M&A

会社法に定められている組織再編を紹介します

1.組織再編とは

組織再編とは、会社の基礎的変更です。
一般的には、会社法5編に規定されている組織変更、合併、会社分割、株式交換・株式移転を指します。また、機能的に会社分割と類似する事業譲渡を加えたものを指すこともあります。これら組織再編はM&Aの重要な手段です。

一方、株式の譲渡は、M&Aの手段ですが、株主を変更するにすぎず、会社自体の組織を変更するものではないため組織再編には含めないのが通常です。

この記事では、事業譲渡、組織変更、合併、会社分割、株式交換・株式移転、2019年改正で新設された株式交付について説明します。

2.事業譲渡

事業譲渡は、会社と会社との間で、売買の性質を持つ契約によって行われる組織再編行為です。

事業譲渡は本来組織再編行為ではありませんが、株主に重大な影響を与えるため、譲渡会社においては、事業の全部の譲渡・重要な一部の譲渡をする際には、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。重要な一部であるかどうかは、当該事業の収益性、当該事業に属する資産・債務などを考慮して、会社の全事業との関係で判断します。

ただし、譲渡会社の当該事業に属する資産が資産総額の20%を越えない場合には、一律に重要でないものとして扱われます(後述の簡易の会社分割と同様の趣旨です)。

また、譲受会社においては、他の会社の事業の全部を譲り受ける場合に限り、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。

事業譲渡は、後述の会社分割と機能的に類似しますが、本来の組織再編行為ではないため、当該事業に属する契約関係については、相手方の個別の同意が必要となります。
その結果、相手方は同意をし、あるいはしないことによって、自己の利益を確保することができるため、後述するような債権者異議手続は要求されません。

3.組織変更

組織変更は、株式会社が持分会社に、あるいは、持分会社が株式会社になるために行われる組織再編行為です。

持分会社とは、合同会社(全社員が有限責任)、合資会社(有限責任社員と無限責任社員が混在)、合名会社(全社員が無限責任)を指しますが、一般的に選択されることが多いのは合同会社です。

合同会社は、設立手続が簡略化されているというメリットがありますが、株式会社として設立された会社からの移行でも、意思決定や配当の手続、機関設計が柔軟であるというメリットがあり(定款自治)、このメリットを享受するために合同会社への組織変更をすることがあります。

もっとも、合同会社は持分の流通を想定していないため、閉鎖型の会社が公開型の会社になろうとするときは、株式会社化する必要があります。上記のように簡略な設立手続というメリットを享受するため合同会社として設立された会社が、第三者の資本を受け入れる必要が出てきたといった場合には、株式会社への組織変更をすることがあります。

組織変更は、組織再編行為であるため、株主総会の特別決議による承認が必要となります。債権者異議手続は、株式会社が合同会社への組織変更をしようとする場合にのみ要求されます。
合同会社化によって、より簡易な手続で配当をすることができるようになりますが、これは、債権者の引当てとなる資本金の保護が手薄になることを意味するためです。

4.合併・会社分割・株式交換・株式移転

合併・会社分割・株式交換・株式移転については、手続に共通の部分が多く、会社法もそのように規定しているため、まず、合併・会社分割・株式交換・株式移転がどのようなものかを説明した上で、手続について説明します。

(1)合併

合併は、会社がその権利義務の全部を既存の会社に承継させ(吸収合併)、または、他の会社と共同で、そのそれぞれの権利義務の全部を、新設する会社に承継させる(新設合併)組織再編行為です。合併される側の会社は、清算を経ることなく、自動的に消滅します。
対価は株式ですが、吸収合併の場合には金銭を対価とすることもできます。

(2)会社分割

会社分割は、会社がその権利義務の一部を分割し、既存の会社(吸収分割の場合)または新たに設立する会社(新設分割の場合)に承継させる組織再編行為です。
機能的には事業譲渡に類似しますが、組織再編行為であるため、分割される契約関係について、相手方の個別の同意が不要であり、この点が、会社分割をする最大のメリットとなります。
対価は株式ですが、吸収分割の場合には金銭を対価とすることもできます。

(3)株式交換・株式移転

株式交換・株式移転は、独立の二社が共通の持株会社を作りだす場合に使われる組織再編行為です。
株式交換の場合には、二社のうち一方が持株会社となり、他方を完全子会社化します。同時に、子会社となる会社の株主には、親会社となる会社の株式を交付します。子会社となる会社の株主から見たとき、子会社となる会社の株式と親会社となる会社の株式が交換されるものであるため、このように呼ばれます。

株式移転の場合には、二社が共同で持株会社を設立し、両社が当該持株会社の完全子会社となります。同時に、両社の株主には、持株会社の株式を交付します。両社株主の株式を持株会社にいわば付け替える(移転させる)ものであるため、このように呼ばれます。
対価は株式ですが、株式交換の場合には金銭を対価とすることもできます。

(4)手続 1⃣.書類備置義務

組織再編行為においては、株主総会決議・反対株主の株式買取請求、債権者異議手続が必要とされますが、株主・債権者の権利の行使の資料とするため、当事会社は、書類備置義務を負います。

具体的には、組織再編契約・組織再編計画の内容などを記載した書面・ファイルを本店に備え置かなければならず、株主・債権者の請求に応じて閲覧、謄本又は抄本の交付などをさせなければなりません。

(5)手続 2⃣.株主総会決議、差止め、反対株主の株式買取請求

組織再編行為は、会社の基礎的変更であり、株主に重大な影響を与えるため、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。ただし、次の場合には省略することができます。

①吸収合併、吸収分割、株式交換において、存続会社・承継会社・完全親会社が特別支配会社(議決権の90%以上を有する)である場合の消滅会社・分割会社・完全子会社の株主総会決議(略式組織再編)。株主総会を開催しても可決されることが明らかであるためです。

②吸収合併、吸収分割、株式交換において、消滅会社・完全子会社の総資産額、分割に係る資産額が存続会社・承継会社・完全親会社の総資産額の20%を超えない場合の存続会社・承継会社・完全親会社の株主総会決議、会社分割において、分割に係る資産額が分割会社の総資産額の20%を超えない場合の分割会社の株主総会決議(簡易組織再編)。株主に与える影響が軽微であるためです。

承認決議が違法になされた場合、株主は、組織再編自体の差止請求をすることができます。かかる場合、急速を要するため訴訟ではなく、仮処分を申し立てることとなります。

また、承認決議が適法になされた場合でも、反対株主および略式組織再編における少数株主は、株式買取請求権を行使することができます。株主にとって重大な影響が生じるため、金銭と引き換えに退出することを認めるものです。

(6)手続 3⃣.債権者異議手続

組織再編は、債権者の引当資産、ひいては回収可能性に影響を与えるため、債権者異議手続が必要とされています。

債権者異議手続においては、当事会社は、
①官報に公告をし、あるいは定款に定めがある場合にはインターネット上で電子公告を行い、

②知れている債権者(会社が把握している債権者。手形債権のように債務者に知らせずに譲渡できる債権の債権者はこれに当たらないことになります)に個別に通知をしなければならず、

③1か月の異議陳述期間に意義を述べた債権者に対しては、組織再編行為後にも十分な資産超過であるなど、債権者を害するおそれがない場合を除き、直ちに弁済をするか、担保を供与するか、信託銀行等に信託(倒産隔離効があるため確実に弁済を受けることができるようになります)をしなければなりません。

なお、会社分割によって承継会社・新設会社に承継されない残存債権者については、債権者異議手続の対象ではありませんが、優良事業のみが譲渡される場合には、引き当てとすることができる資産が減少し、回収可能性に影響が生じます。

そのため、2014年改正会社法により、そのような債権者は、分割会社が債権者を害することを認識していた場合(かつ、吸収分割においては承継会社もそのことを認識していた場合)には、承継財産を限度として、承継会社・新設会社に直接に債務の履行を請求することができることとなりました。

5.株式交付(2019年改正)

2019年会社法改正で新設された株式交付の制度は、株式会社(「株式交付親会社」)が他の株式会社(「株式交付子会社」)を子会社化しようとする場合に、対価として自社の株式を株式交付子会社の株主に交付する制度です。

改正前、株式を対価とする(=現金を調達することなしに)会社の買収をしようとする場合、次のような状況にありました。
ある会社を子会社化しようとしているけれども、完全子会社化(100%子会社化)まではするつもりがないという場合、株式交換は使えません。

また、デット・エクイティ・スワップ(DES)の場合と同様に、子会社としようとする会社の株式を現物出資財産として、親会社となろうとする会社が新株発行・自己株式の処分をすることが考えられますが、現物出資の場合には、既存株主の一株当たり純資産を毀損することがないよう、検査役による検査を受けなければならないのが原則であり、時間と費用がかかってしまう、また、株式交付親会社の価格がシナジーを期待して値上がりすることを見込んで、プレミアムを上乗せする場合、有利発行となり、株主総会決議を経る必要が生じ、やはり時間がかかってしまう、という問題がありました。

このような問題を解決するものとして新設されたのが株式交付制度です。
手続は株式交換・募集株式の発行(新株発行)と類似しており、株式交付親会社は、

①株式交付計画の作成、
②株式交付計画の株主総会決議による承認、
③株主による譲渡しの申込み、 ④株式交付親会社が譲り受ける子会社の株式の割当て(誰から譲り受けるか=誰に株式を交付するかの決定)、
⑤株式交付の効力の発生=株式交付子会社の株式の譲渡し・株式交付親会社の株式の交付がなされます。

また、既存株主・債権者の保護制度として、株式交付計画等の書面の備置、差止請求・株式買取請求、債権者異議手続がなされる点は、他の組織再編行為と同様です。

6.まとめ

事業譲渡は、吸収分割に機能的に類似しますが、組織再編行為ではないため、株主総会の特別決議による承認を除いて、手続が簡略であり、一方、契約関係については、相手方の個別の同意が必要となります。

組織変更は、株式会社が持分会社に、あるいは、持分会社が株式会社になるために行われる組織再編行為です。

合併は、会社がその権利義務の全部を既存の会社に承継させ(吸収合併)、または、他の会社と共同で、そのそれぞれの権利義務の全部を、新設する会社に承継させる(新設合併)組織再編行為です。

会社分割は、会社がその権利義務の一部を分割し、既存の会社(吸収分割の場合)または新たに設立する会社(新設分割の場合)に承継させる組織再編行為です。

株式交換・株式移転は、独立の二社が共通の持株会社を作りだす場合に使われる組織再編行為です。

合併、会社分割、株式交換・株式移転にあたっては、書類備置義務、株主総会決議、差止め、反対株主の株式買取請求、債権者異議手続などの手続を踏む必要があります。

株式交付は、2019年会社法改正で新設された制度で、株式会社が他の株式会社を、完全子会社化まではするつもりがないが、子会社化しようとする場合に、対価として株式を交付することを可能にする制度です。

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