M&A

M&Aにおけるアナジー(Anergy)効果とは何か、避けるにはどうすれば良いかを具体的に解説します

M&Aの成否を評価するポイントはいくつか存在しますが、今回説明したいのは、「アナジー効果」です。聞きなれない言葉かもしれませんが、重要な概念ですので、具体的な事例と考えるべき点に重点を置きながら説明していきます。

1. アナジー効果とは

アナジー(Anergy)効果とは、事業間の相互マイナス効果のことです。
M&Aにおいては、よく「シナジー」という単語を聞かれた方が多いかと思います。アナジーは、「シナジー」の反対語です。

2. アナジー効果が発生してしまう時とはどんな時か

M&Aはシナジーを狙って行うことですが、アナジーが起こってしまってはM&Aをする意味があまりありません。では、具体的にどのような場合にアナジー効果が発生してしまうのでしょうか。

(1) 既存事業との方向性があまりに違いすぎる

既存事業のほかに新規事業としてM&Aを行う場合を考えてみます。
例えばあなたが既存事業として和食レストランを経営していましたが、今回、製紙工場をM&Aを検討中です。この場合、はたしてM&Aによるシナジー効果はあるのか疑問です。和食レストランは対C向けのビジネス、製紙工場は対B向けのビジネスであり、顧客層は180度異なり接点がありません。和食レストランのノウハウを製紙工場に活かせるポイントはほとんどないと言って良いでしょう。
和食レストランの売上を10、製紙工場の売上を10とした場合、合計売上が20以上になればシナジー効果があると言えます。一方、今回のケースでは合計売上が20未満となる可能性が高く、アナジー効果が発生しやすいです。

(2) 経営者同士の思想の違い

M&Aを検討するにあたって、経営者の評価はとても重要です。M&Aを機に経営者が現場を離れるケースもありますが、数年は経営にコミットしてもらうケースも多いです。
例えば、あなたが経営者として、積極的な意思決定を続けてきて急成長を続けてきたとしましょう。今回のM&Aの経営者はかなり保守的なようです。積極的な経営者と保守的な経営者、一緒になった場合にどのような事が想定できるでしょうか。
当然に、経営の意見が対立することが容易に想像できます。今まで積極的なスタイルで経営を続けてきたあなたの既存事業にも影響を及ぼすことでしょう。経営者の多様性は重視されるべきですが、あまりにも意見対立が大きいと、M&Aによってアナジーが生じてしまうリスクがあります。

(3) 統合によるコストが想定外であった場合

M&Aによって、両社のコストを削減することは可能性の高いシナジーの一つです。
例えば、レストランを1社経営しており、同じ業態のレストランをM&Aによって取得した場合、コストの増加は限定的です。一方で、銀行など業務システムが膨大で複雑なケースを考えてみましょう。銀行同士が統合し、業務システムを統一させ、顧客利便性を図る目的でM&Aを行った場合です。
業務システムの統一にどの程度、時間とお金がかかるかはM&A実行の前段階でのデューデリジェンスにより精査がされているはずです。しかし、想定外のことが起こりえるのがM&Aです。顧客基盤が拡大するといったシナジーよりも、業務システムの統一にかかるコストが想定外に大きかった場合、全体として利益が下がってしまってはこのM&Aは失敗です。アナジー効果の典型的な事例と言えるでしょう。

(4) M&A後に重要なキーパーソンがすぐに辞めてしまう

中小企業などの場合、会社としての価値の源泉が重要なキーパーソンの存在といったケースは多いです。
例えば長年勤務してくれているスーパー営業マンやその人しか商品を作れない職人さんなどです。今回のM&Aを機に、これらのキーパーソンが辞めてしまったら、会社はどうなるでしょうか。売上の大幅減少や、もしくは事業継続できなくなるかもしれません。M&A後に給料体系を変える場合も大量退職のリスクもあるため注意が必要です。組織や人に関するアナジー効果は、会社の将来性に多大な影響を及ぼしてしまいますので、気を付けるようにしましょう。

(5) M&Aを機会に重要な顧客を失ってしまう

M&Aは、M&Aをされる側はとても複雑な化学反応が起こります。それは社内だけでなく、仕入先や得意先など外部にも影響を及ぼす場合があります。
例えば、M&Aの実行を機会に最重要顧客との契約が打ち切られてしまった場合、事前に計画していた売上高よりも大幅に減少してしまいます。老舗企業が外資系企業に買収されるなど、一般的なイメージが悪い場合、気を付けていないとアナジーが発生しがちです。

(6) M&Aの対価が過大で経営者のモチベーションを低下させてしまう

カリスマ経営者により成長を加速させてきたベンチャー企業をM&Aする場合を考えてみましょう。100%の株式を取得するため、カリスマ経営者に譲渡金額を支払いM&Aしたとすると、経営者は一時的に多額の現金を手にすることになります。M&A後の報酬設定が、M&Aの譲渡金額と比較して著しく低い場合、M&A前と同じように働くことが難しくなるかもしれません。

(7) 両社の物理的な距離が遠い場合

日本にいる企業が海外の企業をM&Aする場合、通常は日本と海外でオフィスを別々にして存続することが考えられます。物理的な距離が遠ければ顔を合わせて打ち合わせをする機会は限られます。お互いのコミュニケーションが薄くなれば薄くなるほど、事前に検討したシナジー計画を実現させることは難しいでしょう。

3. アナジー効果を避けるためにすべきこととは

これまでアナジー効果がどんな時に発生するのかを具体的に見てきました。ではどうすればアナジーを避け、事業間のシナジーを創出しM&Aを成功に導くことができるのでしょうか。

(1) 自分のビジネスに近い領域のM&Aを検討する

今の既存ビジネスと完全に異なるM&Aをしてしまうとアナジー効果が発生する可能性が高いです。顧客基盤、ビジネスモデル、バリューチェーン、得意先・仕入先、など総合的に判断することが必要ですが、自分のビジネスに関連性のあるM&Aに絞ることが重要です。M&Aの実行前には、自分の今までの知見・ノウハウがM&Aをする企業に活かせるかどうかを慎重に検討してみてください。

(2) トップ会談にて経営者の思考を確認する

M&Aの実行前に行うことが多いのがトップ会談です。本格的なデューデリジェンスの前にトップ会談を設定し、経営者同士のお互いの考え方をすり合わせるケースがあります。
ここでは、経営者としての考え方、経営スタイル、性格など、事前に知っておくべきことがたくさんあります。M&A後に一緒にやっていけるかどうか、お互いの力を合わせてシナジーを創出し事業拡大することができるか、従業員やお客様を大切にしているのかどうか、などを念頭に置きながら、納得のいくまでお互いの考え方をすり合わせるべきです。

(3) ビジネスデューデリジェンスの実施

デューデリジェンスには、財務、税務、法務、システム、人、など様々な種類がありますが中でも重要なものがビジネスデューデリジェンスです。ビジネスデューデリジェンスの範囲は広く、ビジネスモデルを含めてM&A後の事業計画を策定することも含まれます。例えば、業務フローの統合によるコスト削減効果が大きいと見込まれてM&Aを行う場合、この業務フローの統合に関する実行可能性がM&Aの成否の鍵を握ります。
できる限り、業務フローの統合に関するスケジューリングを行い、コスト、期間、担当者、など詳細に詰めておくことが大切です。また、実行ができないケースも想定し、プランBとして他の代替案も決めておければ、より円滑に進められるでしょう。

(4) M&Aの契約書による手当

アナジー効果を避けるために、M&Aの契約書、株式譲渡契約書や株主間契約書の中で手当できることがあります。
例えば、経営者へM&A後数年は取締役として経営にコミットすることを約束させること。経営者だけでなく、キーパーソンが辞めないように工夫することも重要です。M&A後に、経営スタイルを変えないことを約束する、ボーナスを支払う、キーパーソンが株主でもある場合は対価を分割払いとすることや業績に応じたアーンアウト設計をするなどが考えられます。
最重要顧客の引継ぎがシナジー創出に不可欠の場合は、M&Aの実行の前提条件として、最重要顧客の引継ぎを設定し、引き継げなかった場合はM&Aを実行しないと契約することも可能です。考えられるアナジーを想像し、事前に防げるように契約書を工夫することがM&A実務担当者には求められます。

(5) 外部アドバイザーの意見を聞く

M&Aのアドバイザーは、会計士、税理士、弁護士、金融機関、経営コンサルなど様々なプロフェッショナルがいますが、彼らにもアナジー効果について質問することも効果的です。特に経営者一人だけで進めていったM&Aの場合、考え方が固まってしまい、一方的な見方になっているかもしれません。M&Aは総合格闘技と言われるくらい、考えることが多岐にわたり複雑です。プロフェッショナルの一言により、M&Aの案件を複眼的に評価することができます。

(6) コミュニケーションの頻度を適切なものに設計する

M&A後、お互いのコミュニケーションがなければ、独自に経営してきたときと何ら変化がありません。アナジーを避けシナジー創出のためには、適度に話し合う、気軽に相談しあえるなどの環境が必須です。海外企業のM&Aの場合も、四半期に一度は出張ベースでお互いに顔を合わせる、週に一度はオンラインでmtgを実施するといった会議体を設計しておくことが重要です。

4. まとめ

今回はM&Aにおける重要な概念であるアナジー効果についてまとめました。M&Aが失敗してしまう場合、アナジーが原因であると言い換えることもできます。アナジー効果が発生してしまったM&Aにより1+1が2未満になっては、M&Aに関わる関係者全員が不幸になってしまいます。
今回の記事にて具体的なアナジー発生の事例、アナジー効果を避けるにはどうしたら良いか、をしっかりと確認いただき、数多くのM&Aを成功に導いて頂けましたら幸いです。

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