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M&Aにおける株主間契約とは、その目的、利用場面、メリットについて解説

M&A、特にベンチャー企業の売却などの場面では、株主間契約という特殊な契約がなされることがあります。その内容、目的、利用場面、メリットなどについて解説していきます。

1. 株主間契約の目的、メリット

(1) 株主間契約とは何か

株主間契約とは、文字通り、株主同士の間で結ばれる契約です。その内容としては、株式の譲渡制限や売却、一定の重要な経営上の判断についての関与など、さまざまなものがあります。

(2) 株主間契約の目的

経営者が100%を出資している会社に、別の会社が出資し、その会社が過半数株主となる場合を考えてみましょう。

経営者の側から見た場合、従来の場面では、自分の思うように経営をすることができたわけですが、新たに過半数株主が現れた場合、取締役の選任・解任をはじめ、一定の重要事項について、その過半数株主となる会社に決定権を渡すことになります。そこで、例えば経営者がなお取締役の選任についての一定の決定権を持ちたいと思う場合、株主間契約によって、取締役5人のうち、少数株主となった経営者に2人、過半数株主に3人の指名権を与え、株主総会では両株主はそれに従った議決権行使をすると合意することが考えられます。

反対に過半数の株式を取得する株主の側から見た場合、株主として株主総会を通じて経営に関与できることになりますが、取締役会設置会社の場合、現実には株主総会にできることは限られます。そのため、経営者を派遣しない限り、経営の詳細にまで関与することは事実上できません。特に取締役会設置会社の場合、増資は取締役会で行うことができますから、経営者と対立した場合、過半数株主の地位を失うおそれがないとはいえません。そこで、株主間契約によって、増資の場合には既存株主への優先的な新株割当を合意することが考えられます。

2. 株主間契約のメリット

株主が一定の利益を確保し、あるいは株主の権利を制限するためには、種類株式という方法もあります。株式の内容として、一定事項に拒否権を与え、あるいは反対に議決権制限を課す、譲渡制限を加える、一定数の役員を単独で選任できる、といった事項を定めることができるのですが、それを一部の株式についてのみ定める場合、種類株式となるのです。種類株式と比べたとき、株主間契約を結ぶメリットはどこにあるのでしょうか。

(1) 対象事項に制限がない

1つ目に、株主間契約には対象となる事項に制限がないことが挙げられます。

種類株式は株式自体の内容となり、第三者に譲渡したとしても有効なものなので、その内容とすることができる事項は法律によって規定されています(剰余金の配当規定、残余財産の分配、議決権制限、譲渡制限規定、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、役員選任権)。

しかし、株主間契約は、一般的には会社とは関係なく、あくまで株主どうしで結ばれるものであるため、制限がありません。

(2) 株主総会決議や登記手続が不要である

2つ目に、定款変更のための株主総会決議や登記手続が不要であることが挙げられます。

種類株式は定款で定めなければならないため、株主総会を開き、株主の3分の2以上の賛成を得て定款を変更する必要があります。また、種類株式は登記事項なので、株主総会決議から2週間以内に法務局に登記を申請する必要があります。

しかし、株主間契約は、あくまで契約なので、株主総会決議や登記は必要ありません。

(3) 内容を秘密にできる

3つ目に、内容を秘密にすることができることが挙げられます。

種類株式を発行する場合、その種類株式の内容を登記する必要があります。登記には取引相手が予期しないリスクを被ることがないようにするという意味があるため、誰でも閲覧することができます。そのため、種類株式の内容を登記しなければならないということは、その種類株式の内容を誰でも知ることができるということを意味します。

しかし、株主間契約は、あくまで契約なので、登記の必要はなく、その結果、第三者に内容を知られることがありません。

(4) デメリット ― 実効性

これらに対して、デメリットとして、あくまで契約である結果、一度契約相手が株主間契約に違反した場合でも、原則として違反を止める直接の手段はなく、後から損害賠償請求ができるにすぎないことが挙げられます。これに対して、種類株式の内容に違反した場合、違反の内容や程度によっては株主総会決議や経営者の行為が無効になり、あるいは取り消すことができるなどの効果が生じます。

このように、株主間契約は柔軟であるものの、実効性の点で種類株式に劣ります。

3. 株主間契約の利用場面

株主間契約の内容は基本的に自由です。ここでは、典型的なものを紹介します。

1つ目は、譲渡に関する条項です。譲渡制限や、譲渡する場合には契約相手に優先的に譲渡するなどが考えられます。制限に期間を設けるなどといったこともできます。

2つ目は、コールオプション・プットオプションです。一定のイベントが発生したとき、契約相手に買い取り・売り渡しを請求できるというものです。

3つ目は、取締役の選任や拒否権など、議決権に関する条項です。一定の重要事項について、株主総会の外で議決権の行使の方法を定め、各株主がそれに従って議決権を行使するというものです。

4つ目は、デッドロックに関する条項です。デッドロックとは、対立により会社としての意思決定が難しくなる状態を指します。このような場合に、株式の強制譲渡などを定めることにより、それを解消することを可能にします。

5つ目は、資金調達に関する条項です。会社が資金を必要としたとき、株主がそれに協力するというものです。

4. まとめ

株主間契約とは、株主どうしの間で結ばれる契約です。契約である以上、その内容は自由であり、経営に関するものや資金に関するものなど、さまざまなものがあります。株主間契約でできることの中には、種類株式でもできるものがありますが、対象事項に制限がない、株主総会決議や登記手続が不要である、内容を秘密にできるというメリットがあり、一方で実効性に劣るというデメリットがあります。

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