現行会社法の下では、取締役会設置会社は、業務執行とその監督・監査の方法の違いに応じて、監査役(監査役会)設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の3つ機関設計を選択することができます。
この記事では、それぞれの機関設計について、その特徴や、選択にあたって考慮すべきことを説明します。
1 3つの機関設計
現行会社法の下で、公開会社(全株式譲渡制限会社以外の会社。言い換えると、株式の一部または全部について譲渡制限を付していない会社)は、取締役会の設置が義務付けられています。
また、非公開会社(全株式譲渡制限会社)は、取締役会設置義務はありませんが、任意に取締役会を設置することはできます。取締役会設置会社では、取締役会非設置会社と比較して、株主総会の権限が弱く、株主による取締役の監督が間接的になるため、これに代わる措置として、監査機関の設置が求められます。
現行会社法は、取締役会設置会社について、業務執行とその監査・監督の方法の違いに応じて、監査役(会)設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の3つ機関設計を用意しています。
このうち、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は、「委員会設置会社」あるいは「委員会型の会社」と呼ばれています。3つのうちいずれを選択するかは、株主総会が決定します(定款に記載するため特別決議事項)。
最も古くから存在していたのは、ドイツ型の監査役(会)設置会社の制度です。株主は取締役と監査役を選任し、前者が業務執行を行い、後者がそれを監査します。しかし、日本の企業では、代表取締役とその他の取締役が上司と部下の関係にあることが多く、取締役会による監督は機能せず、また、監査役は取締役の人事・報酬について権限を持たないため、効果的な監督はできませんでした。
そこで、2005年の会社法制定時に導入されたのが、アメリカ型の指名委員会等設置会社の制度です。監査役を廃止し、業務執行権限を取締役から分離して執行役に与え、取締役は専ら執行役の業務執行の監督を行います(「監督と執行の分離」)。
特に取締役選任議案の決定権と報酬決定権は、社外取締役が過半数を占める指名委員会・報酬委員会に与えられます。
しかし、このことが嫌がられ、広まりませんでした。そこで2014年の会社法改正時に導入されたのが、監査等委員会設置会社の制度です。折衷的な制度であり、監査役はいませんが、執行役が置かれるわけではなく(監督と執行は未分離)、しかし、取締役会専決事項の緩和などのメリットは享受できるというものです。
2 監査役(会)設置会社
(1) 業務執行
監査役(会)設置会社においては、業務執行は代表取締役と取締役会の選定するその他の業務執行取締役が行います。取締役会は、業務執行の決定、取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定・解職等を行います。
業務執行の決定は、原則として代表取締役および個別に選定する業務執行取締役に委ねることができますが、重要な財産の処分等、多額の借財、重要な使用人の選任等、重要な組織の取締役会設置会社等などの重要事項については取締役会専決事項とされています。
(2) 監査
監査機関として、監査役が置かれます。監査対象には、会計監査と業務監査の両方が含まれますが、監査の基準は適法性(法令・定款違反の有無)に限定されます。
監査役は、調査、取締役会への報告、株主総会に提出する監査報告の作成を行います。また、会社と取締役との間の訴訟においては、取締役が会社を代表するとすれば利益相反が生じるため、代わって監査役が代表権限を有します。
監査役設置会社においては、監査機関としての権限は原則として個々の監査役に属し、各監査役が独立して権限を行使します。このことは、監査役会設置会社(後述の大会社では義務的)が設置される場合でも同様です。
監査役会設置会社では、監査役会の選定により、常勤監査役を置かなければなりません。
(3) 取締役・監査役の選任
取締役・監査役は、それぞれ株主総会決議(普通決議)によって選任されます。
取締役の定員は定款の定めによりますが、法律上は、3人以上です。任期は2年です(短縮のみ可)。取締役の選任議案は、取締役会が決定します。
監査役の定員も定款の定めによりますが、法律上は、原則として1人以上、大会社(資本金額5億円以上または負債総額200億円以上の会社)においては監査役会設置義務が課されるため3人以上(半数以上は社外監査役)です。任期は、監査役は4年です(短縮も伸長も不可)。
取締役の選任議案は、取締役会が決定します。監査役の選任議案も同様ですが、監査役(2人以上いる場合には過半数、監査役会が設置されている場合には監査役会)の同意を得なければなりません。
(4) 報酬の決定
取締役・監査役の報酬の決定は、株主総会決議(普通決議)事項です。ただし、株主総会は総額を定めさえすればよいとする判例があります。その場合、各取締役の報酬は取締役会決議で、各監査役の報酬は監査役の協議(監査役会がある場合には監査役会決議)で決定します。
3 指名委員会等設置会社
(1) 業務執行
指名委員会等設置会社においては、業務執行は取締役の選定する執行役が行い、取締役が行うことは禁止されます(ただし、指名委員会等の委員でない取締役については、兼任は禁じられません)。執行役には、以下に述べるように、取締役による監督が強化されるのと引き換えに、監査役設置会社の代表取締役・業務執行取締役と比較して、大幅な権限移譲が可能とされます。
(2) 監査―監査委員会
監査機関として、監査委員会が置かれます。委員は、取締役の中から取締役会決議で選定します。定員は、最低3人で、過半数は社外取締役でなければなりません。指名委員会・報酬委員会の委員との兼任は可能ですが、執行役との兼任は禁じられます。
監査委員会の職務等は、監査役のそれに類似しますが、次の点で異なります。
- 監査委員会による監査は、適法性(法令・定款違反の有無)に限定されず、妥当性にまで及びます。委員が取締役であり、執行役を監督すべき立場にあるためです。
- 監査機関としての権限は、監査委員である取締役ではなく、監査委員会に属し、委員は、監査委員会の決定によって初めて権限を与えられます。委員の過半数が社外取締役であり、一定の独立性が保障されていることを前提に、組織的な監査を可能にするものです。
- 常勤者の選定は不要です。
(3) 取締役の選任―指名委員会
取締役は、株主総会決議(普通決議)によって選任されます。取締役の定員については、監査役設置会社と同じです。任期は、株主による監督強化の趣旨で、1年です(短縮のみ可)。
取締役の選任議案の決定機関として、指名委員会が置かれます。委員の選定等については、監査委員会と同様です。社外取締役が半数以上を占める委員会が決定することにより、客観的に見て株主の利益に適する提案が行われるようにする趣旨です。取締役会は、指名委員会の決定した議案を拒否・修正することはできません。
(4) 報酬の決定―報酬委員会
取締役・執行役の報酬の決定機関として、報酬委員会が置かれます(報酬議案の決定機関ではありません)。委員の選定等については、監査委員会と同様です。監査役設置会社において、報酬は株主総会決議事項ですが、株主総会は総額を定めさえすればよいとする判例があり、実質的には取締役会を支配する代表取締役が決定していました。社外取締役が半数以上を占める委員会が決定することにより、客観的に見て適正な報酬が決定されるようにする趣旨です。
4 監査役等設置会社
(1) 業務執行
監査役等設置会社の業務執行は、原則として監査役設置会社と同様です。ただし、取締役の過半数が社外取締役であるか定款で定めた場合には、重要な財産の処分等、多額の借財、重要な使用人の選任等、重要な組織の取締役会設置会社等などを取締役に委任することができます。
(2) 監査
監査機関として、監査等委員会が置かれます。委員は取締役ですが、委員である取締役とそうでない取締役は、株主総会による選任の段階で区別されます(取締役会が選定するのではない)。委員は業務執行取締役となることができません。
監査等委員会の職務等は、監査委員会のそれに類似しますが、次の点で異なります。すなわち、監査等委員会は、監査委員会と同等の権限に加えて、その選定する監査等委員を通じて、株主総会において、監査等委員会以外の取締役の選任等と報酬について意見を述べることができます。
(3) 取締役・監査役の選任
取締役は、株主総会決議(普通決議)によって選任されます。監査等委員である取締役と、それ以外の取締役を区別して選任する必要があります。
取締役の定員は定款の定めによりますが、法律上は、監査等委員である取締役は3人以上、それ以外の取締役は1人以上です。任期は、監査等委員である取締役は2年(短縮不可)、それ以外の取締役については原則として1年です(短縮のみ可)。
取締役の選任議案は、取締役会が決定します。ただし、監査等委員である取締役の選任議案については、監査等委員会の同意を得る必要があります。
(4) 報酬の決定
取締役の報酬の決定が株主総会決議(普通決議)事項であること、および、総額のみの決定でよいことは、監査役設置会社と同様です。
ただし、総額のみを定める場合、監査等委員である取締役の報酬の総額と、それ以外の取締役の報酬の総額は、別に定めなければなりません。総額のみを定めた場合、各監査等委員たる取締役の報酬は監査等委員たる取締役の協議で、各取締役(監査等委員以外)の報酬は取締役会決議で決定します。
5 比較
まず、非大会社では、監査役設置会社を選択するのが通常です。非大会社では、監査役会設置義務がなく、監査役会設置会社を選択すれば、最低1人の監査役がいればよく、社外監査役は不要です。
これに対して、委員会設置会社を選択した場合、最低2人の社外取締役が必要となります。これでは非大会社の事業規模に照らして、バランスを欠くことになります。
大会社では、監査役会設置義務があるため、監査役会設置会社を選択したとしても、最低3人の監査役が必要となり、そのうち最低2人が社外監査役でなければなりません。これと比較して、委員会設置会社を選択した場合、必要な社外取締役は最低2人なので、監査役会設置会社と比較して格別負担が大きくなるわけではありません。
一方、業務執行の面では、委員会設置会社を選択すれば、取締役会専決事項が緩和されるため、機動的な経営ができるというメリットがあります。そうすると、どうしても社外役員を社外取締役として取締役会に迎えたくないというのでない限りは、監査等委員会設置会社を選択することになります。
なお、以上の記述は、新たに機関設計を選択する場面を想定したものであり、既に監査役設置会社を選択している場合には、切り替えのコストも考慮すべきことになります。
上場企業やそれを目指す企業では、委員会設置会社を選択するインセンティブがさらに強くなります。有報提出会社である監査役会設置会社においては、2019年会社法改正により、端的に社外取締役設置義務が課されることとなり(従来はComply or Explainルールが定められるにとどまっていました)、最低3人の社外役員が必要とされることになったからです。
さらに、CGコード(日本取引所グループが上場企業に求めるいわゆるソフトローです)を遵守しようとする場合、2人以上の社外取締役の選任を求めているため、最低4人の社外役員が必要とされることになります。
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「取締役」「執行役員」「専務」「常務」の意味の違いは、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。
参考:「取締役」「執行役員」「専務」「常務」の意味の違い - 言葉の救急箱