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スタートアップの資金調達で用いられる優先株式とは?

スタートアップの資金調達では、通常優先株式を使うことが多くなっています。なぜ、普通株式による調達ではなく、優先株式を使うのでしょうか。

優先株式のメリット、デメリットを解説しながら、どのような点で有利な点なのかを中心に解説していきます。

1.優先株式とは

優先株式の説明の前に、まずは普通株式について理解する必要があります。
普通株式には配当などを受ける権利(自益権)と、株主総会の議決権(共益権)の二種類の権利が含まれています。また、普通株式は原則として自由に譲渡することが可能です。

会社法上、このような普通株式とは異なった内容の株式を発行することができ、種類株式と定義されています。
種類株式において普通株式と異なった内容にできる項目は会社法第108条にて下記のとおり、限定列挙されています。

(1)剰余金の配当
(2)残余財産の配分
(3)議決権株式
(4)株式の譲渡制限
(5)転換請求権
(6)強制転換条項
(7)全部取得条項
(8)拒否権条項
(9)役員選解任権

種類株は、上記の項目に限り、組み合わせで自由に何種類もの種類株を発行することが可能です。種類株のうち、投資家に対して優先的な内容が含まれているものを優先株式と呼びます。
逆に、劣後的な内容の場合は劣後株式です。

優先的に配当を受け取れる種類株式であれば優先株式に該当し、無配の種類株式であれば劣後株式に該当します。

2.スタートアップでよく使われる優先株式とは

スタートアップで最もよく使われる優先株式は、(2)残余財産の配分です。
清算の際に優先的に残余財産を配分できるという条項ですが、M&Aなどの際にも適用させることができます。

例えば、投資家が1億円で出資した後、M&Aされた場合、1億円を優先して配分したのち、残りの余った売却金額を普通株主と優先株主の持分比率に応じて配分するというやり方を取ることができます。

優先配分された後に、さらに余った金額があった場合に持分に応じて配分する方法を参加型といい、逆に優先配分だけで終了する場合は非参加型といいます。

株式で出資している以上、投資家はアップサイドを追求するのが通常ですので、スタートアップのようなリスクの高い投資を行う場合は、ほとんどが参加型です。

また、出資額の2倍までは優先して回収するといった倍率も自由に定めることができます。
スタートアップ界隈で使われている倍率は1倍が多く、2倍も使われることがあるという程度です。

以上をまとめますと、スタートアップでよく使われる優先株式は、参加型1倍の残余財産の優先分配を受け取れる株式、ということになります。

3.優先株式で資金調達することのメリット

創業者、投資家の両者にとって優先株式で資金調達することはメリットがあります。

創業者の立場からすると資金調達をすることで、自分の会社の持分比率が希薄化することを一番心配します。そのため、高いバリュエーションで資金調達できれば希薄化率が小さくなるため、創業者からすると高いバリュエーションでの調達を目指します。

優先株式という有利な条件を投資家に対して付けてあげることで、普通株式よりも高いバリュエーションで資金調達できる可能性が高まります。

一方で、投資家の立場からしても普通株式よりも残余財産の分配において有利な条件となっているため投資のハードルが下がります。特に重要な点が、ダウンラウンドでのM&Aに応じやすいという点です。

具体的な数字例を使って見ていきましょう。

創業者が資本金1円(現実的にはあまり多くありませんが、話を単純にするために極端に小さな金額としています)で会社を設立します。

その後、投資家がプレバリュエーション(増資前時価総額)8億円で2億円出資したとします。この時の投資家の持分比率は20%です。
さらにその後、事業があまりうまくいかなくなってしまいましたが、5億円のM&Aのオファーが来たとします。

投資家が普通株式と優先株式(残余財産の分配において参加型1倍の優先分配権)の場合において、売却益がどうなるのかを確認してみましょう。

(1) 投資家が普通株式で出資していた場合

創業者の売却額は4億円、投資家の売却額は1億円の配分となります。そのため、創業者は約4億円の売却益を得ることができる一方で、投資家は1億円の売却損となります。

(2)投資家が優先株式で出資していた場合

優先分配が2億円ありますので、まずは投資家に2億円が分配されます。

残りの3億円を創業者と投資家に対して持分比率によって分配します。
よって、3億円×20%=6,000万円も配分され、投資家の売却額は2億円+6,000万円の合計2億6,000万円となります。

創業者の分配額は5億円―2億6,000万円=2億4,000万円です。
この時、創業者は約2億4,000万円の売却益を得ており、投資家も6,000万円の売却益が出ています。

上記の例では投資家は普通株式で出資していた場合は売却損が出てしまいます。
通常の実務では売却損が出てしまうディールをわざわざやりたくはありません。

創業者に対して、ここでM&Aするのでなく、上場を目指してくださいと拒否する投資契約が締結されていることも通常です。
そのため、普通株式で出資していた場合に関してはそもそもM&Aが成立していない可能性も高いのです。

優先株式にて出資していることで、M&A時の利益配分を調整しており、特に出資時価よりも低いM&Aの際に効果が最大限に発揮されます。
優先株式は創業者、投資家ともにメリットがある手法なのです。

M&Aの買手も、対象会社が普通株式による出資では買収できなかった可能性もあり、優先株式は、創業者、投資家、M&Aの買手、3社でWin-Winな関係を築くこともできるのです。

4.優先株式で資金調達することのデメリット

優先株式による資金調達はメリットだけかというとそうではありません。
優先株式を発行することは実務上設計が大変であり、弁護士や会計士、税理士などプロフェッショナルへ支払うコストも忘れてはなりません。

また、優先株式を発行した後も、毎年の種類株主総会の開催など商事法務手続はずっと必要になります。
会社法上で定められた行為であるため、種類株主総会の開催漏れなどは、上場審査に悪影響を与えるなどきちんと管理系業務をこなせないスタートアップにとっては不安が残ってしまいます。

以上より、優先株式で資金調達するデメリットは、コストがかかり事務手続も煩雑となってしまうことが挙げられます。

そのため、スタートアップの中でも創業したばかりのいわゆるシード期の投資やエンジェルから投資を受ける際は、優先株式でなく、普通株式であることも多いです。

例えば、シード期はエンジェルから普通株式による資金調達をし、シリーズAから大きな金額を調達する場合にVCなどから優先株式による資金調達に切り替えていくなどはよくあることです。

また、投資契約や株主間契約といった出資の際の契約書は通常、世間一般にその内容が知れ渡ることはありません。

しかし、優先株式の内容は登記簿謄本に載る事項であるため、調べようと思えば誰でも登記簿謄本を取得することにより、優先株式の内容が分かってしまうのです。
株価も開示されてしまうため、未上場でありながらバリュエーションが分かってしまうという点は、デメリットの一つと言えるでしょう。

5.上場する際の優先株式について

優先株式を発行しながら普通株式を上場することは、法律上はできないことはありませんが、上場審査にて高いハードルがあります。

通常、優先株式は上場前に全て普通株式に転換されてから上場されることになります。優先株式と普通株式の両者が混じっている状態では投資家が普通株式に投資して良いのか、時価総額はいくらが妥当なのかといった点で、混乱を招いてしまうからです。

優先株式から普通株式へ転換するため、実務上良く使われるのが種類株の(6)強制転換条項です。

例えば、IPOが決まった際には優先株式から普通株式へ強制的に転換します、ということを定めることができます。スタートアップのエグジットは基本的にはIPOですので、とても使いやすい条項と言えます。

6.役員選解任権について

スタートアップが成功するかどうかにおいて、経営陣すなわち取締役の選任は非常に重要です。

投資家の立場からすれば、まだまだ実力のない人を創業者の一存だけで取締役へ選任してしまうといったケースも出てきます。そこで、活躍するのが種類株の(9)役員選解任権です。

例えば役員選解任権のあるA種優先株式で投資した場合、A種優先株主総会にて取締役を1名選任する、残りの2名の取締役は普通株主とA種優先株主の合同株主総会で決議するなどと定めることができます。

この役員選解任権を持つことで、A種優先株主は最低1名の取締役を選任することができ、例えばVCのパートナーが非常勤取締役として就任される場合もあります。

7.海外での優先株式の使われ方

海外、特にアメリカでは種類株式の中でも(3)議決権株式もよく使われています。

例えば、創業者に普通株式の10倍の議決権を持つ優先株式を発行し、普通株式にて上場して一般投資家から資金調達するといった手法をよく見かけます。

Facebookやグーグルなどでも採用されており、創業者の議決権比率を保持することでスピーディな意思決定を可能とし、変化の速いIT業界に変革をもたらせています。10倍議決権を発行しながら普通株式の上場は、Facebook、グーグルが採用してから、SaaS系スタートアップでもよく使われるようになってします。

日本では法律上は認められているものの、事例としてはサイバーダイン1社のみです。アメリカと異なり日本では、特殊な上場審査があるため、なかなか認められづらいのが現状です。

8.まとめ

今回は優先株主について、特にスタートアップで使用される事例について見てきました。
優先株式にて出資を行うことで、IPOには至らなかったとしてもM&Aで投資回収しやすい設計とすることができます。

優先株式の実務は会社法上の行為であり、複雑で論点が多岐に渡る難しい面もありますが、皆さんが少しでも優先株式の基本を理解する助けになっていましたら幸いです。
また、優先株式を使うことで、スタートアップ界隈のM&Aが少しでも増えていくことを期待しております。

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