1. SPCとは
SPCとは、特別目的会社(Special Purpose Company)の略であり、資金調達だけを目的とする会社をいいます。
2. SPCを使う場面(ケース)
(1) 既存の不動産や債権による資金調達
不動産や、売掛金・賃料・リース料・ライセンス料などの債権を元に資金を調達しようとする場合を考えてみましょう。
これらの資産は、将来現金を生み出すことはできますが、すぐに現金化することは必ずしも容易ではありません。不動産であれば、高額であり、また、景気によって売却価格が大きく変動します。また、債権は支払いが確実ではないため、通常、よい条件で売却することは難しいでしょう。さらに、特に不動産の場合、そもそも売却してその後の管理を第三者に委ねたくないという場合もあると考えられます。
このような場合に、SPCなどの手法を使うことになります。
(2) 新規不動産購入や企業買収のための資金調達
不動産を購入して運用する場合や、企業買収の場面を考えてみましょう。不動産や企業は高額であるため、多額の現金を持っていない限り、何らかの方法で資金を調達する必要があります。
購入者が自ら資金を調達しようとする場合、資金提供者は購入者の財務状況全体を見ます。そのため、いくら不動産の運用計画がよくできていたとしても、あるいはいくら買収対象企業の経営計画がよくできていたとしても、購入者の財務状況によっては、資金提供をためらわざるをえません。
このような場合に、SPCなどの手法を使うことになります。
(3) SPC
さて、(1)(2)などの場合に、SPCをどのように使うのか見ていきます。
まず、資金を調達しようとする企業(オリジネーター)が、SPCを設立します。次に、オリジネーターは、そのSPCに資産を譲渡します。
SPCは、その資産の運用益を引き当てにして、投資・融資を受け入れ、オリジネーターに売却代金を支払います。オリジネーターはこれもって資金を調達することができ、SPCに投資・融資した企業や人は、その後の資産の運用益から配当・利息を受け取ります。
SPCに投資・融資した企業や人からすると、(1)のように既存の資産を元手にする場合にせよ、(2)のように新たに取得する資産・企業が生み出す利益を引き当てにする場合にせよ、資産はSPCに譲渡されていますから、オリジネーターの財務状況をモニタリングする必要はありません。
SPC自体も、その資産の管理・運用それ自体が本業なので、他の事業の影響を受けるといったこともありません。
(4) SPVとの関係
SPCと類似する概念として、SPVがあります。
SPV(特別目的事業体、Special Purpose Vehicle)は、SPCや、SPCと類似するがSPCではない、信託や組合などの方法による場合を合わせたものです。
例えば、(1)の場合、オリジネーターとしては、SPCを設立するほかに、信託銀行などの資産の管理・運用を行う会社に信託譲渡し、それと引換えに取得する受益権を売ることもできます。
SPCによる場合でも、信託による場合でも、資産はオリジネーター以外の第三者に譲渡されますから、オリジネーターの財務状況の影響を受けませんし、信託の場合には、信託財産として信託銀行等が自分のために保有している資産とも区別されるため、信託銀行等の財務状況の影響も受けません。
このように、SPCや信託は、資金調達をするために資産を移す、いわば「箱」として使われているため、あわせてこのように呼んでいるのです(vehicleは「乗り物」の意味)。
3. SPCとはなにか
SPCとは、始めに書いたとおり、特別目的会社(Special Purpose Company)の略であり、資金調達だけを目的とする会社をいいます。
SPCは、法的には、会社法上の「合同会社」や、資産流動化法上の「特定目的会社」(特定目的会社は法律上の用語で、特別目的会社とは異なります)として設立されるのが一般的です。
(1) 会社法上の合同会社
合同会社は、会社法が用意している4類型の会社の一つであり(他に株式会社、合資会社、合名会社)、有限責任会社である点で株式会社と共通ですが、次のとおり、株式会社よりも柔軟な仕組みになっています。
ア. 最低資本金の制度はありません(株式会社と共通。特定目的会社と異なる)。
イ. 最低限、社員(株式会社における株主に相当します)が1人、取締役が1人いればよい。監査役・会計監査人は不要(株式会社・特定目的会社と異なる)。
ウ. 定款の公証人による認証が不要である(株式会社・特定目的会社と異なる)。
エ. 設立は登記しなければならない(株式会社・特定目的会社と共通)。登録免許税は最低6万円(株式会社は最低15万円であるため、優遇されている)。
オ. 登記すれば事業を開始できる(株式会社と共通。特定目的会社と異なる)。
(2) 資産流動化法上の特定目的会社
「特定目的会社」は、資産流動化法に基づいて設立される特殊な会社です。会社法上の株式会社がベースですが、SPCがいわゆる簿外債務の飛ばしに濫用されるおそれがあったため、次のとおり、より厳格な義務が課されています。
ア. 最低資本金制度があり、10万円です(株式会社・合同会社と異なる)。
イ. 社員1人、取締役1人、監査役1人が必置である(株式会社のうち公開会社=全株式譲渡制限会社以外の会社と共通。合同会社と異なる)。さらに、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社法上の「大会社」の場合には、監査法人または公認会計士を会計監査人として選任しなければならない(株式会社と共通。合同会社より厳格)。
ウ. 定款の公証人による認証が必要である(株式会社と共通。合同会社より厳格)。
エ. 設立は登記しなければならない(株式会社・合同会社と共通)。登録免許税は3万円(株式会社は最低15万円、合同会社は6万円であるため、優遇されている)。
オ. 登記に加えて、資金流動化計画を作成し、業務開始届に添付して内閣総理大臣(実際に事務を処理するのは財務局)に届け出なければ、事業を開始することができない。
4. SPCのメリット
SPCの特徴は、資産をオリジネーターから切り離すことにあります。このことを、資産、オリジネーターそれぞれについて見ると、次のようなメリットがあることになります。
(1) 資産を独立の投資対象とすることができる
SPCによって、資産をオリジネーターの財務状況から切り離された投資対象とすることができます。
このことは、資金提供者側から見ると、オリジネーターの財務状況を気にすることなく、むしろ自ら直接不動産などに投資するのと同じように、投資をすることができるというメリットになります。
そうすると、自ら不動産などに投資すればよいのではないかと思われるかもしれません。しかし、不動産などの投資には多額の元手が必要ですし、リスクも大きくなります。SPCを通すことで、そのようなデメリットを回避しつつ、特定の資産に投資することができるようになります。
また、オリジネーター側から見ても、このことによって、資金の提供を受けるチャンスが増えるという意味で、メリットになります。
なお、このように、企業自体のキャッシュフローではなく、その保有する資産が生み出すキャッシュフローに着目して資金の提供を受ける(資金を調達する)方法を、アセット・ファイナンスと呼びます(アセットとは資産の意味)。
(2) オフバランス化
SPCを使う場合、投資対象となる資産をオリジネーターの資産から切り離すことになります。貸借対照表(バランスシート)から除外することとなる点を捉えて、オフバランス化と呼びます。
オフバランス化は、2(2)に書いたような、資産を取得するために資金を調達しようとする場面で効果を発揮します。
例えば不動産を取得して運用しようとする場合、不動産や企業は高額であるため、多額の現金を持っていない限り、何らかの方法で資金を調達する必要があります。
しかし、融資によると、多額の債務を負うことになり、財務状況が悪化していまいます。新株発行によって出資を受け入れる場合、株主構成に影響を与え、会社の意思決定に影響を与えることとなるため、それは避けたいということも多いでしょう。
また、そもそも不動産は固定資産ですから、その点でも財務状況は少なくとも表面上は悪化せざるを得ません。
このような場合に、SPCを用いることで、オリジネーターとしては、自らの財務状況に影響を与えることなく、資金を調達し、事業を行うことができます。
もちろん、このようにしても、(1)に書いたように、投資対象となる資産がオリジネーターから切り離されている以上、資金提供者はオリジネーターの財務状況の悪化の影響を受けることがないのですから、問題はないことになります。
5. SPCのデメリット
SPCのデメリットはコストです。
SPCという、資金調達専用の会社を設立することになるため、資本金や登録免許税、さらに資産流動化法上の特定目的会社による場合には、資金流動化計画・事業開始届の作成・提出にかかる費用が必要となります。その過程では、弁護士や公認会計士などの専門家に資産・事業の評価や書面の作成などを依頼することになるため、その報酬も必要となります。
また、一度SPCを設立したあとも、SPC自体の運用コストがかかります。
6. まとめ
SPCは、特別目的会社(Special Purpose Company)の略であり、資金調達だけを目的とする会社をいいます。
SPCは、SPVの一種であり、不動産や、売掛金・賃料・リース料・ライセンス料などの債権を元に資金を調達しようとする場合や、不動産を購入して運用する場合、企業買収の場面で使われます。
SPCの特徴は、資産をオリジネーターから切り離すことにあります。このことは、資産について見ると、資産を独立の投資対象とすることができること、オリジネーターについて見ると、オフバランス化がされるということを意味します。
その結果、資金提供者側から見ると、オリジネーターの財務状況を気にすることなく、むしろ自ら直接不動産などに投資するのと同じように、投資をすることができるというメリットがあります。
オリジネーター側から見ると、このことによって、資金の提供を受けるチャンスが増え、また、自らの財務状況に影響を与えることなく、資金を調達し、事業を行うことができるというメリットがあります。
これに対して、デメリットはコストです。資本金や登録免許税、資金流動化計画・事業開始届の作成・提出にかかる費用、その過程での弁護士や公認会計士などの専門家への報酬、SPC自体の運用コストなどが含まれます。
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