M&A

ベンチャーのExit戦略に関する注意点を解説します

今回はベンチャー起業家にとってExit戦略(エグジットストラテジー・出口戦略)についてどう考えればよいのかについて紹介していきたいと思います。

起業家にとってのゴールを考えたときには、結局二つしかありません。
その二つとは、生涯現役として起業した企業を自ら経営するのか、それともどこかのタイミングで企業を違う人に渡すのか(一部/全部問わず)、です。

本日は後者のケースについて考えたいと思います。

1. Exit戦略(出口戦略/Exit Strategy)とは?

Exit戦略とは元々軍事用語であり、様々な損害(例.経済的損失や人的損失など)が発生している状況から損害を最小限としつつ、その状況から脱出することを指します。

これがビジネス用語としても使われるようになり、現在ビジネスで使われるExit戦略とは、起業家が興した事業を何らかの手段で他の人に渡すことを指すようになっております。

2. ベンチャー企業のExit戦略とは何か?

さて、Exit戦略をご理解いただいた上で、次にベンチャー企業のExit戦略について考えたいと思います。ベンチャー企業にとってのExit戦略として主要なものは以下の二つがあります。

  • IPO(新規株式公開)
  • M&A(合併/買収)

ベンチャー起業家にとっては上記手段を通して、自分が保有する株式を現金化することができます。
また、起業家以外に投資家(ベンチャーキャピタル等)がいる場合にも同様となり、ベンチャー企業にとっては一つのゴールであり、目標であると言えると考えます。

3. IPOとは?

IPOとはInitial Public Offeringの略称で、日本語では新規株式公開と訳されます。

(1)IPOによるExit戦略のメリット

IPOでは通常、企業の全ての株を売り出さないため、ベンチャー起業家は経営権を手放さずに所有する株式を現金化できます。これは、Exit後も会社の経営を続けたいと考えている起業家にとっては非常に大きなメリットであると考えます。

また、他の投資家にとってもIPOまでたどり着いた起業家であれば、経営者として今後の成長が期待できますので大きなメリットであると考えます。

次のメリットとしては、IPOでは株式市場に株式を売り出すことになりますので、市場の評価次第で非常に大きな金額を手に入れることが挙げられます。もちろん上場後の株価については業績次第ということになりますが、一般的には後述するM&Aより高額の利益を得ることができます。

(2)IPOによるExit戦略のデメリット

IPOのデメリットとしてまず言われるのが、上場準備にかかる時間です。株式市場ごとにIPOの基準は異なりますが、数年単位での準備が必要となるのが一般的です。

また、準備に時間がかかるだけでなく、その準備に向けた人材の確保や社外のプロフェッショナル(コンサルタントや監査法人等)への業務依頼などのコストもかかってきます。

したがって、後述するM&AによるExitと比較すると、時間・費用ともに大きな負担がかかるのがIPOの特徴となります。

4. M&Aとは?

最近ではすっかりビジネスで市民権を得たM&Aという用語ですが、正式名称はMerger & Acquisitionです。
つまり、ある企業に対する他企業からの合併や買収を言います。

今回はベンチャー企業のExit戦略がテーマですので、ベンチャー企業は合併もしくは買収される側となります。

(1)M&AによるExit戦略のメリット

まず、時間・費用面でのメリットが非常に大きいのが特徴です。
時間については先述したとおり、IPOでは数年かかるのが一般的ですが、M&Aはあくまでも当事者間の合意ですので、早ければ極端な話だと経営者間の一回の面談で決まることも在り得ます。

また、IPOとは異なり、社外のプロフェッショナルを起用する必要がありませんので(企業価値算出などで起用するケースももちろんあります)、そういったコストの発生も防ぐことができます。

次にビジネスにおいては、合併・買収する側の企業とのシナジー効果が見込まれ(逆に言えばシナジー効果がない企業は一般的に他社を買わない)、Exit後のビジネスを効率的に成長させることができます。

シナジー効果には様々なものがありますが、代表的な例としてはコスト削減(間接部門の共有化等)や売上増加(販売網の強化等)があります。

また、買収する側が大企業の場合には、ベンチャー企業にとって共通の悩みの種である資金計画に余裕がでるなども大きなメリットであると考えます。

(2)M&AによるExit戦略のデメリット

では、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

ベンチャー起業家にとっては、自らが持つ経営権の縮小が最初に挙がると考えます。
もちろん売却する株式数によるのですが、M&Aでは経営権の過半を買収する側が持つケースが大半であり、今まではオーナー経営者であった起業家がサラリーマン経営者に変わることを意味します。

また、M&Aの形式によりますが、合併となった場合には、その企業自体が無くなりますので、起業家にとっては自らが選んだ道であっても複雑な思いを持つ人もいるかもしれません。

M&Aのケースで散見されることが、M&A後の企業間もしくは社員間でのもめ事です。企業にはその会社独特の文化やルールがありますが、M&Aでは買収された側は買収した側の文化・ルールに合わせることが多くなり、その結果として企業間もしくは社員間での軋轢や衝突などが起こることがあり得ます。

5. Exit戦略を成功させるためのポイント(避けるべき失敗要因)

ベンチャー企業のExit戦略を一通りご理解いただいた上で、次に成功させるためのポイントについて考えたいと思います。

(1)IPOか、M&Aか

まず、最初のポイントとして先ほど紹介したIPOとM&Aのどちらを選ぶのかを決めることが重要です。その際の判断基準の代表的なものを紹介いたします。

最初に考えていただきたいことは「なぜ自分はリスクをとって起業したのか?」です。結論、これが全てと言っても過言ではありません。

この答えが「自らが興した会社で世界を変えたい」などであれば、M&Aによって他社に事業を売却する選択肢はなくなるでしょう。
逆に、「起業することで大金持ちになりたい」という答えであれば、時間・費用を掛けずにM&Aでの売却が最適な出口戦略となるかもしれません。

次に考えていただきたいのは、自分がどういった経営者かです。企業経営には色々なフェーズがあり、起業初期が得意な経営者もいれば、軌道に乗った企業をさらに飛躍させることが得意な人もいます。
起業初期が得意な経営者であればM&Aで早期に多額の現金を得て、そのお金を使って次の事業を興すなどが正解かもしれません。

(2)IPOの際のポイント

IPOのポイントは、当然のことですが、IPOの条件をできるだけ早くクリアすることにあります。ここについては社内の管理部門や社外のプロフェッショナルの力を最大限に活用していくことが必要です。

しかしながら、経営者にとって大事なことは他にあります。
IPOを目指した企業は「IPO=ゴール」と捉えてしまいがちですが、実際にはIPOはスタート地点でもあります。つまり、IPOしたあともビジネスは続き、企業価値を上げ続ける必要があります。

そして、企業価値を決めるのは、経営者でもなければ従業員でもなく、投資家です。従って、IPOの段階から自社をしっかりと投資家へアピールし、株式市場に対して自社の魅力を伝えることが肝要です。

(3)M&Aの際のポイント

M&Aの際のポイントはメリット・デメリットで記載したシナジー効果を出すことと企業間・社員間の軋轢・衝突を防ぐことにあります。

シナジー効果については、当事者間でしっかりとした議論を行なう必要があります。この際にポイントとなるのは、コスト削減と売上増加を区分して考えることです。
特に、売上増加については甘いシナリオを考えるケースがM&Aにおいて散見されるので注意が必要です。

企業・社員間での軋轢・衝突についても当事者間での議論が重要となります。売却側であるベンチャー企業の経営者自身が売却後も会社に残る・残らないを問わず、しっかりと相手側の企業文化がどういったものであるかを理解する必要があります。

ベンチャー企業が大企業に合併されるケースなどでは、安定志向の大企業にベンチャー企業の文化・風土がついていけないケースがあり得ますので注意が必要です。

6. Exit戦略を成功させた事例の紹介

それでは最後にExit戦略を成功させた事例について見たいと思います。紹介する事例はIPO→M&Aでの事業売却という今回紹介した二つの手法を使った株式会社一休です。

株式会社一休(旧社名:株式会社プライム・リンク)は森正文氏によって1998年に設立されました。高級ホテル・旅館の宿泊予約サイトを運営し、日本人の多くが知る有名なサービスとなりました。

2005年には東証マザーズへのIPOという形式で株式を上場しています。この時点では、創業者である森氏はIPOでのExit戦略を取ったということになります。Exit後も森氏は社長として会社に残り、一休を成長させるべく陣頭指揮を取ることを選んでいます。

その後、一休単独でビジネスを展開していた森氏ですが、2015年末にヤフーへの事業譲渡(M&A)を選択することになりました。当時では、買収金額が1000億円にも昇るヤフーによる史上最大の買収として非常に大きな話題となりました。

当時、41%の株を保有していた筆頭株主兼社長の森氏はこのタイミングで保有株の全てをヤフーへ売却し、経営から身を引く決断をしています。

Exit戦略の“成功”を定義するのは非常に難しいのですが、脱サラをして起業した森氏にとっては本事例のExit戦略は成功と言えるものであったと推測しています。

7. まとめ

今回はベンチャー起業家にとってのExit戦略について色々と考えをお伝えいたしました。

Exit戦略の種類(IPO/M&A)やそのメリット・デメリット、どういう考えに沿ってExit戦略を選べばよいのかについてご理解いただけたものと考えます。
また、最後にベンチャー起業家のExit戦略の見本とも言えるケースについても紹介いたしました。

本記事が皆さまのご参考になれば幸いです。

戦術と戦略の違いについては、こちらの記事でも詳しく解説されています。あわせてご確認ください。
参考:戦術と戦略の違いとは?事例を挙げてわかりやすく解説 | 研修の導入を徹底サポートのキーセッション.jp

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