M&A

日本で増加しているIT企業のM&Aのその現状と背景を解説します

近年日本のIT業界ではM&Aが活発に行われています。その内容は業績が低迷した企業を買収するだけでなく、高いシェアを獲得している有名企業同士のM&Aもあるのです。
なぜ今IT業界ではM&Aが多くなっているのでしょうか。

これにはIT業界が抱えている様々な問題や背景があり、それらを解決する手段としてM&Aが最適とされているのです。そこでこの記事では日本のIT業界におけるM&Aの現状を解説した上で、その背景にあるIT業界の課題やニーズについて解説します。
さらに事例として、近年行われた有名IT企業によるM&Aを紹介します。

最後までお読みいただければ、日本のIT業界における現状とM&Aの実態について理解することができます。ぜひ最後までお読みください。

1.日本ではM&Aが年々増加している

日本企業によるM&Aは2000年以降増加傾向です。M&Aの件数は1990年代では年間1,000件にも達しませんでした。ところが2005年には年間2,500件を超えたのです。
その後、リーマンショックによる不況の影響で件数は低下したものの、2017年には初めて年間3,000件を突破しました。そしてM&A件数はさらに増加し、2019年は年間4,000件を超えたのです。

(1)M&AのうちIT業界が関係するものが3分の1

日本のM&Aを業界別に見ると、IT業界が最も盛んであることが分かります。
2000年以降IT企業が関わったM&Aが年間200件程度行われており、2006年には400件を超えるM&Aが行われたのです。
IT業界でもリーマンショック後の不況でM&Aの件数が落ち込んだのですが、景気の回復とともに徐々に件数が増加しました。そして2018年には1000件程度のM&Aが行われたのです。

(2)IT企業のM&Aは件数増加⇒1件当たりの金額減少

М&A件数の増加は大手・中小を問わず様々なIT企業の間で取引が行われています。また東京以外の地域でもIT企業のM&Aが増えているのです。そのため比較的取引が金額の小さい10億円未満のМ&A案件が80%以上を占めるようになっています。

(3)一般的なM&Aのメリットは「迅速な事業拡大」

ではなぜIT業界でМ&Aが活性化されているのでしょうか。
初めに一般的なМ&Aのメリットについて整理してみましょう。М&Aには以下のようなメリットがあります。

【売り手側のメリット】

  • 買収企業から資金調達ができる
  • 買収企業のブランド力を使って事業拡大ができる
  • 事業継承を行ってくれる
  • 従業員の雇用確保と待遇向上ができる
  • 創業者の売却益

【買い手側のメリット】

  • 新規事業や未開拓の営業ルートを拡大できる
  • 買い手の技術を導入できる
  • 有能な従業員の確保
  • 買収費用による節税
  • マーケットシェアの拡大

そしてIT業界でМ&Aが増えているのは、今、IT業界ではМ&Aをすることによるメリットが大きい環境になっているからだと考えられます。では、IT業界がМ&Aにメリットを見出している環境とはどのようなものなのでしょうか。

2.近年のIT業界が抱える課題とニーズ

日本でのIT業界はコンピューターの誕生とともに1960年前後から始まったとされています。そしてコンピューターを駆使した様々な「自動化」を広め、インターネットの発達にも大きく貢献したのです。

そして今、IT業界は次なるステップに向けた変革期になっています。その中でIT業界は以下のような課題を抱えているのです。

(1)経営者の高齢化

新しい産業の様に見えるIT業界ですが、すでに60年程度の歴史のある業界になっています。そのため大手に限らず中小でも老舗と呼ばれる企業も多くあるのです。そのようなIT企業の中には経営者が高齢化して、親族や従業員の中では適切な事業継承者が見つからずに困っていることがあります。

※事業継承には経営者が保有する株式を買い取る必要があります。したがって一定の資金力が無いと事業継承はできないのです。

(2)変化の速い事業環境への対応

IT業界は現代の技術革新の中核を担っています。そのため毎年のように新しい技術が生み出されているのです。
しかし中小のIT企業は単独で新しい技術を導入する資金力が不足していることがあります。

(3)多重請負型構造の改革

IT業界は長い間、「多重請負型」の構造になっていました。
多重請負型とは大手が請け負った業務を数多くの下請け企業に委託されます。さらに孫請け企業が委託を受け、業務を行っているという構造です。そのため下請けや孫請け企業は利益が少なくなり、従業員の待遇もそれ相応になっています。

このような事業構造は下請けに対して、必要な時だけ発注できるというメリットがありました。しかし常時必要な技術を持つ下請けであれば、自社にМ&Aすることのメリットが大きくなっているのです。
さらにIT業界の多重請負構造に対して政府からも是正を求める声があることもМ&Aの活性化に影響を与えています。

(4)慢性的な人材不足

IT業界は慢性的な人材不足が言われています。なぜなら技術の革新が速いため、新しい技術を扱える人材が常に求められるからです。もし優秀な人材を抱えるIT企業であれば、М&Aをすることで安いコストで人材を獲得できるメリットがあります。さらに少子化が進んでいる日本では人材不足が慢性化する可能性があることもМ&Aを促す背景になっているのです。

(5)海外進出の必要性

日本では人口減少が確実なため、多くの企業は事業拡大のために海外進出への選択を余儀なくされています。
そしてIT業界も顧客である企業が海外進出するのに合わせていく必要があります。海外進出にはそれに合わせた人材や設備の投資が必要になるので、М&Aで速やかな海外進出の基盤を作ろうとするのです。

(6)第4次産業革命への対応

世の中は既に第4次産業革命へ動き始めています。第4次産業革命とは以下のような技術の発達と普及が予想されているのです。

  • AIやロボットの活用
  • フィンテックの発達
  • シェアリング・エコノミーの普及
  • ビッグデータの活用

これまでのIT業界はある程度画一されたものを自動化・効率化することに力を注いできました。しかし今後はより個別にオーダーメード化された製品やサービスにまで踏み込んでいく必要があるのです。

この時、自社の技術やポテンシャルの不足分を先取りしている企業があればМ&Aで先行投資するメリットがあるのです。

(7)IT業界ではM&Aによる組織の強化と事業の継続がメリット

М&AのメリットとIT業界の現状をふまえると、今IT業界でМ&Aが活性化している理由は以下のポイントを迅速にできることが挙げられます。

【売り手側のメリット】

  • 事業を継続できる後継者になってくれる
  • 大手のグループに入ることでの下請けからの脱却
  • 変化の激しい新技術への投資資金を確保

【買い手側のメリット】

  • 自社にない新技術の獲得
  • 不足している人材を育成することなく確保できる
  • 自社が持たないマーケットシェアを獲得できる
  • 海外進出の基盤づくり

3.IT業界М&Aの事例紹介

IT業界ではМ&Aが盛んに行われていることと、その理由や背景が理解できました。
次に近年行われたМ&Aの事例を解説します。ここで紹介する比較的有名なIT企業でも、時代の変化に追随する必要があることがわかります。

(1) IT業界M&A事例①「オリックス&弥生」

2014年総合リース国内最大手のオリックスが、IT企業である弥生に対して弥生の株式を保有する投資ファンドから約800億円で買収しました。
弥生は1978年に創業した会計ソフトを中心としたソフトウェアの製作・販売企業です。同社のメインソフトである「弥生会計」は中小企業を中心に高いシェアを占めています。

このМ&Aでは両社の間に以下のような背景がありました。

【弥生側の背景】

  • ソフトのクラウド化が主流になりつつあるときに、事業の継続を許容できる株主が必要だった。
  • 株式を上場しても自社単独では次の戦略を十分に描けなかった。

【オリックス側の背景】

  • 同社にない中小企業を中心とした顧客
  • 不況にも強いストック型のビジネスをグループに入れたかった。

このようにオリックスと弥生の間では互いの力不足を認識し、それを補い合うことができることを理解した上でのМ&Aだったのです。

(2) IT業界M&A事例②「LINE&Yahoo!Japan」

2019年11月Yahoo!Japanを運営するZホールディングスと国内SNS大手のLINEが経営統合することで合意しました。両社は国内で高いシェアを有する企業ですが、このМ&Aには両社が共有する「世界の大手との競争力」に対する危機感が背景にあったのです。そして両社が持つ強みを統合によってさらに強化しようとしています。

【Yahoo!Japanの強み】

  • 国内最大手のポータルサイトとしての認知度・ユーザー数

【LINEの強み】

  • 日本とアジアでのコミュニケーションツールとしての認知度・ユーザー数

【両社の統合によるメリット】

  • 互いが有していないマーケットシェアの獲得
  • 両社が有する人材の確保
  • 世界の大手IT企業との競争力が育成できる

両社の統合は日本だけの「井の中の蛙」にとどまらず、世界へ飛躍しようという成長への覚悟がうかがえます。

(3) IT業界M&A事例③「NTTドコモ&オールアバウト」

2018年5月携帯電話キャリア最大手のNTTドコモが総合ポータルサイトを運営するオールアバウトの株式を取得し、資本業務提携を結ぶことになりました。
携帯キャリアとして多くの顧客を有するNTTドコモは、第4次産業革命に合わせてユーザーごとに合わせたサービスを提供する必要がありました。そしてオールアバウトが持つ専門的な情報力は個別のニーズに寄り添ったサービスを展開できるのです。

【NTTドコモの課題】

  • 約6500万の顧客に対するサービス向上
  • 自社のポイントを活用したマーケティング戦略

【オールアバウトの強み】

  • 専門的な知識を幅広く扱っている情報量

【両社の提携によるメリット】

  • オールアバウトのコンテンツをNTTドコモのサービスとして使用可能になる
  • NTTドコモのユーザーが個々に持つニーズに対応したサービスを提供できる

NTTドコモだけでなく大手携帯キャリア各社は、様々な企業と提携を結び始めています。これからは携帯キャリアが持つ多量のユーザー情報がビッグデータとして活用されることが期待されるのです。

4.まとめ

今回はIT業界でМ&Aが増えていることと、その背景やニーズについて解説しましたがいかがでしたでしょうか。
今回の記事のポイントは以下の通りです。

【 国内のМ&Aは近年活発になっている】

  • IT業界のМ&Aは他の業界よりも多い
  • М&Aは迅速に事業を展開する上で有用な手段
  • IT業界は第4次産業革命で中心的な存在になる
  • 一方でIT業界は構造改革と事業継承が課題
  • М&AはIT業界の課題を解決できる最良な手段
  • 国内大手企業はМ&Aで布石を打ち始めている

IT企業はこれからの経済成長のテーマである「生産性」を向上させる上で欠かせない技術を持っています。今後もМ&Aを活用することでIT企業が良質なサービスを提供できるようになることが期待されます。

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