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日本格付研究所は何を格付けし、何のために格付けをするのか

まず、日本経済新聞の2020年10月30日付けの記事をご覧ください(*1)。


日本格付研究所(JCR)は2020年10月29日、「X社」の長期発行体と債券の格付けを「トリプルBプラス」から2段階引き下げ、「トリプルBマイナス」に変更すると発表した。格付けの見通しは「ネガティブ」を継続した。


ここでは「X社」としましたが、実際の記事では実際の社名が入っています。
専門用語がいくつか含まれていますが、それでも「X社」がよくない評価をつけられたようだ、ということはわかります。

日本格付研究所が「X社」の格を判断したわけですが、なぜ日本で最も信頼されている経済メディアである日本経済新聞が、この組織が付けた評価を取り上げたのでしょうか。
そして、企業の格とは何なのでしょうか。

本稿では、日本格付研究所の概要と、この組織が格付けを行う意義について解説します。

*1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65617910Z21C20A0DTC000?unlock=1

1. 日本格付研究所は普通の株式会社ではない

日本格付研究所は、東京都中央区にある、資本金5億8,400万円の株式会社です(*2)。しかしこの会社は、普通の株式会社とは少し異なります。

*2:https://www.jcr.co.jp/service/company/company/

(1) 金融庁がしっかり監督している信用格付業者

日本格付研究所の主な業務は、信用格付です。信用格付業務こそ、企業に格付けを行うことです。
日本格付研究所は、金融庁に信用格付業者として登録されている7社のうちの1社で、第1号の登録企業です(*3)。

金融庁に登録しているのは、信用格付業務は、政府による監督が必要だからです。
金融庁は、日本格付研究所などの信用格付業者が、利益相反をしないかどうか、格付けのプロセスを妥当に行っているかどうか、情報開示が十分かどうかをしっかり監督して、適切に機能させる、としています(*4)。

このことから、日本格付研究所が行っている企業の格付けは、日本経済にとって重要な業務であり、政府の金融政策や経済政策に大きな意味を持っていることがわかります。

*3:https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shinyoukakuduke.pdf
*4:https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kakuduke/01.html

(2) 最高AAAから最低Dまで21ランクある

日本格付研究所は複数の項目で企業の格を評価していて、最も有名なのは「長期の格付記号」です。これは次の21ランクで評価します。

AAA、AA+、AA、AA-、A+、A、A-、BBB+、BBB、BBB-、BB+、BB、BB-、B+、B、B-、CCC、CC、C、LD、D

最高はAAA(トリプルA)で、最低はDです。
冒頭で紹介した「X社」は、従来のBBB+(トリプルBプラス)からBBB-(トリプルBマイナス)になったので、2段階引き下げられました。

(3) 株価が動くこともある

「X社」の降格が決まったのは2020年10月29日でした。「X社」の株価は、10月28日1,502円、29日1,489円、30日1,401円と推移しました(*5)。28日から30日の3日間で6.7%も下落しています。

もちろん株価はさまざまな要因によって決まりますが、このときの格付けが、このときの株価下落の大きな原因になった可能性は高いでしょう。
それくらい市場も投資家も、日本格付研究所の評価を気にしています。

*5:https://info.finance.yahoo.co.jp/history/?code=9603.T&sy=2020&sm=10&sd=20&ey=2020&em=11&ed=3&tm=d

(4) 日本経済の安定と信頼性の向上に役立つ

日本格付研究所が行う格付けが大きな影響力を持つことがわかりました。株価がこれだけ変動するのであれば、企業は、日本格付研究所による格付けに一喜一憂するはずです。
ではなぜ、日本経済に影響を与えるような仕事を、金融庁の監督下で行う必要があるのでしょうか。

それは、投資家が投資判断を行うときに、信用リスクの評価が必要になるからです(*4)。投資家は、さまざまな情報を入手して、企業に投資するかどうかを決めます。企業が格付けされていて、それが公表されていれば、投資家はそれをみて投資判断を下すことができます。

しかし、投資は自己責任のはずです。投資に失敗しても、それは投資家自身の責任になるので、投資家自身が独自に企業情報を集めればよいはずです。わざわざ日本格付研究所などの信用格付業者に格付けをさせるのはなぜなのでしょうか。

金融庁の監督下で格付業務が行われているのは、そのほうが金融市場や株式市場や資本市場全体が、安定するからです。

例えば「Y社の業績がすごくよいらしいから、株価は高騰するだろう」と「Z社の業績は最悪だったらしいから、株価は暴落するだろう」という、2つの事実と異なる噂が流れたとします。

もしこの噂を信じた投資家が多数いたら、Y社株は業績に反して高騰し、Z社株は業績に反して暴落します。株価は企業業績に大きな影響を与えるので、Y社もZ社も混乱するはずです。また、事実と異なることがわかれば、すぐにY社株は反落し、Z社株は反発します。そうなれば、不適切に大損する人と、不適切に大儲けする人が現れます。

これは株式市場と資本市場が混乱した状態で、政府としても日本経済としても看過できません。

そのとき、Y社とZ社の格付けが、信頼できる機関によって行われていれば、「噂は事実ではなさそうだ」と推測することができます。
このように、信頼できる格付けは、市場を安定化させ、投資家たちを安心させます。

格付けの影響は国内にとどまりません。
日本企業がしっかり格付けされていることが世界の投資家に知られれば、彼らも日本に安心して投資できます。株式市場は世界中にあり、世界中の株式市場がマネーを呼び込もうと必死に競争しています。

日本企業の格付けは、世界のマネーを日本の株式市場に集める呼び水にもなります。

2. 日本格付研究所はどのように格付けしているのか

日本格付研究所が格付けのときに評価するのは、企業の債務履行能力と個別債務(社債やローンなど)の履行確実性です(*6)。
最高のAAAは「債務履行の確実性が最も高い」で、最低のDは「債務不履行に陥っている」と評価されます(*7)。

ほぼすべての企業は、広い意味で「借金」をして経営しています。お金を借りて土地を買って工場を建てれば、利益をあげて借金を返さなければなりません。労働者に先に働いてもらってから、あとで給料を支払う形態も、企業が労働者に借金をしている状態です。企業の賃金支払い義務を賃金債務といいます。

つまり、借金の返済(債務履行)は企業が必ず実行しなければならないことなので、日本格付研究所は債務履行能力で企業の格を測っているわけです。

債務履行能力は、次の要素をチェックして総合的に判断します(*8)。

  • 会社の概要
  • 経営組織
  • 生産関係
  • 販売関係
  • 損益財務
  • 事業計画
  • 子会社や関連会社の状況
  • 訴訟の状況
  • 起債関係
  • 資金繰り
  • 実績
  • 将来予想

財務状況については特に重視していて、過去5年の実績をチェックします。
事業計画は将来の3年分を提出しなければなりません。

*6:https://www.jcr.co.jp/acquisition/
*7:https://www.okinawa-bank.co.jp/news_release/2020050800014/
*8:https://www.jcr.co.jp/acquisition/submission/

3. 企業はなぜお金を払って格付けしてもらっているのか

日本格付研究所は、金融市場や株式市場を安定化させる役割を担っていて、金融庁の管理下に置かれているので、公的な仕事をしている、といえます。
しかし日本格付研究所は株式会社なので、つまり国の機関でも独立行政法人でもないので、自ら稼いで利益をあげなければなりません。

では、日本格付研究所がどのように売上をあげたり、利益をあげたりしているのかというと、「格付けをすることで」です。

日本格付研究所の顧客は、企業や金融機関や医療機関などの法人です。そして顧客の企業や金融機関や医療機関は、日本格付研究所によって格付けされる法人です。

そうです、日本格付研究所に格付けされている企業などは、お金を日本格付研究所に支払って「格付けしてもらっている」のです(*9)。

格付けのランクが上がるときは企業の利益になりますが、格付けが下がるとは大きな損を被ります。株価の下落も、信用の低下も、企業に大きなダメージを与えます。
それでもなぜ、企業はお金を支払って格付けしてもらうのでしょうか。

*9:https://www.jcr.co.jp/acquisition/commission/

(1) 格付けしてもらえないと市場から資金を調達できないから

企業が日本格付研究所に格付けしてもらうのは、市場から資金を調達するためです。
先ほど、ほぼすべての企業は、広い意味での「借金」をしていると解説しましたが、企業は常にお金を必要としています。お金が不足した企業は、まずは銀行からの融資(借金)を頼るでしょう。しかし融資には、銀行が貸し渋るリスクがあります。そのため企業は、別のお金の調達方法を確保しておかなければなりません。

その1つが公募債です。公募債は、企業が広く一般に投資を募集する資金調達方法です(*10)。「広い一般」のことを市場といいます。
また、市場で割引形式で発行する無担保の約束手形「コマーシャルペーパー」(CP)も、融資以外の重要な資金調達方法です(*11)。

そして、公募債もCPも、企業が格付けを受けていないと実施することができません(*12)。それはそうです。信用がない企業でも、簡単に公募債やCPを使って市場から資金を調達できてしまったら、市場は混乱します。
そのため、企業は日本格付研究所という信頼できる機関に格付けしてもらって「自社の格はこれです」と示して、市場からお金を調達しなければなりません。

このように、格付けをしてもらうことは、企業にとって「とてもよいこと」であり「とても重要なこと」でもあります。 お金を支払ってでも日本格付研究所に格付けしてもらう価値は、ここにあります。

*10:https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/sa/bond_pppo
*11:https://www.tokaitokyo.co.jp/kantan/term/detail_0005.html
*12:https://www.jcr.co.jp/acquisition/

(2) 具体的にどのように評価されるのか

企業は具体的にどのように、日本格付研究所から評価されるのでしょうか。沖縄県の沖縄銀行の例をみながら解説します(*13)。

画像引用:https://www.okinawa-bank.co.jp/news_release/2020050800014/

沖縄銀行は2020年5月8日に、日本格付研究所から「A+」にランクされたことを、自社のホームページで報告しています。「A+」は21段階の上から5番目なので、よいほうといえます。
沖縄銀行も「A+を更新できた」「(評価が)据え置かれた」とポジティブに評価しています。
沖縄銀行はさらに、よい格付け(A+)を獲得できた要因として、次の点を挙げています。

  • 沖縄県内の貸出金シェアが3割台半ばと高く、事業基盤が堅固である
  • 良質な貸出資産を保有している
  • 資本水準が高い
  • 貸出金利息が増収に転じ、堅調に推移している
  • トップライン収益の底堅い推移が見込まれる
  • 金融再生法開示債権比率が1%台前半と低水準にある
  • 連結コア資本比率が10.67%と、地域銀行としては相応の水準

日本格付研究所は、格付け対象の企業に対して、なぜその評価になったのかを伝えています。そして企業は、その評価が上々だった場合、沖縄銀行のようにホームページなどでPRすることができます。

*13:https://www.okinawa-bank.co.jp/news_release/2020050800014/

4. まとめ~とても重要な企業の通信簿

日本格付研究所が行っている企業の格付けは、企業の通信簿付けのような意味合いがあります。ただ、子供たちに順位を付ける学校の通信簿には賛否ありますが、格付けという通信簿は厳格なほどよいとされています。なぜなら、企業経営は、信用が高いほどスムーズに進むからです。

もし格付けのルールが緩かったら、企業を信用できません。そうなると投資家たちの不安が募り投資が渋り、企業経営は無駄に難航してしまうでしょう。
日本格付研究所の責任は重大です。

それで金融庁は、日本格付研究所などの信用格付業者に対し、法令遵守の徹底を求めていくと、強く宣言しているわけです(*14)。

*14:https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kakuduke/01.html

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