本記事では、ここ数年で多くの日系大企業が参入したことによって注目を集めているCVCについて解説したいと思います。
具体的にはCVCとは何か、実際のCVCの紹介、その特徴などについて触れていきたいと思います。
ベンチャー企業の皆さまがCVCの活用を検討していくために理解をしておくべき事項についてお伝え出来たらと考えています。
1.CVCとは
さて、まずはCVCとは何かについて解説していきたいと思います。
CVCとはCorporate Venture Capital(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の略称で、主に大企業がベンチャー企業に対して出資やその他の支援を行なうことを目的に自らの資金で組成したファンドを言います。
大企業がファンドを組成してベンチャー企業を支援する理由は様々ですが、基本的には自社の主業と関連のある事業に投資を行なうことで、投資からのリターンを得るだけでなく、主業との相乗効果を得ることを目的にしていることが多いです。
一般的なベンチャーキャピタルは投資対象を下記四つの区分で分けることが多いですが、CVCにも同様のことが言え、CVCごとに投資対象には特徴があります。
シード:事業の構想はあるがまだ起業前の段階
アーリー:企業直後で売上・利益等の実績がない段階
ミドル:事業が本格的に稼働し、利益が出始める段階
レイター:事業が安定し、株式の上場などを検討し始める段階
2.CVCに関する分析
それでは、CVCとは何かについて理解いただきましたので、理解を深めるために日本におけるCVCに関していくつかの統計データを見ていきたいと思います。
(1)CVCのファンド規模
まずは、CVCから調達できる金額にも大きく影響を及ぼすファンド規模について確認したいと思います。
2019年7月19日に経済産業省が発表した『我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究(作成:一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)』によると日本におけるファンド規模は以下の通りとなっております(回答数は60社)。
規模 | % |
---|---|
55億円以下 | 45% |
56-110億円 | 22% |
111-220億円 | 3% |
221-330億円 | 0% |
331-550億円 | 5% |
551-1100億円 | 2% |
1100億円超 | 2% |
その他 | 22% |
ファンド規模が220億円以下となっているCVCが約70%程度と比較的規模の小さいものが多いことが理解できます。
(2)CVC親会社の業種
CVCの定義でお伝えしましたが、CVCの投資対象は親会社の主業と関連のある企業が多くなります。したがって、どういった業種の親会社がCVCを運営しているのかも重要なポイントとなります。
同研究によれば業種ごとの内訳は以下の通りとなっています。
業種 | % |
---|---|
サービス | 17% |
電気通信 | 3% |
運輸、輸送 | 3% |
IT | 23% |
消費 | 5% |
公共事業 | 12% |
金融サービス | 17% |
メディア | 10% |
工業 | 27% |
ヘルスケア | 10% |
支援を受ける側のベンチャー企業が多いIT業界や支援を行なう側の大企業が多い工業などの分野にCVCが多いことがわかります。
一方で、次の項では具体的なCVCについて紹介したいと思いますが、本調査時点では数の少なかった業界でもCVCが次々に生まれてきています。
3.具体的なCVCの紹介
さて、ここからは具体的なCVCについて紹介していきたいと思います。
(1)ソニー株式会社
まず初めに紹介するのが、日本を代表する製造業であるソニーです。
ソニーは2016年7月にファンドを立ち上げており、Sony Innovation Fund(以下、SIF)の名称で活動を行なっています。ファンドの規模は100億円とされており、日本のCVCとしては平均的な規模であると推測できます。
日本における投資対象には、ロボットシステム開発のラピュタロボティクス、金融サービスにおいて活躍の目立つWealthNaviなどがあります。
また、ソニーは2019年6月に二つ目のCVCであるInnovation Growth Fundを組成し、2019年12月末時点において160億円の規模となっています。こちらのファンドではSIFとは異なりミドル以降の段階にいるベンチャー企業を投資対象とすることが掲げられています。
(2)ヤマトホールディングス
次に、2020年3月31日にプレスリリースされたヤマトホールディングスによるCVCのクロネコイノベーションファンドについて紹介したいと思います。
本CVCはヤマト単独での組成ではなく、独立系ベンチャーキャピタル大手のグローバル・ブレインとの共同設立とのことです。ファンド規模は50億円と小規模ですが、今までCVC設立の少なかった運輸・輸送業界での組成となり、投資対象も物流関連の先端技術を持つスタートアップ企業とされています。
投資対象のステージはシード・アーリー・ミドルを基本とするとされており、対象地域については日本を基本とし海外でも投資を行なうと発表されています。
まだ投資実績に関する情報は発表されていないため、今後の活動が期待されます。
(3) オイシックス・ラ・大地
CVCは大企業が組成することが基本とお伝えいたしましたが、大企業ではない日系企業によるCVC組成もあります。
それが、生鮮食品配達のオイシックス・ラ・大地によるフードテックファンドとフューチャー・フード・ファンドです。前者については2016年に当時のオイシックス社内に設立され、農業スタートアップを中心に投資活動を実施してきました。その活動を発展させる形で、後者のファンドが2019年8月31日付けで設立されています。
フューチャー・フード・ファンドの規模については公表されておりませんが、同ファンドの公式ホームページ(https://futurefoodfund.co.jp/)によると、現在の投資先は以下の4社とのことです。いずれも食領域に特化したスタートアップ企業となっています。
株式会社MiL(本社:東京都渋谷区)
株式会社ファームノートホールディングス(本社:北海道帯広市)
Fifty Food Inc.(本社:アメリカ カリフォルニア州)
株式会社HiOLI(本社:東京都世田谷区)
投資対象のステージについては明確にはされておりませんが、投資先のビジネス状況を見るにアーリーやミドルが対象となっていると推測できます。
大企業によるCVCがほとんどの日本国内としては異色のCVCと言えると考えます。
(4)エムスリー株式会社
COVID-19で注目を集めている医療分野でもCVCの組成が始まっています。
エムスリー株式会社は新型コロナウイルスの拡大が続いていた2020年4月22日にCVC「1人1円ファン ド」の設立を発表しました。
プレスリリースによるとファンドの規模は100億円とされており、投資額は1社あたり平均数億円で最大20億円程度とのことです。すでに同社ホームページにて出資先の募集を開始しています。
投資対象は、AIの活用など最先端の医療に取り組む国内外の企業とされており、すでに第一号案件であるクリングルファーマ株式会社を含む2社に対し17億円の投資を実行しているとのことです。
投資対象のステージについては公表されておりませんが、ファンド規模や投資予定額から推測するにシードやアーリーといった早い段階のベンチャー企業が対象と推測いたします。
また、本CVCでは資金提供だけではなく、エムスリーが持つノウハウを提供し、事業支援にも乗り出すとのことです。
(5)SBIホールディングス株式会社
最後に、日本最大級のCVCについて紹介いたします。
SBIホールディングスが100%出資するCVCであるSBIインベストメントは、米CBインサイツがまとめた2017年のCVCに関するリポートにおいて2017年に投資活動が活発であったCVCランキングにおいて世界12位、日本1位とされています。
SBIインベストメントの公式ホームページ(http://www.sbinvestment.co.jp/)によると、1996年の会社設立以降、累計投資先社数が909社、IPOまたはM&AでのEXIT実績は累計150社とされています(2019年6月30日時点)。
また、SBIインベストメントでは大小多くのファンドを過去に組成してきており、累計の調達金額は4000億円以上となっています。
過去の投資事例では、CYBERDYNE株式会社・株式会社ユーグレナ・KLab株式会社等の著名なベンチャー企業が名を連ねています。投資対象のステージについては、シードからミドルまで非常に広範にわたっています。
4.CVCの今後について
冒頭で述べましたように、最近日系大企業によるCVCの新規設立が非常に増えています。
しかしながら、実際のCVCの投資案件で大きな成功があったという報道はSBIインベストメント等の一部を除いてほとんどありません。
CVCから出資や支援を得たベンチャー企業は金銭面だけではなく、人員面やブランドなど多くのメリットがありますが、CVCの親会社とベンチャー企業の風土が合わないなどのデメリットもあることが事実です。
日本経済の復活に向けて、今後は日本のCVCとベンチャー企業のコラボレーションによる成功事例が多数出てくることを期待したいと思います。