「会社が倒産する」と言えば、会社の資産を売却、回収して債務の一部を弁済し、会社そのものは消滅する「会社精算」が一般的です。
一方で、事業者や経営者、雇用を存続させたまま、会社の再建を目指す方法もあります。
今回は日本の再建型倒産手続のひとつである「会社更生法」、および米国における再建型倒産手続「チャプター11」について、実際の案件を踏まえて解説します。
1.会社更生法とは?民事再生手続との違い
会社更生法とは、日本の再建型の倒産法のひとつで、経営破綻に陥った企業を倒産させることなく、事業を継続しながら再建を行うことを目的としています。
会社更生法が適用されれば、現在の経営陣はすべての権限を失い、裁判所が専任する更生管財人が会社の管理を行うことになります。
たとえば、日本航空に会社更生法が適用されたケースでは、経営陣がすべて交代した上で、株式会社企業再生支援機構の瀬戸英雄氏が更生管財人に、京セラ創業者の稲盛和夫氏が会長に就任したことがよく知られています。
会社更生法は手続が非常に複雑・厳格で、その対象となる「会社」とは、債権者数が多く、債権額も大きい大企業であることがほとんどです。利害関係者が非常に多いことから、手続が完了するまでに10年を要することも珍しくありません。
一方で、会社更生法と同じ再建型の法律に、民事再生法があります。
民事再生法とは、経済破綻に陥った企業が、裁判所の関与のもとで債権者・取引先等関係者の協力を得て、会社主導で再建を行うことを目的とした法律です。
直近で民事再生が適用された事案に、アパレル大手のレナウンの民事再生があります。
会社更生法と民事再生法の対象となる事業者は、前者が資本構成に手を加えるという性質があるため、株式会社のみの救済を目的としているのに対し、後者はすべての法人・個人の救済を目的としていることです。
会社更生手続や、民事再生手続についての詳しい解説は、こちらの記事をご参考になさってください。
参考:法律の観点から会社の倒産(民事再生や破産手続き等)を説明します
2.チャプター11とは
チャプター11(イレブン)とは、アメリカ合衆国連邦倒産法の第11章のことを指し、また本条項に基づいて行われる倒産処理手続を指す場合もあります。
アメリカの民間企業の倒産手続は、第7章と第11章があり、第7章がいわゆる「破産手続」で、第11章がいわゆる「民事再生手続」に相当します。債権者または債務者の申立により開始され、債務者自らが再生計画を作成し、債務者主導で企業を再建することができます。
チャプター11は個人にも適用可能ですが、手続の複雑さや多額の費用がかかるところから、法人に適用されることがほとんどです。
また、会社更生、民事再生、チャプター11に共通して、企業側にとっては債務が免除されることで再建が進めやすくなる一方、債権者側は大きな痛手を被ることになります。
3.過去10年以内に行われた国内の会社更生法の案件
日本国内において、過去10年以内に会社更生法を適用した企業の事例をご紹介します。
※見出し括弧内は会社更生手続を申請した時期
(1)日本航空(2010年)の事例
日本国内で最も有名な会社更生法の適用事例は、2010年の日本航空(JAL)でしょう。
2010年1月19日、日本航空、日本航空インターナショナル、JALキャピタルの3社は、経営不振・債務超過を理由に、東京地裁に会社更生法の手続を申請、受理されたことを受け、企業再生支援機構を支援者として、経営再建の道を図ることとなりました。
当時はメディアのみならず、広く一般市民の間でも「親方日の丸の体質」「当事者意識の欠如」への批判や、公的資金の投入是非などが議論されたことは、誰の記憶にも新しいことでしょう。
結果的に、JALには3,500億円もの公的資金が投入され、手厚い支援を受けての経営再建となりました。
JALは全従業員の3分の1にあたる16,000人のリストラを断行、京セラ創業者の稲盛和夫氏を会長に招き入れ、事業規模の縮小と企業体質の改革を図ることとなります。
(2)武富士(2010年)の事例
2010年の日本航空に続き、消費者金融業界の最大手、武富士も会社更生法が適用されています。
武富士の資金繰りが破綻した最大の要因は、取りも直さず、同年年6月18日に改正貸金業法が完全施行されたことです。
改正貸金業法により、それまでの利息制限法と出資法の間にあったグレーゾーン金利が撤廃され、武富士をはじめとする大手消費者金融業者は、利用者からの過払い金返還請求に対応せざるを得なくなります。
武富士は、過払い金請求の増加による引当金の大幅な積み増しで業績が圧迫され、資金繰りが破綻、2010年9月28日に会社再生法手続を東京地裁に申請、受理されました。
2011年末には、Jトラスト株式会社との間でスポンサー契約が締結され、Jトラストの子会社である株式会社日本保証に事業を承継させることとなります。
(3)水谷建設(2011年)の事例
水谷建設(三重県桑名市)は、大手建設会社の下請けを主力として、ダムや橋梁などの土木工事を手掛けてきました。
同社は2011年12月1日に会社更生手続の開始を大阪地裁に申し立て、同年12月31日に受理されています。
景気低迷による公共工事の縮減により、工事受注が減少したことが業績悪化の要因とされていますが、同社が広く世に知られるようになったのは、いわゆる「陸山会事件」です。
東京地裁の判決で、小沢一郎・民主党元代表の政治資金管理団体「陸山会」へ、同社から約1億円の裏献金が渡ったと認定され、同社の信用は大きく失墜します。
先行きを不安視した元社長の水谷紀夫氏により、会社更生手続の申請がなされ、保全管理人には弁護士の天野勝介氏ほかが専任されます。
水谷建設の会社更生手続は、2019年1月15日に集結しました。
(4)エルピーダメモリ(2012年)の事例
半導体メーカー大手のエルピーダメモリは、2012年2月27日会社更生手続を申請、製造業としては過去最大の負債総額4,480億円を抱え、倒産に至ります。急激な円高進行などで業績が悪化し、資金繰りに行き詰まったことが原因の経営破綻でした。
遡ること2009年には、エルピーダメモリに国が公的資金を注入して一般企業を支援する「産業活力再生法(産活法)」が適用されます。
これは、国から認定を受けた企業に対し、日本政策投資銀行が出資を行い、それでも再建が失敗した場合は、損失の5~8割を日本政策金融公庫の資金で穴埋めする制度です。
国産半導体メーカーというブランド力もあり、エルピーダメモリは日本政策投資銀行から300億円の公的資金の注入、さらには市中銀行などから1,000億円を上回る出資を受けて再建を図りますが、その効果もむなしく、2012年に経営破綻となります。
エルピーダメモリは米マイクロン・テクノロジに買収、完全子会社化され、マイクロンメモリジャパンとして再スタートしています。
4.過去10年以内に行われた米国チャプター11適用の案件
続いて、過去10年以内に行われた米国チャプター11適用の事例をご紹介します。
(1)アメリカン航空(2011年)
アメリカン航空(AA)は、2011年11月29日にチャプター11を申請しています。
そもそも、米系大手航空会社は原油高やLLC(格安航空会社)の台頭で、どこも経営的には苦戦を強いられており、チャプター11を適用していない航空会社は、2011年まででアメリカン航空のみでした。
業界最大手のアメリカン航空は唯一、チャプター11の適用を申請せず、破綻、再生を回避して来ていたのです。
ところが、同社の業績も決して芳しいものではなく、2011年には4億7,000万ドルの赤字を計上しています。
チャプター11の申請により、同社はコスト構造の見直しや運航の効率化、財務体質強化を課題として挙げ、経営効率が高く、財務的に強固で、競争力の高い航空会社としての再建を目指すとしています。
ただし、チャプター11を申請しても運航は通常どおり継続され、少なくとも旅行者には大きな影響は出ません。
(2)トイザらス(2017年)
日本でも馴染みのある玩具販売大手のトイザらスは、重い債務負担が経営の足かせとなっており、2017年9月18日にチャプター11を申請して経営再建を進めていました。
しかし、スポンサーが見つからず、2018年3月には米国内の735店舗を閉鎖、米国事業を精算するなど、苦戦を強いられています。
トイザらスのチャプター11申請で興味深いことのひとつに、日本のトイザらスは対象外となっていることです。
日本法人は、米国本社が85%出資するアジア統括会社のトイザらス・アジア・リミテッドの傘下ではあるものの、事業や財務的には独立しています。
実は、日本の業績は大健闘と言えるほど好調で、財務体質も良好な状態が続いています。
債務負担でリニューアルもままならない米国法人に対し、日本法人独自のイノベーションで商品の回転効率が向上しているのです。
(3)フォーエバー21(2019年)
日本にファストファッションという概念をもたらした「フォーエバー21」が日本市場から撤退したことは、業界関係者やファッションに興味のある方のみならず、多くの人が知るところでしょう。
フォーエバー21は、2015年の最盛期には約4,700億円の売上高を計上したものの、Amazonをはじめとする通販事業の台頭に押され、売上高は減少の一途をたどっていました。
小売で売上が立たず、在庫だけが積み上がっていけば、当然ながら運転資本が増加し、資金繰りは悪化します。
フォーエバー21は、全世界で店舗数を半減しましたが、チャプター11による再建型の破産手続を行ったことで、事業、経営者、雇用は継続されたまま再建を目指すことになります。
5.まとめ
日本国内の会社更生法適用の案件、および米国チャプター11適用の案件について解説しました。
会社更生法と民事再生法は、ともに「再建型」の倒産法ですが、対象となる会社の規模や、再建を管財人主導で行うか、会社主導で行うかなどが異なります。
また、チャプター11は日本の会社更生法と民事再生法の中間的な制度です。
今後、メディア等で有名な日本法人、あるいは米国法人が倒産する際に、どのような再建方法を採用するのか、注目してみてください。