少子高齢化や生活の不便などを解決するため、シビックテックが注目を受けています。市民自身がIT技術を使うことで、自治体や地域社会の悩みを解決できる可能性があるのです。使いやすい技術で社会貢献ができれば、地域のあり方が大きく変わるでしょう。
今回はシビックテックに興味がある方のために、その定義や実例を紹介します。記事を読めば、これから導入しようとしている方は活用のヒントを学べるでしょう。シビックテックの社会的な利便性に注目し、適切なやり方を学びましょう。
1.シビックテックの意味とは?
シビックテックとは、IT技術を使った社会貢献活動です。市民の悩みを解決したり、地域社会における生活を前より便利にするために使います。シビックテックのおかげで、地域で住みやすくなったという喜びの声が聞けるでしょう。
もともとは2009年に非営利組織Code for Americaが、世界で初めて本格的にシビックテックに取り組みました。そこから世界中に波及し、現在では日本でもさまざまな技術が提唱されています。日本でも少子高齢化や、地方を中心とした生活の不便な部分などさまざま問題がある状況です。IT技術による問題解決が望まれています。
シビックテックを有効活用すれば、日本社会の生活を向上させられるかもしれません。
2.シビックテック導入のポイント
これから起業したい方には、シビックテックを導入したいという考えもあるでしょう。しかし要点を押さえないと技術開発がうまくいかず、顧客や地域の興味を引きつけられないでしょう。少なくとも次の3つのポイントは守りたいところです。
(1).デジタルを取り入れた地域戦略
シビックテックの要は、デジタルを取り入れた地域戦略です。戦略を考える段階からデジタルを組み込みましょう。テクノロジーを使う場面のうち、主要なものを2~3に絞り、そこで効果を最大化できる方法を考えてください。
具体的には地域の問題を洗い出します。続いて地域ならではの性質や資源、人材などを確かめ、テクノロジーで結びつける方法を考えましょう。
たとえば「カスタマージャーニー」という戦略を使います。顧客やターゲットを想定し、時系列で考え方を分析するという意味です。顧客やターゲットを把握し、その人の悩み解決につなげるために、IT技術を使うという考え方が賢明です。このように要所でIT技術をうまく使えば、地域問題の核心に触れる行動を呼び込めます。
(2).市民が使いやすい技術を活用
シビックテックは、市民が使い慣れた技術を応用するのがベストです。IT技術は複雑なので、市民が使い慣れたものもあれば、多くの人が理解できないものもあります。シビックテックは市民が直接使うこともあるので、認知度が高い技術の応用が合理的です。
ゼロからわざわざシステムを作るのは、コストもかかり、周知に時間がかかるでしょう。それよりも既存の技術に新しい使い方を見出してみませんか。地域の課題を洗いだしたら、そこに市民が使いやすい技術を応用できる可能性を探ってみましょう。
LINEやFacebook、スマートフォンアプリなど多くの市民が使い慣れたIT技術は多いといえます。以上を使って地域問題を解決できる可能性を考えてみませんか。
(3).市民からのフィードバックを生かす
シビックテックは、市民からのフィードバックを生かすことが重要です。市民から前向きな感想をもらえばモチベーションが上がります。一方で問題点を指摘する方もいるでしょう。良い意見と悪い意見の両方をバランスよく聞き入れ、技術向上に役立ててください。
シビックテックの開発には多くの時間がかかると想定されます。構想や開発の段階から市民または専門家の意見を集めることで、方向性がわかるでしょう。積極的に他者から意見を集めることが、良質なテクノロジーを作るポイントです。
3.シビックテックで活躍する5つの分野
シビックテックには5つの活躍分野があります。それぞれの分野のメリットに、IT技術を絡めれば、地域社会への貢献を期待できるでしょう。5つの分野の特徴やシビックテックとの関係性をまとめました。
(1).Government Data(オープンデータの利活用)
オープンデータとは、誰でも見られるように公開された資料です。内閣府や厚生労働省などでも、統計などのデータがこのような形になっています。こちらから社会の実情を知れば、シビックテックの開発に役立つでしょう。
公的なデータは入念な調査の結果なので、社会のありのままを示しています。地域別のデータもあるので、活用によって問題点を洗い出せるでしょう。新しい技術や転用を考えている方なら、地域の問題解決に結びつけるきっかけを見つけられるかもしれません。
IT技術で誰かの役に立ちたいと思ったら、まずはオープンデータからチェックしてみませんか。
(2).Collaborative Consumption(P2Pシェア)
P2Pとは通信方式の一種です。不特定多数の端末同士で、ひとつのデータファイルを共有できます。場所や国を問わず同じデータにアクセスできるのが特徴です。スマートフォンやパソコンさえあればどこからでも情報を見られます。
P2Pは、地域の人々が共通認識を持つうえで大切です。たとえばある都道府県になる空き家の数や分布情報をチェックすれば、活用したい方の役に立ちます。空き家を使って新しい交流の場や、飲食などのサービスをしたい方がいるからです。
クラウドのようなデータシェアのおかげで、問題解決に向けた地域の連帯感が高まるかもしれません。
(3).CrowdFunding(クラウドファンディング)
クラウドファンディングとは、企画の発案者がプレゼンを進め、賛同者から資金を調達することです。2000年代にアメリカで生まれ、現在では日本でも盛んに取り組まれています。プレゼンに共感してお金を集めれば、シビックテックの開発に役立つかもしれません。
クラウドファンディングの運営側として、シビックテックとして役に立つ方法があります。たとえば複数の地域における共通の問題に注目しましょう。それをテーマにしたクラウドファンディングの企画を作れば、志望者や資金を出す顧客を集められる可能性があります。
このようにクラウドファンディングは、新しいシビックテックを生み出すきっかけになるでしょう。
(4).SocialNetWorks(ローカルSNS)
現代社会ではさまざまなSNSがあります。地域密着型のローカルSNSによって、さまざまな方に情報を拡散できます。多数の共感を得れば、問題の解決や活性化につながるかもしれません。
多くのユーザーに地域の問題点や魅力を発信してもらうSNSを打ち出してもよいでしょう。SNSは地域だけでなく、国の垣根を超えて情報共有されます。発信者が話題になれば、それだけで地域活性化も視野に入るのです。
SNSからシビックテックを宣伝したり、シビックテックとして地域の魅力を伝えるSNSを作ったりなど、さまざまな可能性があります。
(5).CommunityOrganizing(コミュニティエンゲージメント)
コミュニティエンゲージメントは共同体における深い関係性です。シビックテックを地域密着型のサービスに結びつければ、活性化を望めます。地域ならではの問題の共有でも、エンゲージメントが重要です。
たとえばアメリカのマサチューセッツ州ボストンでは、Code for Americaが地元と行政サービスの結びつきを担っています。12歳~25歳の青少年が市の予算の使い道を決める「ユース・リード・チェンジ」や、チャイナタウンをテーマとしたセカンドライフ系ゲームを通して、地域の課題改善に努める企画などが話題になりました。
このように議論やゲームの場をサイバー空間に作り、地域をよく知ってもらおうという取り組みも望まれるでしょう。
4.シビックテックの実例
この章ではシビックテックの実例を紹介します。全国のマンホールの写真を投稿するSNSや、ヒグマの出現情報を共有するサイトなど、ユニークなものが目白押しです。実例から使い方を参考にするとよいでしょう。
(1).マンホール投稿SNS
シンガポールのNPO法人「Whole Earth Foundation」とマンホールの蓋のメーカーである日本鋳鉄管が共同で企画したSNSです。スマートフォンアプリを通してマンホールの写真を撮影するもので、優秀作品には賞品が用意されました。直近では2021年11月20日~12月12日まで開催されました。
近年の日本ではマンホールの老朽化が問題になっていて、画像収集を通してトラブルの発見や修復に努める狙いがあります。マンホールの欠陥により通行人や自動車の事故が起きるのを防ぐためでしょう。新しいローカルSNSを通して、交通問題を解決する狙いがうかがえます。
(2).ひぐまっぷ
北海道を拠点とする「森のくまさんズ」が打ち出したシビックテックです。ICTを使ってヒグマ出没情報を共有します。山間部を中心に動物に畑を食い荒らされたり、襲われた人がケガをするケースがあるため、そうした問題を解決する狙いでしょう。
収集情報はオープンデータになり、民間団体がLINE botによる共有体制を作っているところです。以上からP2P的側面が発揮されるでしょう。山間部ならではの脅威から市民を守る動きも見逃せません。
(3).Code for OSAKA フェリーハッカソン
Code for OSAKAでは2017年に大阪港の開設150年を記念し「フェリーハッカソン」を開きました。5~6人からなるチームが複数参加し、船旅やフェリー、一人旅などに関するサービスを発案する企画です。
イベント情報サイト「connpass」を通して、フェリーハッカソンに申し込める仕組みでした。地域密着の新しいイベントのために、全国から参加者をつのる点ではコミュニティエンゲージメントの側面があります。また参加者対象にエンジニアが含まれており、この企画から新たなシビックテックが生まれる可能性もあるでしょう。
(4).復興支援プラットフォーム「sinsai.info」
「sinsai.info」は、2011年に東北地方を中心に起きた東日本大震災の4時間後に開設されたプラットフォームです。地震や津波などによる被災地の復興支援を目的としており、SNSからの情報をマップに記します。
プラットフォームはオープンソースのソフトウェアを使っています。SNSからの情報を扱う点でローカルSNSのような側面もありますし、情報共有からP2Pの要素も見られるでしょう。これから有事が起きたときも、オープンソースやSNSの特性を生かした積極的な情報発信が望まれます。
(5).さっぽろ保育園マップ
さっぽろ保育園マップは2014年に登場した子育て支援アプリで、Code for Sapporoのパパママまっぷチームが開発しました。アイコンを押せば保育園や幼稚園などの場所だけでなく、開園時間や空き状況などの詳細をチェックできます。
行政のオープンデータの共有という意味で、P2P的側面が強いでしょう。他にも地域の子育て世代を安心させるため、ローカルエンゲージメント的な効果も期待できます。誰もが子育てを体験しうるだけに、シビックテックとしての需要は高いといえます。
5.まとめ
近年はIT技術の発達により、さまざまなシビックテックが展開されています。地域密着型もありますが、サイバー空間を生かして幅広い地域の問題を解決できるシステムも多い印象です。
今回の記事で紹介した事例を参考に、ターゲットを決めて、その方たちの役に立つシステムを開発しましょう。市民が使いやすくて喜ぶ仕組みを念頭に、新しいアイデアを考えてみてください。