M&A

M&Aの失敗パターン・失敗事例、そこから学ぶ成功するための鍵

日本企業のM&Aの成功率は3割とも、2割とも言われています。何をもってM&Aの成功・失敗とするかは難しいところですが、その判断基準の一つに「事業の強化や拡大といった目的を達成したこと」があります。

つまり、日本企業の7割近くはM&Aの目的を果たせず、想定していた収益を挙げられなかったり、減損損失を抱えたりしているのです。

今回はよく見られる失敗パターンや過去の失敗事例から、M&Aを成功に導くためのポイントについて解説します。

1.M&Aの失敗パターン

M&Aの失敗を定義するならば、「想定していた事業の強化や拡大などが果たせないこと」と言えるでしょう。そもそもM&Aには、技術・ノウハウ・ブランド・販路の獲得、優秀な人材の獲得、多角化対応、事業成長の時間短縮、リスク回避、海外進出などさまざまな目的があります。

しかし、M&Aによって想定していた自社の事業の強化や拡大が果たせなければ、その目的が達成されたとは言えません。

では、具体的にどのようなことが起こればM&Aが失敗したと言えるのでしょうか、日本企業のM&Aによくある失敗パターンで詳しく解説します。

(1)のれんの減損損失

M&Aの失敗として最もわかりやすいのが、「のれんの減損損失」です。「のれん」とは、買収する金額と対象企業の時価純資産額の差額を指します。

通常、M&Aでは対象企業の時価純資産額にブランド・技術・ノウハウ・販路など、財務諸表では記載されない「無形資産」の価値を上乗せした金額で買収するケースがほとんどです。

この無形資産のことを「のれん」と言い、将来的に大きな収益をもたらすだろうブランド力や技術力を持つ会社を買収するときほど、のれん代は高くなります。

ただし、のれんは20年以内の一定年数で費用として償却処理しなければなりません。
このときにM&A実施後の業績が想定どおり、もしくは想定以上であるなら全く問題ありませんが、想定よりも業績が上がらなければ、のれん償却による費用が大きな負担としてのしかかってきます。

つまり、M&Aの投資額が想定どおり回収できそうにないときに、のれんの帳簿価額を回収できる額まで切り下げなければならず、そこで発生する差分の損失が「のれんの減損損失」です。

(2)投資対効果が得られない

「投資効果が得られない」は、日本企業のM&Aの失敗事例で最も多く見られるケースです。

買収後に期待したシナジー効果が生まれなかったというケースはもちろん、想定外に高い買い物をしてしまったというケースも少なくありません。
とくに競争相手がいる場合や、どうしてもその企業を買いたい場合に、買収額が跳ね上がってしまい、焦って買収した結果、思ったほどの投資対効果が得られず、失敗に終わってしまいます。

(3)企業イメージの失墜

M&Aには簿外債務などの財務諸表からは見抜けないリスクはもちろん、コンプライアンス意識やハラスメント問題、環境汚染、訴訟リスクなど、「目に見えない」リスクが潜んでいる可能性があります。

日本企業のM&Aでは「目に見えないリスク」を事前に見抜けなかったために、買収後になって問題が発覚、買い手側が企業イメージを大きく失墜するケースも散見されます。

M&Aで注意すべきリスクは数え切れないほどありますが、こういった潜在的リスクを徹底したデューデリジェンス(DD)で事前に発見しておくことが重要です。

2.日本企業によるM&Aの失敗事例

ここでは前述したM&Aの失敗パターンに沿って、日本企業が行ったM&Aの中から代表的な失敗事例をご紹介します。

(1)東芝による米原子力事業の買収事例

失敗パターン:のれんの減損
失敗の原因:PMIの失敗

のれんの減損損失の最たる失敗事例が、東芝の海外M&Aです。東芝は2006年にアメリカ原子力事業会社ウェスチングハウスを54億ドルで買収しますが、2011年に東日本大震災に起因する福島第一原発事故が起こり、世界中で原発そのものが問われる事態となります。

さらに、2015年には東芝の粉飾決算が明らかとなり、しかも買収したウェスチングハウスが巨額の赤字を抱えていたことが後に発覚します。東芝は債務超過を防ぐために、成長分野だった原子力部門と半導体部門の放出を余儀なくされたのです。

ウェスチングハウスの買収を巡って、競合相手に競り勝つために真実の企業価値を見誤って「高値づかみ」をしてしまったこと、買収後のPMIで調整すべきことが山程あったはずなのに「買いっ放し」でコーポレートガバナンスが欠如していたことが、現在の東芝の凋落を招いています。

(2)リクルートによるMovoto LLCの買収事例

失敗パターン:投資対効果が得られない
失敗の原因:競合のリサーチ不足

「投資対効果が得られなかった」という失敗パターンの事例として、2013年に実施されたリクルートによる米国中古不動産情報サイト運営会社Movoto LLCの買収をご紹介します。

リクルートは販促領域において、これまでアジアを中心として旅行領域や住宅領域などでメディア事業に取り組んでいましたが、さらなる他地域へ展開の第一歩として、米国で中古不動産情報サイトを運営するMovoto LLCの買収を決定します。

Movoto LLCの買収の買収はリクルートが長年培ってきた日本を中心とする大規模な不動産情報サイトの知見を活用、米国内における不動産情報サービスのさらなるシェアが獲得できるとの目論見がありました。

しかし、リクルートは2017年にMovoto LLCの売却を決定しており、結果的に「現在のビジネスにポジティブな影響を与えていない」買収であったと考えられます。失敗に至ったと考えられる原因は「競合リサーチ不足による見通しの甘さ」が挙げられます。

不動産ビジネスは各国の法規制に大きな影響を受ける側面があり、必ずしも日本やアジアで成功したビジネスモデルが通用するとは限らないからです。

日本で培った知見が別の国や地域でも通用するのか、徹底したリサーチが必要であることを示唆する事例であると言えるでしょう。

詳しくはこちらの記事もご参照ください。
https://paradigm-shift.co.jp/column/97/detail

(3)DeNAによるキュレーションサイト運営会社の買収事例

失敗パターン:企業イメージの失墜
失敗の原因:法務デューデリジェンス不足

DeNA(ディー・エヌ・エー)は、モバイルゲーム開発・配信、および横浜DeNAベイスターズのオーナーとしても知られる、日本を代表するインターネット関連企業です。

2014年、DeNAはインテリア関連情報のキュレーションサイトを運営する「iemo(イエモ)」、女性向けファッション情報サイトを運営する「ペロリ」の2社を50億円で買収、キュレーションメディア事業に参入します。
2015年にはキュレーションメディア事業を拡大して10サイトを運営、モバイルゲーム事業に次ぐ新たな収益の柱にと考えられていました。

しかし、運営サイトのひとつ「WELQ(ウェルク)」に、医師の監修のない不正確な医療情報や著作権侵害コンテンツが大量にあることが発覚します。
事態が大きく報道されたことを受けてDeNAは謝罪会見を実施、企業イメージを大きく損なう事態となり、批判が相次いだ結果、10サイトを閉鎖して減損を計上するに至ったのです。

DeNAの失敗事例は、対象企業のコンプライアンス意識やリスク管理体制、企業風土に踏み込んだ法務デューデリジェンス不足が原因と見られます。
また、買収は社長の一存で戦略投資推進室の見解が求められておらず、正しい企業価値評価ができていなかったことも、失敗に至った原因の一つに挙げられるでしょう。

3.失敗から学ぶM&A成功のカギ

前述のM&Aの失敗事例を踏まえ、「M&Aを成功に導くカギ」について考えてみましょう。

(1)M&A後の明確なビジョンを持つ

東芝やDeNAの事例から見えてくる失敗原因のひとつに、「M&Aという手段の目的化」が挙げられます。M&Aはあくまでも、経営戦略のひとつに過ぎません。

自社の強みと弱みから必要な経営資源を明確にして、どの企業を買収すればその経営資源を獲得できるのか、どのようにしてシナジーを得るのか、明確なビジョンを持つことが大切です。

目的化したM&Aでは、相場に合わない「高値づかみ」をしてしまう恐れがあります。
たとえ競合他社がいても、「買収するならこの会社しかない」というときでも、将来のビジョンを冷静に描き、適正な企業価値評価を行わなければなりません。

(2)徹底したデューデリジェンスの実施

デューデリジェンス不足はM&Aの失敗を引き起こしやすい要因のひとつです。
簿外債務や税務申告漏れなど財務・税務面に限らず、法務、人事、ITに至るまで、徹底したデューデリジェンスの実施がリスク回避には欠かせません。

デューデリジェンスを行うにあたって、弁護士や会計士、税理士など専門家を起用すると高額な費用がかかります。しかし、コストがかかるからと言って自社のスタッフだけでデューデリジェンスを行うことは、M&Aの典型的な失敗要因です。

デューデリジェンスの高額な費用は「転ばぬ先の杖」と割り切り、コストと時間をしっかりかければ、M&Aの成功率はぐっと高まります。

(3)PMIを適切に行うこと

適切なPMIが行われたかどうかが、M&Aの成否のカギを握ると言っても過言ではありません。PMIとは、M&A後の経営・業務・意識などの統合プロセスのことです。

M&Aでは異なる2つの会社が1つの組織に統合されるため、現場では大なり小なり混乱が起こります。PMIが適切に行われなければ、内部対立や優秀な人材の離職、業績悪化などの損失を被ります。

それらを最小限にとどめ、円滑に統合を進めるためには、徹底したPMIの実施が必要不可欠なのです。

4.まとめ

失敗の原因には、M&Aの目的化してしまったケースや、デューデリジェンス・PMIに時間とコストをかけなかったケースが多く見られます。

M&Aは企業の行く末を左右する重要な経営戦略であり、ときには従業員や顧客にも影響を及ぼすことがあります。だからこそ、M&Aを実施する際には合理的かつ論理的な専門家のアドバイスが必要不可欠です。

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