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取締役のスキルマトリックスとは? 重要性の解説、開示事例や見方の紹介

近年、取締役のスキルマトリックスを開示する上場企業が増加傾向にあります。
2020年12月末時点でスキルマトリックスを開示している企業は125社あり、2019年12月末から約80%増加しています。

今回は取締役のスキルマトリックスに焦点を当て、スキルマトリックスの概要、重要性、開示事例や見方を紹介していきます。

参考: 日本経済新聞 取締役の技能、一覧表で開示8割増 20年 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD283K80Y1A320C2000000/

1. スキルマトリックスとは

スキルマトリックスとは、経営陣が経験や知識が一目で分かる一覧表のことです。東京証券取引所は、上場企業に対して、2021年12月末までにコーポレートガバナンス報告書に盛り込んで提出することを求める予定です。
スキルマトリックスを開示しない場合には、開示しない理由を開示する必要があります。

スキルマトリックスを開示する目的は以下の2点です。

  • 各取締役の果たす役割が分かりづらい点を補う
  • 海外投資家からの要望がある

(1) 各取締役の果たす役割が分かりづらい点を補う

上場企業に投資している場合、定時株主総会の招集通知が送られてきますが、取締役の選任議案を目にする機会が多くなります。それぞれの取締役の経歴は確認することができますが、スキルや専門性の記載はなく、経歴から個人投資家自身が読み解く必要があります。

会社の経営を任される取締役選任議案は重い意思決定なのですが、現状の制度では、各取締役の果たす役割が分かりづらいという問題があります。スキルマトリックスが開示されることにより、経営陣のバランスが取れているかなど、時間をかけずに全体を俯瞰して見ることができるようになります。

(2) 海外投資家からの要望がある

海外投資家は、取締役の経歴を見ても深く理解することは難しいという問題があります。

例えば、日本人であれば誰でも知っているような会社でも、海外の投資家から見るとあまり知られていないことはよくあります。その点、スキルマトリックスであれば、社名などの固有名詞は登場せず、客観的なスキル名だけで、各取締役がどのような人物なのかをある程度把握することができます。

スキルマトリックスの開示が制度化されたのは、海外投資家からの強い要望があったことが理由の一つになっています。

2. スキルマトリックスの内容

スキルマトリックスは、縦軸に各取締役、横軸にスキルの内容を表にまとめたものです。
横軸のスキルには、大きく経営一般に共通するスキル、自社の事業特性に合わせたスキルの2種類に分けることができます。

経営一般に共通するスキルとは、以下のようなスキルです。

  • 企業経営
  • 営業
  • マーケティング
  • 財務・会計
  • 法務
  • 開発技術

自社の事業特性に合わせたスキルは、自社の中期経営計画などから重大な課題を解決するために必要なスキルです。例えば以下のようなスキルが挙げられます。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)
  • イノベーション
  • 人財開発

3. スキルマトリックスの作成手順

スキルマトリックスは、具体的に以下のような手順で作成することができます。

  1. 横軸のスキル決定
  2. スキルの定義、○が付くための要件を明確化
  3. 各取締役への当てはめ
  4. 取締役会や経営会議などでの承認

(1) 横軸のスキル決定

スキルマトリックスの作成手順の中でも、横軸のスキル決定が最も重要です。
自社の中期経営計画などから、計画達成のために必要なスキルを網羅的に洗い出します。その中でも重要なスキルから優先順位をつけて設定していく必要があります。

(2) スキルの定義、○が付くための要件を明確化

横軸のスキルが決定した後は、スキルの定義、要件を明確にしておきます。単に「企業経営」とだけ記載するだけでは、どのようなスキルを持っていれば○が付くか分からず、あいまいなスキルマトリックスになってしまいます。

例えば、上場企業の部長以上を経験など客観的で分かりやすい指標を設定しておく必要があります。

(3) 各取締役への当てはめ

横軸のスキルが設計した後は、各スキルの要件に照らして各取締役のスキルを評価していくことになります。(2)の段階で明確な基準ができていれば、特段論点なく当てはめられるはずです。

(4) 取締役会や経営会議などでの承認

スキルマトリックは最終的には、取締役会などの機関で承認されるべき内容です。
IRや広報、総務部といった事務方が作成したスキルマトリックス案を機関決定した後に、株主総会の招集通知等に開示されることになります。

4. スキルマトリックスの開示事例

スキルマトリックスを開示している企業○つの事例を確認していきましょう。

  • ヤマハ発動機
  • キリンホールディングス
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ
  • KDDI

(1) ヤマハ発動機

ヤマハ発動機のスキルマトリックスは、縦軸の取締役は今回の取締役候補者8名(うち社外取締役6名)を対象に開示されています。
横軸のスキルは以下のとおり7つ設定されています。

  • 企業経営
  • 法務・リスクマネジメント
  • 財務・会計
  • IT・デジタル
  • 製造・技術研究開発
  • マーケティング・営業
  • グローバル

最も多くスキルの○が付いているのは、中田氏の5つです。法務・リスクマネジメント、財務・会計以外は○が付いており、幅広く経営に必要なスキルを身につけていることが開示されています。

また、スキルの中でも「グローバル」については、取締役候補者8名の全員に○が付いており、ヤマハ発動機の経営上、グローバルのスキルは必要不可欠であることが分かります。

参考:ヤマハ発動機 第197期定時株主総会召集ご通知 P18 https://www.yamaha.com/ja/ir/shareholder_info/pdf/197shareholders.pdf

(2) キリンホールディングス

キリンホールディングスのスキルマトリックスは、取締役候補者12名に加え、執行役員8名も開示の対象都なっています。横軸のスキルは以下のとおり10つ設定されています。

  • 企業経営
  • ESG・サステナビリティ
  • 財務・会計
  • 人事・労務・人材開発
  • 労務・コンプライアンス・リスク管理
  • SCM
  • ブランド戦略・マーケティング・営業
  • 海外事業
  • R&D・新規事業・ヘルスサイエンス
  • ICT・DX

各取締役、執行役員に満遍なくスキルに○が付されており、最も多くスキルを持っている候補者でも6つまでとなっています。

キリンホールディングスの特徴として、二つ目のスキルにESG・サステナビリティが設定されていることが挙げられます。また、ヘルスサイエンスやICT・DXなど企業課題に直結した企業特有のスキルを設定していることも分かります。

参考:キリンホールディングス 第182回定時株主総会召集ご通知 P11 https://www.kirinholdings.co.jp/irinfo/stock/pdf/182nd_notice.pdf

(3) 三菱UFJフィナンシャル・グループ

三菱UFJフィナンシャル・グループのスキルマトリックスは、取締役候補者16名が対象です。横軸のスキルは少なく設定されており、以下の4つしかありません。

  • 企業経営
  • 金融
  • 財務会計
  • 法律

各取締役候補者に1つしか○が付されていないことが特徴です。また、スキルマトリックスの横軸にスキルに加えて、上場企業の兼職数も開示されています。

三菱UFJフィナンシャル・グループは、グループ経営を行なっており、グループ内に上場企業も多く、兼職数を開示することがガバナンス上、有用であると考えられるためです。

また、取締役候補者16名のうち、社外取締役が9名、女性が4名であることも説明しており、取締役会の独立性・多様性を重視していることが読み取れます。

参考:三菱UFJフィナンシャル・グループ 第16回定時株主総会召集ご通知 P7 https://www.mufg.jp/dam/ir/stock/meeting/pdf/convocation2106_ja.pdf

(4) KDDI

KDDIのスキルマトリックスは、社外取締役候補者8名が開示の対象となっています。横軸のスキルは三菱UFJフィナンシャル・グループよりさらに少なく、以下の3つです。

  • 上場会社における社長経験者
  • 情報通信分野の専門性を有する者
  • 法律・会計・行政の専門性を有する者

KDDIは社外取締役のみのスキルマトリックスの開示であり、社内取締役は現状開示されておりません。スキルマトリックスのスキル内容もある程度まとまりをもって設定していることからスキルの絶対数は少なくなっています。

KDDIの社外取締役は、上場企業の社長経験者が3名含まれていることが分かり、経験豊富なメンバーが候補になっていることが分かります。また、情報通信分野や行政の専門性がスキルに含まれていることもKDDIのスキルマトリックスの特徴の一つです。

参考:KDDI 第37期定時株主総会召集ご通知 P10 https://www.kddi.com/extlib/files/corporate/ir/shareholder/meeting/20210623/pdf/soukai37_shosyu.pdf

5. まとめ

以上のように、今回はスキルマトリックスの概要、作成手順、実際の開示例を見てきました。実際に開示している企業は現状125社しかありませんが、今後の制度化を考えると今後、開示例が飛躍的に増加していくことが予想されています。

125社の事例の中で、ヤマハ発動機、キリンホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、KDDIの4社の事例を確認してきました。
各社とも事業セグメントが異なることもあり、スキルマトリックスの横軸は特色あるものとなっています。また、スキルマトリックスの数においても、キリンホールディングスは10つのスキルを設定している一方、KDDIは3つのスキル設定と幅があることが分かります。

スキルマトリックスは作成することがゴールとならずに、企業経営のため、取締役スキルセットを改めて考え直し、更なる企業価値向上のために活かすツールとすることが重要です。

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