2020年は、新型コロナウイルス感染症に見舞われて誰しも予想しえなかった年となりました。
2020年上半期のM&A案件は、新型コロナの影響による業績悪化に対応するため、多くの企業がM&Aの検討を停止しましたが、その後のM&A件数は持ち直しています。
世界中がコロナ禍の影響を受けたM&A市場はどのようになっているのか、件数の推移や金額、主な企業買収案件をご紹介しつつ、2020年のM&Aの傾向を解説していきます。
1.2020年のM&A件数は前年と同程度かやや及ばない程度
2020年上半期(2020年1月~6月)のM&A件数は1,808件で上半期としては9年ぶりの減少、取引金額合計は2兆9,111億円と、2002年以来の低水準となりました。
減少傾向となった原因は、言うまでもなく新型コロナウイルス感染症です。
新型コロナで案件の交渉が止まったほか、主力事業の収益確保に迫られた結果、M&A市場が急速に停滞傾向になったことが考えられます。
さらに、毎年のように起こっていた日本企業による海外企業の大型買収がなかったことも、M&A市場が縮小した要因のひとつです。
一方、2020年第3四半期(7月~9月)にはソフトバンクグループによる4.2兆円の売却をはじめ、1兆円超えの大型M&A案件が3件連続したことにより、前年同期比倍増の9兆6860億円となりました。
2020年1月~9月のM&A金額トップ5は以下のとおりです。
1位 ソフトバンクグループ傘下の英半導体設計大手アームを米エヌビディアに売却 4.2兆円
2位 セブン&アイ・ホールディングスが米コンビニ大手のスピードウェイを買収 2.2兆円
3位 シンガポールのウットラムグループが日本ペイントホールディングスを子会社化 1.18兆円
4位 三菱商事・中部電力がオランダの電力会社エネコを買収 5,000億円
5位 武田薬品工業が武田コンシューマーヘルスケアを米投資ファンドに売却 2,420億円
今後もM&Aは国内案件が中心になっていくと見られ、件数は前年と同程度かやや及ばない程度となるでしょう。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64643480V01C20A0DTA000/
2.2020年下半期(2020年7月~12月)の主な企業買収案件
ここからは2020年下半期に発生した企業買収案件を紹介していきます。前提として、マイナー出資や資本提携は含まず、50%以上の株式取得を前提とします。
2020年上半期の主な企業買収案件はこちらの記事をご参照ください。
https://paradigm-shift.co.jp/column/176/detail
(1)セブン&アイ・ホールディングスが米スピードウェイを買収
2020年8月3日、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイHD)は、同社の米国子会社セブン-イレブンを通じて、米国でガソリンスタンド併設のコンビニエンスストアを運営するスピードウェイを約2兆2,200億円(210億ドル)で買収すると発表しました。
スピードウェイは米国コンビニエンスストアの店舗数第3位(第1位はセブン-イレブン)のコンビニエンスストア・チェーンです。
この買収はセブン&アイHDにとって過去最大規模のM&A案件であり、2020年に実施された日本企業の買収でも最大の金額規模となります。
セブン&アイHDはスピードウェイでセブンオリジナル商品を導入、米消費者にとって「ガソリンを入れたついでに」ではなく、「暮らしになくてはならない店」として、商品売上の増加や購買力強化でシナジーを見込んでいます。
https://www.7andi.com/ir/file/library/ks/pdf/2020_0803ks.pdf
(2)NEC、スイス大手金融ソフトウエア会社を買収
2020年10月5日、NECはスイス大手金融ソフトウエア会社アバロック・グループを2,360億円で買収すると発表しました。
NECはソフトウエア事業を軸にフィンテック事業を強化しており、今回の買収は従来から同社が強みとする生体認証やブロックチェーンなどの情報通信技術(ICT)と、アバロックのソフトを組み合わせた新たな事業の創出することを目的としています。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL05H4U_V01C20A0000000
(3)ニトリがTOBで島忠を完全子会社
2020年11月13日、ニトリホールディングスはホームセンター中堅の島忠に対するTOBを11月16日から開始すると発表しました。TOB期間は同年12月28日までで、1株あたり5,500円、買付予定数の下限を発行済株式の50%と設定しました。買付代金は最大で2,142億円と見込まれています。この買収はニトリにとって初の大型M&A案件です。
島忠をめぐっては、同業大手のDCMホールディングスが友好的TOBを進めていましたが、10月29日にニトリが横槍を入れる形で島忠へのTOBを実施しました。最終的に島忠はDCMよりも約3割高い価格を提示したニトリのTOB提案を受け入れ、経営統合契約を締結することを決定しました。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-11-13/QJQ0VMT0AFB901
(4)住友ベークライトが川澄化学工業をTOBで子会社化
2020年10月7日、プラスチック製品の総合メーカー住友ベークライトは、人工透析製品などの医療機器を手がける川澄化学工業の株式の73%を取得し、連結子会社化すると発表しました。買付価格は1株あたり1,700円で、買付代金は約257億円です。
住友ベークライトは2019年に川澄化学工業と資本業務提携していましたが、今回の買い付けにより持ち株比率は96%となり、残りの株式もすべて取得する予定としています。また、これにより川澄化学工業は上場廃止となります。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64486030R01C20A0X93000
(5)アント・キャピタル・パートナーズがソフトブレーンをTOBで子会社化
2020年8月14日、投資会社のアント・キャピタル・パートナーズは、スカラ傘下で営業支援サービスを提供するソフトブレーンをTOBなどで子会社化すると発表しました。
TOBで株式の49.77%を127億4,708万円で取得し、親会社のスカラが保有する残る50.23%については、アント・キャピタル・パートナーズがソフトブレーンに資金提供し、105億4,578万円で自己株取得します。総額は232億9,200万円となります。
https://www.antcapital.jp/wordpress/wp-content/uploads/2020/08/cf9d89c0fc1bc6ebd1a491e269d17d56.pdf
(6)ヤマダ電機がヒノキヤグループをTOBで連結子会社化へ
2020年9月8日、ヤマダ電機は新時代冷暖システムZ空調付き注文住宅などの住宅事業を展開するヒノキヤグループを、TOBによって連結子会社化すると発表しました。買付価格は1株あたり2,000円、買付代金は最大126億円で所有株式の50.1%の取得を目指します。
ヤマダ電機と言えば国内の家電量販店の最大手ですが、家電市場が伸び悩むなか、ヒノキヤグループの連結子会社化で住宅事業を強化する狙いがあると見られています。なお、ヒノキヤグループの上場は維持される予定です。
https://www.hinokiya-group.jp/ir/wp-content/uploads/2020/09/20200908.pdf
(7)昭和産業がサンエイ糖化を子会社化
2020年7月 20日、昭和産業は取締役会において、三井物産傘下のサンエイ糖化の発行済株式100%を150億円で取得、完全子会社化する決議を行いました。
小麦粉の製粉や食用油の製造、配合飼料など各分野で大手の一角を占める昭和産業は、このコロナ禍にありながら本格的なM&Aを進めています。一方のサンエイ糖化は、ブドウ糖を主力とする糖質製品を手がける企業です。
昭和産業はサンエイ糖化を完全子会社化することで糖質事業の拡大を狙っており、今回のM&Aは同社にとって最大案件となります。
https://www.showa-sangyo.co.jp/ir/news/pdf/200720kabushikishutoku.pdf
3.まとめ|2020年のM&A案件の傾向
2020年上半期を総括すると、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、国内案件が中心となりました。またM&Aの金額自体は低調に終わったものの、国内案件が件数を牽引する形で底堅く推移しました。
ここでは、2020年下半期のM&A案件にクローズアップして、その特徴や傾向について見ていきましょう。
コロナ禍で事業売却の増加
国内案件の増加、すなわちコロナ禍におけるM&Aは、中小企業の差し迫る資金調達の必要性で事業売却が増加したことが要因と見られます。
現状では国や金融機関からさまざまな資金繰り支援が提供されていますが、息切れ感は否めません。2021年1月頃にはより経営が厳しくなり、倒産や廃業の危機に直面した企業が売却を希望するケースが増えると考えられます。
一方、コロナの影響をあまり受けていない買収企業はこれを好機として、規模の拡大やシナジー効果を求めて積極的に買収を行っている傾向が見られます。アフターコロナを見据えた成長戦略のための一手として、M&Aが増加することは想像に難くないといえるでしょう。
異業種M&Aで業界再編が進む
2020年のM&A案件からは、複数の業界において再編が加速していることも見てとれます。これを象徴するような案件が、ニトリによる島忠へのTOBです。
ホームセンター業界はこれまで目立った再編がなかったものの、2020年上半期のアークランドサカモトによるLIXILビバの買収、下半期のニトリによる島忠へのTOBと、首都圏への本格進出を目的とした買収が増加、業界再編の動きが見られています。
さらに、ヤマダ電機によるヒノキヤグループへのTOBも、住宅業界の再編、寡占化が進んでいることを示唆しています。
人口減少を伴う少子高齢化により、複数の市場で縮小が予想されるなか、今後もM&Aによる業界再編の動きは加速してくことでしょう。
2021年以降も、引き続き国内案件が中心になると予想されます。「アフターコロナ」を迎え、今後どのようなM&A案件が起こるのか注目していきたいと思います。