M&A

プロジェクションとは?M&Aシーンにおいてどのように活用されるか解説します

「プロジェクション」という言葉自体にはたくさん意味があるのですが、M&Aにおいてプロジェクションという言葉を使う時は、「予測」といった意味になります。

言い換えると事業計画書となります。今回は、M&Aにおけるプロジェクション策定の目的や策定の手順など、具体的に解説していきます。

1.プロジェクションとは

プロジェクションとは事業計画と同義ですが、1年目売上高1億円、利益5,000万円、2年目売上高3億円、利益1億円…といったざっくりとした数字の羅列ではありません。

M&Aの実務にて使用されるプロジェクションは月次ベースであり、売上高などの各科目も単価×数量のように因数分解された数字の積み上げで数字を作成する必要があります。
費用項目も、人件費であれば採用人数×月額給料、販売手数料であれば売上高×手数料率、のように把握する必要があります。

2.プロジェクションが必要な理由

買手がM&Aの検討をする際に、売手に対して対象会社の資料請求を行いますが、その資料の中には必ずプロジェクションは入ってくるでしょう。
対象会社の評価をするにあたり、財務諸表や月次推移表など過去の実績ももちろん大事ですが、将来どうなるのか、きちんと成長するのかの方がより重要です。そのため、将来の成長性を確認するうえで一番役に立つ資料がプロジェクションなのです。

よってM&Aシーンにおいて、プロジェクションとは切っても切り離せない関係にあると言っても良いでしょう。また、プロジェクションはスタートアップの場合は経営者が作成することが多いですが、プロジェクションを確認することにより、経営管理のレベルが分かると言っても過言ではないでしょう。

技術系のスタートアップであれば別ですが、プロジェクションを確認されただけで、「経営のレベルが低いのでは」と思われないように注意が必要です。

3.プロジェクション策定の手順

ここからはプロジェクション策定の実務手順を見ていきましょう。下記のとおり5つのステップに分けることができます。

(1) PL項目につき、単価×個数のように詳細に因数分解する

まずは自社のPLがどのように作られているのか、構造を理解することが先決です。経営者は感覚的には理解しているのですが、慣れていないと意外と難しかったりすることが多いです。

(2) PL月次推移、単価や個数のデータ、必要なKPIデータの実績を用意する

PLの因数分解ができたら、過去の実績を用意しましょう。過去の実績推移を確認しておかなければどの程度の成長率を見込んで良いのか判断がつかないためです。

(3) 将来、どう成長していくかの成長戦略を策定する

プロジェクション策定のための核となる部分です。単に数字を横引き、適当な成長率を乗じて計算したプロジェクションほど意味のないものはありません。

経営者の口から具体的かつ実現可能性の高い成長戦略を策定することでプロジェクションに命が吹き込まれるイメージです。
成長戦略とは、どのように売上を伸ばすのか、そのためにマーケティングはどうするのか、人員はどうするのか、どのように採用するのか、固定費はどうするのかといった全ての項目が含まれます。

(4) 過去実績、成長戦略を元に実現可能な成長率を定める

成長戦略と過去の実際の成長率を元に、販売個数などが前月比どれだけ伸びるのかといった成長率を定めます。

例えば売上であれば、単価×個数に因数分解し、個数は前月比+1%で伸びていくといったように使います。同様に、費用項目も成長率を定めるとプロジェクションの数字が埋まっていくはずです。

(5) 全体的にプロジェクションを見直し、説明が必要な個所は補足説明を加える

プロジェクションの数字が全て埋まった後は、全体的に数字を見直しましょう。抜け漏れのコストなどがあるかもしれません。

実務的には、「その他費用」を月1,000万円固定費として計上などとバッファを持たせておくこともあります。
また、過去実績とプロジェクションの数字を折れ線グラフで繋いでみましょう。過去実績と比較して伸びすぎている場合は、売手から必ず質問が来るため、説明できるように補足説明を用意しておきましょう。

実現可能性のないプロジェクションを作成して買手に説明することは、お互いの時間を無駄に消費してしまうだけでなく、買手に対する信頼も失ってしまう可能性もあるため、気をつけておきましょう。

4.M&Aにおけるプロジェクションの使用場面

プロジェクションは、M&Aにおいて売手と買手の価格交渉のために使用されることがほとんどです。
プロジェクションを元にバリュエーション(株価)を算定します。株価算定は主に買手が取得する金額が妥当かどうかを確認するために、会計事務所、FAS(financial advisory services)などの第三者であるプロフェッショナルファームへ依頼することが通常です。

プロフェッショナルファームはプロジェクションや財務諸表、マネジメントインタビューなどを通じてバリュエーションレポートを作成し、その結果を買手に報告します。
一方、売手がどれくらいの売却金額が妥当か分からないといったケースでは売手も株価算定を行うこともあり得ます。

バリュエーションの手法は、DCF法、マルチプル法、修正簿価純資産法など様々な手法がありますが、主流となっているのは最も理論的なバリュエーション手法であるDCF法です。それでは続いてDCF法を見ていきましょう。

5.DCF法によるバリュエーションとは

DCFとは、Discount Cash Flowの略で収益性資産の価値を算定する方法です。
今ある1万円と1年後に貰える1万円は、今ある1万円の価値の方が高いです。なぜなら今ある1万円を年利10%で運営できれば、1年後には1万1,000円にすることができるためです。

この考え方を基本とし、将来収益を割引現在価値に計算していきます。すなわち、将来1万1,000円を貰える契約があり、金利が10%の場合は、割引現在価値は1万1,000円÷(1+10%)=1万円と計算されます。

M&Aの場合、プロジェクションにて算定された将来キャッシュフローを、割引計算することにより企業価値が算定できることになるのです。これがDCF法によるバリュエーションの基本です。

プロジェクションの数字が少し変わるだけで、バリュエーションは大きく変動することがあります。そのことを買手は理解しているため、売手が作成したプロジェクションの数字はあらゆる方面からフィージビリティを検証します。
M&Aにおけるプロジェクションの重要さがよく理解できると思います。

6.DCF法を使う場合の注意点

プロジェクションを元にDCF法によるバリュエーションを行う場合、実務上注意すべきポイントがいくつかありますので、見ていきましょう。

(1) プロジェクションの利益でなくキャッシュフローを使用する

DCF法は将来得られるキャッシュフローを現在価値に割引計算する方法です。そのため、プロジェクションで作成したPLの利益をそのまま適用することはできません。

実務的にはプロジェクションから厳密にキャッシュフローへ転換する方法、営業利益+減価償却費―税金費用など簡易的に計算する方法などが考えられます。

(2) 割引率によってバリュエーション結果が大きく変わる

DCF法における割引率はWACC(Weighted Average Cost of Capital)を使用することが一般的です。

借入と株式による調達コストの加重平均により計算されますが、この割引率によってバリュエーション結果が大きく変動します。恣意的な考えが割引率の計算に反映されないように注意が必要です。

また、スタートアップのようにまだまだリスクが高いと思われる企業に対しては、WACCではなく、ベンチャーキャピタルのIRRの事例に基づくベンチャーキャピタルレートを適用する場合もあります。WACCで計算される割引率は一般的には10%~15%程度なのに対して、ベンチャーキャピタルレートを適用すると60%など高い割引率になる点が特徴的です。

(3) 永久価値算定の論点

企業は永続的に存続することを前提としており、財務会計も減価償却費などの計算を見ても分かるとおり永続的存続が前提です。DCF法においても将来キャッシュフローを網羅的に含める必要はありますが、10年後など遠い将来のことは予測するのが困難です。

そこで、5年後まではプロジェクションの数字を使用し、その後は毎年2%成長するといった継続成長率を元に5年後以降の永久価値を計算します。
継続成長率や5年後の将来キャッシュフローに対するバリュエーション結果の影響が大きい点は、注意が必要です。

(4)シナジー効果の含め方

売手が作成したプロジェクションには、買手の想定するシナジーは含まれていません。買手はどの程度まで買収金額を出せるのかというと、売手プロジェクションから作られたバリュエーションと買手シナジーが含まれたバリュエーションの間です。

買手シナジーを全て含めてしまっては、M&Aによって超過利潤を出すことが難しくなってしまいます。実務的には売手が作成したプロジェクションに、買手の想定シナジーを追加してバリュエーションを取ることもあり得ます。

(5)DCF法は万能ではない

DCF法は理論的なバリュエーション手法です。
一方で、上述で見てきたとおり、様々な仮定をもった計算であり、その仮定が少しずれればバリュエーションに大きな影響を及ぼします。

バリュエーションには様々な手法がありますが、それぞれ一長一短があります。DCF法も万能でないことを理解しながら実務にて利用するようにしましょう。

7.まとめ

今回は、M&Aシーンにおけるプロジェクションの説明、プロジェクション策定の手順、プロジェクションからDCF法によるバリュエーション算定を説明してきました。

バリュエーションにおいて、一番重要な点はプロジェクションの実現可能性です。いくらきちんとDCF法ができたとしても、プロジェクションが絵にかいた餅状態であれば意味のない計算になってしまいます。

M&A実務においてプロジェクションの実現可能性の確認は、最重要ポイントの一つですので、厳密に行うようにしましょう。

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