M&A

アーンアウトとは? その効果と注意点について解説

M&Aでは、アーンアウトという項目を契約に入れることがあります。アーンアウトとは、M&Aの際の支払いを一括ではなく分割で行うことをいいます。最近、このアーンアウト条項を入れた、M&Aが非常に増えてきています。

ではなぜM&Aにおいてこのアーンアウトが増えてきているのでしょうか? 今回は、M&Aにおけるアーンアウトについて詳しく説明していきます。

1. アーンアウトとは

この章では、アーンアウトについて説明します。アーンアウトとは、企業買収にかかる買収金を一括で支払わず、分割で支払うことをいいます。M&Aの買収金は一括で支払うことが一般的です。
しかしアーンアウト条項を付けることによって、M&Aの買収金は分割で支払うことが可能になります。

では、分割払いすることによってM&Aの買い手・売り手にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

2. アーンアウトのメリット

この章では、M&Aにおいてアーンアウトを行うことによってどのようなメリットがあるのかについて説明します。M&Aの買い手、売り手それぞれのメリットについて説明します。

(1) M&Aの買い手側のアーンアウトのメリット

M&Aの買い手側のアーンアウトのメリットは主に3つあります。

ア. M&Aの売り手側の経営者のモチベーションの維持が出来る

M&Aの買い手側のアーンアウトのメリットの1つ目として、スタートアップ企業の将来性の評価を可能としつつ、M&Aの売り手側の経営者のモチベーションの維持が出来ることです。

IT企業のM&Aや、技術指向の企業のM&A、スタートアップ企業のM&Aでは、事業や技術の将来性が重要になります。M&Aによるイグジットを考えている売り手の経営陣としては、事業や技術が上手くいったらM&Aで、高値で買って欲しいという意向を持っている場合が多くあります。

しかし、M&Aの買い手側からすると、M&Aによって期待していたシナジー効果が生じた場合や技術が完成した場合には、M&Aの売り手側の経営陣に高額の報酬を払うことに比較的抵抗が少ないものの、期待されたシナジー効果が生じなかった場合や技術が完成しなかった場合にまで、高額な報酬は払いたくないものです。
また、M&Aの代金をすぐに支払ってしまうことによって売り手側の経営陣のモチベーションの低下もリスクになります。

そこで、事業や技術が期待通りに上手く行った場合に全額の代金を支払うようなアーンアウト条項を設けることで、アーンアウト条項の条件をクリアすることでインセンティブが付くこととなり、事業や技術が持つ将来性が正しく評価されるため、売り手のモチベーションを維持することが可能となります。

また、売り手のモチベーション低下のリスクを回避するためには、キーマン条項も有効です。キーマン条項とは、M&Aの実施後、一定期間、売り手側の経営者に残ってもらうことを内容とする条項をいいます。

このようにアーンアウト条項やキーマン条項を組み合わせることによって、M&A後の売り手側のモチベーション低下のリスクを回避することが可能となります。

イ. 買収資金を一括で支払う必要がなくなること

M&Aの買い手側のアーンアウトのメリットの2つ目は、買収資金を一括で支払う必要がないことです。これにより、買収対象企業が非常に魅力的な企業である一方、すぐにM&Aのための資金を用意できないようなケースであっても、アーンアウト条項を用いることによりM&Aを行うことが可能となる場合があります。

また、アーンアウト条項を設けることによりキャッシュフローへのインパクトを軽減し、手元資金を別のことに振り分けることも可能となります。

さらに、もしM&Aの買収資金を借り入れで賄おうとしていた場合、ローンを利用する必要がありますが、 分割でM&Aの買収資金を支払うことが出来ればローンを利用する必要がなくなるかもしれません。余計な利息を払う必要がなくなることもメリットになります。

ウ. 買収対象企業のリスクをある程度把握することが出来る

M&Aの買い手側のアーンアウトのメリットの3つ目は、買収対象企業のリスクをある程度把握してからM&Aの買収資金を支払うことが出来ることです。M&Aを実行する際は、売り手企業のデューデリジェンスを綿密に行います。

デューデリジェンスを行わないと買収した後にいろいろな問題が出てくる可能性があるからです。しかしデューデリジェンスをおこなっても、買収した後でないと分からないリスクもあります。

例えば、簿外債務がある場合や売り手企業の人間関係に問題がある場合などです。簿外債務についてデューデリジェンスである程度把握することは出来ますが、100%分かる訳ではありません。

もし買収した後に、売掛金や未払い給与が想定外に多い場合、当初想定した以上にコストがかさむことは十分あり得ます。
また人間関係についても、M&Aを実行した後に分かってくることは多いです。仕事を円滑に進めるために、人間関係は何よりも大切です。人間関係が悪いために当初想定していたシナジー効果を得られないかもしれません。

しかしアーンアウト条項をM&Aに入れておけば、想定外のことが起きた場合、買収金額の支払いを減らすことができます。もちろん、想定以上の効果があった場合は、一括で支払うよりも多く買収資金を払わないといけなくなる可能性はあります。
しかし、買収後の実情によって買収金額の金額が変わることは、M&Aの買い手側にとってメリットは大きいと思います。

(2) M&Aの売り手側のアーンアウトのメリット

M&Aの売り手側のアーンアウトのメリットは、業績を上げれば一括で買収資金を受け取るよりも多くの資金を受け取ることが出来る可能性があることです。

M&Aの交渉においては、上述のように事業や技術の将来性を評価してもらい、もっと高い金額でM&Aを行いたいと考えるM&Aの売り手は多いと思います。しかし、実際には、事業や技術が完成する前の段階では、M&Aの買い手側にそうした将来性を訴えるのみでは、買収金額を引き上げることは困難です。売り手側の方がM&Aを強く望んでいる場合はなおさらです。

しかしアーンアウト条項に、買い手側の業績予想よりも高い目標を定めてアーンアウト条項を結んでおくことで、条件を達成した場合、事業や技術の将来性を反映した高い対価を受け取ることが出来る可能性があります。
これは売り手側の企業にとって非常に大きなメリットになります。

3. アーンアウトのデメリット

この章では、M&Aにおいてアーンアウトを行うことにどのようなデメリットがあるのかについて説明します。M&Aの買い手、売り手それぞれのデメリットについて説明します。

(1) M&Aの買い手側のアーンアウトのデメリット

M&Aの買い手側のアーンアウトの主なデメリットは3つあります。

ア. 想定していた買収金額よりも高くなる可能性がある

M&Aの買い手側のアーンアウトのデメリットの1つ目は、想定していた買収金額よりも買収金額が高くなる可能性があることです。M&Aの売り手側の企業が想定していた以上に業績を上げた場合、追加で支払う買収資金が高くなってしまうことがあります。

しかしこの場合は、売り手側の企業とのシナジー効果が想像以上に生み出されているということになるので、ある意味ありがたいことかもしれません。

もっとも、アーンアウト条項を入れたことによって、アーンアウト条項を入れずに買収資金を一括で支払った場合に比べ、最終的な買収金額が高くなる可能性もあります。

イ. 何らかの事情により代金の支払いが困難となる

またアーンアウト条項を入れることは、M&Aのタイミングと譲渡代金の支払い時期がずれることを意味します。売り手企業が目標達成したときは、買い手側が、M&Aの契約成立時点から経営状況が悪化する等により譲渡金額の支払いが困難となった場合でも、代金の全額を支払う必要があります。

もし支払えない場合には、訴訟等によって責任追及をされるおそれがありますし、無理に支払えば、倒産リスクを高めるおそれがあります。

ウ. 交渉にかかる時間が増える

M&Aの買い手側のアーンアウトのデメリットの3つ目は、交渉に時間がかかることです。アーンアウト条項を入れなければシンプルに一括で買収資金を支払うことになるので、M&Aにかかる時間は少なくて済むかもしれません。

アーンアウト条項は、M&Aの買い手側、売り手側、双方にメリットのある仕組みですが、交渉時間が長期化してしまうデメリットもあります。

このデメリットは、M&Aの買い手側だけでなくM&Aの売り手側にも起こるデメリットになります。

(2) M&Aの売り手側のアーンアウトのデメリット

M&Aの売り手側のデメリットは、M&A成立時点で受け取れる買収金額が少なくなってしまうことです。アーンアウト条項を入れるので当然のデメリットにはなりますが、一括で買収資金を受け取れないことは大きなデメリットになるかと思います。

もちろん、M&Aの成立後、業績条件などをクリアすれば一括で買収資金を受け取るよりもトータルで多くの資金を受け取れる可能性はあります。しかし、M&Aの目的が次の事業を起こすための資金調達であった場合、一括で買収資金を受け取れないことのデメリットは非常に大きくなるのでアーンアウト条項を入れないことも検討すべきだと思います。

4. アーンアウト条項を入れる際の注意点

この章では、アーンアウト条項を入れる際の注意点について、M&Aの買い手側、売り手側それぞれの立場に立って説明します。

(1) M&Aの買い手側の注意点

アーンアウト条項を入れる際の、M&Aの買い手側の注意点として、アーンアウト条項の有効期間中、買い手企業が買収対象の企業(M&Aの売り手側の企業)の事業を売却することが出来ないことを内容とする契約条項が入ることがあります。

有効期間中の事業の売却は、M&Aの売り手側の利益を侵害することになる可能性があるからです。そのために、もし買い手側がM&Aの実行後、売り手側の企業の事業を売却する可能性がある時は、買い手側が売り手側に所定の金額を支払えば、アーンアウト条項を消滅させることが出来る項目をM&Aの契約に盛り込んでおく必要があります。

(2) M&Aの売り手側の注意点

アーンアウト条項を入れる際の、M&Aの売り手側の注意点は、M&Aの買い手側の企業に業績を操作される可能性があることです。

どういうことかというと、M&Aの実行後、売り手側の企業が非常に頑張り、アーンアウト条項のインセンティブの条件をクリアしそうになるとします。アーンアウト条項のインセンティブの条件をクリアされると、M&Aの買い手側は、一括で買収資金を支払うよりも多くのお金を負担しなければなりません。
これを防ぐために、M&Aの買い手側の企業が、アーンアウト条項のインセンティブの条件をクリアさせないよう業績を操作する可能性は十分にあるのです。

このような業績操作をさせないために、M&Aの売り手側の企業は、買い手側企業が目標の不達成を目的とした妨害を買い手側企業がしてはいけないなど、売り手側のアーンアウト条項を一切侵害することは出来ない旨を、M&Aの契約書に盛り込んでおく必要があります。

5. まとめ

今回は、M&Aにおけるアーンアウト条項について説明しました。アーンアウト条項は、以前に比べると日本でも大分広まってきたM&Aの手法になります。しかしまだまだアメリカなどに比べると、日本では浸透していないのが現状です。

アーンアウト条項は、M&Aの買い手側、売り手側双方にメリットのある仕組みです。是非この記事を参考にM&Aのアーンアウトについての理解を深めて頂ければ幸いです。

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