M&A

IT企業における垂直型M&Aとは? GAFAM事例5選解説

M&Aはその方法や目的で様々な形での分類が可能です。そしてIT業界では「垂直型M&A」と呼ばれるM&A方式が盛んに行われています。なぜなら垂直型M&Aはスピーディーな事業拡大や経営効率化を可能にするからです。

今回の記事では垂直型M&Aについて特徴や垂直型M&Aに必要な分析手法を解説します。さらにGAFAMと呼ばれる米国大手IT企業5社の事例を紹介し、解説します。

1.垂直型M&Aは上流/下流工程の企業を統合すること

垂直型M&Aは顧客に商品やサービスを提供する工程で自社が行っていない役割を担う企業を買収するM&Aです。仕入れ先の企業や販売先の企業を買収することは垂直型M&Aになります。そのため買収先は異業種になることがほとんどです。

例えば日本の商社では仕入れる商品のメーカーを買収し、メーカー機能を有す商社が多くあります。これは上流工程を押さえることで、商社にとって以下のメリットが生じるからです。

  • 上流工程を押さえることで、納品先に対する交渉力を高められる
  • 納品先からの需要に対して、メーカーに迅速な指示ができる

これらメリットを活かすことで自社のシェア拡大と利益効率化を実現できます。

(1)バリューチェーンを分析し効率的なM&Aを行う

このように垂直型M&Aでは自社には無い事業を行っている企業を買収します。そのためM&Aをする上で、バリューチェーンの分析が重要です。

バリューチェーンとはアメリカの経営学者マイケル・ポーターが考案したビジネス分析の手法です。企業が顧客に価値を提供するためには以下のような工程が必要になります。

  • 商品の企画・開発⇒原材料調達/部品購入⇒加工/製造⇒出荷⇒販売
  • 販売におけるマーケティング/アフターフォロー

さらにバリューチェーンではこれらビジネスの主活動を支える以下のような業務が加わります。

  • 上記主活動を行うための物品調達
  • 主活動を効率化する技術開発や支援
  • 従業員の人事管理
  • 経理や財務など企業のインフラ

このようにバリューチェーンではビジネスを細分化することで、それぞれにコストや貢献度を明確にするのです。

(2)ファイブフォースの問題を解決できる事業を買収する

そして垂直型M&Aではバリューチェーンで見つけた自社の強化したい部門に対して、ファイブフォース分析による効果を確かめます。

ファイブフォース分析とはバリューチェーンと同じく、マイケル・ポーターが提唱したビジネス分析手法です。
企業の利益を削る可能性がある要素を「ファイブフォース」と呼ばれる5つに分類し、自社のウィークポイントを明確にします。
企業の利益を削る5つの要素とは以下の通りです。

  • 同業他社との競争
  • 新規参入の可能性
  • 買い手との交渉力
  • 仕入先との交渉力
  • 代替品の出現

例えば先ほど紹介した日本の商社が仕入れ先に垂直型M&Aをすることで、仕入れ先との交渉力の問題を解決することができます。そして仕入れ先を押さえることで同業他社より優位に立つことができ、買い手に対する交渉力も強くなる可能性があるのです。

2.IT業界での垂直型M&Aはスピード重視

垂直型M&AはIT業界では活発に行われています。後に紹介する米国大手IT企業もM&Aを積極的に行うことで成長してきたのです。これはIT業界特有の事業環境が自社には無い力を持つ企業に対してM&Aをする動機になっています。

(1)IT業界は顧客価値の変化が早く、多様化している

IT業界は技術の進歩が日進月歩です。ハード面ではパソコンやスマートフォンの性能は毎年のように向上しています。また通信インフラも周期的に更新され今後は5GやWi-Fi6が普及するといわれています。さらにソフトウェアでも開発が早く、ネットを介した新しいサービスが次々と誕生しているのです。

このような現状は顧客がIT業界に求める水準もどんどん変化していきます。そしてIT企業はこの変化にいち早く対応しなければ、築き上げた地位を失う可能性があるのです。

(2)ユニコーン企業や成長著しい企業を早い段階で買収する

そのためIT業界でのM&Aでは「ユニコーン」と呼ばれる企業を大手が買収するケースがあるのです。ユニコーン企業とは成長著しいベンチャー企業で定義では以下のような条件があります。

  • 創業から10年以内
  • 10億ドル以上の評価額
  • 株式未上場

またIT業界のM&Aではユニコーン企業の定義から外れていても、成長著しい企業に対して買収するケースが多くあるのです。

(3)シェア拡大と新規事業への進出を同時に目指す

ではなぜIT業界では伸び盛りの企業を垂直型M&Aで買収するのでしょうか。それはIT業界のスピードに対応するには、自社で新規事業を始めるよりも高い成長が見込まれる新興企業にM&Aをする方が効率的だからです。

IT業界で急成長できる企業は、次世代の「ITサービスの当たり前」になる可能性があります。で、あれば多少高いプレミアムを支払ってでも垂直型M&Aを行い、自社の既存のサービスと融合を目指すことが望まれるのです。

(4)ZHDによるLINE/ZOZOのM&Aで垂直型M&Aを分析

例えば近年国内で見られた垂直型M&Aの事例として、ZHDによるLINEとZOZOのM&Aがあります。この事例をバリューチェーンとファイブフォース分析を使って、垂直型M&Aの適応性を分析してみましょう。

ア.Yahoo!Japanの盤石な地位でも長期的には危機感

ZHDはYahoo!Japanを運営する企業として多くの収益を得ています。そしてその知名度を活かして様々なコンテンツを企画し、ユーザーに提供しているのです。
しかし近年、インターネットでの情報収集をSNSのコンテンツで行うユーザーが増えています。また通販事業ではAmazonや楽天の後塵を拝しており、てこ入れがもとめられていたのです。

イ.QRコード決済と携帯キャリアの強みを活かすM&A

一方でZHDはソフトバンクグループとしての強みがありました。それはQRコード決済(paypay)の高いシェアとソフトバンクグループの通信インフラです。若年層に高い支持を得ている両サービスのバリューチェーンでは通信販売やSNSを自社に加えることは効率的な経営が目指せます。

なぜならZHDが持つ、通信/決済インフラがバリューチェーンの先にある販売やコミュニケーションで活用されるからです。

ウ.代替品と買い手を自社に取り込む

またファイブフォース分析においてもZHDの垂直型M&Aは合理的です。LINEは電子メールや掲示板に代わる、今後のコミュニケーションツールの代替品として急成長してきました。またZOZOはYahoo!Japanのコンテンツに入る「買い手」として重要な位置づけになっていたのです。

ZHDが両社を傘下に収めたことは、同社の収益力をより強固なものにできると推測できます。

3.米大手IT企業(GAFAM)における垂直型M&A事例5選

最後にグローバル展開するアメリカIT企業が行った垂直型M&Aについての解説です。GAFAMと呼ばれるIT大手5社はいずれも垂直型M&Aを積極的に行うことで著しい成長を遂げました。

(1)Google(現Alphabet)によるYouTubeの垂直型M&A

YouTubeは今や、動画投稿サイトとして多くの人に使われています。YouTubeがGoogleの傘下であることはよく知られていますが、Googleが垂直型M&AでYouTubeを手に入れたことをご存じでしょうか。

Googleは2006年10月、動画投稿サイトYouTubeを買収することを発表しました。買収にかかる価格は16.5億ドル、株式譲渡という形で行われました。

当時からGoogleは検索サイトとしての高い地位を得ていました。そして自社においても動画投稿サイトの開発に取り組んでいたのです。しかしYouTubeを買収した方が効率的だと判断しました。そしてYouTubeに対して垂直型M&Aを実施したのです。

実は当時、YouTubeは買収額に見合った収益を得られるか未知数でした。ところが現在は動画投稿サイトの世界トップブランドとしてGoogleに高い収益をもたらしているのです。

(2)Facebookによるインスタグラムの垂直型M&A

インスタグラムは写真投稿に特化したSNSとして若い世代を中心に人気があります。このインスタグラムの成長性を見いだし垂直型M&Aを行ったのがFacebookです。

Facebookは2012年4月に、インスタグラムを買収することを決定しました。当時発表された買収額は10億ドル(実際は7.15億ドル)です。買収当時、インスタグラムは収益がほとんど無かったとされています。

しかし当時はスマートフォンの普及が拡大し、各社ともモバイル化への対応に取り組んでいました。その中でインスタグラムはスマートフォンに合わせた分かりやすい操作性とSNSとの高い親和性を持ち合わせることで急速にユーザーを増やしていたのです。

そこでFacebookは写真投稿アプリを自社での開発することを取りやめ、インスタグラムを垂直型M&Aとして買収することにしたのです。

(3)マイクロソフトによるパワーポイントの垂直型M&A

パワーポイントと言えばプレゼン用のソフトとして学生からビジネスマンまで必須のツールになっています。ところでこのパワーポイントもマイクロソフトが垂直型M&Aで買収していたことをご存じでしょうか。

1987年、マイクロソフトは初めてのM&AとしてForethought社の買収を行いました。Forethoughtは当時パワーポイントの初期版を売り出したばかりでした。そこに目をつけたマイクロソフトは交渉を重ね、1400万ドルで買収しました。

マイクロソフトのバリューチェーンであるOSの開発と販売に付加価値を加えるソフトとしてパワーポイントが大きな役割を果たしたことは皆さんもご存じの通りです。

(4)AmazonによるKiva Systemsの垂直型M&A

Amazonの効率的な経営の象徴として倉庫の自動化というものがあります。商品管理において倉庫内にロボットを配置することで経費削減とスピード化に成功しているのです。この伏線には2012年に行われた、Kiva Systemsへの垂直型M&Aがあります。

Kiva Systemsは2003年に創業した倉庫内自動運搬ロボットメーカーです。Amazonは同社の技術が自社のバリューチェーンの核である「スピーディーな配送を可能にする在庫管理」に貢献すると考えたのです。

買収額は7億7500億ドル、買収後は2015年に社名をアマゾン・ロボスティックに変更しました。そして今ではアマゾン・ロボスティックが製造するロボットが全世界の物流拠点に配置されています。

(5)AppleによるBeats Electronicsの垂直型M&A

AppleはこれまでiPhone、iPadなど品質の良いデバイスを世に送り出しています。特に音楽やアートと行ったクリエイティブな分野では一歩上を行く品質を誇っているのです。これには同社がハードウェアの品質と音楽配信をバリューチェーンの核としてこだわった垂直型M&Aを行ってきた成果だといえます。

Appleは2014年にBeats Electronicsを30億ドルで買収しました。この買収額は当時Appleでは史上最高と言われたのです。
Beats Electronicsは高品質なヘッドフォンの製造と、若い世代からの支持が高い音楽配信サービスを提供していました。

そのためAppleは自社のバリューチェーンだけでは提供できない価値があると判断し買収したのです。またBeats Electronicsは将来的には同社のライバルとして利益を削る可能性を考慮して早い段階でM&Aに踏み切ったとも推測できます。

4.最後に

今回はIT業界における垂直型M&Aについて解説しました。IT業界はすでに裾野が大きい産業となり、時価総額でも上位を争う企業が増えています。そしてこれらIT企業が大きな富を得られたのは、次世代をになう企業に垂直型M&Aを積極的にしてきたからです。

大手IT企業による垂直型M&Aは今後も続くと思われます。そしてそれは圧倒的な成長を目指す企業であれば垂直型M&Aが必須の経営戦略であることを示唆しているのです。

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