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中国が主導するEMS(電子機器受託生産)の今後

電子機器の生産において、近年の大きな潮流になっているのが、アウトソーシングです。メーカーが自社ではなく、外部の企業に生産を委託することによって、効率的な生産及び経営を図る手法として、人気を集めています。

電子機器の生産を外部に委託するという方法を、EMSと言います。この記事では、EMSの概要やEMSのメリット、デメリット、今後の展望などについて解説していきたいと思います。

1.中国EMSとは

EMSとは、Electronics Manufacturing Serviceの略語です。日本語に訳すと、「電子機器受託生産」となります。

電子機器の生産は、メーカーが企画を行い、それを元にして自社工場で生産したり、下請け会社に生産を依頼したりするのが一般的でした。しかし、より大きな企業価値を生み出すべく、メーカーは企画や設計、マーケティングなどの自社が得意とするサービス部門に特化し、実際のモノづくりは他社にアントソーシングするという流れが加速しています。

特に、アウトソーシング先として人気なのが中国です。中国は積極的にEMSを受け入れることによって、急速な経済成長を果たしてきました。

(1)EMSの歴史

中国EMSが加速したのには、2つの理由があります。それは、

  • IT革命
  • 中国の改革開放政策 の2つです。

EMSは元々1980年代から、シリコンバレーにおいて、近くのメーカー同士での協業という形で誕生したビジネスモデルでした。しかし、1990年代のグローバル化やIT革命の急速な進行により、通信機器が一気に普及。 その結果、近場同士でなくても、通信機器を利用すれば、リアルタイムで情報を交換できるようになったのです。これが、大きな企業の海外進出を強力に後押しする理由となりました。

同時期に、外国企業を積極的に誘致する動きを見せていたのが中国です。中国は長年閉鎖的な社会でしたが、1980年頃から改革開放政策により、積極的な経済成長を進めてきました。特に大きく貢献したのが、経済特区です。税制面を優遇することで、外資系企業を誘致しました。

その結果、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの大きな企業が、次々に中国に進出を果たしたのです。そして中国は、世界で2番目の経済大国になるまで成長を果たしました。19世紀はイギリス、20世紀はアメリカが持っていた「世界の工場」の地位を、21世紀は中国が手にすることになります。

中国は賃金水準が低かったということもあり、コスト抑制を目論む企業の恰好のターゲットとなりました。そして、1990年代にソレクトロンが中国の蘇州とマレーシアのペナンに生産工場を設けたことで、EMSという業態が一気に加速していくことになったのです。

(2)EMSの業界規模

EMSの業界規模は、右肩上がりで成長を続けています。2001年に1000億ドルを突破したと言われる業界の売上高は、2010年頃には2000億ドル、そして2017年には4000億ドルを突破しています。

次々に便利な電子機器が誕生し続ける現代において、その成長スピードは留まることを知りません。今後も、しばらくはその規模が拡大し続けることが期待されます。

(3)EMSの世界ランキング

EMSの売上額が大きい上位10社を紹介します。データは2018年のものです。

順位 企業 売上高
1 ホンハイ 台湾 15兆2555億円
2 ペガトロン 台湾 4兆520億円
3 クアンタ 台湾 3兆219億円
4 コンバル 台湾 2兆6838億円
5 フレクトロニクス シンガポール 2兆6180億円
6 ウィストロン 台湾 2兆3097億円
7 ジェイビルサーキット アメリカ 2兆130億円
8 インペンテック 台湾 1兆4994億円
9 サンミナ アメリカ 7040億円
10 セレスティカ カナダ 6600億円

上位は圧倒的に台湾企業が占めています。全10社中6社です。なお、日本のEMS企業の最上位は、シークスです(11位)。

(4)EMSを利用するメリット

EMSを利用することで得られるメリットには、以下のようなものがあります。

  • ファブレス化の実現により、設備投資のためのコストを大規模に削減できる
  • ファブレス化の実現により、衰退産業になった時のリスクを回避できる
  • 雇用人員を大幅に縮小させられる
  • 付加価値の高い部門に人員を集中できる
  • 最も優秀な会社への委託ができる

最も大きく期待できるメリットが、大規模なコストカットです。EMSでは、製造部門をほぼすべて外注化することになるため、製造にかかる様々なコストを削減させることができます。また、先進国に比べて、中国や台湾は賃金水準が低く設定されており、そのこともコストカットを可能にする1つの理由です。

(5)EMSを利用するデメリット

EMSを利用することには、当然デメリットも伴います。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 直接現場への指示ができない
  • 品質管理が難しい
  • トラブルが発生した際の原因解明や挽回に時間がかかる

メーカーが直接工場を管理することができないというのは、大きなデメリットになり得るでしょう。特に製品に問題が発生した際には、メーカー側とEMS事業者側のどちらに責任の所在があるのか、トラブルが生じやすくなります。

また、EMS事業者側の過失やミスがメーカーの評判を落とすことにもつながりかねないという点も、デメリットでしょう。

2.日系企業と中国EMSの関係

EMSの業界規模が拡大していることは、日本人にとっても無関係ではありません。生活で使用する様々な電子機器が中国製となることのみならず、日本経済全体そして一人ひとりの生活にも大きな影響を及ぼす可能性も示唆されます。

(1)日本の電子機器産業の現状

日本はかつて、自動車産業と並び、電子機器産業が輸出ビジネスの柱とも言えるほど、大きな外貨の稼ぎ頭となっていました。しかし、2013年には長年貿易黒字を続けていた電子機器産業が、ついに貿易赤字へと転落する事態になったのです。

国内生産額も2000年に約26兆円を記録しましたが、2012年には11兆円まで落ち込み、その後も改善の兆しは見えていません。

最も大きな理由は、言うまでもなくEMSの拡大です。EMSが一般化したことにより、日本国内で高い人件費を払って製品を生産することのメリットが大幅に縮小しました。よって、日本の大手メーカーがこぞって海外進出を果たしていくことになったのです。

また2016年には、EMS業界でトップのホンハイが、経営危機に陥っていたシャープを買収し、傘下に収めました。

(2)中国EMSが与える日本の電子機器産業への影響

電子機器受託生産が活発化するにつれて、電子機器を日本国内で生産して、海外に輸出するというビジネスモデルは成り立たなくなります。むしろ、中国などの海外で生産を行い、その製品を日本に輸入するというビジネスモデルとなるため、必然的に日本の貿易赤字が膨らんでいくでしょう。

また、雇用の機会も減少することになります。それは、国内に工場がなくなるから、というだけではありません。

そもそもEMS事業者は、メーカーの傘下にはない、独立した1つの企業です。下請けという位置づけでもありません。EMS事業者は、複数のメーカーと契約して、様々な製品の開発を行うこともできます。

よって、日本のメーカーからEMS事業者へ異動が命じられるということは、よほどのことがない限り起こりません。これが意味することは、日本のメーカーが抱えられる従業員の絶対数が減少するということです。

つまり、メーカーが新たに雇用する機会も限られてくるということになります。すると、

  • 求人数の減少
  • 早期退職の増加

など企業規模や産業規模が急速に縮小することも懸念されるでしょう。

EMSの拡大は、間違いなく日本の電子機器産業の規模縮小につながります。メーカーとしては、その状況をしっかりと踏まえて、企画やマーケティングなどの得意分野に特化して、より付加価値を生み出していくことが求められるのです。

3.EMSの今後はどうなるか

1990年代より急速に拡大してきたEMSですが、どのような未来を描いてくのか、考察してみます。

(1)台湾・中国の成長に陰り

電子機器受託生産部門において、その走りとなったのが中国、そして現在の業界でトップに君臨しているのが台湾です。しかし、近年はこれらの国において、人々の賃金水準が上昇してきたということも影響しているため、新規のEMS進出先としてはうまみがなくなりつつあります。

また、米中の対立が度々表面化することも、生産拠点として中国が選ばれにくくなっている理由の1つです。現状の政権下(中国:習近平、アメリカ:トランプ)においては、両国間で貿易封鎖などが起こることも、絶対にないとは言い切れません。そのため、中国や台湾での電子機器の生産にはリスクも伴っているのです。

さらに、中国では慢性的に著作権違反や偽造も横行しています。この点にも、品質担保などの面において大きなリスクがあると言えるでしょう。

(2)東南アジアが急成長

代わって台頭し始めているのが、中国から南に下ったところに位置する東南アジアの国々です。特に、ベトナムやマレーシアが人気となっています。東南アジアが生産拠点として人気を博し始めているのは、主に以下の理由があります。

  • 中国の半分の人件費で済む(法定の最低月給はわずか1万2000円程度)
  • 高齢化の進む中国と比較して労働力が若い
  • 教育水準の向上もあり、生産効率は中国に劣らない
  • EUやアラブ、アメリカなど幅広い輸出販路があるため、貿易リスクを回避できる

数年前からベトナムの都市部では、スマートフォンメーカー大手の「サムスン」の工場が多数進出しています。現在のベトナムの総輸出額のうち、25%以上はサムスン社の製品の輸出が占めているのです。また、LGやソニーなども、中国の工場を離れてベトナムに進出するという動きを見せています。

この動きが、EMS業界にも影響を与える可能性があります。ベトナムの製造業は、潜在的に10年で200%の成長の可能性があるとも言われており、今後はEMS事業者がベトナムを中心とした東南アジアに拠点を置くようになることも十分あり得るでしょう。

(3)EMSが急速に縮小する可能性も

2020年に入って以降、コロナウィルスが猛威を振るっている影響で、中国をはじめとして、各国で工場を閉鎖するなどの動きが出てきています。当然、生産がストップするため、EMS事業者はもちろんのこと、メーカーの経営にも直接的なダメージが出始めています。

海外に生産拠点を置いたり、EMS事業者に生産を委託したりすることには、このように突然生産がすべてストップするというリスクも伴うのです。この状態が長引けば、メーカーとEMS事業者が共倒れするという可能性も十分に考えられます。

すると、次なる一手として考えられるのが、自前での開発です。自前での生産体制を設けていれば、先方(委託先)の都合に左右される心配もなくなります。

コロナウィルスが終息したとしても、また新たに同じようなリスクが生じる可能性も十分に考えられます。その状況においては、メーカーが自社開発へと軌道修正を図り、その影響でEMSが急速に縮小するということも、十分に考えられるでしょう。

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