュースや求人情報などを閲覧できます。さらに、医療情報以外のライフサポートを提供する「QOL君」の運営やメディカルマーケターの提供、マーケティング支援サービスなども展開しています。
エビデンスソリューション
エビデンスソリューションは、治験に関する施設や対象の患者を発見するための支援サービス、「地検君」を軸に臨床研究支援サービスなど、治験管理全般の管理や運営を担っています。
キャリアソリューション
キャリアソリューションは、医師と薬剤師向けに求人支援サービスの展開をしています。
サイトソリューション
サイトソリューションでは、医院の新規開業や不動産紹介などの経営サポートなど、医療の運営をサポート・コンサルティングするためのサービスを整えています。
エマージング事業
エマージング事業は、新薬や新しい知見方法、AIの開発など、最先端技術を医療者と融合させ、開発の技術を促進します。
海外事業
米国で、医療従事者向けウェブサイト「MDLinx」を運営、その他にも、欧州や中国・ 韓国のアジア圏内でも医師向け医療従事者向けのポータルサイトを運営しています。
エムスリーにおけるM&Aの歴史と傾向
次にエムスリーにおけるM&Aの歴史とその傾向について解説します。まずは近年実施された買収などのM&Aについて見てみましょう。
2018年 | エムスリーのセグメント | 企業名 | 国 |
サイトソリューション | ワイズ | 日本 | |
サイトソリューション | ソフィアメディ | 日本 | |
エビデンスソリューション | Wake Research | アメリカ | |
エビデンスソリューション | 新日本科学SMO | 日本 | |
ー | Pharmacology Research Institutes | アメリカ | |
エマージング事業 | メディギア・インターナショナル | 日本 | |
2019年 | メディカルプラットフォーム | 日本アルトマーク | 日本 |
メディカルプラットフォーム | DailyRounds | インド | |
エビデンスソリューション | EDANZ GROUP JAPAN | 日本 | |
キャリアソリューション | メディカルエージェンシー | 日本 | |
エマージング事業 | Lily MedTech | 日本 | |
サイトソリューション | インディーメディカル | アメリカ | |
サイトソリューション | SaaS | フランス | |
サイトソリューション | ビジョナリーホールディング | 日本 | |
2020年 | キャリアソリューション | NAS Recruitment Innovation | アメリカ |
メディカルプラットフォーム | Manthan | 北米・欧州 | |
エビデンスソリューション | ヒューマ | 日本 | |
サイトソリューション | アイチケット | 日本 | |
サイトソリューション | MonEcho SARL | フランス | |
2021年 | サイトソリューション | 東和産業株式会社 | 日本 |
エマージング事業 | Africa Health Holdings Limited | アメリカ | |
メディカルプラットフォーム | One Health Communications Holdings | イギリス |
エムスリーにおけるM&Aの特徴
エムスリーはこれまで数多くの企業を買収してきました。その買収は国内だけにとどまらず、海外でも数多く実施されています。
エムスリーが未開拓の国へ進出する時、まずは医療従事者のためのサイトシェアを展開・拡大させ、医療会員を多く集めます。その後、それを基盤にM&Aで治験事業や人材派遣、医療機器の販売などへ広げていくのです。
これは、その流れが国内で実施され、成功したことかたら、海外でも同じ流れで拡大させようとする戦略が見えてきます。
M&Aにより海外展開を拡大するエムスリーに今後の期待値は高い
今回の記事では近年優良企業として知られるエムスリーの決算について触れながら、これまでのM&Aの歴史とその考え方について紹介しました。
エムスリーは医療従事者向けにプラットフォームを展開し、それを基盤に他の事業を広げていくと言う戦略のもと事業を拡大させていきました。これは国内だけでなく海外でも同じような戦略をとっています。
今期決算では一見売り利益率が減少してしまったかに見えますが、これは、昨年度に計上した中国のIPOの利益が関係しています。これを加味なかった場合の、成長率はほぼ通常通りで特に問題はなく、まだまだこの勢いは止まることなく成長していくでしょう。
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