M&A

後継者がいない会社の社長にはどのような選択肢があるのか

中小企業庁などによると、60代社長の約半数に後継者がいません。そして、企業の休廃業や解散は、経営者の高齢化と後継者不足もあって、毎年4万件台に達しています。 さらに、休廃業・解散した企業の6割は、直近の業績が黒字でした(*1)。

価値ある企業の消滅は、日本経済に損失を与えるだけでなく、労働者の生活を不安定にします。その要因の1つが後継者不足というのは、とてももったいない話です。

後継者がいない社長や、後継者をみつけるのが難航しそうだと感じている社長は、今から準備に取り掛かってください。
後継者がいない社長の選択肢には、M&A、事業承継、株式公開、廃業などがあり、この順番で検討していくことをおすすめします。

*1:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_2.html

1. 後継者不在社長に最初にM&Aを検討していただきたい理由

後継者がいない社長に最初に検討していただきたいのがM&Aです。なぜなら、M&Aが社長にも従業員にも地域経済にも、ひいては日本経済にもよい効果をもたらすからです。

(1) M&Aは今は難しくない

M&Aには、株式譲渡、事業譲渡、合併などの手法があり、社長は自分の経営方針や会社が置かれている状況、買い手の希望などを勘案して、いずれかを選ぶことができます。
社長や親族が株式の全部か大半を保有している場合は、株式譲渡が明確でよいかもしれません。株式を買い手に譲渡して、社長などの株主は現金を得て、M&Aは完成します。
事業譲渡は、会社の事業や資産の一部を売る方法です。
合併は、2つ以上の会社を1つに統合するものです。

M&Aは、かつては難しい手法と考えられていましたが、今はとても簡単になりました。それは、M&Aを仲介する会社が進化して、売り手と買い手のマッチングが合理的かつスムーズに進むようになったからです。
そしてM&Aの件数が増えたことで、売り手は売ることに慣れ、買い手は買うことに慣れてきました。インターネットのサイトで、売り手が買い手を探したり、買い手が売りに出ている企業を探したりすることもできます。

(2) 後継者不在社長にとってのM&Aのメリットとは

後継者がいない社長は、せっかくつくった会社を、そして、せっかく取引先に信頼されるようになった会社を、さらに、社会貢献している会社を、存続させたいと思っているのではないでしょうか。
そうだとしたら、M&Aは後継者不在社長に大きなメリットをもたらすはずです。

M&Aによって、社長が築き上げてきた事業やビジネスが存続します。しかも、買い手企業が、その事業やビジネスを発展させるかもしれません。社長が引退したあとに、自分がつくった会社が成長していく様子をみることができれば、これに勝る喜びはないでしょう。

そしてM&Aをすることで、会社を売ったお金が、株主である社長たちに入ってきます。これは「大きな退職金」であり、その後の人生の重要な生活資金になります。
また、会社を売ったお金の額は、会社の価値を表しています。高い金額で売ることができれば、価値ある事業をしてきた証になります。

(3) 従業員を守ることができる

後継者のいない社長がM&Aを決断すれば、従業員の雇用を守ることができます。社長が従業員たちに対して「今まで会社を支えてくれた」という気持ちがあれば、M&Aは彼らへの最後のプレゼントになるでしょう。
経営が安定している会社に自社を譲り渡せば、従業員の給料が増えるかもしれません。 また、その会社を買う企業は、事業規模を大きくすることができ、経営の安定に寄与します。

2. 後継者がいないのに事業承継できるのか? →「できます」

社長が「後継者がいない」と困っているのに、事業承継ができるのでしょうか。そもそも、事業承継できないから「後継者がいない」と悩んでいるはずです。
しかし「後継者不在」という言葉は、大抵は、社長の子供があとを継がないという意味で使われています。
事業承継に力点を置けば、社長の子供以外の誰があとを継いでもよいはずです。
「後継者がいない」と悩んでいる社長は、自分の子供以外に目を向けてみましょう。

(1) 親戚に社長を引き継ぎたい人はいないか探す

子供があとを継がなくても、親戚のなかに社長を引き継ぎたい人物がいるかもしれません。成人の親戚にヒアリングをしてみてください。
親戚が異業種で働いていても、意外に関心を示すかもしれません。IT企業に勤めていた人が飲食店の経営を引き継いで成功することもあります。飲食店経営は、料理づくりや給仕やおもてなしだけではありません。飲食店のオペレーションにITやインターネット技術を組み込めば効率化と生産性向上が進み、事業を拡大できるかもしれません。
親戚に経営を引き継いでもらえれば、「社長が会社を手放した」という印象が目立たなくなります。それは、社長の気持ちにもプラスになりますが、それ以上に、従業員たちが喜ぶでしょう。創業者や創業者一族は、従業員にとって特別な存在だからです。

(2) 社員に社長を引き継ぎたい人はいないか探す

後継者がいない社長は今後、社員のことを「重要な次期社長人材」として観察するようにしてください。
社長は普通は、社員のことを労働者として観察します。労働の成果が出ているか、無駄なく働いているか、疲弊していないか、ストレスを受けていないか、次に誰を昇格させようか、といった点を注意しているはずです。
会社の経営が順調であればそれでもよいのですが、社員に会社を引き継いでもらう場合、「経営ができる人」を選ばなければなりません。

例えば、会社を辞めてフリーランスになろうとしている社員や、起業の夢を持っている社員は、次期社長人材として有望です。
社員を社長にするのであれば、社長は自分の手で育成することができます。社長は自分の経営理念も引き継いでもらうことができます。
また、社員に社長を引き継いでもらうと、会社を若返らせる原動力になります。

(3) 社外に社長を引き継ぎたい人はいないか探す

社外にも目を向けましょう。同業他社や取引先企業のなかに、社長に向いている人がいないか探してみましょう。
同業他社の優秀な人材なら、業界のことも、ライバルである自社のことも熟知しているはずです。そのような人なら、自分の会社をうまく経営してもらえるはずです。
取引先企業は、いわば協力関係にある間柄です。したがって、取引先企業の優秀な人材も、社長の会社をうまく切り盛りしてくれるでしょう。しかも取引先企業の人材が経営を引き継いでくれれば、取引先企業との協力関係はより強固になります。

3. 株式公開なら大きな利益が得られる

上場できるほど企業が成長していたら、株式公開も視野に入ります。
株式公開の準備は数年かかることもあるので「後継者をつくれないかもしれない」と感じ始めた段階で着手してください。

さらに、株式公開するには、業績を維持・改善するだけでなく、ガバナンスやコンプライアンス、社内体制、人事制度、業務システムなどを整備しなければなりません。引退を考えている社長には、最後の大仕事となるでしょう。気力と根気が必要です。

株式公開は大変な作業が必要な分、社長が得られる果実が大きくなります。金銭的利益も大きくなりますし、上場企業を創業したという名誉を手に入れることもできます。
また、社員たちは上場企業の社員になるので社会的ステータスが上がり、これもプレゼントになります。
そして、上場すれば社会的な信頼が得られるので、経営も安定しやすくなります。つまり、社長の自分がいなくなっても、会社が存続する可能性が高くなります。

4. 廃業は身軽になることができる

廃業がなぜ、後継者のいない社長の選択肢になるのかというと、倒産よりは「まし」だからです。したがって廃業は、4つの選択肢の検討順序では最後の4番目に据えました。

倒産とは、債務の支払いができなくなって会社が存続できなくなった状態のことです。破綻です。
倒産の手続きは、ほとんど人に知られないように秘密裡に進めるので、倒産の発表は、取引先にも顧客にも従業員にも大きなダメージを与えます。

倒産に追い込まれる前に廃業を決意することは、社長の最後の英断といっても過言ではありません。
資産を売却して、債務を完済し、解雇する従業員に退職金を支払うことができたら、社長は経営者の仕事をまっとうしたと評価されるはずです。
廃業すれば社長は、後継者探しが必要なくなるだけでなく、資金繰りからも、従業員の雇用を守る責任からも解放されます。

そして、廃業の準備に着手すれば意外な副産物が得られるかもしれません。
誰かが「この会社を引き継ぎたい」というかもしれません。
銀行がM&Aをしてくれる企業を探してくれるかもしれませんし、社員が「自分が会社を買う」といってくれるかもしれませんし、取引先が子会社にしたいと申し出てくれるかもしれません。

5. まとめ~前提は会社の魅力を高めておくこと

後継者のいない社長が最良の選択肢に出会うには、企業価値を高めておく必要があります。
後継者不在社長の望ましい選択肢は、「M&A>事業承継>株式公開>廃業」の順であると紹介しました。

もし、後継者がいない状態で社長が引退することになったとき、会社の魅力を十分に高めておけば「M&Aをしたい」と名乗り出る企業が現れるはずです。
もし、会社の魅力が十分あれば、社員のなかから「自分がこの会社を経営したい」と名乗り出るはずです。

業績がよい企業と魅力のある企業は、似ていますが違います。
もちろん、赤字続きの会社は魅力ある会社とは呼ばれないでしょう。しかし、華々しい業績がなくても、長年にわたって黒字を維持していたり、社員を大切にしていたり、他社がつくれない製品をつくっていたり、事業を拡大して多くの従業員を雇用していたりする企業は、社会や業界や地域から「残さなければならない企業」とみなされ、生き残る道が拓かれるものです。

後継者がいない社長は、後継者探しを続ける一方で、やはり本業である「会社の魅力づくり」に力を入れるようにしたほうがよいでしょう。

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