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指名委員会等設置会社とは? わかりやすく解説します

近年、上場企業に対してコーポレートガバナンスの強化を求める声が年々強くなってきています。指名委員会等設置会社は、通常の株式会社よりもコーポレートガバナンスが強化された組織形態です。

今回は指名委員会等設置会社について、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説していきます。




## 1. 指名委員会等設置会社とは
指名委員会等設置会社とは、以下の3種類の委員会を設置した会社形態です。
- 指名委員会
- 報酬委員会
- 監査委員会

### (1) 指名委員会とは
指名委員会とは、株主総会に提出する取締役の選任、解任に関する内容を決定します。また、取締役だけでなく、会計参与設置会社であれば、同様に会計参与の選任、解任に関する内容決定を行います。

指名委員会によって提出された取締役に関する議案内容は、株主総会の普通決議によって決定します。

指名委員会の人選は、取締役会で選任、3名以上の取締役で構成、うち過半数は社外取締役という条件があります。

### (2) 報酬委員会とは
報酬委員会とは、取締役、執行役員、会計参与の報酬等の内容に関する方針と、個人別の報酬を決定することができます。

報酬等の内容に関する方針とは、固定報酬、業績連動報酬、株式報酬などの種類や、報酬の計算方法です。

報酬委員会の人選は、指名委員会と同様、取締役会で選任、3名以上の取締役で構成、うち過半数は社外取締役という条件があります。

### (3) 監査委員会とは
監査委員会とは、取締役、執行役の職務執行を監査し、監査報告書を作成する役割が与えられています。株主総会に提出する会計監査人の選任、解任、再任しないことに関する議案内容も決定することができます。

指名委員会と同様に、会計監査人の議案自体は株主総会で決定されることに留意が必要です。
また、監査委員会は、監査委員会事務局、内部監査人、会計監査人、内部統制関連部署などと適宜連携して、監査手続を進めています。

監査委員会も指名委員会、報酬委員会と同様に3名以上の取締役が必要等の条件は同一です。

なお、各委員会は、それぞれ兼任することが可能であるため、1名の取締役、2名の社外取締役がいれば、最低限、指名委員会等設置会社の委員会に関する人数は確保できることになります。
ただし、実務上は、1人の取締役が3つの委員会を兼務することは困難であるため、3名以上の複数名で構成されることが一般的です。

## 2. 指名委員会等設置会社のメリット
指名委員会等設置会社のメリットは、以下のとおりです。
- コーポレートガバナンスが強化される
- 海外からガバナンス体制について理解を得られやすい

### (1) コーポレートガバナンスが強化される
通常の取締役会と監査役会の株式会社と比べて、独立した3つの委員会を設置する分、ガバナンスが強化され、より適切な会社運営できる点がメリットです。

例えば、取締役の報酬について考えてみましょう。

通常の株式会社では、株主総会において取締役総額の報酬が決定され、各個人の報酬については取締役会または代表取締役一任とすることが可能です。
そのため、馴れ合いで個人の報酬を増やしてしまうといったお手盛りの問題が発生するリスクがあります。

その点、報酬委員会が設置されていれば、各個人の報酬は、独立した3名の取締役から構成される報酬委員会が決定します。
しかも取締役3名以上のうち過半数が社外取締役である必要があることから、その実効性は担保されています。

### (2) 海外からガバナンス体制について理解を得られやすい
日本の株式会社の大半は、指名委員会等設置会社ではなく、取締役会と監査役会のガバナンス体制です。

一方、海外の株式会社は、指名委員会等設置会社の方がメジャーな存在であり、ガバナンス力が高いという評価を受けやすくなっています。

仮に今後、海外からの資金調達を考えているのであれば、指名委員会等設置会社へ移行してガバナンス体制をアピールするといったことも必要になるかもしれません。

## 3. 指名委員会等設置会社のデメリット
指名委員会等設置会社のデメリットは以下のとおりです。
- 取締役の人数増加と役員報酬の増加
- 報酬の決定方法に関して、取締役から不満が生じるリスクがある

### (1) 取締役の人数増加と役員報酬の増加
3委員会がある分、取締役および社外取締役の人数は、通常のガバナンス体制に比べて一般的には増加する傾向にあります。
取締役の人数が増えれば、その分、役員報酬も増加するというデメリットが生じます。

委員会等設置会社に移行する際は、どのように必要な取締役の人数を確保するかに加えて、コストに関しても事前に十分検討しておく必要があります。

### (2) 報酬の決定方法に関して、取締役から不満が生じるリスクがある
取締役会や代表取締役によって各個人の取締役報酬が決まるという方法に慣れている場合、報酬委員会が決める権限を持っていることに違和感があるかもしれません。
仮に納得のいかない報酬となった場合は、取締役のモチベーションにも影響を与えてしまいます。

## 4. 指名委員会等設置会社の数
指名委員会等設置会社は、2021年4月14日時点で、77社あります。株式市場区分ごとの内訳は以下のとおりです。
東証1部:63社
東証2部:4社
マザーズ:5社
JASDAQ:4社
セントレックス:1社
合計:77社

2020年に新たに指名委員会等設置会社に移行した企業は以下のとおり5社あります。
- 日本ペイメントホールディングス株式会社
- 株式会社三越伊勢丹ホールディングス
- 関西電力株式会社
- 株式会社ジャパンディスプレイ
- 株式会社スマートバリュー

指名委員会等設置会社は2003年から制度として開始され、適用初年度は44社が採用しました。2004年には新たに16社、2005年11社と採用する会社が増加していましたが、近年では5社など増加ペースは減少しています。

反対に、指名委員会等設置会社から非上場化することにより、数が減少することもあります。2020年以降、指名委員会等設置会社を廃止した会社は以下のとおりです。
- 株式会社パルコ
- 日立化成株式会社(現昭和電工マテリアルズ株式会社)
- 株式会社日立ハイテクノロジーズ
- 日立キャピタル株式会社

主な指名委員会等設置会社を採用している企業は以下のとおりです。
- イオン株式会社
- オリックス株式会社
- コニカミノルタ株式会社
- 株式会社東芝
- 野村ホールディングス株式会社
- 株式会社りそなホールディングス
- 株式会社大和証券グループ
- 東京電力株式会社
- 株式会社みずほフィナンシャルグループ
- 日本郵政株式会社
- 日産自動車株式会社

歴史のある企業を中心に指名委員会等設置会社を採用していることが分かります。

日本取締役協会 指名委員会等設置会社リスト(上場企業)
https://www.jacd.jp/news/opinion/jacd_iinkaisecchi.pdf

## 5. 指名委員会等設置会社を採用している事例
オリックスは2003年適用初年度から指名委員会等設置会社を採用している企業です。オリックスの指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3つの委員会をどのように運営しているのか実例を見ていきましょう。

### (1) オリックスの指名委員会について
オリックスの指名委員会は、社内取締役の候補者の基準として以下のとおり定めています。
- オリックスグループの業務において、高度の専門知識を有する
- 経営判断および経営執行能力に優れている

また、社外取締役の候補者の基準は以下のとおりです。
- 企業経営者として豊富な経験を有する
- 経済、経営、会計、法律など、企業経営に関わる専門知識を有する
- 政治、社会、文化、学術などに深い知見を有する

以上の基準に従い、現状のオリックスの役員情報は、以下のURLにて確認することができます。
https://www.orix.co.jp/grp/company/about/officer/

### (2) オリックスの報酬委員会について
オリックスの報酬委員会は、取締役の報酬を、1.固定報酬 + 2.株式報酬の合計と定めています。

1. 固定報酬:原則一定額で各委員会の議長や委員には職務に対する報酬を加算
2. 株式報酬:在任期間中に一定のポイントを付し、退任時に累積ポイントに応じてオリックスの株式が付与される

固定報酬は原則一定額としている点、取締役任期中の貢献により、「退任」時に株式報酬が受けられる点がユニークなポイントです。

### (3) オリックスの監査委員会について
オリックスの監査委員会は、以下の5点を基本方針として定めて監査を実施しています。
- 連結経営視点
- 内部統制システムの構築、運用状況の監視、点検
- グループ役職員が忠実義務・善管注意義務など、法的義務を履行しているか
- 執行役が取締役会の定めた中長期の経営計画に従い、適切・効率的に業務執行しているか
- 会計監査人が適切に監査を実施しているか

また、オリックスの監査委員会は、過半数が社外取締役という条件ではあるものの、全て社外取締役により構成されています。監査委員会の下に、監査委員会事務局が3名配属されており、日々の監査実務を担当しています。

## 6. まとめ
今回は、指名委員会等設置会社について、基本的な概要、各委員会について、メリット・デメリット、や実際の事例を見てきました。

指名委員会等設置会社は、日本では採用者数が100未満とまだまだ広がっているとは言えません。しかし、海外では一般的なガバナンス体制であり、今後、海外で資金調達を考えている企業などについては、IFRSと同様に積極的に採用を考えても良いでしょう。

今後、上場企業は、SDGsなどと同様に、ガバナンスの強化がより求められるようになってくるでしょう。その際の一つの解決策として、指名委員会等設置会社への移行も選択肢の一つになってきます。

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