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チャイニーズウォールとは?目的や具体例を解説

非公開情報を利用し不当な利益を得るインサイダー取引は重大な金融犯罪として規制されています。

しかし、インサイダー取引で告発された事例は枚挙にいとまがなく、近年では2023年に東証上場企業の元経営陣が逮捕される事件がありました。

このようなインサイダー取引を企業内部で規制しようと設けられた証券業界の自主規制がチャイニーズウォールです。

金融機関に関係ある人であれば誰もが知っている規制ですが、金融業に関わったことがある人以外には馴染みがない用語でしょう。

本記事では、チャイニーズウォールの目的や具体例、関連する事件について解説します。

これを読めば、チャイニーズウォールの重要性を認識し、会社の不正を未然に防ぐことができるでしょう。

チャイニーズウォールとは

チャイニーズウォール(Chinese Wall)の本来の意味は万里の長城です。

万里の長城は北方民族の侵入を防ぐ目的で建設されました。

これが転用され、インサイダー取引を防止する目的で企業内の異なる部門や業務間に情報の流れを制限する仕組みを指します。

特に金融機関で重視され、証券会社におけるチャイニーズウォールとは、内部情報を手に入れる機会のある「引受部門」と株式売買などを行う「営業部門」の間に情報の「壁」を作ることです。

1987年、バブル景気の最中に起こったタテホ化学工業の財テク失敗を契機に証券取引法が改正され、インサイダー取引規制が強化されました。

この際に証券業界の自主規制としてチャイニーズウォールが設けられたのです。

ファイアウォールとの違い

チャイニーズウォールと混同されがちな用語に「ファイアウォール(Firewall)」があります。

ファイアウォール同様に金融業界で重視される規制ですが、これは銀行と証券会社の間に設けられた「防火壁」を指し、「銀証ファイアウォール」とも言われています。

1993年にそれまで銀行と証券の業務が厳格に分けられていたのを規制緩和し、相互参入が可能となりました。

例えば、メガバンクは傘下に銀行と証券を持ち、両業務を行っています。

ファイアウォールにより、銀行が融資業務で得た顧客企業の内部情報が証券の株式売買部門に伝わることで利益相反が起こることを阻止しようとしました。

つまり、チャイニーズウォールが同一企業(証券会社)における「壁」なのに対し、ファイアウォールはグループ傘下の銀行と証券間の「壁」です。

チャイニーズウォールの目的

証券会社を含む金融機関が公正で透明かつ法令順守を実現し、クライアントや市場の信頼を損なわないようにするためにチャイニーズウォールは不可欠です。

ここでは、チャイニーズウォールの具体的な目的を解説します。

情報隔離

チャイニーズウォールの最も基本的な目的は「情報隔離」です。

チャイニーズウォールは同一企業内で異なる業務や部門の社員が特定の情報にアクセスできないようにします。

例えば、証券会社内で株式の売買を担当する営業部門の社員が企業の内部情報を保管する引受部門にアクセスできない仕組みを作ることです。

これにより、営業部門の社員から投資家に企業の機密情報が漏洩し、インサイダー取引に悪用されることが阻止されます。

顧客企業の機密情報を適切に保護することで、情報漏洩を防ぎ、顧客企業のプライバシーが尊重されるのです。

利益相反の管理

同一企業内の利益相反を管理することもチャイニーズウォールの目的の一つです。

例えば、証券会社の引受部門は「顧客企業の利益」を考えます。

一方で営業部門は「投資家利益」を考え、株式を販売するのです。

「顧客企業の利益」と「投資家利益」は、証券会社が引受株を販売することで達成されると考えられます。

しかし、営業部門の社員が引受部門が持つ機密情報に触れ、それが投資家に流れることで、顧客企業の株価に悪影響が及ぶかもしれません。

そうすれば、同一企業内で利益相反が発生します。

このような利益相反を防ぐことも目的の一つに挙げられます。

規制遵守

チャイニーズウォールは証券業界の自主規制ですが、改正証券取引法の目的に合致するように設計されました。

証券取引法で規制されるインサイダー取引は重大な金融犯罪であり、同法は機密情報の保護や利益相反の防止に関する厳格な基準を定めています。

チャイニーズウォールを遵守することで、企業は法的規制やコンプライアンス規制に準拠していることになるでしょう。

規制遵守により、潜在的な法的リスクを回避し、企業ひいては業界全体の信頼を守ることが可能です。

チャイニーズウォールの具体例

同一企業内に設けられた壁であるチャイニーズウォールですが、実際にはどのように運用するのでしょうか。

ここでは、チャイニーズウォールの具体例を解説します。

物理的な隔離

最も想像しやすいのは交流を阻止した部門を物理的に隔離することです。

例えば、証券会社の引受部門と営業部門を異なるビルやオフィスに設置、またはフロアを別にすることです。

しかし、フロアを分けると高いコストになるので、同じフロア内で部屋を分けることもあります。

この場合、営業部門の社員が引受部門に入室できないようセキュリティチェックを実施することが考えられます。

アクセス権の制御

情報システム上でのアクセス権を制御することは有効です。

例えば、社員が顧客法人の情報へアクセスする際に権限を管理、制限します。

同じ情報ファイルに保存されている情報であっても特定の部門に所属する社員には業務遂行に必要な情報へのアクセス権のみ付与され、他の情報からは締め出されます。

例えば、トレーダーやアナリストは顧客企業に関する情報の内、M&A部門が管理する情報にアクセスできないようにされるのです。

情報の共有ポリシー

情報共有に関するポリシーを策定します。

例えば、証券会社の引受部門と営業部門の社員間では情報共有に制限をかけます。

これらの社員間でのメールや電話のやり取りが制限もしくは禁止され、やり取りはすべて監視部門が検閲する仕組みも想定されるでしょう。

また、営業部門の社員と投資家の会話の記録も同様に監視部門に監視され、インサイダー取引に関する情報が混入していないか確認されます。

これらの情報共有ポリシーは社員に共有し、遵守を徹底することが大切です。

倫理規定と教育

企業内倫理規定を策定し、社員に教育を実施します。

銀行や証券会社など金融機関ではコンプライアンスに関する研修が実施されますが、インサイダー取引やチャイニーズウォールに関する研修が含まれます。

適切な倫理規定の策定とトレーニング実施により、社員が適切な行動基準を理解し、現場で実践できることが期待されるのです。

監査とコンプライアンス

社内に設置されたチャイニーズウォールが正しく機能しているのか内部監査やコンプライアンス部門が定期検査、抜き打ち検査を実施します。

検査の結果、チャイニーズウォール関連の自社規定やポリシーが遵守されているか確認することができるのです。

遵守に問題がある場合、規定やポリシーの見直し、追加研修の実施などが検討されます。

情報の匿名化

利益相反が起こり得る部門間で情報が共有される場合、情報自体を「匿名化」することが行われます。

これはその情報に関して「どの企業の情報なのか」、「どの取引に関する情報なのか」といった点が秘匿され、閲覧者が個別の取引を識別できないよう加工された情報です。

「壁」を超えて情報が共有される場合でも匿名化により、チャイニーズウォールの目的を達成することが可能です。

チャイニーズウォールが機能しなかった不祥事

残念ながらチャイニーズウォールが機能しなかった事例を解説します。

壁が機能不全であるため顧客や市場の信頼を損なう結果になってしまいました。

これらの事例を反面教師にして、不正を未然に防ぎましょう。

野村証券

2012年8月、金融庁は野村証券に対し、インサイダー問題への関与を指摘し、行政処分を実施したことを発表しました。

同年10月には日本証券業協会が野村証券に3億円の過怠金を科す処分を公表しています。

これらの処分は野村証券の社員が企業の公募増資情報を取引先に漏らし、インサイダー取引が行われた問題に対するものです。

野村証券は再発防止策をまとめた報告書の中で、営業社員の要請に基づきシンジケート部が公募増資の情報を伝達したことに起因すると検証結果を公表しました。

シンジケート部はインサイダー情報を保有する部門と営業部門の間でチャイニーズウォールの役割を果たす部門であったにもかかわらず、情報伝達に関するルールの未整備のためにチャイニーズウォールが適切に機能しなかった、としています。

この不祥事により、3億円の過怠金と市場からの評価を損なうという事態を招いてしまったのです。

バークレイズ

バークレイズはイギリスの大手銀行です。

2011年にイギリスの金融サービス機構(FSA)がバークレイズの2006年の行動について調査し、最終的にアメリカの金融規制当局と合わせて、総額2億9,000万ポンドもの多額の罰金が課せられ、有名になりました。

この事件はLIBOR(ロンドン市場の銀行間取引金利)に関するものです。

LIBORは米ドル、ユーロ、ポンド、日本円など主要通貨について公表され、デリバティブ取引、債券、ローンなどの参照金利として利用される重要な指標です。

FSAによれば、バークレイズは自社に有利になるようLIBORの操作を試みました。

本来、LIBORを提示する社員とトレーダーの間にはチャイニーズウォールが設置される必要がありますが、2005年から2009年までの4年間に合計257回、トレーダーがLIBOR提示社員に「低い金利」を入力するよう依頼していたそうです。

バークレイズはチャイニーズウォールが機能しなかったので、2億9,000万ポンドの罰金と市場での評価失墜を招きました。

チャイニーズウォールは金融機関の信頼性確保に不可欠

同一企業内で情報の流れを制限するチャイニーズウォールは、インサイダー取引の阻止、ひいては公正な取引の確保と市場からの信頼性確保に不可欠な役割を果たすものです。

物理的、技術的な様々な方法を組み合わせ、チャイニーズウォールを設けることで不正を未然に防ぐことができます。

チャイニーズウォールが正常に機能しないと、行政機関からの多額の罰金や顧客、市場からの評価失墜という事態を招きます。

コンプライアンスが重視される時代では、中小企業でも社内の情報管理にルールを設け、意図せず金融犯罪を犯すことを未然に防ぐ仕組み作りが大切です。

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