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DCF法とは?~計算式や使用時の注意点を解説~

DCF法は、Discount Cash Flowの略で、事業価値を理論的に算出する方法の一つです。M&Aの世界では買収価格の算定によく使用されています。今回はDCF法について、基本的な内容と計算式、DCF法を使用する際の注意点を解説していきます。

1. DCF法とは

DCF法は、割引キャッシュフロー法とも呼ばれており、対象資産が生み出す将来キャッシュフローの割引現在価値を計算し、事業価値を算出する方法です。

事業価値算定方法には、DCF法の他に、マルチプル法、修正純資産法、年買法など様々な種類があります。その中でもDCF法は最も理論的な価値算定方法とも言われています。

2.割引現在価値とは

DCF法を理解するうえで外せないのが、「割引現在価値」の概念を理解することです。簡単な事例を用いて解説していきます。

「今すぐに貰える100万円」と「1年後に貰える100万円」は、「今すぐに貰える100万円」の方が、価値が高くなります。なぜなら、今すぐに100万円を貰えれば1年という時間を使って利息等で稼ぐことができるためです。

例えば、年利10%で運用できるとすれば、今すぐに貰える100万円と1年後に貰える110万円(100万円×1.1)は等価です。

割引現在価値とは、1年後に貰える110万円を現在貰えるとしたらいくらか、に換算したものです。

1年後に100万円、2年後にも100万円、3年後に200万円といった形で将来獲得できるキャッシュフローと割引率が分かれば、割引現在価値を算出することができます。

3. DCF法の計算式

DCF法は以下のとおり、4つのステップに分かれて計算していきます。それぞれ詳細を見ていきましょう。
(1) 将来キャッシュフローの計算
(2) 割引率の計算
(3) 継続価値の計算
(4) 割引現在価値の計算

(1) 将来キャッシュフローの計算

DCF法で用いる将来キャッシュフローは、主にフリーキャッシュフロー(FCF)を使用します。フリーキャッシュフローの計算式は以下のとおりです。
FCF = 営業利益×(1-税率)+減価償却費―設備投資―運転資本

対象会社の1年後の営業利益1億円、税率30%、減価償却費1,000万円、設備投資2,000万円、運転資本1,000万円とした時のFCFは、計算式に当てはめると以下のように計算できます。

FCF = 1億円×(1-30%)+1,000万円―2,000万円―1,000万円
  = 5,000万円

(2) 割引率の計算

DCF法で用いる割引率は、WACC(Weighted Average Cost of Capital)と呼ばれる加重平均資本コストにより計算されます。
WACCは、資本コストと借入コストを計算し、加重平均することで算出することができ、計算式は以下のとおりです。
WACC = 資本コスト×((株主資本÷(株主資本+負債)) +負債コスト×(1―実効税率)×((負債÷株主資本+負債))

続いて、資本コストと借入コストの計算式を解説していきます。

ア. 資本コストの計算

資本コストはCAMP(Capital Asset Pricing Model)と呼ばれる計算式で算出することが可能です。CAMPの計算式は以下のとおりです。
資本コスト = リスクフリーレート(Rf)+ベータ(β)×マーケットリスクプレミアム

リスクフリーレートとは、リスクの負担なしに期待できるリターンのことで、実務上、10年国債利回りを使用することが多いです。

ベータ(β)とは市場全体に対する感応度です。例えばTOPIXに対する対象会社のβが1.5であれば、TOPIXが1値上がりする場合、対象会社は1.5値上がりすることになります。上場企業のβはブルームバーグなどにより公開されており、対象会社が未上場企業の場合は類似企業のβを使用することが一般的です。

マーケットリスクプレミアムとは、リスクを負担する代わりに要求する超過収益率のことです。例えば、TOPIXの期待利回りから10年国債利回りを差し引いて計算することができます。

イ. 借入コストの計算

借入コストは金融機関などから借り入れた利率です。金利3%で銀行から借り入れている場合の借入コストは3%となります。

(3) 継続価値の計算

継続価値とは、フリーキャッシュフローを予想した期間の最終年度の価値のことです。DCF法ではフリーキャッシュフローを見積もることが必要ですが、永久的に見積もることは不可能です。

そこで、例えば5年間までは詳細にフリーキャッシュフローを計算し、その後は一定の成長率を元に永久成長することを前提として継続価値を計算します。継続価値の計算式は以下のとおりです。
継続価値 = 最終年度のFCF ÷(割引率―永久成長率)

最終年度のFCFを1億円、割引率を12%、永久成長率を2%とした場合の継続価値は以下のとおりです。
継続価値 = 1億円÷(12%―2%)
     = 10億円

(4) 割引現在価値の計算

以下の基本データで割引現在価値を計算していきます。
FCF:1年目1億円、2年目2億円、3年目3億円
資本コスト:8%
借入コスト:4%
株主資本:6億円
負債:4億円
実効税率:30%
3年目以降の永久成長率:1%

割引率はWACCの計算式に当てはめ、以下のとおり算出できます。
WACC = 8%×((6億円÷(6億円+4億円))+4%×(1―30%)×(4億円÷(6億円+4億円))
   = 5.92%

継続価値は、割引率5.92%を用いて以下の計算式で算出できます。
継続価値 = 3億円÷(5.92%―1%)
     = 61.0億円

最後に、1年目~3年目のFCFと継続価値を割引現在価値にするための計算を行います。

1年目FCF:1億円÷(1÷(1+5.92%))   = 0.9億円
2年目FCF:2億円÷(1÷(1+5.92%)^2)) =1.8億円
3年目FCF:3億円÷(1÷(1+5.92%)^3)) =2.5億円
継続価値 :61億円÷(1÷1+5.92%)^3)) =51.3億円

以上を合計したものが割引現在価値となり、56.6億円と計算することができました。

4. DCF法の使用時の注意点

DCF法はM&Aの実務でも良く使用される方法ですが、3点の注意点があります。それぞれ解説していきます。

(1) 将来フリーキャッシュフローの検証

DCF法は、将来フリーキャッシュフローを割引現在価値にする計算方法ですが、将来フリーキャッシュフローをどのように見積もるかが、最終的な計算結果に対して大きな影響を及ぼします。

将来フリーキャッシュフローは、実務上、対象会社の事業計画書から計算することが一般的です。そのため、事業計画の実現可能性を検証しなければなりません。

例えば、事業計画に新規事業が多く含まれておりその成功可能性が不透明な場合、新規事業分を抜いた事業計画でDCF法を適用することもあります。

事業計画の実現可能性を検証する際は、売上、利益の金額だけでなく、単価×数量、人数×一人当たり人件費など、各KPIに分解する必要があります。

また、過去実績の推移と見比べて、事業計画が大きく過去実績から乖離した計画になっていないかも確認するようにしましょう。

(2) 割引率で大きく計算結果が変わる

将来フリーキャッシュフローと並びDCF法で重要なのは割引率です。割引率が1%変わった場合、継続価値にも大きな影響が出るため、最終の計算結果が大きく変わってきます。

実務上、対象会社が未上場企業であれば、割引率を正しく正確に計算することは困難と言えます。理由は、未上場企業には上場企業にはない固有のリスクがあることが通常ですが、固有リスクを見積もることが困難であることが挙げられます。

解決策として、割引率を一定のレンジであることを過程して、DCF法を採用することがよく行われています。例えば、「割引率を10%~15%のレンジでDCF法を使うと、事業価値が1億円~2億円の範囲内」と一定の幅を持たせることができます。

M&Aの買収側は、第三者機関からバリュエーションレポートを受領することが多いですが、自身の買収額が、バリュエーションレポートに記載のあるレンジの範囲内に収まっていることが必要です。

(3) DCF法が採用できない場合もある

DCF法は、以下のような場合には採用することができません。

  • 事業計画上、フリーキャッシュフローがマイナス推移となっている
  • 事業を停止しているが、多額の含み益がある資産を保有している
  • 会社清算することが決まっている

DCF法は事業計画がマイナスの計画になっている場合には、マイナスの評価しかできないため、適用することはできません。会社清算する場合など、将来キャッシュフローが入ってこないことが決定的なケースでは、DCF法ではなく、修正純資産法など別の手法を用いる必要があります。

また、相続税を計算する際の株式評価では、DCF法は採用することはできず、法的に認められている配当還元方式、類似業種比準価額方式、純資産価額方式を使わなければなりません。

5. まとめ

以上のように、今回はDCF法の計算式と具体的な計算事例、実務上の留意点を解説してきました。DCF法は計算ステップが長く、一見すると複雑に感じられるかもしれません。

複雑な計算式を無理に覚えようとするのではなく、まずはDCF法の基本を押さえることが重要で、基本が理解できていれば計算式も自然と出てくるようになります。

DCF法は、事業計画の実現可能性や割引率によって、大きく計算結果が異なってくる点は注意が必要です。少し計算前提が異なることで、大きなバリュエーションの違いを生むため、実務で使用する際は、慎重に一つずつ前提条件を検証することが大切です。

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