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モバイルゲームの海外展開・ローカライズにおけるポイントと事例

インターネット通信や通信機器の小型化はゲーム業界に対して「モバイルゲーム」市場の成長をもたらしています。そのためゲーム会社はプロデュースしたゲームの海外進出を目指すケースが増えているのです。しかしゲームの海外展開はゲーム独自の規制を考慮し、各国でのマーケティングを実施する必要があります。

そこで今回の記事では、モバイルゲーム業界の構造をおさらいした上で、海外展開への問題点を解説します。そしてこれまでの事例をもとに海外展開におけるポイントを解説します。

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1.モバイルゲーム市場は世界中で拡大中

モバイルゲーム市場はスマートフォンの普及に従って拡大しています。2019年の全世界モバイルゲーム売上高は7兆円を超えているのです。2015年では4兆円だったことを考慮すると市場の拡大のスピードが想像できます。また、ゲーム市場全体においてもモバイルゲームは過半数を占め、スマートフォンに限定しても40%程度の規模になっており今後も拡大する見込みです。

モバイルゲームの売上高を地域や国別で見ると、アジアが最も多く過半数をしめています。これは中国と日本が世界のゲーム市場で1位と3位の規模を有していることが影響しています。一方でこの数年はアジア以外の地域でモバイルゲーム市場の拡大が目立ってきています。したがって日本のモバイルゲーム企業は海外展開を前提に戦略を組むことが成長の鍵になるのです。

2.モバイルゲーム産業の基本的構造

モバイルゲーム業界を含めたゲーム産業では大きく2つの業態に分けることができます。それらを業界では「パブリッシャー」「デベロッパー」と呼び、互いの長所を生かしてゲームを市場に送り出しているのです。

(1) パブリッシャーは「ゲームの販売会社」

パブリッシャーとはゲームの販売を手がける企業のことを指します。そのため企業名が前面に出ることが多く、知名度の高い企業が多くあります。例えば任天堂やソニーはパブリッシャーに当たります。

(2) デベロッパーは「ゲームの建設会社」

一方でデベロッパーはゲームの開発を専門にした企業です。パブリッシャーとは違い、ゲームが発売されても企業名が表に出ることはありません。そのためパブリッシャーに比べて企業の知名度は低くなります。

(3) パブリッシャーが企画してデベロッパーが開発

実際のゲーム開発では最初にパブリッシャーが市場調査をした上で新しいゲームを企画してデベロッパーに発注します。デベロッパーは発注に応じてゲームを開発するのです。そしてできあがったゲームはパブリッシャーが宣伝や販売を行います。

(4) デベロッパーを兼業しているパブリッシャーも多い

このようなゲーム業界における分業は完全に分かれているものではありません。大手のパブリッシャーの場合、自社でデベロッパー機能を有しています。例えば任天堂はデベロッパーが開発したゲームの販売だけでなく、自社で開発したゲームも販売しているのです。

(5) デベロッパーもモバイルゲームなら自ら販路を開拓することもできる

一方で近年はデベロッパーでも自力で販売することが容易になっています。これまではパブリッシャーの知名度を利用して販売することがよいとされてきました。また多くの人にゲームをしてもらうには専用のゲーム機が必要なことが多く、ゲーム機を販売しているパブリッシャーに頼らざるを得ませんでした。

ところがモバイルゲームになるとスマートフォンがゲーム機になります。そのためゲーム機会社に販路を委ねることはなくなったのです。さらにスマートフォンではApp StoreやGoogle Playといったアプリケーションストアが普及したためデベロッパーが直接ゲームをリリースすることが容易になっているのです。

3.モバイルゲームの世界展開は「現地を知った企業との協業」がポイント

このようにモバイルゲーム業界ではシームレス化とグローバル化が急速に進んでいます。しかしモバイルゲームの海外展開を成功させるには単独で進出するよりも、現地企業との提携やM&A(現地子会社設立)を行う方が適切です。なぜなら自国で受け入れられたゲームをそのまま海外にリリースするには様々な障壁があるからです。

(1) 現地で強いパブリッシャーと手を組む方が容易に販路拡大できる

モバイルゲームではアプリケーションストアを用いれば世界に向けて容易にリリースすることができます。しかしアプリケーションストアで販売したからといってすぐに認知されることは難しいものです。さらに中国ではアプリケーションストア大手のGoogle Playでの販売をすることができません。またプレーヤーの拡大を目指すにおいて、専用ゲーム機版への対応も視野に入れるべきです。

したがってモバイルゲームの海外展開では現地パブリッシャーとの提携が必要になります。例えば日本でも大ヒットした「フォートナイト」ではモバイルゲームだけでなく人気のゲーム機を販売している任天堂やソニーと協業することで販路の拡大に成功しています。

(2) ローカライズはネイティブレベルによる翻訳が必要

ローカライズとはモバイルゲームに出てくる台詞やアイテム名、それからマニュアル文を現地の言語に翻訳する作業です。近年は翻訳アプリが発達しているものの、実際にはネイティブ翻訳者による校正が必要です。

ア) 限られた文字数で統一感のある翻訳が必要

モバイルゲームの翻訳では設定されている世界観に合わせた翻訳が必要です。例えば日本の戦国武将系のゲームでは日本語においてもその時代に合わせた言葉遣いがなされています。こういった言葉のニュアンスをネイティブに伝わるためには機械翻訳では不十分です。

イ) 現地の言葉ではタブー視されている可能性

日本語では当たり前のように使っている言葉でも、現地では表だって使うことを控える言葉になっていることがあります。またそのような言葉は隠語や俗語(スラング)であることが多く、ネイティブ翻訳者でなければ理解できないことがあるのです。

例えば世界中で人気のある「ポケモン」ですが、元来の名称である「ポケットモンスター」で海外展開することがはばかられました。なぜならPocket Monster」とはアメリカでは男性の陰部を指す俗語だったからです。

ウ) 現地の文化に合わせた「カルチャライズ」も必須

世界では様々な文化や宗教があり、現地の人たちはそれに基づいて生活をしています。したがってゲームを海外に展開するには現地の価値観に合わせたローカライズが求められます。

例えば宗教上禁止されている食物を食べるシーンは修正が必要になります。他にもキャラクターの服装の露出度が現地では受け入れられないため修正を施した事例があります。

(3) 国や地域ごとにレイティング基準に違いがある

モバイルゲームの販売において各国は独自のレイティング(審査基準)をも設定しています。日本ではCERO(コンピューターエンターテインメントレーティング機構)が有名です。

レイティングでは性描写や暴力、ギャンブル行為などゲーム内に反社会的な要素が含まれていないかを審査をします。そしてその内容に応じて表現の修正を求め、年齢制限を設けています。

例えば先ほど紹介したフォートナイトは米国にあるエピックゲームス(Epic Games)が開発したアクションゲームです。自由度の高いゲーム内容とボイスチャットでの相互通信が人気を呼び世界で3億人以上のユーザーがいます。

一方でフォートナイトは暴力的なシチュエーションが含まれているため世界各国のレイティング機関で規制が敷かれているのです。

(図)フォートナイトに対する各国でのレイティング

レイティング機関 国・地域 年齢制限
ESRB 北アメリカ 13才以上
PEGI ヨーロッパ 12才以上
CERO 日本 15才以上
USK ドイツ 12才以上
ACB オーストラリア 12才以上

このような現状に対して世界各国でレイティング基準の統一化に向けての取り組みが行われ、2013年にIARC(国際年齢評価連合)が設立されました。しかし参加しているのは世界6カ国(地域)の機関だけで中国や東南・西アジアでは参加している国はありません。

このようにモバイルゲームであっても世界展開をするためには、現地の文化や法的水準に照らし合わせる作業と販路の確保が重要です。したがってモバイルゲームのスピーディーな世界進出を果たすには現地企業との業務提携や資本提携が最適な手段になります。

4.海外展開や日本進出の事例紹介

次にすでに世界で展開した(展開しようとした)日本のモバイルゲーム(会社)と日本進出を目指した(目指そうとした)海外ゲーム(会社)について事例を解説します。日本はアニメを中心にキャラクターコンテンツに強みがあります。そしてキャラクターのブランドを活かした海外展開をどのように進めていくかがポイントになっています。一方で海外ゲームを日本に導入するときは、パブリッシャーの選択やローカライズに問題があるのです。

(1) FGO:ソニーのグローバル展開で世界的なヒット

FGO(Fate/Grand Order)は2015年に発売されたモバイルゲームです。未来の人類滅亡を防ぐために過去にタイムスリップし、伝説や歴史上に登場する人物の力を借りながら冒険するゲームです。日本だけでなく北米や中国を中心に人気を博し2019年の課金額では国内トップになっています。

FGOは2004年にTYPE-MOONという会社から発売された「Fate/stay night」という成人向けPCゲームが起源にあります。すでに40万本以上の売上げを出していたFate/stay nightに対してパブリッシャーとして事業展開を目指していたアニプレックス(ソニーの子会社)が世界に配信できるゲームとしてリメイクすることを企画しました。さらにデベロッパーとしてディライトワークスが参加することでゲームが完成し、日本と北米向けにリリースされたのです。

そして中国では動画配信最大手のビリビリ(哔哩哔哩)が販売権を獲得し、パブリッシャーとして中国で展開しているのです。

(2) ドカバト:日本のアニメコンテンツの強みを発揮

ドカバトとは「ドラゴンボールZドッカンバトル」の略称で、2015年リリースのモバイルゲームです。同年には英語版がリリースされています。国内では1500万以上のダウンロード実績があり、2018年には北米進出した日本ゲームで1位の売上げを残しています。

ドカバドでは世界で人気のある「ドラゴンボール」の版権を持つバンダイナムコがモバイルゲームを企画しました。そこにデベロッパーであるアカツキが協業することになったのです。さらにアカツキでは台湾の子会社を利用して英語版のローカライズを進めていきました。

(3) アズレン:初めから日本市場を意識したゲーム設計

アズレン(アズールレーン)は美少女キャラクターを介した戦艦を操作して成長していくシューティング型のRPGゲームです。中国にあるマンジュウ社(上海蛮啾網絡科技有限公司)とヨンシー社(厦門勇仕網絡技術有限公司)というデベロッパー2社によって開発されました。中国ではビビ(哔哩哔哩)がパブリッシャーとなってリリースされています。

アズレンは開発当初から日本版のリリースを視野に入れていました。そのため開発当初から日本人声優を採用し日本後の音声が実装されていました。さらに日本にてローカライズに特化した子会社を設立し、日本語版の開発に取り組ませたのです。

日本でのアズレン人気は堅調です。2019年にはプレイステーション版がリリースされました。さらに2020年9月には任天堂Switch版のリリースが予定されています。

(4) コロプラとGluの提携:対等な関係でのローカライズは困難

2014年、国内モバイルゲームパブリッシャーであるコロプラは、北米モバイルゲームパブリッシャー大手のGlu Mobileと業務提携を結びました。この提携によって両社が開発したゲームを互いの国でローカライズし、販売することになっていたのです。

ところがローカライズの作業は思いのほか難航しました。その結果、2015年にはこの締結を解消することになったのです。その後コロプラは自社で米国子会社を設立し海外展開を目指していきました。

(5) 海外向けのローカライズは自社主導がおすすめ

これら事例を分析すると、モバイルゲームの海外展開を成功させるポイントが見えてきます。それは「パブリッシャーは現地に強い販路を持った企業」そして「ローカライズは自社での海外展開」です。

なぜならパブリッシャーはゲームが完成していれば、マーケティングに特化するだけなので大きな問題は出ません。一方でローカライズでは翻訳することで発売元デベロッパー(パブリッシャー)の意図から大きく外れてはいけません。そのためにはローカライズ会社に対する一定の支配力が求められるのです。

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