M&A

「中国企業とのM&A」良い点と気になる点を解説します

もし自分の会社が中国企業に買われることになったら、「つらいこと」と感じるでしょうか。それとも「どうせ買収されるなら、日本企業の傘下に入ったほうがまし」と思うでしょうか。
しかし、経営者も従業員も「当事者」になれば、そうは感じないかもしれません。それは、日本企業が中国企業にM&Aされることには、大きなメリットがあるからです。世界第2位の中国マネーで経営を建てなおすことも、巨大な中国マーケットに参入して事業を拡大することも可能です。

IT、通信、AI(人工知能)などの分野では、中国企業はすでに、日本企業を上回る業績をあげています。中国企業にM&Aされれば、それらの先進技術に触れることもできます。

ただ、中国経済に組み込まれると「中国リスク」を抱えることになります。
この記事では、実際に行われた中国企業によるM&A事例を紹介しながら、そのよい点と気になる点を検証していきます。

1.【事例1】経営破綻後に中国企業に買収され大躍進した神奈川県のS社

神奈川県大和市のS社は、携帯電話やパソコンなどに使われている特殊な小型モーターをつくっているメーカーです。
そのS社は、創業40年の節目の年になる2016年に、中国企業に買収されました。そして2020年2月現在、S社の社長は中国人が就任しています。(*1~4)

(1)アップルに切られ、日本企業の支援も受けられず

S社は以前は、インテルやアップルなど、アメリカの巨大IT企業に製品を納品していましたが、アップルから契約が打ち切られたことで業績が悪化して、2012年に経営破綻しました。
高い技術力を持っていたことから、一時は日本企業がS社支援に名乗りをあげましたが、条件面で折り合わず破談になりました。また、後継者が育成できていなかったことから、単独での再建も断念しました。
そして2016年に、中国・上海の電子部品企業のO社が、S社を買収しました。

(2)最先端技術の最新情報が手に入る

S社の日本人の開発部長は最近、日本経済新聞の取材に対して「毎月のO社との幹部会で先端の技術トレンドが分かる」と、中国企業に買収されたメリットを話しています。
スマホなどのIT機器の研究・開発・製造では、明らかに中国企業のほうが、日本企業より進んでいます。S社は、その進んだ中国の知見をダイレクトに受けることができ、満足している様子です。

事業面でも中国効果が出ています。S社の製品は今やほぼ全量が、スマホ世界大手のシャオミ社に納品されています。つまりS社は中国進出を果たしただけでなく、世界市場に「返り咲く」こともできたわけです。
S社がO社に買収されていなければ、シャオミ社から仕事を獲得するには、自社でシャオミ社に営業をかけなければなりません。その労力を節約できたことも、S社の復活に大きく貢献したはずです。
ちなみにS社は現在、社員を募集するほど回復しています。その求人内容は次のとおりです。

●小型モーターの設計技術者

  • 学歴:理工系の専門学校、高等専門学校、大学、大学院を卒業した人
  • 年齢:59歳まで(定年60歳、再雇用後65歳まで雇用)
  • 休み:完全週休2日制、年124日
  • 基本給(月額):255,000~330,000円
  • 時間外手当、通勤手当、別途支給

経営破綻した企業の条件とは思えないほど、よい内容といえるでしょう。
中国企業に買収されたことで、雇用を維持できただけでなく、採用を拡大することもできています。

2.【事例2】赤字企業が中国系ファンドに買収され純利益58億円に

埼玉県朝霞市のM社は、高精細レンズなどを製造する光工学系のメーカーで、かつては東証一部に上場していました。
ところが2012年、赤字転落が確実になったことから、約3億円の特別損失を計上し、繰延税金資産を7,000万円取崩し、さらに30人の希望退職者を募りました。
その後も業績が改善しなかったことから、中国の投資会社「CITICキャピタル・パートナーズ」傘下の「株式会社MVジャパン」(本社・東京都)の株式公開買付(TOB)に同意しました。買取代金は25億円でした。(*5~15)

(1)グローバル展開が可能であると判断した

M社は、買収話が持ち上がった当時、中国系ファンドの傘下に入るメリットとして、次の項目を挙げました。

  • CITICが有する国内外の広範囲なネットワークを活かせる
  • 中国、アジア、欧米へのグローバル展開を加速させることができる
  • 機動的な経営戦略を展開できる
  • 株主構成が簡素化されるので、短期的な業績に左右されることなく、長期的な視野で事業を進めることができる
  • 株主構成が簡素化されることで、迅速な意思決定を行える

つまりM社は、中国経済に組み込まれることで、自社の企業価値を高めることができる、と判断したわけです。
M社は買収されたあとの2016年4月に上場を廃止されました。

(2)純利益4.6倍、買収効果は歴然

買収効果はとても大きく、M社の純利益は以下のように推移しました。
・2016年9月期:12.5億円
・2017年9月期:24.4億円
・2018年9月期:46.0億円
・2019年9月期:57.6億円

純利益は2016→2019年で4.6倍になっています。
M社は2020年2月現在、日本人が社長を務めています。その日本人社長は、中国系ファンドに買収されたことで中国に工場を建設することができ、それにより機動力が高まったと話しています。

3.【事例3】中国企業に買収された日本企業の話

スイッチをつくっている神奈川県川崎市のK社は、中国企業に買収されたあと、主力製品をパソコン用スイッチから、自動車用スイッチに切り替えました。その結果、製品単価は3倍にアップしました。
買収される前は自動車用スイッチをつくることができなかったのに、なぜ買収されてから可能になったのでしょうか。
それは、買収されて得た資金で製品の品質を高めることができたからです。品質を高めたことで、高品質にこだわるメーカーからの引き合いが増えました。(*3)

中国企業に買収された日本企業の評判は、一時的に落ちるといいます。それは多くの日本人に、「中国企業は『安かろう悪かろう』の製品をつくっている」というイメージがあるからです。日本企業の製品の品質が、買収元の中国企業の基準に引っ張られる形で落ちる、と思われてしまうわけです。

しかし、そのような評判の落ち込みは一時的なもので、しばらくすると回復します。買収元の中国企業は、日本人経営者に、買収後の日本企業の運営を任せることが多いからです。また、買収先の日本企業が中国につくる工場に「日本標準」を取り入れるからです。

買収元の中国企業が、買収後の日本企業に「自由な」経営を認めるのは、当然といえば当然です。中国企業は、「日本基準」や「日本品質」がほしくて日本企業を買うからです。中国企業は、わざわざ高いお金を出して買った日本企業を「中国色」に染めようとしません。

中国企業に買収された日本企業の幹部のなかには、「日本の大手企業に買収されなくてよかった」と話す人もいます。なぜなら、日本の大手企業の傘下に入っても、中国展開やグローバル展開できないかもしれないからです。グローバル展開が苦手な大手企業は、まだまだ日本にたくさんあります。

消滅の危機にある日本企業は、従業員のためにも取引先のためにも「買収される以上はV字回復しなければならない」と考えるはずです。そうであるならば、自分たちのグローバル展開すら怪しい日本の大手企業に買収されるより、世界を相手に丁々発止している中国企業に買収されたほうが「よりまし」と考えるのも、うなずけます。

4.しかし中国リスクは小さくない

ここまで、中国企業に買収された成功事例やメリットを紹介してきましたが、「中国リスク」は決して小さくないことも知っておかなければなりません。
(*16~19)

例えば、中国は今、アメリカとの貿易戦争の真っただ中にあります。
アメリカは中国企業のグローバル展開を阻止しようとしています。アメリカ政府は、アメリカ企業を守るために中国に規制をかけていますが、同盟国の日本にも、いつ「中国叩きに協力せよ」と要請するかわかりません。

すでに日本政府は2018年に、重要インフラを担っている企業や団体に対して「情報漏洩や機能停止の懸念がある情報通信機器を調達しないように」と要請しています。これは、中国の世界的な通信機器メーカー、ファーウェイの製品を念頭に置いた措置とされています。
アメリカ政府は「中国叩き」の一環としてファーウェイ製品を排除していて、日本政府がそれに追随した形です。
こうした流れを考えると、日本企業が中国企業の傘下に入ったことで、アメリカ企業に製品を納入できないケースも起こり得ます。

中国企業によるM&Aを懸念する動きも顕著になっています。
2019年1~6月の中国企業による海外M&Aは245億ドル(2.6兆円)で、前年同期比42%減でした。これは、欧米の当局が、中国企業による自国企業へのM&A審査を厳しくしたためです。

その他にも、中国企業のデフォルト率(債務不履行率)が急上昇していたり、新型ウイルスが発生したりと、中国特有の問題も決して小さくありません。
中国経済の景気減速も顕著になっています。
中国リスクは決して小さくありません。

5.まとめ~メリットを見極める

中国企業から好条件のM&Aの話が舞い込んできたら、すぐに飛びつくのではなく、しっかり相手企業をリサーチする必要があります。
買収元が日本企業であれば、調査する方法はいくつもありますが、中国企業を調べることは簡単ではないので、注意深い対応が必要になるでしょう。
十分警戒しながら、中国企業に買収されるメリットをしっかり見極める必要があります。

参考
*1:http://newshicoh.co.jp/
*2:http://newshicoh.co.jp/publics/index/2/
*3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46773440Z20C19A6EA5000/
*4:http://www.moritex.co.jp/pdf/2012/120427_2.pdf
*5:https://ma-times.jp/26494.html
*6:https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ05I3A_V01C14A2TJ2000/
*7:https://moritex.co.jp/pdf/2016/160128_3.pdf
*8:https://www.moritex.co.jp/products/index.php
*9:https://www.moritex.co.jp/about/160422joujouhaishi.pdf
*10:https://www.moritex.co.jp/about/profile.php
*11:https://www.moritex.co.jp/about/public.php
*12:https://www.moritex.co.jp/about/20200110_kessankoukoku.pdf
*13:https://www.moritex.co.jp/about/20190110_kessankoukoku.pdf
*14:https://www.moritex.co.jp/about/20171001_kessankoukoku.pdf
*15:https://www.moritex.co.jp/about/20170306_kessankoukoku.pdf
*16:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38844750S8A211C1MM8000/
*17:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49430870V00C19A9FF8000/
*18:https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/world/00161/
*19:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60233?page=3

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