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東芝のTOBとHOYAの敵対的TOBについて解説

不正会計などで業績が低迷している【6502】東芝が事業再編に取り掛かっています。その流れで2019年11月に子会社3社に対してTOBを実施すると発表したのです。さらにTOBを実施した3社のうち1社に対して【7741】HOYAもTOBを仕掛けてきました。

結果的には3社とも東芝によるTOBは成功しましたが、この一連の流れは東芝の事業再編に向けての意図が表されたものとなりました。なぜ東芝はTOBを実施したのでしょうか。なぜHOYAはTOBを仕掛けたのでしょうか。

今回の記事ではTOBの仕組みについて解説した上で、東芝のTOBについて背景とその狙いについて解説します。最後までお読みいただければTOBの仕組みと、東芝の子会社の実力や将来性について理解できます。ぜひ最後までご覧ください。

1. TOBとは株式を買い集める手法の1つ

はじめにTOBについて解説します。TOBとはМ&Aを行う手法の1つで、株式公開買付(Take Over Bid)といいます。不特定多数の株主に対して、株式を買い集めたい時に有効な手段です。TOBを行うにあたって実行する側は以下の点を発表し、内閣総理大臣や証券取引所、そして個々の株主に通達する必要があります。

  • 買付価格(株価)
  • 買付実施期間
  • 買付予定株式数

TOBを行う目的は、株式の保有比率を高めることで買収先企業への支配力を取得又は拡大することにあります。具体的には以下のような事例でTOBが用いられるのです。

  • M&A(企業買収や合併)
  • 資本提携
  • 子会社化
  • 上場廃止(完全子会社化)

2. TOBは急速な事業再編を実現できる

昨今の日本では事業の拡大や再編を目的にTOBを実施するケースが増えています。なぜならTOBは以下のようなメリットがあるからです。

(1) 大量の株式を一気に買い集められる

TOB先の企業が上場していれば、株式市場で徐々に買い集めることも可能です。しかしこの手法だと売却する株主が増えず、時間を要することが多いのです。また買い集めをするため、株価が急騰する可能性があります。 一方でTOBを行えば株価をあらかじめ設定できます。また株式市場外での売買もできるため、大量の株式を思惑通りの株価で得られやすいのです。

(2) 買収価格を管理しやすい

TOBでは買い付ける株式数を決める必要があります。そして株式の保有比率によって株主としての権利が定まっているので、その保有比率に合わせたTOBも容易に実行できるのです。TOBの場合以下の保有比率を目標にして実施されることが多くあります。

【参考】株式の保有比率と主な権利

株式保有比率 行使できる権利など 組織形態
20% 連結財務諸表における持分法適用 関連会社
34%(3分の1以上) 株主総会の特別決議における拒否権
50%超(過半数) 株主総会の普通決議における決定権 子会社
67%(3分の2以上) 株主総会の特別決議における決定権
100% 完全子会社

3. 「敵対的TOB」とは「同意のないМ&A」

また近年見られるTOBには「敵対的TOB」と呼ばれるものがあります。敵対的TOBとはTOBの中でも、買収される企業や関連する企業に対して同意を得ないまま実行するTOBのことを指すのです。最近でも以下のような事例が敵対的TOBとして報道されました。

  • コクヨによるぺんてるへのTOB
  • 旧村上ファンド系のTOB
  • 伊藤忠商事によるデサントへのTOB

一般的に敵対的TOBはお金の力で企業を支配するイメージがあるため、TOBを実施する企業を悪者扱いする傾向があります。その一方で買収される企業は業績や株価が低迷していることが多く、経営者の経営手法に問題があるという見方があるのです。

4. 東芝は家電・パソコンから発電所まで作る総合電機メーカー

ここからはこの度行われた東芝によるTOBについて解説します。東芝は1875年に創業した大手電機メーカーです。事業領域は家電・オーディオやパソコン・携帯電話といった消費者に近いものから、発電設備・軍事器機、そして鉄道車両といった重電と呼ばれる領域まで扱っていました。組織は東芝本体の各事業が子会社として独立した形態をとっていたのです。

そのため東芝は各事業所がその専門性を活かした開発が盛んに行われていました。そして東芝が世界や国内で先駆けて開発した製品が数多くあったのです。

5. 経営不振に伴う事業の再編が急がれていた

ところが2015年、東芝の決算書が粉飾されていることが明らかになりました。その根底にはリーマンショックで業績が落ちたため、トップダウンによる無理な経営目標を達成するために利益の水増しが常態化したことにあったのです。

この事件を機に東芝は事業の再編を余儀なくされました。白物家電や半導体など多くの事業を売却したのです。さらに東京証券取引所では2部銘柄に降格させられました。そして2016年の期末には9,500億円以上の赤字決算を発表したのです。

6. 日本に多い「親子上場」の解消も課題にあった

東芝が事業を再編する上で、課題となる点がありました。それは「親子上場企業」です。東芝の子会社は独立性が高かったため、独自に株式上場していた企業があったのです。子会社としては東芝という親会社の保護を受けながら上場企業の地位を得られるというメリットがありました。

しかし近年は東京証券取引所が親子上場に対して「最適ではない」という判断をしたため、親子上場を廃止する流れが生まれています。また東芝にとって子会社が上場することで自社の利益が他の投資家に配当などで取られてしまうというデメリットの解消が課題となったのです。

7. 東芝は子会社3社のTOBを発表

そのような流れの中、2019年11月に東芝は上場子会社3社のTOBを発表します。その3社とは以下の3つです。

(1) 【1983】東芝プラントシステムズ株式会社

1923年(大正12年)に創立した国内外の発電所や上下水道の建設に関わる建築会社。総従業員数4,319名、国内外に12のグループ会社を保有(2019年3月時点)、そして2018年の売上は2,442億円。

(2) 【6256】株式会社ニューフレアテクノロジー

2002年(平成14年)東芝機械株式会社の半導体製造装置部門が独立して創業。専業メーカーとして米国・欧州・中国などに拠点を有している。従業員数は626名、売上高は約578億円(2019年3月期末時点) ※TOBを実施したのは東芝直系の「東芝デバイス&ストレージ」

(3) 【6591】西芝電機株式会社

1950年(昭和25年)、財閥解体の影響で兵庫県姫路市にあった東芝の工場が分離独立して設立される。船舶を対象とした発電システムやコージェネレーションシステムを製造している。総従業員数は約700名、国内5ヶ所の拠点を持つ。売上高は約200億円(いずれも同社HPより2020年2月公表) ※TOBを実施したのは東芝直系の「東芝インフラシステムズ」

8. 3社のうち2社は順調にTOBを完了

TOBが発表された3社のうち東芝プラントシステムズと西芝電機は同年12月26日付で予定通りの株式を買い取ることができました。そして両社は東芝の完全子会社となり、管轄の証券取引所から整理銘柄の指定を受け、上場廃止になる方向です。

9. ニューフレアテクノロジーはHOYAが高値で「敵対的TOB」を発表

今回のTOBはすでに東芝の子会社(株式保有比率50%超に対するものであったため、いずれも順調に進むと思われていました。ところが12月に入って、ニューフレアテクノロジーのTOBに対して【7741】HOYAが東芝の提示した株価よりも1,000円高い価格でTOBを表明したのです。

このTOBは東芝やニューフレアテクノロジーに対して事前の同意を得ていないものでした。しかし東芝は他の株主の意向をうかがうためにTOBの期限を12月25日から1月16日に延長せざるを得なくなったのです。

【参考】ニューフレアテクノロジーへのTOBにおける行使価格

東芝 HOYA
買付価格 11,900円 12,900円

HOYAのTOBに対して東芝は「売却してお金を得ても意味がない、ゆえに応じるつもりはない」としてHOYAに株式を売却せず、先に発表したTOBを敢行しました。そして1月17日に東芝はTOBが完了したことを発表したのです。

10. HOYAはコンタクトレンズだけでなく半導体分野でも高い業績

ではなぜHOYAは、東芝のTOBに対して敵対的TOBを表明したのでしょうか。HOYAは1941年(昭和16年)光学ガラスのメーカーとして創業しました。その後1972年(昭和47年)からコンタクトレンズの製造を開始、続けて1974年(昭和49年)からは半導体関連事業に進出したのです。

その後、技術力に伴う高い収益力を維持しながら成長しました。そして近年は関連事業をМ&A(企業買収)を積極的にすることで事業の拡大を進めているのです。

【参考】HOYAが行った主なМ&A事例

会社/事業
2008年 ペンタックス
2012年 日本ユニテック
2013年 セイコーエプソンのメガネレンズ開発製造事業
2015年 Knecht&Muller(スイスのメガネレンズメーカー)
InnFocus(緑内障用医療デバイスのベンチャー企業)
2016年 3Mの度付き保護メガネ事業
C2 Therapeutics(低侵襲治療用手術器具メーカー)
2017年 ReadSpeaker(クラウド型音声読み上げサービス)
米国Performance Opticsおよびその子会社 VISION EASE、大明光学
2019年 Mid Labs(米国)Fritz Ruck(ドイツ)(眼科医療機器メーカー)

11. ニューフレアの電子ビームマスク描画装置は半導体製造に必須

ではHOYAとニューフレアテクノロジーのビジネスにはどのような関連性があるのでしょうか。ニューフレアテクノロジーが製造する「電子ビームマスク描画装置」と呼ばれるものがあります。これは近年の半導体製造には欠かせない装置としてニューフレアテクノロジーが世界で圧倒的なシェアを有しているのです。

さらにニューフレアテクノロジーの電子ビームマスク製造装置にはHOYAが製造する「マスクブランクス」と呼ばれるレンズが使われています。マスクブランクスとは半導体に回路を映す時に使われるレンズの一種です。HOYAのレンズ製造技術は現代のエレクトロニクス製造に活用され、HOYAの成長に大きく寄与しています。

12. 東芝の収益力改善とHOYA事業拡大が争点であった

これによってニューフレアテクノロジーのTOB合戦の背景が見えてきます。東芝は事業再編の中で収益力の確保が喫緊の課題でした。そのため世界で戦えるメーカーであるニューフレアテクノロジーの完全子会社化は何としてでも成功したいところでした。

一方でHOYAはさらなる事業拡大と収益力強化のチャンスを虎視眈々と狙っていました。ニューフレアテクノロジーへのTOBも経営危機の東芝に対して高い株価を提示すれば応じる可能性があると判断したのです。

13. 東芝の事業再編は着実に進んでいる

今回は東芝による子会社へのTOBとHHOYAによる敵対的TOBについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。今回の記事のポイントは以下の通りです。

  • TOBとは企業の買収(М&A)戦略の1つ
  • TOBで企業への支配力を一気に高められる
  • 企業の支配力は株式保有比率で変わる
  • 東芝は経営危機からの脱却を目指した子会社3社にTOBを実施
  • そのうち1社はHOYAが敵対的TOBで対抗する
  • 東芝の子会社には世界で戦える企業がある

国内外の経済情勢が変化するなかで、事業の再編が課題になっている企業が多くあります。その中でTOBは事業再編の手段として今後も活発に行われるでしょう。この記事を機会にTOBについて関心を持っていいただけることを願っております。

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