M&A

「金融マンでもコンサルでもある」とはどういうことか ── IT×M&A人材のキャリアパスを解説

「このまま今の会社にいて、10年後の自分はどこでも通用する人材になれているだろうか」──銀行、証券、コンサルティングファーム、事業会社。それぞれの現場で成果を出しながらも、専門性が一つの型にはまっていくことに漠然とした不安を覚える人は少なくありません。

パラダイムシフトの経営理念には「金融マンとして、コンサルタントとして、ITの世界に身を置くプレイヤーとして」という一節があります。これは複数の職種を器用にこなすという意味ではありません。IT領域のM&Aという仕事が、そもそも一つの肩書きでは成立しないという実務上の必然を言い表したものです。

本稿では、「金融マンでもコンサルでもある」という言葉の中身を、IT×M&A人材に求められる三つの能力軸に分解して解説します。そのうえで、未経験からこの職域に入った人がどのようなキャリアパスを描くのか、実務ベースで整理します。

1、 「金融マンであり、コンサルタントである」とは何か ── 二者択一ではない第三の職域

金融とコンサルティングは、長らく別のキャリアトラックとして語られてきました。金融マンは資本の流れと企業価値を扱い、コンサルタントは戦略と組織を扱う。転職市場でも、投資銀行志望と戦略コンサル志望は別の母集団として扱われるのが通例です。

しかしM&Aの現場では、この線引きが機能しません。企業価値評価(バリュエーション)は財務の仕事ですが、「なぜこの会社にこの価格がつくのか」を説明するには、事業モデルと競争環境の理解が不可欠です。逆に、統合後の成長戦略を描いても、それが株式価値にどう反映されるかを数字で語れなければ、経営者は意思決定できません。

M&Aアドバイザリーの職域には、外資系投資銀行、日系投資銀行、Big4系のFAS、独立系のブティックファームなどが存在し、それぞれ得意領域が異なります。共通しているのは、財務の精緻さと事業の解像度を同時に求められる点です。「金融マンでもコンサルでもある」とは、二つの職能を兼ねるという足し算ではなく、どちらか一方では答えを出せない問いに向き合う職域である、という意味です。

パラダイムシフトはこれに加えて、代表メッセージで「当事者でありたい」と明言しています。助言する立場にとどまらず、自らもIT領域でリスクを取って事業開発を行う。この三つ目の軸が、IT×M&A人材の輪郭をさらに特徴づけています。

2、 金融マンとしての顔 ── 数字で企業価値を語る力

M&Aアドバイザリーにおける金融マンとしての役割は、企業価値を客観的な根拠とともに提示することです。IT企業のM&Aでは、この難易度が他業種より一段上がります。

(1)無形資産が価値の大半を占める

製造業であれば工場や設備といった有形資産が価値評価の土台になります。一方、IT企業の価値の源泉は、ソースコード、顧客基盤、解約率、エンジニア組織といった無形資産です。決算書だけを眺めても、その会社が本当にいくらの価値を持つのかは見えてきません。

パラダイムシフトが2011年の設立当時に「M&AがIT業界で広がるわけがない」と言われたのも、まさにこの価値評価の難しさが理由でした。逆に言えば、無形資産を評価できる技術こそが、この領域における参入障壁になっています。

(2)赤字企業にも値段がつく

SaaSをはじめとするサブスクリプション型のビジネスでは、先行投資により営業赤字が続くことは珍しくありません。それでも、ARR(年間経常収益)の成長率や解約率、顧客獲得コストの回収期間といった指標が良好であれば、高いバリュエーションがつきます。損益計算書の最終行だけを見て判断する発想では、この評価は組み立てられません。

(3)スキームの設計が結果を左右する

株式譲渡、事業譲渡、会社分割、株式交換──どのスキームを選ぶかによって、税負担も、従業員や取引先への影響も、経営者の手取りも変わります。会計・税務・会社法の知識は、机上の教養ではなく、依頼者の手元に残る金額を左右する実務スキルです。

なお、こうした専門知識は入社時点で完成している必要はありません。パラダイムシフトの投資銀行部では、証券外務員一種・簿記2級・ITパスポートを必須資格としていますが、いずれも入社後の取得で構わないとしています。求められているのは既に持っている知識ではなく、学び続ける姿勢のほうです。

3、 コンサルタントとしての顔 ── 経営者と同じ視点で意思決定に踏み込む力

M&Aアドバイザーがコンサルタントである理由は、扱っているのが取引ではなく経営者の意思決定そのものだからです。

会社を売るという判断は、多くの場合、創業者にとって人生で一度きりの決断です。数字上は好条件でも「この買い手に社員を任せられるか」という一点で見送りになることがあります。逆に、価格では劣っても「この会社となら次のステージに行ける」という確信で決まることもあります。数字だけを持って行っても、経営者の意思決定には届きません。

(1)論点を立てる力

経営者が最初に口にする課題が、本当の課題であるとは限りません。「後継者がいない」という相談の背景に、実は特定顧客への依存という構造問題が潜んでいることもあります。表面の要望をそのまま受け取らず、一段深い論点を立て直せるかどうかが、アドバイザーとしての価値を分けます。

(2)相手の立場を同時に読む力

M&Aは売り手と買い手の双方が納得しなければ成立しません。自社の依頼者の利益を最大化しつつ、相手方が何を懸念し、どこまでなら譲歩できるかを読む。交渉とは押し込むことではなく、合意可能な範囲を設計する作業です。

(3)自ら会いに行く力

セミナーなどを通じて相談を待つ受け身の営業にとどまる会社も多いなかで、パラダイムシフトが採用しているのは、潜在ニーズを掘り起こすプッシュ型のアプローチです。国内に約3万社あるIT企業のうち1万社以上と顧客接点を築いてきたのは、この積み重ねによるものです。採用サイトで掲げられている「欲しいのは、知的行動力」という言葉は、この姿勢を端的に表しています。

4、 IT×M&A人材に固有の第三の軸 ── テクノロジーを読む力と当事者性

IT領域のM&Aで金融とコンサルの二軸に加えて必要になるのが、テクノロジーを読む力です。

その象徴がITDD(ITデューデリジェンス)です。買収対象のシステムがどのような技術で組まれ、技術的負債をどれだけ抱え、開発体制が特定の個人に依存していないか──これらは買収後の追加投資額に直結します。財務DD・法務DDは会計士や弁護士に依頼できますが、ITDDを担える体制を持つ会社は国内でも限られています。

さらにパラダイムシフトの場合、助言だけで完結しない構えを取っています。金融機関向けのIT戦略提案やシステム開発を手がける金融イノベーション事業、ファンド運営による投資と経営伴走。自らもリスクを取って事業を回すからこそ、経営者と同じ目線で「この統合は本当に機能するのか」を語れる、という考え方です。

この構造は、キャリアの観点からも意味を持ちます。M&Aアドバイザリー、ITコンサルタント、ファンドマネジメント、プロダクト開発が同じ会社の中にあるため、職種をまたいだ経験の蓄積が可能になります。転職を挟まずに、金融・コンサル・事業のいずれの軸も伸ばしていける環境は、そう多くありません。

5、 IT×M&A人材のキャリアパスの実像

IT×M&A人材のキャリアパスは、実務ベースではおおむね次の三段階をたどります。

【Step 1】案件の型を身体で覚える(1〜2年目)

最初に担当するのは、企業リサーチ、候補先リストの作成、ノンネーム資料や企業概要書(IM)の作成、面談への同席と議事録作成といった業務です。地味に見えますが、この段階でどれだけ多くの案件に触れたかが、後の判断力の土台になります。並行して、証券外務員一種や簿記2級といった資格の取得を進めます。

【Step 2】案件を自分で回す(3〜5年目)

担当者として案件を持ち、経営者との面談、バリュエーション、買い手候補への打診、条件交渉、DDの調整、契約締結までを主導します。「アドバイザーであり当事者である」という言葉の重みを最も実感するのがこの時期です。同時に、自ら案件を創出するソーシングの力も問われるようになります。

【Step 3】専門性の方向を選ぶ(5年目以降)

経験を積んだ先の進路は一つではありません。マネジメントとしてチームと案件全体を統括する道、投資ファンドで投資判断とバリューアップに関わる道、事業会社のCFOや経営企画として買い手側に回る道、あるいは自ら起業する道。M&Aアドバイザリーの経験は、金融・コンサル・事業のいずれの方向にも接続できる汎用性を持っています。

注意すべき点もあります。成功報酬の比重が大きいビジネスであるため、成約に至らなければ数か月分の労力が売上にならないこともあります。パラダイムシフトの場合、報酬は年俸に業績連動ボーナスを加えた、成果に連動する体系であり、その裏側には成果への強い責任があります。安定したルーティンワークを望む人には、向かない仕事です。

6、 まとめ ── 肩書きではなく、解ける問題の幅でキャリアを選ぶ

「金融マンでもコンサルでもある」という言葉は、二つの職種を掛け持ちするという意味ではありません。企業価値を数字で語る力、経営者と同じ視点で意思決定に踏み込む力、テクノロジーを読み解く力──この三つを同時に使わなければ答えが出ない問題が、IT領域のM&Aには存在するということです。

レコフデータの集計によれば、2025年の日本企業のM&A件数は5,115件と2年連続で過去最多を更新し、取引総額も約35兆7,000億円と前年比7割増で過去最高を記録しました。なかでもソフトウェア・IT関連は、業種別の件数で例年最多水準を占めています。この領域の担い手に対する需要は今後も続く見込みです。

キャリアを選ぶとき、多くの人は職種名や業界名で比較します。しかし本当に問うべきなのは、「10年後の自分は、どんな種類の問題を解けるようになっているか」です。実際にどのような案件が動いているのかは、IT企業のM&A事例からも具体的にご覧いただけます。また、パラダイムシフトが大切にしている価値観や募集職種については、採用情報ページにまとめています。

パラダイムシフトは、2011年の設立以来、IT領域に特化したM&Aアドバイザリーとして、1万社以上のテクノロジー企業と向き合ってきました。M&Aアドバイザリーに加え、金融機関向けのシステム開発・ITDD、ファンド運営までを自社で手がけ、「金融マンであり、コンサルタントであり、当事者である」という立場から、IT企業の資本戦略を支援しています。キャリアや事業に関するお悩みは、ぜひ一度ご相談ください

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