1. 中国企業による海外企業のM&Aの事例
今回の記事では、中国企業によって行われた海外企業のM&Aの5つの事例と、それを受け、EUやアメリカが中国企業によるM&Aの規制を強化している背景などについて説明していきます。
なお、今回紹介しているM&Aの事例は、2015年〜2018年までのものです。
(1) 検索エンジン大手の百度が東大発のベンチャー企業「ポップイン」を買収(2015年)
中国の検索エンジン大手の百度(バイドゥ)が買収した「popIn(ポップイン)」は、東大発のベンチャー企業です。
ネット上の広告がどの程度深く読まれたのかを測定する技術を開発していて、買収金額は推定約10~20億円程になったそうです。バイドゥが全株式を取得して経営統合を行いました。
ポップインは他にも数社からオファーをもらっていましたが、その中から売却先をバイドゥに決めたのは、
- スピード感を失わないように独立して進めることを承諾してくれたから。
- 人工知能やビッグデータなどに投資を続けていて技術的な支援が期待できるから。
世界展開のパートナーになれるから。
こちらの3点が理由とのことです。
▼参考元記事:東大発ベンチャー「popIn」をバイドゥが十数億円で買収、中国から世界展開へ
(2) 中国家電大手の美的集団が、東芝ライフスタイルを買収(2016年)
中国のマイティアグループ(美的集団)は、従業員数約14万人、総売上高4兆円超えの実績をもつ世界最大規模の家電メーカーです。
東芝は東芝ライフスタイルの約8割の株式を約530億円で売却したとされており、売却してからの現在は、売り上げが少し回復傾向にあるようです。
なお、美的集団と東芝は、売却する25年以上前から提携協力関係にあった会社で、売却しても40年間は東芝のブランド名を使えることになっており、現在も東芝のロゴが製品に使われているとのことです。
▼参考元記事:中国企業に買われた「東芝ブランド」その後
(3) 美的集団が、ドイツの産業用ロボットの大手クーカを買収(2016年)
こちらの事例も先程と同じマイティアグループ(美的集団)による買収です。
クーカという企業は、技術力の高さで有名なドイツの産業用ロボットメーカーです。
人間にしかできないような細かい作業を実現可能にするなど、産業用ロボットのパイオニアとして知られています。
なお買収によって中国でのクーカの売り上げ比率は約10%UPし、並行してドイツでの雇用も増加したといわれています。
また買収を成立させる際に、米当局の承認が必要になったそうですが、これはクーカと米国の間に軍需産業での取引があったことが理由で、安全保障上の影響を調査したり、子会社を売却するなど別途対応をおこなったとされています。
▼参考元記事:【美的集団】ドイツのロボット大手、クーカを買収
▼参考元記事:中国家電・美的の独クーカ買収、米当局が承認
(4) ハイアールによる米国ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業の買収(2016年)
過去のレノボグループによるIBMのパソコン部門の買収の戦略にならい、中国家電大手の海爾集団(ハイアール)は、約6300億円でアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)社の家電事業を買収しました。
GEは冷蔵庫や食器洗浄機などの大型家電の商品を得意とするメーカーでしたが、この買収によって、研究開発部門をハイアールに引き継ぐことになり、事業の軸足を航空機エンジンなどの分野に移すことになりました。
買収した中国としては、他の事例同様に、開発力を強化したり製品の品質を向上させることが目的だったようです。
▼参考元記事:中国・ハイアール、米GE家電事業を買収 6370億円
(5) ハイセンスグループ(海信集団)が東芝の映像事業を買収(2018年)
上記(2)で、東芝ライフスタイルの事例を紹介しましたが、東芝のテレビ事業に関してもM&Aが行われています。
ハイセンスグループは、約130億円で東芝の子会社のテレビ事業を買収し、こちらもライフスタイル家電のように、約40年間は東芝のブランドライセンスを利用できることになりました。
ちなみにM&Aを行ったハイセンスは、世界第3位のテレビメーカーで、2018年のサッカーワールドカップロシア大会のオフィシャルスポンサーを務めた企業です。
なお今回の買収には、開発技術や知見の獲得だけでなく、これまでのイメージの払拭という目的もあるようです。
というのも、中国家電メーカーが海外で自社のブランドを樹立することは、これまでの固定イメージなどから難しいといわており、より合理的にグローバルなシェアを拡大していくための買収と捉えることができます。
▼参考元記事:【ハイセンス】中国のテレビ最大手が東芝のテレビ事業を買収
2. EUやアメリカが中国企業のM&Aに規制を強化
これまで中国が積極的にM&Aを行ってきた理由は、海外での売り上げ拡大というよりも、技術やノウハウなどの無形資産の獲得の部分にあると言われており、規制強化の背景は、欧州やアメリカ企業の技術力・知的財産が中国企業に流出するのを防ぎたいからだといわれています。
実際に3つ目のクーカの買収の事例に関しても、技術が流出することを恐れた政治家から反対があったといわれており、翌年の2017年から実際にM&Aの規制の強化が始まっています。
そして最近はアメリカと中国との関係が特に注目されていますが、ドイツ政府も2018年に中国企業によるライフェルト社(独精密機械メーカー)の買収を却下しています。
ただ一方で、中国側も資本の流出を懸念し、2017年以降、一部事業の投資を制限するようにもなっています。買収資金の大半を借り入れに依存しているため、万が一経営状況が悪化した場合に、中国の銀行に悪影響が及ぶ可能性があることを懸念しての判断のようです。
▼参考元記事:中国企業の海外M&A、17年は42%減