現代は様々な産業がテクノロジーと融合し、次々に新たな産業が誕生しています。金融とテクノロジーの融合であるFinTech(フィンテック)や農業とテクノロジーの融合であるAgriTech(アグリテック)などの言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
そんな中、次なる「〇〇テック」として注目されているのが「フェムテック」です。
この言葉を聞いただけでは、どんな産業なのかなかなかイメージできないでしょう。
そこでこの記事では、今注目を集めているフェムテックについて、詳しく解説をしていきたいと思います。
1.フェムテックとは何か
フェムテックは、女性を意味するFemaleと技術を意味するTechnologyの造語です。つまり、テクノロジーを活用することによって、妊娠や生理など健康に関する女性特有の悩みや問題の解決を目指す分野です。
(1)フェムテック誕生までの歴史
医学の進歩は日進月歩で進んできましたが、それは主に男性の体への影響を図る実験を通じて集められたデータをもとに作られてきました。
女性の体を使った実験は、実験中に妊娠した際の胎児への悪影響などを考慮すると、非常にリスクが大きいものと考えられていたため、ほとんど行われてこなかったのです。
事実、アメリカでは1993年まで女性は医学的な実験の対象とされていませんでした。
しかし、当然ですが、男性と女性の体の構造は異なります。そして、女性には妊娠や生理といったような男性にはない特有のライフイベントが待っています。
男性への人体実験から得たデータを元にして作られた医薬品では、どうしても女性の健康問題を解決できないことも多かったのです。
また、女性の性や体に関する問題はタブー視されて、なかなかオープンに語ることができなかったという背景もありました。
そこで、欧米を中心として、女性の健康問題の解決に特化したサービスを開発する人や会社が登場してきました。その一人が、ドイツのアイダ・ティン氏です。
彼女はClueというスタートアップ企業を立ち上げ、生理日を管理するアプリを開発しました。そして2013年頃から、自分たちが手掛けるサービスの産業のことを「フェムテック」という言葉で表現するようになったのです。
(2)フェムテックの市場規模
2012年に60億ドルだったフェムテックの市場規模は、2019年には400億ドルにまで拡大しています。
さらにアブソリュート・マーケット・インサイツというマーケティングリサーチを専門にしている調査会社の試算では、2025年までに500億ドル規模の市場に成長する可能性があると見込まれています。投資家からも大きな注目を集めている分野なのです。
SNSやYouTubeの発展により、性別を問わずオープンに自分の悩みや考えを発信できるようになったことも大きな要因です。これまで抑圧されてきた女性たちの声が表面化してきたことで、一気に市場価値が高まってきたと見ることもできます。
日本でも、まだ研究開発がそれほど進んでおらず、言わばブルーオーシャンの分野となっています。「子供を産みたくても産めない」という悩みを抱く女性もいれば、「望まない妊娠は避けたい」と考える女性もいます。
様々なニーズがある分野だからこそ、底知れぬ成長性を見込めるとも言えるでしょう。
これからの時代、フェムテックは間違いなく「伸びる」分野であると考えて良さそうです。
(3)フェムテックが提供するサービス
フェムテックは主に以下のような分野を対象としています。
- 月経
- 妊娠・不妊
- 出産
- 子育て
- 更年期症状のケア
- その他女性特有の疾患
それぞれの分野において提供されているサービスを具体的に紹介しましょう。
ア.月経
- 過去の生理日を入力することで、周期を予測し、それぞれの時期に応じた生活のアドバイスを受け取れるアプリ
- 生理用品が定期的に届けられるサブスクリプションサービス
イ.妊婦・不妊
- 卵子と精子を凍結・保存することにより、望んでいる時期での妊娠を可能にするサービス
- 呼吸や血圧、心拍数など様々な生理学パラメータを記録し、排卵日を確認することができるアプリ
- データを活用して、自然な避妊法を実現できるアプリ
ウ.出産
- 胎児の様子をモニタリングできるデバイス
- 深部体温のモニタリングによる母体の体調管理
- 陣痛をワンタップで家族に通知できるアプリ
エ.子育て
- 赤ちゃんの体調に合わせて最適な離乳食を提案するサービス
- オンラインで医師とやりとりができるチャットサービス
オ.更年期症状のケア
- 更年期の様々な不快症状を緩和するテクノロジーサービス
- 医療相談チャットサービス
- 膣の乾燥をケアするウェアラブルデバイス
カ.その他女性特有の疾患
- 女性特有の病気について、オンラインで医師に相談できるチャットサービス
(4)フェムテックがもたらすメリット
フェムテックが拡大すれば、女性たちの様々な問題や悩みを解決することができます。メリットはそれだけではありません。悩みから解放された女性たちは、自信をもって社会に進出することができ、新たな社会の活力となることが期待されるでしょう。
また、フェムテックの分野に目を付けた女性たちが、その分野の新たな起業家として立ち上がることも考えられます。現状、起業家の男女比は7:3程度であると言われています。
しかし、フェムテックの分野、そしてまた別の分野においても女性起業家が誕生し、この比率が徐々に改善していくかもしれません。
日本社会が現在抱えている様々な問題には、女性の社会進出が阻害されていることが大きな原因となっているケースも多くあります。具体的には、以下の通りです。
- 介護離職
- 少子化
- 子供の貧困
- 非正規雇用
- 待機児童
しかし、フェムテックにより女性が特有の課題を克服できるようになることで、このような様々な社会問題が解決できるということも期待されるでしょう。フェムテックが経済状況好転の新たな原動力となるかもしれません。
2.フェムテック業界の主要な企業
フェムテック業界をけん引している主要な企業及びその具体的なサービス・商品の例を紹介します。
- 株式会社エムティーアイ
- 株式会社ウツワ
- Linc’well
(1)株式会社エムティーアイ
株式会社エムティーアイは、国内のフェムテック分野においては先駆けともいえる「ルナルナアプリ」をリリースしています。
ルナルナアプリでは、生理予定日や排卵日の予測から、女性が自分自身のカラダやココロの状態を知ることができるため、手軽に生理日を管理したいと考えている女性に特に人気です。
自身の体の周期に合わせて配信される美容やダイエットの情報を読むことができる点も、人気の1つの理由となっています。日本国内におけるフェムテックの走りとしても知られるサービスです。
(2)株式会社ウツワ
株式会社ウツワは、2019年9月にLINE連動型の生理用品に関するilluminateというサービスを配信し始めました。このアプリを利用すると、LINEに登録されている情報から、生理日が予測され、必要な生理用品をスムーズに購入することができます。
多くの日本人が使い慣れたサービスであるLINEと連動しているとあって、その手軽さが大きな魅力です。
生理用品はECサイトではなく、ドラッグストアで購入するのが一般的でしたが、このilluminateを利用することで、ECサイトでの購入という選択肢も女性に提示されることになりました。
人の目を気にせずに、様々な商品を比較検討した上で、購入できるため、時期に応じて最適な生理用品を手軽に購入したいと考えている人にはオススメのアプリです。
(3)LINC’WELL
Linc’wellは会社自体が2018年に設立されたばかりのスタートアップです。
2020年1月に、「sai+」というフェムテック分野におけるブランドを立ち上げ、テクノロジーの活用によるクリニックケアのサービスを提供しています。
具体的には、クリニックにおける待ち時間や予約の難しさ、決済方法の少なさなどの課題を解決することを目標としています。
2019年5月には3.5億円の資金調達をするなど、さらなるサービスの拡大も目論んでいるところであり、
具体的には
- 生理周期に応じたスキンケア商品の販売
- PMS(月経前症候群)へのアプローチをした製品
- 妊活期のウェルネス問題へのアプローチをした製品
などが、新たなサービスとして展開されていく予定です。
3.フェムテックの今後の展望
フェムテックという言葉は、現在日本でもそれほど浸透しているものではありません。しかし、だからこそ今後大幅な成長が見込める分野として大きな注目を集めています。
前述の通り、2025年までには500億ドル規模の市場になるとも推定されています。
国策としても、男女の平等が積極的に推進されている状況にあって、その女性の活躍を後押しするためのサービスは、かなり需要の大きいものとなるはずです。
事実、前述の「ルナルナアプリ」については、合計1400万ダウンロードを記録するなど、女性を中心に一大人気アプリとしての地位を確立しています。
(1)フェムテックが成長するためのカギ
近年は急速に個人で発信するための環境が整備されてきたこともフェムテックの成長を後押しするでしょう。
実際に、YouTuberとして様々な情報発信を行う女性も増えてきています。現代は芸能人以外でも、自分で情報を発信するためのメディアを持つことができる時代です。
自身の努力で美を手に入れた女性が、YouTubeチャンネルからお気に入りのフェムテック製品・サービスを紹介することが一般化してくるかもしれません。
その場合には、ユーザーを増やしたいと考えているフェムテック企業が、広告費を投じてこういったインフルエンサーに投資することもあるでしょう。
さらに、フェムテックのサービスは、男性に対してのビジネスとして成り立つ可能性もあります。
例えば、男性でもパートナーの生理日が予測できるようになると、さらに良好な男女関係を構築することにつながるかもしれません。
(2)ヘルス分野は投資価値が大きい
フェムテックに限らず、ヘルス分野に対する関心は非常に大きいものです。人々の健康水準が向上することは、あらゆる方面に好影響を与えるためです。
例えば、政府にとっては、医療支出の抑制につながるため、別の分野における政策のために資金を投じることができるようになります。
企業にとっては、従業員のパフォーマンスが向上するため、生産性が向上することが期待されます。体調の異常を早期に発見し、離職を未然に防ぐこともできるかもしれません。
人々はその健康水準を向上させるだけで、多方面に好影響を与えることができるのです。よって投資する価値は十分にあると言えるでしょう。
シリコンバレーでも、ヘルス分野は最も投資を受けやすい分野と言われています。フェムテックの注目度が高まれば、さらに大きな投資を集め、成長産業とるかもしれません。
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