銀行、証券会社、保険会社など日本には様々な形態の金融機関がありますが、過去には何度も金融機関同士が統合をしながら、今の形に落ち着いています。
今回は、金融機関の統合の概要、歴史、経済的効果、最新の事例、統合によるユーザーのメリット・デメリット、新しい金融サービスなどを解説していきます。
1. 日本版金融ビッグバンについて
日本では、1986年にイギリスで起こった金融ビッグバンをもとに、1996年にFree、Fair、Globalという三原則を掲げ、日本版金融ビッグバンが起こりました。この日本版金融ビッグバン以前は、日本の銀行は、護送船団方式と呼ばれる方式で運営されていました。
(1) 護送船団方式とは
護送船団方式とは、全体が速度を合わせて少しずつ進む方式を言います。つまり、必然的に一番遅い船に合わせて進行することになります。銀行が護送船団方式により運営されているということは、すなわち、預金金利、手数料、営業時間などが全て同じということです。
効率的に経営している銀行は、手数料を安くすることもできるはずですが、護送船団方式により、それが叶いませんでした。
(2) 護送船団方式で運営されていた背景
第二次世界大戦前、日本では金融恐慌に見舞われ、中小の金融機関の破綻が相次ぎました。一度、破綻や破綻の噂が流れてしまうと、取り付け騒ぎが起こってしまい、人々の生活そのものも安定しませんでした。そこで、日本銀行が金融業界に対して金融機関の破綻を防ぎ、経営の安定化を図るため、護送船団方式を導入したのです。
結果として、その後バブル崩壊後の1995年まで金融機関の破綻は起こりませんでした。
(3) 日本版金融ビッグバンについて
護送船団方式により日本の金融機関は、現実的に破綻を起こさずに一見、成功していたかに見えました。しかし、資本主義と異なり、質の低い銀行も生き残ってしまっており、利用者側からするとデメリットの方が大きい方式でした。また、バブル崩壊後に、木津信用組合、兵庫銀行、山一證券、など金融機関の破綻が相次ぎ、護送船団方式が崩壊していったのです。これを日本版金融ビッグバンと呼び、この時期から金融機関同士の統合が進んでいきます。
2. 銀行の統合の歴史
それでは実際に銀行を例にとって、どのように統合が進んだかを見ていきましょう。三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3大メガバンクを解説していきます。
(1) 三菱UFJ銀行の統合歴史
三菱UFJ銀行は、明治に設立された下記の銀行が統合され、最終的に平成18年1月に三菱東京UFJ銀行になり、平成30年4月に三菱UFJ銀行へと名称変更されました。
- 横浜正金銀行(明治13年)
- 三菱為換店(明治13年)
- 第百国立銀行(明治11年)
- 川崎銀行(明治11年)
- 第三十四国立銀行(明治11年)
- 第百四十八国立銀行(明治12年)
- 第十三国立銀行(明治10年)
- 愛知銀行(明治29年)
- 名古屋銀行(明治15年)
- 伊藤銀行(明治14年)
具体的な統合の歴史は三菱UFJ銀行のホームページに分かりやすく図示されています。
https://www.bk.mufg.jp/kigyou/company/profile/history.html
(2) みずほ銀行の統合歴史
みずほ銀行は、1971年の第一勧業銀行、1948年の富士銀行、1902年の日本興業銀行の三行が2002年に統合し、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行となりました。
その後、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行は、2013年にみずほ銀行として一つの銀行に統合されました。具体的な詳細な統合歴史は、みずほ銀行公式ホームページに図示されています。
https://www.mizuho-fg.co.jp/company/info/chart.html
(3) 三井住友銀行の統合歴史
三井住友銀行の主な統合歴史は下記のとおりです。
1990年 三井銀行と太陽神戸銀行が合併し、太陽神戸三井銀行となる
1992年 太陽神戸三井銀行が、さくら銀行へ商号変更
2001年 さくら銀行と住友銀行が合併し、三井住友銀行となる
2003年 三井住友銀行とわかしお銀行が合併する
三井住友銀行については、HPに三菱UFJ銀行やみずほ銀行のような分かりやすい図示はありませんが、沿革に記載があります。
https://www.smbc.co.jp/aboutus/profile/history.html
3. 金融機関の提携の具体的な事例
以上のように長い年月をかけながら、各金融機関は、幾度もの統廃合を繰り返し生き残ってきました。ここで、直近の金融機関の提携事例である、SMBCグループとSBIグループの提携を解説していきます。
(1) SMBCグループとSBIグループの資本業務提携の概要
資本業務提携の「資本」提携部分は、SMBCグループがSBIネオモバイル証券の株式を20%、株式譲渡やその他手法により取得することです。「業務」提携部分は、下記6点の狙いがあります。
- スマホ証券及び金融サービス仲介業における提携
- 対面証券ビジネスにおける提携
- SMBCグループによるSBIインベストメント株式会社の新設ファンドへの出資
- 地方創生に向けたサービス提供における提携
- 証券システム及び証券事務分野における提携
- SBIグループ及びSMBCグループ間の資本協力関係の強化への取組み
ソース:https://www.sbigroup.co.jp/news/2020/0428_11948.html
上記の中でも資本提携も絡んだ「1.スマホ証券及び金融サービス仲介業における提携」は特に重要な提携部分であると考えられます。
(2) SMBCグループとSBIグループが組んだ背景
証券業界は、手数料の低下傾向によりビジネスモデルの転換点に来ていると言われています。
例えば、野村ホールディングスとLINEです。LINE51%、野村ホールディングス49%の持株比率でLINE証券を設立しました。スマホ×証券という今までに見なかったビジネスモデルの誕生です。
また、大和証券は独自でネット分野を開拓していくなど、どの証券会社もネットなくしては持続的な成長は困難な状況です。
そんな中、SMBCグループはネットに明るい提携先を探しており、楽天証券、Zホールディングス・LINE、なども候補に挙がりましたが、最終的にSBIグループとなりました。シナジーと見込まれているのは2点あります。
一点目は、スマホ金融です。20代~30代のSBIネオモバイル証券の会員を保険や資産運用といったSMBCの総合サービスへ誘導することを見込んでいます。
二点目は、SMBC日興の141もある支店網です。SBIマネープラザという支店は30店舗しかなく、まだまだ提案力、商品力、リーチ力が弱く、SMBC日興と協力することで、弱みを補うことができます。
今後も地方銀行同士の統合、大型金融機関同士の統合、IT企業と金融機関の統合、などの事例が増えてくるものと想定されます。
4. 金融機関統合の利用者側のメリット・デメリット
金融機関の統合は、金融機関側には、経営の効率化、資本力の増加、相互送客シナジー、といったメリットが挙げられます。それでは、利用者側のメリットやデメリットはどのようなものがあるでしょうか。
(1) 利用者側のメリット
- 金融商品の取り扱い増加:例えば、証券会社であれば、欲しい銘柄がA証券にはあるのにB証券にはない、といったことが少なくなります。
- 信用度の向上:統合により倒産リスクが減少し、安心して取引することができます。
- 使用できるATMの増加:統合によりATMまで統合することができれば、使えるATMが増え便利になります。
- 使用するカードの減少:A銀行とB銀行が統合した場合、A銀行とB銀行のカードが一つになるため、管理すべきカードが減少します。
(2) 利用者側のデメリット
- ブランド消滅:A銀行とB銀行が合併する場合、A、Bという名前の両方が使われるケースが多いですが、Bという名前自体も消滅するケースがあります。
- 手続の増加:カードやID、パスワード、その他において、事務手続が発生します。
- 詐欺事件の増加:高齢者が被害者となるケースが多いですが、統合に乗じて詐欺を図る事件が発生してしまうケースがあります。
5. 新しい金融サービスの誕生
古い歴史の金融機関が統合を繰り返している中、スタートアップとして新しい金融サービスが誕生しています。いくつかの金融系スタートアップはフィンテックとも呼ばれ、ユニコーンに近い企業も出てきています。
日経新聞の「次の産業界の主役を探せ NEXTユニコーン調査」にランクインしているフィンテック企業を5社紹介していきます。
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/next-unicorn/#/dataset/2019/list
(1) ウェルスナビ
ウェルスナビは、財務省出身の柴山和久氏が創業したロボアドバイザーによる個人の資産運用サービス提供企業です。個人では難しい資産運用の王道「長期・積立・分散」が手軽にできる点が魅力の一つです。
(2) フィナテキストホールディングス
フィナテキストホールディングスは、林良太氏が創業した金融の新しい形を常に創造している企業です。
例えば、STREAM(ストリーム)は、日本初の手数料無料のコミュニティ型株取引アプリです。また、あすかぶ!では、明日の株価をユーザーが予想するアプリです。
(3) 五常・アンド・カンパニー
五常・アンド・カンパニーは、慎泰俊氏が創業した民間版の世界銀行を目指している企業です。「誰もが自分の宿命を乗り越えることができる世界をつくる」をビジョンとし、カンボジアなどの新興国の人たちにマイクロファイナンスを行っています。
(4) ペイディー
ペイディーは、外資系金融機関出身のラッセル氏が創業した、簡単に後払いができる決済サービスです。ペイパル、ゴールドマンサックス、など海外大手企業も出資している点が特徴です。
(5) お金のデザイン
お金のデザインは、谷家衛氏が創業したTHEOというロボアドバイザーサービスを提供している企業です。THEOからの5つの質問に答えるだけで30年後の自分の資産を診断してくれます。
上記の5社にはランクインしていませんが、LayerXなどブロックチェーンを軸に事業展開しているスタートアップが多数登場してきており、今後の金融業界への適用などが期待されています。
6. まとめ
金融機関の統合に関する歴史を振り返り、なぜ統合が行われてきたのか、メガバンクの統合経緯、直近の資本業務提携であるSMBCとSBIの事例紹介、統合の利用者側のメリット・デメリット、新しい金融サービスを解説してきました。
金融機関の歴史を学ぶ参考になりましたら幸いです。
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