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【解説】法律の観点から会社の倒産(民事再生や破産手続き等)を説明します

企業の資金繰りがつかなくなった場合、法的な倒産手続を利用する、事業再生ADRなどの裁判外手続を利用する、私的整理を行うといった対応が考えられます。この記事では、このうち、法的な倒産手続について説明します。

1.倒産手続の種類

法的な倒産手続には、破産手続、特別清算手続、民事再生手続、会社更生手続の4種類があります。

(1)清算型手続と再建型手続

清算型手続とは、倒産手続の中でも、企業の全財産を売却し、全債権者に平等に配当を与えるタイプのものを言います。
破産手続と特別清算手続がこれにあたります。

再建型手続とは、倒産手続の中でも、債務を縮減・猶予し、また、場合によってはデット・エクイティ・スワップを行うことにより、企業の経営を再建し、そこから得られるキャッシュ・フローから全債権者に配当を与えるタイプのものを言います。
民事再生手続と会社更生手続がこれにあたります。

(2)管財型手続とDIP型手続

清算型と再建型という区別の他に、管財型とDIP型という区別もあります。

管財型手続とは、倒産手続の中でも、手続開始により、企業自身は契約関係や財産関係について一切の行為をすることができなくなり(債務者が財産の管理処分権を失う)、裁判所に選任される破産管財人が代わってこれを行うタイプのものを言います。
破産手続と会社更生手続は、原則としてこれにあたります。

DIP型手続とは、倒産手続の中でも、従前の経営者が引続き経営に当たることができるタイプのものを言います(債務者が財産の管理処分権を失わない)。
特別清算手続と民事再生手続は、原則としてこれにあたります。

なお、「DIP」は、再建型手続のモデルとなったアメリカ倒産法の用語であり、Debtor in Possession(財産を占有し続ける債務者)を意味します。

(3)破産手続

破産手続は、清算型の一般手続で、管財型手続です。倒産手続の原型となっている手続です(倒産法の一般法)。利用主体に制限はありません。

破産手続の基本的な流れは、
①支払不能または債務超過が存在する場合に、②債権者または債務者が破産手続開始の申立てをし、③裁判所が支払不能または債務超過の存在を認定して破産手続開始決定をするとともに、破産管財人を選任し、④破産管財人が資産の売却を行い、⑤同時並行的に債権者が債権を裁判所に届け出、管財人が認否し、争いがある場合には訴訟で確定させ、⑥④で得られた金銭を⑤で明らかになった債権者に債権額に比例して配当し、⑦裁判所が破産手続終結決定をして終了する、というものです。

(4)特別清算手続

特別清算手続は、清算型の特別手続で、DIP型手続です。
破産手続の簡易版で、株式会社の清算中に債務超過が判明した場合に、債権者の合意を得て、清算手続の中で倒産処理も行ってしまうというものです。

管財人は選任されず、清算人(清算中の会社の取締役に相当する)が手続を追行します。利用主体は株式会社に限られます。

(5)民事再生手続

民事再生手続は、再建型の一般手続で、DIP型手続です。

沿革的には、会社更生手続の簡易版として、1999年に新設されたもので、担保権の実行を制限しない、資本構成や会社の組織に手を加えない、管財型ではなくDIP型であるという特徴があります。

会社更生手続は、資本構成に手を加えるという性質上、利用主体は株式会社に限られますが、民事再生手続はそうではないため、利用主体に制限はありません(個人でも利用可能)。

民事再生手続の基本的な流れは、
①支払不能または債務超過のおそれが存在する場合に、②債権者または債務者が民事再生手続開始の申立てをし、③裁判所が支払不能または債務超過のおそれを認定して再生手続開始決定をし、④債権者が債権を裁判所に届け出、債務者が認否し、争いがある場合には訴訟で確定させ、⑤債務者が再生計画を作成し(債権者も作成することができる)、債権者の特別多数決により可決し(債権者の頭数の過半数かつ債権額の2分の1以上)、裁判所が計画を認可し(この後再生手続自体は裁判所が終結決定をして手続を終了する)、⑥債務者が経営を続行するとともに、再生計画に従って債務を弁済する、というものです。

なお、再生計画の可決が得られなかった場合や、裁判所の許可が得られない場合には、再生手続は終了し、その時点で支払不能・債務超過に至っている場合には、破産手続に移行します(牽連破産)。

民事再生手続では、株主はもはや配当の期待が持てず、経営に関心を持たないのが通常であるため、株主総会特別決議に代わる裁判所の許可によって、事業譲渡をすることができることとされています。

これを利用して、債務者の元で事業を再建するのではなく、裁判所の許可を得て事業を他の企業に譲渡し、事業はその企業のもとで再建してもらうこととし、債務者は再生計画に従って直ちに譲渡対価を分配し、清算する、という手続の使い方も可能です。

(6)会社更生手続

会社更生手続は、再建型の特別手続で、管財型手続です。
民事再生手続と比べると、より強力な再建型手続で、担保権者の権利の個別の実行が禁止されます。

また、民事再生手続では、債務の圧縮の手段は、債務の免除・猶予にとどまりますが、会社更生手続では、デット・エクイティ・スワップが行われます。
つまり、倒産に至っている以上、従前の株式の価値はゼロですが(有限責任であるためマイナスにはなりません)、そのような従前の株式は消滅させられ、代わって債権者に株式が割り当てられます。

2.倒産時の各種の権利

倒産時には、各種の権利が手続に応じた制約を受けます。利用されることの多い破産手続、民事再生手続に絞って説明します。

(1)破産債権、再生債権

手続開始前の原因に基づいて発生した債権は、原則として、「破産債権」、「再生債権」となり、手続外での実行を禁止されます。
代わって、破産手続では配当手続で、民事再生手続では再生計画に従ってのみ弁済を受けることができます。

破産債権には、優先的破産債権、(一般の)破産債権、劣後的破産債権、約定劣後破産債権の優先順位があり、優先されるグループが満額配当を得た後でなければ、劣後するグループが配当を受けることはできません(同じグループ内では債権額に比例した弁済)。

優先的破産債権とされるのは、一般の先取特権によって担保されている債権や、租税債権です。
劣後的破産債権とされるのは、手続開始後の利息債権、手続開始後の債務不履行による損害賠償債権、手続開始後の延滞税等、手続に参加するための費用など、付随的な債権です。
約定劣後破産債権とされるのは、いわゆる劣後債で、自己資本(株式)に類似した取扱いをするという特徴を、破産手続上も反映したものです。

民事再生手続では、このような優先順位はありませんが、再生計画において優先順位を反映した弁済条件を定める必要があります。

(2)財団債権、共益債権

「財団債権」(破産手続)、「共益債権」(民事再生手続)は、手続外で、つまり優先的破産債権よりもさらに優先して、随時弁済を受けることができます。

財団債権、共益債権とされる債権の例として、破産手続の管財報酬、3か月分の未払い給与、納期限未到来または納期限から1年以内の租税があります。

民事再生手続では、開始後の債務者の業務上の費用が共益債権とされます。例えば取引先の代金債権や、金融機関の貸金返還債権がこれにあたります。

これらの債権を共益債権とすることにより、債務者は取引を継続し、あるいは資金を調達する機会を得ることができ(満額が支払われないと分かっていながら新たな取引・融資に入る企業はありません)、それにより、再建が達成されれば、債権者の利益になるという考え方に基づいています。

(3)取戻権

所有権など、破産者・再生債務者から財産を取り戻すことができる権利は、「取戻権」とされ、破産手続の影響を受けません。

(4)別除権

抵当権、質権、特別の先取特権などの担保権は、「別除権」(手続外で実行できる権利)とされ、破産手続の影響を受けません。

ただし、破産手続においては、担保権者と管財人の合意によって担保権を消滅させ、管財人が任意売却をして、一定額を担保権者に弁済し、残額を一般債権者である破産債権者に配当するのが通常です。

担保権者がこれに合意しない場合でも、裁判所の許可を得て、同様のことをすることができます(破産手続における担保権消滅許可制度)。競売をいつ申し立てるかは本来債権者の自由であり、一般的には不動産価格相場が高騰している時期に申し立てたほうが有利ですが、破産手続においては、財産関係の清算という目的を達成するため、そのような自由は制約されることになります。

また、民事再生手続においては、自社オフィスや工場など、事業の継続に不可欠な物件について、担保権者が合意しない場合でも、裁判所の許可を得て、担保物相当額を担保権者に弁済し、担保権を消滅させることができます(民事再生手続における担保権消滅許可制度)。

担保割れになっている場合、本来被担保債権の全額の弁済を受けるまで担保権は消滅しませんが(不可分性)、民事再生手続においては、事業の再建という目的を達成するため、そのような性質が制約されることになります。

(5)相殺権

相殺権は、原則として制約されません。これは、破産債権が手続外での実行を禁止されることに対する例外に当たります。

金融機関や継続的取引関係にある企業は、相殺ができることを期待して、つまり相手方の自己に対する債権を担保として融資や取引関係に入るのが通常であるため、担保権が別除権として保護されるのと同様に、そのような期待を保護するものです。

(6)双方未履行双務契約

双方の履行が未完了の双務契約(典型は売買契約)は、原則として、管財人・債務者が存続させるかどうかを選択し、必要に応じて解除することができます。

これにより、債権者にとって有利な契約は存続させ(なお、相手方の反対債権は財団債権・共益債権として保護されます)、そうでない契約は解消し、原状に回復させて、清算・再建の目的を達成しようとするものです。

3.まとめ

法的な倒産手続には、清算型と再建型があり、また、管財型とDIP型があります。
清算型手続では企業の全財産を売却し、全債権者に平等に配当を与え(破産、特別清算)、再建型手続では、債務を縮減・猶予し(民事再生)、また、デット・エクイティ・スワップを行うことにより(会社更生)、企業の経営を再建し、そこから得られるキャッシュ・フローから全債権者に配当を与えます。

管財型手続では、手続開始により、企業自身は契約関係や財産関係について一切の行為をすることができなくなり、裁判所に選任される破産管財人が代わってこれを行い、DIP型手続では、そのようなことが起きません。

法的な倒産手続が始まると、財団債権・共益債権を除き、債権は手続外で行使することができなくなります。
ただし、所有権などの取戻権、別除権である担保権、相殺権などは保護されます。また、契約関係は、清算・再建の目的を達成するため、選択的に解除することができます。

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