M&A

イエローハットから見る「成熟産業では同業他社のM&A・企業買収が王道」という理由

近年の日本では社会が成熟し人口が減少するため、多くの業界が成熟⇒衰退の脅威におびえています。しかしそのような状況においても自社の強みや業界の風穴を見つけられれば成長することも可能です。

今回は若者の車離れと言われて久しい自動車整備業界において、同業他社のM&Aで業績を伸ばし続けている「イエローハット」の事例を解説し、成熟/衰退産業における生き残りの道を探ります。

1. イエローハットは同業他社のM&Aで業績を伸ばし続けた

株式会社イエローハットは自動車用品の販売と卸売をメインとする企業で、東京都千代田区に本社があります。創業は昭和36年、創業者である鍵山秀三郎氏が自動車部品卸売業を個人事業主として始めました。

そして昭和50年からイエローハットの商号で小売業に参入し、店舗網を拡大していったのです。同社の発表によると(2020年3月31日)で全国に738店、そして海外に3店舗を展開しています。

(1) 業界最大手のオートバックスを上回る成長と利益

近年のイエローハットの業績には目を見張るものがあります。2011年から2020年の10年間、イエローハットは増収を継続したのです。また純利益では途中減益があったものの、同じ10年間で2倍以上の増益となっています。

さらに業界最大手であるオートバックスセブンが同期間の業績で伸び悩んでいることを比較すると、イエローハットの業績は大成功だといえるのです。

(2) 衰退産業に活路を見いだした「同業他社のM&A」

このようなイエローハットの成長をもたらしたのは「同業他社のM&A」という経営戦略です。しかし闇雲にM&Aを重ねたのでは無く、業界で生き残るための綿密な戦略に基づいてのM&Aだったのです。

ではイエローハットは自動車整備業界の中でどのような活路を見いだし、M&Aに踏み切ったのでしょうか。

2. かつては赤字を計上していた

イエローハットが業績を伸ばし始める直前の2008年と2009年、同社は2期連続で赤字決算を発表しました。その原因にはカー用品市場全体の低迷があったのです。一時は銀行主導による経営再建も検討されました。しかし創業者である鍵山氏と一族は自らは経営を退き、生え抜きの社員である堀江康生氏を社長に抜擢し再生を託したのです。

3. 自動車整備業界は衰退しない(業界の冷静な分析)

堀江氏は後のインタビューでも黒字化はできると確信していたと言います。そして積極的な同業他社のM&Aで素晴らしい業績をあげました。ではなぜ同氏は黒字化に確信が持て、M&Aを進めることができたのでしょうか。それは自動車整備業界で働いてきた同氏による冷静な自社と業界に対する分析があったのです。

(1) 自動車整備業界が直面している脅威は多くある

自動車整備業界は戦後の経済発展に伴ってその市場を広げてきました。そして自動車は男性のステータスシンボルとして高い関心を注がれて、自動車整備業界をさらに発展させてきたのです。しかし近年は社会の成熟化や若者の車離れが進み、業界の成長に限界が見えていました。

ア 自動車技術の進歩

近年の自動車技術はさらなる進化を遂げています。エンジンの電子制御化やハイブリッドカーの登場は自動車整備工場にも高い技術力が要求されます。しかし技術への対応には設備や人材への投資が必要になり中小の自動車整備会社には大きな負担になっています。

イ カー用品の内製化・整備のパッケージング化

かつて自動車整備業界では様々な「カーグッズ」が売れ筋でした。ところが近年はカーグッズが新車に標準装備され、装備されていなくてもオプションとして自動車ディーラーで気軽に購入できるようになったのです。例えば近年の新車はカップホルダーなど収納アイテムが充実しているため、カーショップで購入する必要がなくなりました。

また新車販売を中心としてきた自動車ディーラーでは新車購入時に車検やオイル交換をセットにした販売を強化してきました。この展開は自動車整備業界の新規顧客の創出に対してハードルになっているのです。

ウ ネット通販の台頭

ネット通販は自動車整備業界にも影響を及ぼしています。店舗を持たないネットショップは価格面で有利に展開することができます。また近くに店舗が少ない地方在住者にとってもネット通販は有利になるのです。

エ 整備士の後継者不足

若者の車離れは業界の人材不足にも影響しています。自動車整備士の養成校への入学者数は平成15年~平成24年にかけて30%以上減少しているのです。一方で自動車整備士の高齢化は進んでおり、中小の自動車整備業者では後継車不足になっているのです。

(2) 一方で自動車整備市場には生き残るチャンスがある

このように自動車整備業界は前途多難な状況でした。しかし自動車を取り巻く環境は決して悪いものばかりでは無かったのです。堀江氏はこのような現状をデータと現場の感覚ですでにつかんでいたのです。

ア 自動車整備市場は5兆円以上の規模

国土交通省の調査では平成16年から平成26年の間で、自動車整備に関する年間総売上は5.5兆円から6兆円の間で推移したというデータがあります。これは日本において自動車が生活必需品として普及し、安定した市場が形成されていることを表しています。

イ 自動車の保有台数は増え続けている

若者の車離れという言葉とは裏腹に、日本の自動車数は増え続けています。一般財団法人自動車検査登録情報協会によると日本の登録自動車数は昭和41年以降常に増加しているのです。また平成だけに絞っても平成元年の約550万台から平成31年の約820万台と1.5倍に増えています。さらに自動車の内訳で分析すると乗用車の増加率が顕著に表れます。

これは自動車を趣味や遊びの道具として使う若者が減っただけで、生活必需品として使用する人が増えていることを示唆しています。

ウ 自動車の保有年数も徐々に延びている

日本では同じ自動車を長く乗り続ける傾向が見られます。一般財団法人自動車検査登録情報協会によると自動車の使用年数は年々長期化しています。平成31年のデータでは乗用車の平均使用年数は13.26年です。

自動車を長く使用するようになったのは、自動車の耐久性が向上したことが理由として考えられます。そして自動車整備業界にとっては自動車のメンテナンス機会が増えることを表すのです。

エ 業界の多くは中小/零細企業

自動車整備業界は個人が独立して店舗を持つケースが多くあります。国土交通省が平成26年において自動車整備業を従業員別に分類したデータによると、10名以下の企業が77%になっているのです。これは先ほどの業界の後継者不足に大きく関係しており、自動車整備業界の多くの企業は経営難と人材不足によって事業の継続が難しくなっていたのです。

4. 自社の強みを活かした経営戦略

このような現状に対して堀江氏はイエローハットの強みを活かした戦略としてM&Aによる事業拡大を行いました。そこには現状を打破できるイエローハットの強みを活かすことができる確信があったのです。

(1) イエローハットは卸売業としての機能があった

イエローハットは創業当初、自動車部品の卸売業がメインビジネスでした。そのノウハウが引継がれていたため、自動車部品を格安で仕入れることができたのです。そして同業他社を吸収することで仕入量を増やし、単価を下げることができました。M&Aによるシナジー効果が発揮できる土台がイエローハットにはあったのです。

(2) ネット通販では対応が難しい消耗品に絞った戦略

ネット通販の脅威に対してもイエローハットは自信がありました。それは自動車部品にはネット通販が難しい商品があることでした。例えばタイヤやオイル、そしてバッテリーは定期的な交換が必要な部品です。しかしこれらはネット通販で購入すると交換作業を自分でする必要があるのです。

イエローハットはこれらネット通販では難しい商品に絞ることで利益率を改善することを狙ったのです。

(3) 出店速度の速い中小規模の居抜き出店

大型店を得意とするオートバックスに対してイエローハットは中小規模の出店を積極的に行いました。これによって商圏の小さい地方で展開する自動車整備会社のM&Aや狭い面積での居抜き出店を容易にしたのです。

このような居抜き出店は出店コストを引き下げ、資金の回収スピードを改善する効果もあります。

5. イエローハットのM&Aは地域密着の同業他社を引継ぐ形

【2010年以降のイエローハットのM&Aの主な事例】

M&A対象企業 現社名 買収形態
2020年5月 株式会社イッシン 福岡イエローハット 完全子会社化
2020年8月 株式会社ジョイフル 完全子会社化
2011年12月 株式会社モンテカルロ 広島イエローハット 子会社化
2012年4月 株式会社ドライバースタンド 2りんかんイエローハット 子会社化
2012年4月 出光興産株式会社 業務資本提携
2013年4月 株式会社アップル 栃木イエローハット 完全子会社化
2014年5月 株式会社ウィル SOX・イエローハット 完全子会社化
2016年4月 株式会社ベストウィング 山形イエローハット 完全子会社化
2018年4月 株式会社ホップス 新岐阜イエローハット 子会社化

※広島イエローハットは2012年4月に完全子会社化
※イエローハット公式ホームページより抜粋
https://www.yellowhat.jp/corp/about/history.html

ではイエローハットはどのようなM&Aを実行してきたのでしょうか。ここからは堀江氏が社長に就任して以降に行われたM&Aの事例を解説します。

(1) 「モンテカルロ」中国地方で展開していた上場企業

イエローハットは2011年、同業他社であるモンテカルロをM&Aにて子会社化しました。モンテカルロは広島市に本社を置き、九州や東海地方に店舗を展開していました。しかしモンテカルロは業績不振で負債がふくらみ、株式の上場廃止に抵触する事態になっていました。またすでにモンテカルロは金融機関による投資ファンドの支援を受けている状態だったのです。

それに対してイエローハットは投資ファンドが保有する優先株式を譲り受け、それら優先株式を普通株式に交換することで子会社化したのです。またモンテカルロは上場企業であったこともあり、既存のモンテカルロ株主に対してモンテカルロ株1株に対してイエローハット株0.05株を割り当て、モンテカルロを上場廃止にしました。

(2)   「ドライバースタンド」2輪整備事業への展開

ドライバースタンドは1978年に創業した4輪/2輪の用品販売をする企業です。特に2輪部門では「2りんかん」「ライダーズスタンド」という店名で業界最大手の地位を得ていました。しかしカー用品市場の縮小やライダーの減少で経営は低迷していたのです。

それに対してイエローハットは2012年にドライバースタンドの親会社から株式を買い取るという形で子会社化しました。子会社化した当初は4輪部門の運営のみイエローハットが引継ぎました。そして2018年からは2輪部門の運営も引き継ぎ、社名も「2りんかんイエローハット」となったのです。

(3) 「ジュンテンドー」ホームセンターの一部事業の引継

上記の表に挙げた事例だけで無く、企業のカーメンテナンス部門のみ買い取るM&Aも行われました。ジュンテンドーは中国地方を中心に展開するホームセンターです。ジュンテンドーは1989年からイエローハットのFC事業としてカーショップ部門を設けていました。しかし2017年、イエローハットのM&Aによる経営効率化の流れを受けて山陰地方で展開していた4店舗をイエローハットに譲渡したのです。

6. 自社の強みと市場に残された需要を組み合わせたM&Aは成功する

このようにイエローハットは成熟する国内市場において、自社の強みが活かせる市場の存在を見極めた上でM&Aを敢行することですばらしい業績を残すことができました。これは国内市場で活路を見いだそうとしている他の業界においても参考になる事例です。日本経済は衰退の一途だと諦める前に、今一度自社のビジネスと市場を様々な角度から見直すべきで無いでしょうか。

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