M&A

ファミマと大戸屋へのTOBが注目された理由

2020年に世間の注目を集めたTOBが成立しました。 伊藤忠商事株式会社による株式会社ファミリーマートへのTOBと、株式会社コロワイドによる株式会社大戸屋ホールディングスへのTOBです。

Take Over Bid(株式公開買付け、TOB)は、特定の企業の株式を直接株主から買付ける行為で、M&Aの一手法です。

この2つのTOBがインパクトを持ったのは、買った企業と買われた企業がともに著明であっただけでなく、それぞれの業界に大きな影響を与えることになるからでしょう。

1.伊藤忠によるファミマへのTOB

伊藤忠は2020年8月に、ファミリーマートに対して実施したTOBを成立させました。伊藤忠はTOBで買付ける株式数を5,011万株以上としていましたが、7,901万株の応募があり全株購入しました。これにより伊藤忠はファミリーマート株を65.7%取得したことになります。

(1)注目の大きさの証拠? ファミマ株が暴騰

伊藤忠は2020年7月8日に、ファミリーマートに対してTOBを実施することを公表し、ファミリーマート株の買付け価格(TOB価格)を1株2,300円に設定しました。前日のファミリーマート株の終値(株式市場価格)が1,766円なので、伊藤忠は1株当たり534円(30.24%)ものプレミアムをつけたことになります。

プレミアムとは、TOB価格と株式市場価格の差額のことです。プレミアムが大きいほど、TOB対象株の株主は大きく儲けることができるので、TOBに応募する確率が高くなります。 そしてTOBへの応募が多くなれば、TOBが成立する確率が高くなります。 ただTOB価格を高くすると、M&Aコストが膨らむデメリットがあります。

もしファミリーマート株を1,766円で1,000株購入した人がこのTOBに応じたら、534,000円の利益を上げることができます。計算式は次のようになります。

●1,766円でファミマ株を1,000株買った人のTOBによる利益
=(2,300円/株-1,766円/株)×1,000株=534,000円

ところがこの直後、異変が起きます。 伊藤忠によるTOBが公表されると、株式市場でファミリーマート株を安く買って、伊藤忠に高く買ってもらおうと考えた投資家が急増しました。人気を博したことでファミリーマート株の価格が暴騰し、7月16日には株式市場価格が2,400円を超えてしまいました。 ある会社の株価が一気に30%以上値上がりすることはかなりの異変です。これは伊藤忠によるファミリーマート買収の世間的な注目を集めていた証拠です。

(2)なぜTOB価格より高い価格でファミマ株を買った人がいたのか

ファミリーマート株を株式市場で1株2,400円で買っても、伊藤忠は「2,300円で買う」といっているので、TOBに応募しても儲けは出ないはずです。むしろ損をするかもしれません。 なぜ、多くの投資家は、儲けが出ないはずの「勝負」に出たのでしょうか。もちろん、勝機があると考えたからです。

(3)伊藤忠が買付け価格を上げるだろうという思惑があったから

伊藤忠が2,300円で買うといっているのに、株式市場で2,400円でファミリーマート株を買う投資家がいたのは、伊藤忠がTOB価格(買付け価格)を値上げするだろうという思惑があったからです。 TOB価格が2,400円より値上がりすれば、株式市場で2,400円でファミリーマート株を買っても利益は出ます。

そして実際に、ファミリーマートの既存の株主が、伊藤忠に対してTOB価格を高くしろと圧力をかける動きがありました。ファミリーマートの株式を大量に持っていたアメリカの投資ファンドが、伊藤忠に対してTOB価格を2,600円にするよう要請しました。

しかし伊藤忠は2,300円のTOB価格を変えませんでした。なぜ伊藤忠は強気だったのでしょうか。株式市場の価格よりTOB価格が下回ったままなら、TOBに応じる株主は少ないのでTOBは失敗するかもしれません。

(4)伊藤忠が強気だったのはファミマの業績が悪かったから

伊藤忠がTOB価格を2,300円から引き上げなかったのは、ファミリーマートの業績がよくなかったからです。 同業のセブンイレブンやローソンが、早い段階でコロナ禍による業績低迷から脱出できたのに、ファミリーマートはなかなか回復しませんでした。

そのため伊藤忠は、ファミリーマート株の株式市場価格が2,300円を上回ったのは一時的な出来事であって、情勢が落ち着けば株式市場価格は2,300円より下がるはずなので、最終的に2,300円でもTOBに応じる株主は増えるはずだと読みました。

そして伊藤忠の読み通り、2020年8月24日には、ファミリーマートの株式市場価格は2,257円にまで落ち込み、TOB価格の2,300円を下回りました。 その結果TOBに応じる株主が増え、TOBは成立しました。 (以上*1、2、3、4を参照)。

*1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63018590V20C20A8I00000/
*2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62822570Z10C20A8TJ1000/?n_cid=DSREA001
*3:https://www.family.co.jp/company/familymart/outline.html
*4:https://www.itochu.co.jp/ja/about/profile/index.html

2.コロワイドによる大戸屋TOBはドタバタ続き

外食大手のコロワイドは2020年9月、定食チェーンの大戸屋への敵対的TOBを成立させました。 敵対的TOBとは、TOBされる側(ここでは大戸屋)がTOBに反対しているときのTOBの俗称です。

コロワイドは元々大戸屋の大株主でした。コロワイドには、大戸屋株を買い増して経営権を握り、子会社にする狙いがありました。 そこでコロワイドは6月に、大戸屋の株主総会で取締役の大幅入れ替えを提案しました。しかしコロワイドの提案は、その他の株主によって否決されました。 このときは大戸屋が勝ちました。 しかしコロワイドは大戸屋を手に入れることをあきらめず、敵対的TOBに打って出ます。

(1)居酒屋甘太郎の低迷で「どうしてもほしかった定食屋」

コロワイドは元々、居酒屋甘太郎を運営する会社でした。その後、フレッシュネスバーガーやステーキ宮、かっぱ寿司、牛角などを傘下に収めて成長してきました。 ところがコロナ禍によって本業だった居酒屋などが打撃を受け、ウィズコロナ社会で生き残る道を探しました。 その道の1つが、大戸屋の買収でした。大戸屋は定食屋なので、コロナ禍でも自粛の対象になりにくいですし、感染リスクが低いテイクアウト・ビジネスも始めやすい業態です。

また大戸屋はコロナ禍前から、創業家と経営陣が対立するお家騒動を起していました。お家騒動を起こすということは、両陣営ともにその会社の実権を握りたいと考えているわけなので、その会社は魅力的なはずです。そしてお家騒動を起こしていると、経営体制が弱体化するので、守りが弱くなります。 このようにお家騒動というトラブルは、敵対的TOBの格好の的になります。 確固たる「おいしい定食」ブランドを確立していて、お家騒動を起こしている大戸屋は、案の定コロワイドのターゲットになりました。

(2)プレミアム46%の本気度がTOBを成立させた

コロワイドは7月9日にTOBを実施することを発表し、買付け価格(TOB価格)を1株3,081円に設定しました。3,081円は、直前の大戸屋の株式市場価格の46%のプレミアムを上乗せした価格でした。 伊藤忠がファミリーマートへのTOBでのせたプレミアムが30%ほどだったので、それをはるかに上回ります。コロワイドの本気度が伝わってきます。

ところが7月10日には、大戸屋株は3,115円にまで高騰しました。TOB価格が株式市場価格を下回ったの、大戸屋株の株主はTOBに応じない可能性が高まりました。 ただ、大戸屋株の値上がりは一時的なもので、株式市場価格はすぐに値を下げ、TOB価格を下回りました。 その結果、TOBに応じる株主が増えTOBは成立しました。 コロワイドは大戸屋株を47%取得できることになったので、将来的に大戸屋を連結子会社にするだろうと予測している経済紙もあります。

(3)コロワイドのTOB成功の勝因を探る

コロワイドは最初、大戸屋の株主総会で取締役の大幅入れ替えを提案しました。これが敵対的買収の第1ラウンドになり、コロワイドはダウンを喫しました。 しかしコロワイドはあきらめず、敵対的TOBという第2ラウンドに持ち込みました。そして見事、大戸屋をKOしました。

コロワイドは大戸屋のビジネスモデルを大きく変更するとしているので、大戸屋の従業員のなかには悲観している人が少なくありません。また、大戸屋の現経営陣のほとんどは退くことになります。大戸屋をここまで育て上げた人たちとしては無念でしょう。 ただ、コロワイドの勝因は、執念深さだけではありませんでした。ポイントは、闘い方です。

コロワイドは最初、普通の大株主として、大戸屋の株主総会で取締役の交代を要求しました。このときは大戸屋株を買い増していないので、M&Aコストはかかっていません。最初にコスト安の敵対的買収を仕掛ければ、それだけ多く「うまみ」を取ることができます。

しかしコスト安の手法が失敗すると、次は逆に、徹底的にコストをかけて闘いに臨みます。 株式市場価格の46%ものプレミアムをつけたことで、大戸屋の株主総会で取締役の交代に反対した一般株主を「コロワイドに大戸屋株を売って利益を得たい」と思わせることに成功しました。

一連のドタバタ劇は、マスコミ各社が大々的に報じました。 コロワイドの大戸屋買収は「大が小を飲み込む」形になったので、コロワイドが悪者で大戸屋が被害者のような印象を持つかもしれませんが、外食業界の再編が加速するとみる専門家もいます。 外食産業は小規模事業者が乱立していて、経営の安定化が長年の課題になっています。コロナ禍でも、外食産業はすぐに大きなダメージを受けました。 大戸屋の定食のファンは味が落ちることを心配するかもしれませんが、心配する人と同じくらい、大戸屋の定食を安く食べられると期待する人がいるはずです。 (以上*5、6、7、8、9、10を参照)。

*5:https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00114/00083/?P=2
*6:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63563210Y0A900C2MM8000/
*7:https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXMZO63612040Z00C20A9EAF000&scode=7616&ba=1
*8:https://www.ootoya.jp/corporate/profile.html
*9:https://www.colowide.co.jp/brand/
*10:https://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber4/preview_20201006.html

3.まとめ~TOBはそのあとが重要

伊藤忠のファミリーマートTOBもコロワイドの大戸屋TOBも、戦略やドラマがあって世間の関心を引きました。 しかしTOBは、株式市場価格より高い値段で株を大量に買うことになるので、TOBを仕掛ける企業の経営にも少なからぬダメージを与えます。そのため、TOBが成功しても、それがすぐにM&Aの成功に直結するわけではありません。M&Aを成功させるには、TOB成立後のビジネスを軌道に乗せる必要があります。 TOBは少なからぬ関係者に少なからぬ損失を与えることになるので、それに見合うM&A効果が期待されます。

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