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株式が自由に売買できない「ロックアップ」とは? 概要と事例解説

スタートアップがIPOする際、経営者などに「ロックアップ」がかけられる場合があります。今回は「ロックアップ」について、基本的な内容と具体的な事例を解説していきます。




## 1. ロックアップとは
ロックアップとは、スタートアップがIPOする際など、経営者や大株主と主幹事証券会社との間で、一定期間株式を売却しないことを約束することです。ロックアップがかけられている場合、新規上場の際に発行される「目論見書」において、どのようなロックアップなのか具体的な内容が開示されることになります。

## 2. ロックアップのメリット・デメリット
IPOする会社の経営者にロックアップされるケースを考えてみましょう。経営者とこれからIPOする会社に投資を考えている投資家に分けてメリット・デメリットを解説していきます。

### (1) 経営者のメリット
一見すると経営者は保有する株式を売却できないだけなので、メリットはないようにも感じられます。しかし、経営者の保有株式にロックアップをかけ、目論見書によって開示されることで、投資家に対して経営者のコミットメントを表現することができる点がメリットです。上場後の株価をピークに下がり続けてしまうことを、「上場ゴール」と表現されることもありますが、経営者の強い意志により、「上場ゴール」の可能性を少しでも減らすことができます。

### (2) 投資家のメリット
投資家は、ロックアップが付されたIPO株の方が、株価が上がりやすいというメリットがあります。経営者など発行済株式総数の大部分にロックアップが付されていれば、一定期間は売り注文が出づらい状況になります。IPO株は上場当初は大きな注目を浴びるため、買い注文の勢いが強く、売り注文が少なければ、株価は上がりやすくなります。

### (3) 経営者のデメリット
ロックアップによる経営者のデメリットは、保有株式を一定期間売却できないことによる機会損失です。経営者がエグジットの最大化を狙い、IPO直後の株価で売却しようとしても、主幹事証券会社との約束があるため、売却することができません。

### (4) 投資家のデメリット
ロックアップがかかっているIPO株を買う場合、買った当初は株価が好調に推移するかもしれません。しかし、永久にロックアップがかかっているわけではない点がデメリットです。例えば、ロックアップ期間が6カ月であれば、6カ月経過後には、大口が多くの株を売却してくる可能性が出てきます。すると、需給が悪化し、ロックアップ明けに株価が大きく下げてしまうリスクがあります。

## 3. ロックアップの事例解説
実際のロックアップの事例として、直近のユニコーン上場を達成した以下の2つの事例を見ていきましょう。
- ビジョナル
- プレイド

### (1) ビジョナルのロックアップ事例
ビジョナルは、ビズリーチを中心としたHRテック会社です。2021年4月22日に東証マザーズ市場に上場、初値ベースの時価総額は2,500億円となり、2021年初のユニコーン上場となりました。

#### ア. IPO前の株主構成
ビジョナルのIPO前の上位5名の株主構成は以下のとおりです。
1位:南壮一郎氏 16,864,000株(42.47%)
2位:ジャフコ・スーパーV3共有投資事業有限責任組合 4,680,000株(11.78%)
3位:島田亨氏 2,300,000株(5.79%)
4位:YJ2号投資事業組合 1,721,400株(4.33%)
5位:竹内真氏 1,719,800株(4.33%)

上記の株主のうち、1位南氏は創業者で代表取締役社長、5位竹内氏は取締役CTOです。2位と4位はVC、3位の島田氏は楽天野球代表取締役社長などを務めたエンジェル投資家です。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000005e0a1-att/04Visional-1s.pdf

#### イ. 売出株放出元と売出株価
ビジョナルのIPO時の売出放出元の上位5名は以下のとおりです。
1位:ジャフコ・スーパーV3共有投資事業有限責任組合 4,680,000株
2位:島田亨氏 1,600,000株
3位:南壮一郎氏 640,000株
4位:ジャパン・コインベスト投資事業有限責任組合 546,500株
5位:グロービス5号ファンド投資事業有限責任組合 497,700株

売出株価は1株当たり5,000円です。

南壮一郎氏は、16,864,000株保有のうち、640,000株しか売り出さず、32億円分の一部エグジットとなります。ジャフコ・スーパーV3共有投資事業有限責任組合は、4,680,000株保有のうち、全額を売り出し、234億円の株式売却金額です。創業者は売出を少なく、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家はIPOの売出段階で多くの株式を売却することが分かります。

新規上場会社概要
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000005e0a1-att/04Visional-Outlinet.pdf

#### ウ. ロックアップ条件
ビジョナルのロックアップ条件は以下のとおりです。
南壮一郎氏:180日間
島田亨氏:180日間
YJ2号投資事業組合:360日間
竹内真氏:180日間
Japan Entrepreneur Collaboration Limited:180日間
永田信氏:180日間
多田洋祐氏:180日間
村田聡氏:180日間

創業者や役員メンバーを中心に180日間のロックアップがかけられており、一部VCやエンジェル投資家にも180日間または360日間のロックアップがかけられています。

### (2) プレイドのロックアップ事例
プレイドは2020年12月17日に東証マザーズに上場したCXプラットフォーム「KARTE」を提供する企業です。初値の時価総額は1,100億円を超えており、こちらもユニコーン上場となりました。

#### ア. IPO前の株主構成
プレイドのIPO前の上位5名の株主構成は以下のとおりです。
1位:倉橋健太氏 11,715,000株(29.65%)
2位:柴山直樹氏 7,816,000株(19.78%)
3位:JAPAN VENTURES 6,280,000株(15.89%)
4位:フェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合 4,789,900株(12.12%)
5位:Google International 1,420,900株(3.60%)

上記の株主のうち、1位の倉橋健太氏は創業者で代表取締役社長、2位の柴山直樹氏は取締役CTOです。3位と4位はVCで、5位にGoogleが入っているのが、プレイドの特徴です。プレイドの技術力を評価した上で投資されており、今後の更なる成長も期待されます。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053c5d-att/12PLAID-1s.pdf

#### イ. 売出株放出元と売出株価
プレイドのIPO時の売出放出元の上位5名は以下のとおりです。
1位:JAPAN VENTURES 5,652,000株
2位:フェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合 3,831,000 株
3位:フェムトグロースファンド 2.0 投資事業有限責任組合 878,000 株
4位:倉橋健太氏 750,000株
5位:柴山直樹氏 750,000株

売出株価は1株当たり1,600円です。

創業者である倉橋健太氏は11,715,000株のうち、750,000株を売り出すことから12億円の一部エグジットとなります。JAPAN VENTURESは、6,280,000株のうち大部分の5,652,000株を売却し、90億円超を手にすることになります。なお、Googleは今回の売出には参加しません。

新規上場会社概要
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053c5d-att/12PLAID-Outlinet2.pdf

#### ウ. ロックアップ条件
プレイドのロックアップ条件は以下のとおりです。
倉橋健太氏:360日間
柴山直樹氏:360日間
JAPAN VENTURES:180日間
フェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合:180日間
フェムトグロースファンド2.0投資事業有限責任組合:180日間
牧野祐己氏:180日間
三井物産:180日間
MSIVC2018V投資事業有限責任組合:180日間

創業者や取締役は360日間のロックアップがかけられており、一部VCについては180日間のロックアップがあります。Googleについては継続保有する旨の確約がある旨、開示されています。

新株式発行並びに株式売出届出目論見書の訂正事項分
https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/connect/ipo/202011122102.pdf

## 4. まとめ
今回はロックアップについての概要、経営者と投資家の立場から見たメリット・デメリット、実際のロックアップ事例を見てきました。

創業者・経営陣にはロックアップが180日間~360日間付されており、VCやエンジェル投資家には、ロックアップがないか180日間程度のロックアップが付されていたことが分かります。

投資家の立場から見ると、IPO時に創業者の売出が少なく、ロックアップ期間が長ければ、継続コミットの意思を確認することができるため、安心して投資を行うことができます。ただし、ロックアップ期間後はいつでも売却できる状況であることは留意が必要です。

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