企業どうしが何らかの形で協力しようとするとき、「業務提携」「資本提携」という形が取られることがあります。これらはどこが同じであり、どこが違うのでしょうか。これについて解説します。
1. 業務提携とはなにか
(1) 業務提携の対象、方法
業務提携とは、企業同士が業務について提携する場合を指します。具体的には、生産提携、技術提携、共同研究開発、販売提携などを行います。契約によって行われ、どちらかがどちらかに出資をするといったことはありません。もちろん、それと同時に行われることも多いですが(後述の資本提携)、単に「業務提携」と呼ぶ場合、出資を伴わないものを指します。
(2) 業務提携のメリット
ア. 生産提携の場合
生産提携では、製造工程の一部を互いに委託します。
今まで製造していなかった製品であれば、工場や機械などの設備投資をすることなしに製品を製造することができ、今まで製造していた製品であれば、工程の一部を共通化することにより、コストを下げることができます。
イ. 技術提携の場合
技術提携では、特許などの知的財産権の実施を許諾しあうクロスライセンスや、その他のノウハウを提供します。
技術に関するノウハウは、特許の場合、公開はされますが実施するにはライセンス料を支払わなければなりません。それ以外のノウハウについては、厳重に管理され、他の企業に流出しないようにするのが通常です。
そのようなノウハウを、ライセンス料を支払わずに(あるいは有利なライセンス料で)使用できるようになります。
ウ. 共同研究開発の場合
共同研究開発では、技術や人材を提供しあって、共同で研究開発を行います。製造業などの場合、研究開発費用は新たな製品を開発するために必要な投資です。しかし、成果物の全てが商品化されるわけではなく、また、商品化されても全てがよく売れるとは限りません。また、技術にも得意・不得意があり、A社はaという技術に関する情報を多く持っているがbという技術に関する情報はあまり持っていない、B社はその逆である、といったことがあります。このような場合に、A社とB社が共同研究開発を行うことにより、A社は1からbという技術を研究するよりも効率的に、B社もaという技術について同様に、aとbという技術を組み合わせた製品を開発することができます。
エ. 販売提携の場合
販売提携では、販売ルートの相互乗り入れなどが行われます。特に販路を拡張しようとする企業にとっては、既に販路を持っている企業の信用を借りることができ、一気に販路を拡張することができます。
オ. まとめ
業務提携は、以上のように、弱点を補い合い、あるいはスケールメリットやシナジーを狙って行われます。
(3) 業務提携のデメリット
ア. 業務提携をする前と比較した場合
業務提携は、事業の一部を共同するものですから、利益分配についての紛争が生じるおそれがあります。そのため、事前に利益分配についてよく調査・予測・交渉しておく必要があります。
また、業務提携は、情報・技術を一部で共有するものです。このことは、両社の関係が良好である間は、先に述べたようなメリットをもたらしますが、両社の関係が悪化した場合には、一度共有された情報・技術は元に戻すことができませんから、その情報・技術を利用されてしまう可能性があります。
さらに、業務提携では、提携先企業の経営状態や不祥事が自企業にも影響するリスクを伴います。
イ. 資本提携と比較した場合
資本提携と比較した場合、業務提携には資本のやりとりがない分、両者の関係は資本提携におけるほど強固ではありません。業務提携をする場合、自企業の趨勢は多かれ少なかれ提携先に依存することになりますが、そのウェイトが増せば増すほど、提携解消のリスクは大きくなります。このような場合、業務提携の解消が比較的容易であることは、デメリットとなります。
2. 資本提携とはなにか
(1) 資本提携の内容、方法
資本提携とは、ある企業が他の企業に(あるいは互いに)出資するけれども、互いの独立性は保たれるという場合を指します。具体的には、資本を受け入れる側の企業が資本を出す側の企業に対して、第三者割当による新株発行などを行い、一定数の株式を与えます。
(2) 資本提携と子会社化との関係
新株発行により、一方が他方の株式の3分の1を超える株式を取得すると、株主総会の特別決議(定款変更、事業譲渡、合併の承認など、会社の経営にとって重要な決定について要求されます)の拒否権が生まれ、さらに、2分の1を超える株式を取得すると、取締役の選任・解任、報酬の決定、配当の決定などを単独でできるようになります。このような場合、買収(子会社化)がされたのと変わりません。「資本提携」と表現する場合、独立性を保ったまま資本をやりとりする場合を指すことが一般的であるため、このような買収(子会社化)のケースは、厳密には資本提携とは異なりますが、実務上は買収(子会社化)を含めて資本提携と表現することもあります。
(3) 関連会社(持分法適用会社)化との関係
金融商品取引法上、上場企業等には、一定の情報開示が義務付けられています。上場会社等は、不特定かつ多数の投資家・企業から資金を調達していますが、それゆえに各株主のシェアが小さく、各株主が経営を監督するのは難しいため、法で情報開示を強制しているのです。
金融商品取引法上、「関連会社」という概念があります。関連会社に該当すると、持分法という会計処理の方法が適用されます。持分法とは、「投資会社が被投資会社の純資産及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法」をいいます。子会社ほどには密接な関係にない場合であっても、一定の関係がある会社については、親会社の財務諸表に反映する趣旨です。
「関連会社」の定義は、「会社等及び当該会社等の子会社が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の会社等」とされています。そして、「重要な影響を与えることができる場合」に当たるかどうかは、まず、(ア)議決権の20%以上を保有している場合、(イ)15%以上20%未満で、かつ、取締役等の兼任がある、重要な融資を行っている、重要な技術を提供している、重要な営業上・事業上の取引がある等の場合などの形式的基準に当たることを前提に、実質的に見て重要な影響を与えることができないことが明らかである会社を除外して判断します。
業務提携を含む資本提携を行う場合、議決権の20%を超えるとき、または、両企業に規模の違いがある場合で議決権の15%を超えるときには、「関連会社(持分法適用会社)化」が生じることが多いといえます。
(4) 資本提携と業務提携との関係
以上に見たように、業務提携と資本提携は別の提携方法です。しかし、資本提携は、基本的に業務提携とともになされることが多いです。資本提携のみを行う場合と、業務提携を含む資本提携を行う場合とを区別して、後者を資本業務提携と呼ぶことがあります。しかし、実務上、資本提携のみを行う場合だけでなく、業務提携を含む資本提携についても単純に資本提携と表現することが多くあります。したがって、この記事でも、業務提携を含む資本提携についても「資本提携」と呼ぶこととします。
(5) 資本提携のメリット
ア. 資本を受け入れる側にとってのメリット
資本提携は、株式譲渡や新株発行によって行われますから、資本を受け入れる側の企業は、資金を調達でき、また、資本金が増えることで、他の取引先や金融機関などに対する信用も向上します。
また、資本を受け入れるということは、一方の企業が他方の企業の(あるいは互いに)株主となるということです。したがって、資本を受け入れる側の企業にとっては、協力的な安定株主を得ることができることになります。
イ. 出資側にとってのメリット
特に両企業に規模の違いがある場合、出資側の企業から見ると、資本提携には次のようなメリットがあります。
業務提携と比べると、自企業が株主となるため、(4)に書いたような各種の権限を手に入れることができます。また、提携先が大きく成長した場合、配当が期待できます。
また、買収と比べると、資本提携はリスクの回避にもなります。買収してしまうと、その会社の経営が失敗したときのリスクは、すべて株主である自企業で引き受けることになります。しかし、資本提携に留めることにより、そのようなリスクを抑えることができます。
(6) 資本提携のデメリット
ア. 資本を受け入れる側のデメリット
株主であるということは、経営について一定の決定権を持つということです。つまり、株主となる提携先から経営に介入される可能性があるということでもあります。関係が良好なうちはよいのですが、関係が悪化した場合には、法律上株主には経営に関与するさまざまな権利が与えられていますから、相手企業(提携先)にとって使うことができる手段が増えるということになります。
例えば、株主には、シェアが2分の1あるいは3分の1未満であっても、保有する株式数によっては、株主総会の招集を請求することができる、株主総会に先立って株主総会の議題を提案することができる、株主総会で議案(取締役の解任・選任を含みます)を提案することができる、帳簿の閲覧や謄写を請求することができるなどの権利が与えられています。
イ. 出資側のデメリット
業務提携と比べると、資本提携は出資を伴いますから、買収(子会社化)ほどではないにしても、出資先企業の経営が失敗したときのリスクを負うことになります。特に、(3)に書いたように、買収に至らなくても、出資先企業が関連会社に該当する場合には、その財務状態は、出資側企業自身の財務状況に反映され、公開されることとなります。このことは、出資側企業にとってデメリットとなりえます。
また、出資先企業の経営が望ましくない方向に向かっていると考えるときでも、役員を派遣している場合にはその役員を通じて、あるいは自ら株主としての地位に基づいて是正を図ることになりますが、いずれも間接的であり、実効性は今ひとつであるという点もデメリットと考えられます。
3. まとめ
「業務提携」とは、企業同士が生産、技術、研究開発、販売などについて、提携する場合を指します。「資本提携」とは、ある企業が他の企業に(あるいは互いに)出資するけれども、互いの独立性は保たれるという場合を指します。資本提携は業務提携と同時に行われることが多く、資本提携と言った場合でも業務提携を前提とすることが多いです。
業務提携も資本提携も、企業同士の独立性が保ったまま、シナジーを発揮するという共通点があります。これは、資本受け入れ側の企業から見た場合、経営権を維持できるということであり、資本を出す側から見た場合、経営に失敗したときのリスクの回避になります。
業務提携と資本提携は、単なる契約か、出資を伴うかという違いがあります。これは、資本提携の場合には両企業の関係がより強固になることを意味します。メリットとして、出資先企業から見ると、信用が向上し、また、協力的な安定株主を得ることができます。出資側企業から見ると、買収におけるような全面的リスクを抱え込むことなく経営に関与し、また、配当を得ることができます。デメリットとして、出資先企業から見た場合、経営に介入されるリスクがあります。出資側企業から見た場合、買収ほどではないにしても、出資先企業の経営が失敗したときのリスクをある程度負うことになり、しかも、それを防ぐ手段は役員派遣・株主権など間接的なものにとどまることが挙げられます。
資本提携はより強固な関係となるため、解消は難しく、より慎重な判断が必要になります。
▼参考記事:資本業務提携(M&A用語集)
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